「出題の趣旨」の公表について

平成20年公認会計士試験論文式試験の「出題の趣旨」(試験委員作成)を、次のとおり公表する。

【会計学】

第1問

問題1

全部標準原価計算を採用している場合にも、CVP分析を行うことが多く見られる。そのような場合に、どのような補足情報が必要で、それを損益計算書から得られる情報とどうむすびつけてCVP分析を行うかといったようなCVP分析を適切に行う能力をもっているかどうかを問うている。また、CVP分析の結果、目標利益が達成できないときに、具体的にどのようなアクションをとるのかを考える能力は、CVP分析を有効活用するうえで必要な能力であり、そのような応用能力を問うている。

問題2

本問は、組別工程別総合原価計算における組間接費の処理について、伝統的な配賦方法とABCによる配賦方法の理解を問うものである。特に、後者については、組間接費の製品への負担計算を従来の伝統的な総合原価計算方法と同じように加工費に含めて総額で一括的に処理するのではなく、間接費を活動の特性に応じて3つのグループに分けて原価計算を実施するモデルを想定し、間接費のより正確な計算というABCの基本的な考え方をどのように組別総合原価計算に反映させることができるのか、その応用能力についても要求している。

第2問

問題1

戦略的コスト・マネジメントとしての原価企画を原価企画プロセス、原価維持プロセス、原価改善プロセスの三つの側面として理解しているか否かを問う問題である。

特に原価企画プロセスでは、許容原価の計算方法の理解と、オートバイを例にした製品主要機構と顧客の要求製品特性との関係値を市場調査に基づく要求品質ウエイトで補正する作業が指示された通りにできるかを求めている。さらに許容原価を目標原価とした場合、最終見積原価と比較することにより構成部品ごとの未達成額の計算力を求めている。

最後に原価改善プロセスでは、原価企画プロセスでの未達成額を製造部門の責任者としての立場で原価低減と環境負荷低減という二つの要求事項(企業の収益力の向上と社会的責任の遂行)を同時に満たすことの出来る方策の提案力を求めている。

問題2

本問は、投資経済計算に関する基本的な理解を問う問題である。投資経済計算には多数の計算方法が存在するが、収益性の判断基準によって方法を区分させてその理解度を確かめている。また、投資経済計算における貨幣の時間価値に関する理解度を正味現在価値法と割引回収期間法によって、実際に計算することを通じて確認している。その上で、投資経済計算と中期計画との関係を考えさせ、中期計画の達成と投資経済計算の優位選択を同時に可能にする投資計画案を検討させている。分割投資案を出題し、分割投資のメリットと不確実性に対処する計算方法の理解を問うた。

第3問

問1

前期末の貸借対照表の純資産の部の金額と純資産に関する当期中の取引に基づいて、株主資本等変動計算書を作成する基本的能力を問う総合問題である。本問によって、純資産が変動する取引の会計処理および株主資本等変動計算書の作成方法が理解できているかを試している。

問2

本問は、純資産の部の表示に関する会計基準の背後にある考え方を問う問題である。

第4問

問1

金券交付取引に関連して、その会計処理としての引当金(費用計上)方式と前受金(収益控除)方式を前提に、それぞれの方式の基礎にある考え方に関する理解を問うている。

問2

自己株式の保有を処分又は消却までの暫定的な状態であると捉える考え方と、自己株式の取得を消却に類似する行為と捉える考え方について問うたうえで、自己株式処分差損に関し、払込資本の払戻しと捉える考え方と利益の分配と捉える考え方について問うている。

問3

本問は、キャッシュ・フロー計算書に関する基礎理論について取り上げている。具体的には、マル1「当座借越」の取扱い、マル2「期間が短く、かつ、回転が速い項目」の表示問題、マル3「固定資産に係る未払金」の記載方法を取り上げ、キャッシュ・フロー計算書の作成に関する基礎理論の理解度を問うている。

問4

事業分離会計に関する基本的な考え方と会計処理を問うている。親会社が子会社に事業を譲渡し、対価として子会社株式のみを受け取った場合、親会社の個別財務諸表では投資の継続性が認められるため、損益は計上されないが、親会社の連結財務諸表では、損益およびのれんが計上されることについて、理解が求められる。

第5問

本問は、ある企業が置かれている経営環境をイメージしながら、会計方針の選択が財務諸表にどのような影響を及ぼすかを多面的に問う問題である。また、部分的に、財務会計に関連する法令および会計基準を参照する能力も問うている。

問1

企業が選択した会計方針に従って財務諸表を作成する能力を問うている。棚卸資産の評価、固定資産の減損処理、退職給付会計、金融商品会計、税効果会計などの個別の会計処理について正確かつ具体的な知識を有していることが必要である。

問2~問6

企業が代替的に採用を検討している会計処理について、その長所や問題点を当該企業が置かれている状況に照らして、具体的に検討できる能力を問うている。

問7

会計方針の選択が税効果会計へ及ぼす影響を総合的に分析する能力を問うている。

【監査論】

第1問

問題1

「監査基準」では、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないように監査を計画し、実施する観点から、事業上のリスク等を重視するリスク・アプローチの考え方が取り入れられている。本問では、その趣旨が正しく理解されているかどうかを確認するために、企業及び企業環境の十分なる理解が必要な理由を具体的に説明することを求めている。

日常的な取引や会計記録はシステム化され、ルーティン化されてきており、重要な虚偽の表示は経営者レベルで生じる可能性が高くなっていることや、企業が置かれている内外の環境要因が、経営者の経営姿勢と相俟って、経営者レベルでの不正要因となりやすいことを理解しているかどうかを問う問題である。

問題2

問1

事業上のリスク等を重視するリスク・アプローチでは、まずもって事業上のリスクを財務諸表全体レベルのリスクとしてとらえ、それを財務諸表項目レベルで生じうる虚偽の表示に結びつけることが重要となる。本問は、想定事例から、具体的な財務諸表全体レベルのリスクと財務諸表項目レベルでの虚偽の表示を適切に対応づけることができるかどうかを問う問題である。

問2

事業上のリスク等を重視するリスク・アプローチでは、財務諸表の重要な虚偽の表示に結びつく、特別な検討を必要とするリスクの識別が必要となる。本問は、「株式交換による大型の企業買収」を例にとって、監査実務上のガイドライン(「公認会計士試験用法令基準等(監査論)」)を参考にしながら、監査人の判断の根拠を体系的に論述できるかどうかを問う問題である。

第2問

問題1

本問は、監査契約の締結を想定した事例に基づいて、監査人の独立性と職業的懐疑心が、どのような要因によってどのような影響を受けるかが正しく理解できているかどうかを問う問題である。内部監査業務の同時受嘱は、内部監査が内部統制の一環をなすことから、自己監査に陥る危険性と、助言機能の発揮による経営判断への介入の可能性をもたらし、監査人の独立性に重要な影響を及ぼすおそれがある。また、成功報酬契約は、職業的懐疑心の発揮を阻み、監査判断の歪曲を招くことになる。以上のような監査の品質に悪影響を及ぼす要因を抽出し、体系的に論述することを求めている。

問題2

問1

本問は、「財務諸表監査が行われているから財務諸表が適正である」旨の不適切な記載を含む経営者確認書の想定事例を手がかりとして、経営者と監査人との間の責任区別の原則(二重責任の原則)を、経営者確認書を入手することの財務諸表監査上の意味と関連づけて、具体的に説明できるかどうかを問う問題である。

問2

本問は、経営者確認書が最終的に入手できなかった場合に、監査実施との関係でどのような監査意見が表明されるべきかに関する理解を問う問題である。その際、単に監査実務上のガイドライン(「公認会計士試験用法令基準等(監査論)」)に従って記述するのではなく、その趣旨と論拠が正しく理解できているかどうか、不適正意見表明の可能性に反論する形での論述を求める問題である。

【企業法】

第1問

本問は、閉鎖的な会社において、少数株主を会社から退出させる方法について、考察させるものである。問1では、会社が少数株主との合意に基づいて自己の株式を取得する際の、手続や財源などに関する会社法上の規制の説明が求められる。問2では、少数株主が持株の売却に同意しない場合において、多数株主ないし支配株主が少数株主を強制的に排除しようとするとき(少数株主の締め出し)、(1)株式併合という手段で、この目的を実現するにはどうすればよいか、および、(2)株式併合が行われたとき、その効力を争うため、会社法上どのような手段をとることができるかを、検討することが求められる。

第2問

会社と取締役との利益相反取引に関する規制(会社法第356条、第365条)のうち、会社と取締役との直接取引に限定し、問1では、取締役会設置会社とそうでない場合とに分けて、取引をするための手続として、承認を要する機関および取引の開示規制を問うとともに、承認を経ずになされた取引の効力を問うものである。問2では、委員会設置会社でない取締役会設置会社において承認の有無によりAおよび他の取締役がどのような責任を負うことになるのか、また、自己のために取引をした場合のAの責任につき、検討することが求められる。

【租税法】

第1問

問題1

問1は、法人税法第37条に定める寄附金の意義を問うものである。

問2は、具体的な事例を基にして、法人税法第37条第7項にいう「金銭の贈与」(寄附金)該当性の判断及び同条第1項で定める寄附金に係る課税上の取扱いを問うものである。

問題2

問1は、親族が事業から対価の支払いを受けた場合において、事業所得の金額等の計算上その支払対価を必要経費に算入しない旨を定める所得税法第56条の立法目的ないし趣旨の理解を問うものである。

問2は、所得税法第56条等の関連規定を適切に解釈し、具体的な事案について、適用できるかどうかを問うものである。

第2問

問題1

本問は、公認会計士を目指す受験者が基本的に理解している必要のある企業会計上の当期利益の金額に法人税等の調整事項を加算・減算する全過程を問う問題である。各調整項目の留意点は、マル1期末棚卸製品の評価損計上の可否、マル2過年度に償却超過がある場合及び期中に資本的支出がある場合を含む減価償却、マル3繰延資産の償却、マル4修正申告があった場合の受入れ処理を含む租税公課の処理、マル5リース取引の処理、マル6貸倒損失の要件及び一括評価金銭債権の貸倒引当金、マル7損金不算入交際費、さらに、マル8外国税額控除に関する処理を問う問題である。

問題2

本問は法人税法第35条に定める特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入額を求め、あわせて、同条に規定する業務主宰役員の給与所得金額を求める問題である。留意点は、マル1法人税法第35条に基づく、損金不算入額の基礎となる役員給与の計算、マル2マル1に法人税法第34条による損金不算入額を含めないこと、マル3生存保険金の受取人が本人である場合の生命保険料の扱い、マル4マル1の損金不算入額である給与所得控除額の計算、マル5給与所得金額の計算である。

問題3

本問は、公認会計士を目指す受験者が基本的に理解している必要のある納付すべき消費税額を計算する全過程を問うものである。問1は、課税標準額とその消費税額、問2は、課税売上高と非課税売上高、問3は、個別対応方式により控除する課税仕入れ等の税額、問4は、一括比例配分方式により控除する課税仕入れ等の税額、問5は、問4までを受けて控除対象仕入税額を決定し、売上げに係る対価の返還等に係る消費税額を計算した上で差引税額を計算させる問題である。

【経営学】

第1問

問題1

本問は、小売企業の自主規格商品、いわゆるプライベートブランド(PB)についての基本的なテクニカルタームと、それを取り扱う製造企業者のデメリットを問うている。また、PB比率が日米欧の間で違っている理由についても問うている。

問題2

組織成員が組織で働くためには、何らかのモチベーション(動機づけ)が必要とされる。本問は、モチベーションの程度がどのような要因の影響を受けているかに関する諸理論についての理解を問うものである。

第2問

問題1

基本的なポートフォリオ理論および資産価格理論の知識と理解を問うた問題である。また、ポートフォリオのパフォーマンスの測定方法とリスクコントロールのためのデリバティブの利用の基本についても問うている。さらに、数式の基本的な理解についても問うている。

問題2

本問題は、財務分析において中心となる収益性分析を取り上げている。まず問1では、デュポン・システムによる計算方法の理解を問う内容となっている。次いで問2では、問1で求められた計算結果に加えて、その他の財務分析指標や財務諸表数値をもとに、企業の経営改善努力を推測させることを意図している。

問題3

為替変動は、企業が直面する重要なリスクの1つである。本問は、為替リスクの管理手法とそこで使われるデリバティブに関する知識を問う問題である。リスク・ヘッジにおけるデリバティブの利用方法に加えて、通貨先物および通過オプション価格付けの基礎的な知識も問うている。

【経済学】

第3問

問題1

消費者行動の基礎的な理論の理解を問う。消費者の最適行動から、需要関数を導出し、合わせて、価格弾力性、所得弾力性がどのような意味をもっているかを試す問題である。

問題2

前半部分はミクロ経済学における費用関数の基礎的知識を理解しているかを確認する内容となっている。後半部分は、その費用関数から一方の企業による競争企業の利潤最大行動を通じて供給関数を導出しておき、その財を需要する他方の企業が完全競争的行動をとる場合の価格決定がどのように定式化されるかについて基礎的知識を理解しているかを確認する内容となっている。全体として基礎的概念の理解と基礎的計算力があるかを素直に問うのが出題の意図である。

問題3

国際貿易下での貿易政策と市場均衡についての理解を問うものである。(1)と(2)は基本的な問いであり、(3)は独占企業の行動が市場均衡にどのような影響を与えるかという応用的な問いとなっている。

問題4

実際のオークションの仕組みに関する理解を確かめるとともに、近年周波数帯のオークションなどに利用される機会の増えた第2価格入札の持つ理論的な特徴に関する理解を試す問題。

第4問

問題1

マクロ経済学用語に関する基礎的知識を問うとともに、基本的な関係式についての理解を問う。

問題2

国民所得が完全雇用国民所得を上回る可能性がある場合のIS-LM分析に関する問題である。この経済では、国民所得が完全雇用国民所得Yƒを下回る場合には有効需要の原理が成立し、通常のIS-LM分析の結果がそのまま当てはまる。しかし、国民所得がYƒを上回る場合には価格調整のみが行われるため、数量調整を伴う通常のIS-LM分析の結果は当てはまらなくなる。

問題3

新古典派経済成長モデルについての基礎的知識を問う。特に、労働生産性の上昇が持つ含意を簡単な計算によって明らかにすることを求めている。

【民法】

第5問

問1

代理権濫用の問題である。代理人が代理人であることを利用して自己または第三者の利益のために代理行為を行った場合には、判例・通説は民法第93条ただし書を類推適用する。学説には、このような場合を表見代理とする考え方や、代理行為は原則として有効であるが、相手方が代理人の意図を知らないことに重過失がある場合に、信義則上、代理行為が有効であることを主張できないとする考え方などがある。

問2

AがBの強迫を理由としてAからBへの甲土地の売却の意思表示を取り消した後、甲土地がDに売却され、他方、Aが甲土地をEに売却した事例である。この場合に、A・D・Eの関係はどうなるか。また、Fは甲土地を平成6年以降占有しているので、平成16年に甲土地を時効取得する場合の関係はどうなるかを問うている。

第6問

問1

いわゆる賃貸人の地位の移転に関連する総合的な出題である。具体的には、賃貸目的物の譲渡により賃貸人の地位も当然に移転するか否か、賃料請求の要件、賃料不払いによる解除の要件、敷金の充当および敷金返還義務の承継についての理解が求められる。

問2

賃貸借・転貸借の目的不動産(建物)の構造欠陥によって、転借人およびその同居人の生命、身体又は財産が侵害された場合に、誰に対して、どのような法的根拠に基づいて損害賠償責任を追及できるかを問う出題である。転貸人、賃貸人の責任だけでなく、建物の設計者や施工者に対する責任に言及することが求められる。

【統計学】

第7問

問題1

回帰分析および相関係数に関する話題を対象とした2つの独立した小問から構成されている。

問1は回帰係数、相関係数、偏相関係数、説明変数間の相関と多重共線性との関係など、最小2乗法を利用する場合の基礎知識であるが、偏相関係数についてはやや程度の高い内容も含まれる。問2は回帰係数の検定に関する問題であり、(1)は1個の回帰係数に関する検定なのでt検定、(2)は複数の回帰係数を同時に検定するのでF検定を用いる。それぞれの検定についての基本的な内容である。

問題2

正規分布およびその派生分布について問う問題である。具体的には、(1)は正規分布、(2)はカイ2乗分布、(3)はF分布、(4)はt分布であり、各派生分布と標準正規分布との関係を理解していることが求められる。

問題3

問1は仮説検定の基本用語と検定の考え方の理解度を問う問題であり、特に検出力に関する正確な理解が求められる。問2は経済指数の基本であるラスパイレスおよびパーシェの価格指数を題材とした問題である。

第8問

問題1

ファイナンスに関連する分野を素材とした2つの独立した小問から構成される。問1は、金融派生証券の価格付けによく用いられる2項過程に関する問題である。ただし、(1)は2項過程に関する確率、(2)は期待値を計算させる基礎的な問題なので、金融派生証券についての知識は必要ない。問2は、二つの独立な確率変数の加重和の分散を評価するもので、確率変数の和に関する基礎的な知識を前提とした応用問題である。

問題2

確率、確率密度関数、期待値、分散、ベイズの定理に関する理解を問う、やや程度の高い問題である。具体的には、(1)は周辺確率、同時確率、条件付確率、(2)は周辺確率密度関数、同時確率密度関数、条件付確率密度関数、(3)は期待値と分散、(4)はベイズの定理に関する問題である。

問題3

確率の計算に関する2つの独立した小問からなる、比較的易しい問題である。

問1は非復元抽出で現れる超幾何分布の問題であるが、初等的な方法で解くこともできる。(3)では復元抽出も組み合わされている。全体として初歩的な確率の計算能力を見る問題である。問2はポアソン分布を対象とした確率の計算、中心極限定理、およびベイズの定理を内容とする問題である。

サイトマップ

ページの先頭に戻る