平成23年論文式試験の出題趣旨

【会計学】

第1問

問題1

本問は、実際部門別個別原価計算の基本的理解を問う問題である。当該領域の基本的論点をほとんど盛り込んでおり、単に計算能力をみるだけでなく、理論的理解をも問うている。計算では、材料副費の予定配賦、仕損費の処理、階梯式配賦法、連立方程式法、理論では、製造間接費の予定配賦の長所、伝統的配賦法の欠点とその解決策などである。

問題2

本問は、標準原価計算の理解を問う問題である。標準原価計算により直接労務費削減を実施している企業の事例を設定し、この計算問題を解かせることにより、差異分析の計算方法に対する理解、そして標準原価計算に内在する問題点について問うている。さらに他の原価管理手法である原価企画との違いについて論じさせることにより、現代における標準原価計算の課題、及び存在意義も問うている。

第2問

問題1

〈出題項目の例〉にある「6. 資金管理とキャッシュ・フロー管理」に関する出題である。【問1】【問2】【問4】は、〔資料〕の裏にあるもの(連結キャッシュ・フロー計算書や資金繰り表)を見抜いて、解答に至る思考力を問う。【問3】は、解答へ至る道筋を明確な論述力で示して、最高経営意思決定機関(ここでは試験委員)を納得させる能力を問う。答案用紙の行数には限りがあり、時間制限もあるが、そうした制約の中で「あなたは何を理解し、何を考えたか」といった総合力を問う。

問題2

差額原価収益分析に関する問題。一般的なテキストで解説されている例題は、単一の問題だけを切り取っているだけのものがほとんどである。しかし、現実には複合的な意思決定を要求される場面が多々あり、また当該分析は管理会計の他の主要な問題領域とも相互に関連を有する。そうしたケースにどのように対応していくか、応用力とさらには管理会計的な分析の限界と課題に関する知識の有無を問う問題となっている。

第3問

問1

個別貸借対照表における諸資産(機械装置及び投資有価証券)並びに諸負債(資産除去債務及び社債)の金額がどのように計算されるかを問う計算問題、そして連結株主資本等変動計算書がどのように作成されるか、を理解しているかどうかを問う総合計算問題である。前者は個別財務諸表の、後者は連結財務諸表の問題であるが、いずれも標準的な難易度の数値計算が確実にできるかどうかを確認するための出題である。

問2

(1)資産除去債務についての知識を問う理論問題である。資産除去債務と有形固定資産の関連性についての一歩踏み込んだ理解度を問うている。資産除去時点までに資産除去債務を引当金のような形で計上するのではなく、資産取得時等に現在価値で資産除去債務を計上すると同時に有形固定資産の取得原価に同額を加算することの理由を理論的に説明できることが望まれる。

(2)個別貸借対照表における純資産項目の区分についての基本的な知識を問う理論問題である。株主資本とそれ以外の項目を分けて表示することがいかなる意味で、意思決定に有用な情報となるのか、という点について理解していること、とりわけクリーン・サープラス関係や株主資本とそれ以外の項目の差異を明確に理解していることが望まれる。

第4問

問1

仕訳形式で表現された収益と費用の認識と測定に関する会計処理の適用、及び損益計算書の区分表示について、基礎となる考え方と関連づけて説明させることで、具体的な認識測定の意味や表示方法の考え方について理解度を問うている。

問2

提示した数値例に基づいて当期純利益と営業キャッシュ・フローの関係について説明させることで、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の双方を作成・開示することの意義について理解度を問うている。

問3

概念フレームワーク等と関連させて、リース会計基準の基本的考え方を問うている。また、リースに関する会計基準の最近の動向も踏まえ、セール・アンド・リースバック取引の会計処理の考え方とその理解度を問うている。

第5問

本問は、業績不振から脱却を目指す企業を題材にして、連結財務諸表作成プロセスにおいて留意すべき事項を公認会計士の視点から抽出し、総合的な会計処理の知識や理解力・判断力を問う問題である。

問1

希望退職を題材に、繰延税金資産の資産性や資産負債法に基づく税効果会計に関する基本的な理解を問うている。

問2

退職給付費用の会計処理について、応用的かつ総合的な理解を問うている。

問3

持分法適用会社への投資に関する会計処理について、具体的に会計基準を参照する能力をはじめ、資本取引の意義、追加取得の連結財務諸表上の処理などに関する基本的かつ正確な理解を問うている。

問4

減損損失の会計処理について、減損の兆候の判定から減損損失の認識、測定に至るプロセスに関する基本的な理解を問うている。

問5

連結子会社の会計処理について、資本連結手続とのれんの計算を題材に、税効果会計に関する理解も含めて、基本的かつ総合的な理解を問うている。

問6

為替換算調整勘定の会計処理について、基本的な理解を問うている。

【監査論】

第1問

財務諸表監査において、監査人が職業的専門家として当然行使すべき注意義務を怠ったことにより、責任を問われる事例が見受けられる。そこで本問では、財務諸表利用者の期待及び財務諸表監査における品質管理の観点から、正当な注意の意味や具体的な内容を理解できているかどうかを問うている。さらに、正当な注意と職業倫理との密接不可分の関連性について説明することを求めるとともに、両者の関連性を否定する見解の論拠をあえて推論させることで、監査人に求められる論理的思考能力を確かめるものである。

第2問

現在の財務諸表監査の規範となる監査基準や実務指針では、監査人が監査手続を実施していく上での基本的な考え方や姿勢のあり方をリスク・アプローチとして枠組み設定している。しかし、その枠組みがどのような特徴を持ち、限界を有しているのか等については、監査基準や実務指針には必ずしも明示的には示されていない。

そこで本問では、リスク・アプローチの考え方等について、監査基準や実務指針等に定められた規定等を踏まえて、その特徴を説明させるとともに、具体的設例によるリスクの識別とその対応手続について答えを求めることを通して、リスク・アプローチに関する理解が体系的に整理されているかを問うものである。

【企業法】

第1問

株式会社による自己の株式の取得についての基本的理解を問うものであり、取得の手続規制、及びその趣旨について論じることが求められている。設問においては、不特定多数の株主から株式を取得する場合と、特定の株主から株式を取得する場合のそれぞれについて、異なる手続が求められる趣旨について言及することが必要である。本問において問題とされている会社は、有価証券報告書提出会社ではないため、会社法上の問題のみを丁寧に論じることが求められている。

第2問

本問は、粉飾決算の結果、財源規制に違反して剰余金が配当された場合における、取締役等の責任についての理解を問うものである。問1では、分配可能額を超えて剰余金が配当された場合の、株主及び取締役の会社に対する支払義務並びに監査役等の任務懈怠責任についての検討が求められる。問2では、代表取締役が放漫経営を行い、また計算書類及び監査報告に記載すべき重要な事項についての虚偽の記載がある場合における、取締役及び監査役の第三者に対する責任についての検討が求められる。

【租税法】

第1問

問題1

法人及び個人事業者をめぐる取引についての税務処理を、事案に即し理由を付して答えさせることにより、所得税法・法人税法・消費税法の理解ができているかを問うものである。①については、完全支配関係にある内国法人に対する寄附金の処理、②については繰延資産の意義、③については配当所得の意義、④については免税事業者の判断(最判平成17年2月1日民集59巻2号245頁)に関する正確な理解が解答のポイントとなる。

問題2

無償取引をめぐる税務処理についての問題である。無償取引については、税法ごとに、時価による取引があったとみなされる場合と、そうでない場合がある。法人税法上は、22条2項にみられるように、時価による取引があったとみなされる場合が多い。所得税法上は、59条1項のように、みなし譲渡課税は例外である。消費税法上は、「資産の譲渡等」の定義(2条1項8号)にあるように、無償取引は原則として課税対象外であるが、これにも例外がある。このような取扱いの違いを、条文に則して正確に理解しているかどうかが解答のポイントとなる。

第2問

問題1

本問は、公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な法人税に関する基本的な知識を問うものである。すなわち、損益計算書に示された当期純利益に必要な申告調整を行い、法人税法上の課税所得金額、さらに納付すべき法人税額を求める過程を問うている。

必要な調整項目の論点として、(1)受取配当等の益金不算入額、(2)減価償却費の計算、(3)棚卸資産の評価、(4)租税公課・繰延税金資産、(5)貸倒損失・貸倒引当金、(6)非適格型ストック・オプションに関する調整額が含まれている。

問題2

本問は、公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な所得税に関する基本的な知識を問うものである。ここでは、(1)給与収入・給与所得控除額、(2)適格型ストック・オプションに係る譲渡所得、(3)各種所得控除に関する計算が含まれている。

問題3

本問は、公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な消費税及び法人税に関する基本的な知識を問うものである。ここでは示された資料を基に、問1は課税標準額及び課税標準額に対する消費税額、問2は課税売上割合、問3は消費税額から控除する税額、問4は納付すべき消費税額、問5は控除対象外消費税額等、問6は繰延消費税額等を求めさせる問題である。

【経営学】

第1問

問題1

近代組織管理論の代表的な論者であるH.A.サイモンとC.I.バーナードの学説についてその基本的な理解を求めた。問1では管理原則の実際的問題点を、問2では経営学の依拠すべき人間モデルを、問3では限定合理性の考え方を、問4では組織成立の基本要素を問うた。また、当該学説に関連させ、問5と問6では、管理責任の基礎的な考え方と今日における企業統治の態様について問うた。

問題2

インターネットの発達により、企業の取り巻く環境や戦略は大きく変化してきた。特に最終消費者との関係の深い小売業でその影響は大きい。本問題では、競争戦略の代表的な考え方であるM.ポーターの考えに依拠し、小売業がインターネット環境の中で競争戦略をどのように捉えるべきかを示している。現実の事象を単に言葉として記憶しているのではなく、理論との関係でしっかり理解しているかどうかが試されている。

第2問

問題1

ファンダメンタル分析によって株式の価値を評価するためには、配当割引モデルを用いることが多い。その場合、モデルのインプットとなる数値を財務や市場のデータを使って求めることが必要である。本問は、株主資本100%(無借金経営)という簡単化された想定のもとでその知識を問うものである。あわせて財務分析のベーシックな指標と株式の三大投資尺度についての理解も問うている。

問題2

CAPMが成立しているもとでのポートフォリオ理論について、とりわけ平均・標準偏差平面における最小分散ポートフォリオの特徴に関する理解と知識を問う問題である。理論の前提となる仮定の意味に加えて、具体的な数値計算を行いながらポートフォリオ理論に関するいくつかの重要語句の基本的な理解についても問うている。

問題3

本問は、株価の2項モデルに基づいて、株式オプションに関する基礎的知識と計算能力を確認するための問題である。

【経済学】

第3問

問題1

部分均衡分析を用いて、比較静学、市場の調整過程、均衡の安定性及び弾力性についての基礎的な理解を試す問題である。

問題2

短期及び長期の費用関数に関する基礎的理解を試す問題。参入に関しても理解を問う。

問題3

家計の労働と余暇の選択問題と労働市場における家計の労働の供給行動及び企業の労働需要行動を問う基礎的な問題である。

問題4

私的財と公共財の間の社会的変形関数にもとづき公共財の最適供給のための基本的条件を問う問題。概念的理解だけでなく条件式にもとづく正確な計算も要求している。

第4問

問題1

マクロ経済学の用語に関する基礎知識を問うとともに、基本的な関係式についての理解を確かめる。

問題2

新古典派の完全競争市場における企業の時間を通じた投資量、雇用量の決定に関する基礎的な理解を問う問題である。問題では企業所得の割引現在価値や資本の蓄積過程を正確に理解した上で、割引率(利子率)や労働供給量などの数値が与えられた場合に、最適な投資量や賃金率を定量的に導出できるかどうかを問うている。

問題3

フィリップス曲線を使って期待インフレ率を含む総供給曲線を求めた上で、与えられた総需要曲線を使ってマクロ均衡を導出する問題である。このマクロ体系において、期待インフレ率と貨幣ストックの供給率は外生なので、これらの外生変数が変化した際に、マクロ均衡がどのように変化するかを併せて問うている。

【民法】

第5問

問1

最判昭和62年11月10日民集41巻8号1559頁を素材として、担保法に関する基礎的知識を問う問題である。集合動産譲渡担保の有効性や、譲渡担保と動産売買の先取特権との優劣などが主要な論点となる。

問2

消滅時効に関する基礎的知識を問う問題である。時効の中断や援用の効力の及ぶ範囲(原則として相対的であるが例外もある)などが論点である。

第6問

問1

不法行為を理由に損害賠償請求するための基本的な要件・効果を問う問題である。本問では、損害の種類としての財産的損害と非財産的損害(被害者自身の怪我によるもの、間もなく結婚する相手が死亡したことによるもの)、損害賠償の減額要因としての被害者側の過失の主張の可否などの問題が含まれている。

問2

交通事故の後に医療過誤が重なって生じた損害の賠償請求について問う問題である。本問では、医療過誤を理由とする損害賠償請求の法的構成、交通事故の加害者と医療過誤の加害者による共同不法行為の成否、被相続人の死亡時に胎児だった者による損害賠償請求権の相続、不法行為時に胎児だった者による損害賠償請求、共同不法行為における被害者の過失と過失相殺との関係などの問題が含まれている。

【統計学】

第7問

問題1

度数分布表に基づいて平均等の代表値を求める問題である。(1)及び(3)は初等的な問題であり、(2)は対象を20歳以上に制限したときの、条件付き平均を求める問題と同等である。(4)では、階級内で一様に分布するとの仮定は、累積分布関数が折れ線であることを意味することに注意して、これと直線y = 0.5との交点のx (寿命)座標を求めればよい。

問題2

正規分布にしたがう独立な2つの確率変数の和が正規分布にしたがうことと、平均を引いて標準偏差で割るという確率変数の標準化の手順を用いて、標準正規分布の上側確率表から必要な確率計算を行う問題である。

問題3

ベイズの定理に関する確率計算の問題である。事前確率や事後確率といった概念を理解していることが求められる。まず(1)及び(2)で簡単な条件付き確率を求めて、(3)で標本空間を赤玉の数Xの値によって分割し、その中で該当する事象の確率を求めて合計すればよい。(4)では(3)で求めた結果を条件付き確率の式に用いればよい。

第8問

問題1

視聴率調査を題材とする母集団における比率の検定に関する応用問題である。二項分布、正規近似、点推定、区間推定のそれぞれについての理解が問われる問題である。

問題2

分割表を用いた独立性の検定の問題である。(1)で帰無仮説のもとでの期待度数を求めた後、(2)で指示された手順にそって仮説検定を正しく行えるかどうかを問う基本的な問題である。

問題3

被説明変数と説明変数が1変量で定数項を含む単回帰分析において、(1)は相関係数、回帰係数、決定係数、残差平方和、相関係数と回帰係数との関係等について問う、回帰分析に関する初等的な問題である。また(2)では回帰係数に関する標準的な仮説検定の方法について理解が求められる。

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