申請金融機関に対する資本増強の基本的考え方及び審査結果について

金融再生委員会

平成11年 3月12日

I . 検討の経緯
 
 金融再生委員会においては、昨年12月15日の委員会発足以来、資本増強に関して、合計32日にわたり検討を行った。
 この間、1月20日に「金融再生委員会の運営の基本方針」を策定・公表するとともに、1月25日には「資本増強に当たっての償却・引当についての考え方」をとりまとめ、国際基準行について、資本増強額の審査に際しての引当等の定量的な目安を示した。
 また、早期健全化法第4条第6項に基づき、日本銀行及び預金保険機構から意見を聴取するとともに、申請が予定されていた15行(注)に対して、1月26日以降、予備的な審査を行った。
 
(注) 日本興業銀行、第一勧業銀行、さくら銀行、富士銀行、住友銀行、大和銀行、三和銀行、東海銀行、あさひ銀行、横浜銀行、三井信託銀行、三菱信託銀行、住友信託銀行、東洋信託銀行、中央信託銀行
 予備審査においては、金融監督庁検査部から検査結果、日本銀行から考査結果について説明を受け、「経営健全化計画」の素案の書面審査を行い、更に、各行の代表者から直接ヒアリングを行った。これらを踏まえ検討した結果、2月12日、「資本増強を前提として、今後の手続きを進めて差し支えない」旨通知した。
 更に、3月4日には、予備審査を経た15行からの正式な申請を受け、3月8日に代表者に対するヒアリングを行うなど、検討を重ねてきたところであるが、審査の基本的な考え方は次の通りである。
 
II . 基本的考え方
 
1. 原則
 
 資本増強を受けた金融機関が不良債権の処理を基本的に終了し、内外の金融市場において十分な信認が得られ、金融システムに対する信頼を回復し得るよう十分な額の資本増強を行う。
信用供与の円滑化により、企業の活動又は雇用の状況などの経済の活性化に資するものとする。
金融機関の競争力・収益力が向上し、優先株式の市場への売却等により、できる限り早期に投下資本の回収が可能となることを目指すものとする。
資本増強制度の運用に当たっては、従来型の護送船団方式と決別し、明確なルールの下で透明性を確保するものとする。
 
2. 財務内容の健全性
 
 申請のあった15行について、その財務状況の健全性を審査したところ、10年9月期において債務超過ではなく、健全な自己資本の状況の区分にあることを確認した。
 また、11年3月期の公的資本増強を行う前の状況においても、業務純益や自力調達等により、これらの金融機関は相当の自己資本を確保できるものと考えられ、早期健全化法第7条第1項第2号前段に規定するその存続が極めて困難であると認められる場合ではないものと考えられる。
 
3. 資本増強額
 
 金融機関に対する内外からの信認を回復するためには、不良債権や有価証券含み損を適切に処理することが必要であると考えられる。
 このため、少なくとも国際基準行については、「資本増強に当たっての償却・引当についての考え方」に則り、不良債権問題について、十分な償却・引当を行うことにより、11年3月期にその処理を基本的に終了する。
 
(注) 債権放棄に当たっては、残存債権の回収がより確実となる等の合理性、借り手企業の経営責任の明確化、及び当該企業の社会的影響等を考慮するものとする。また、当該放棄額が引当済み額に見合う程度となるよう、債権放棄が予想される先については、予め十分に引当を行っておくことが望ましい。
 また、有価証券含み損については、14年3月期の時価評価の導入を控え、できる限り早期に処理することが望ましいが、現行会計基準において実際には有価証券含み損の処理を行わない場合でも、資本増強の審査に当たっては、これを考慮する。
 このような考え方に従い、業務純益や民間からの自力調達等と併せ、政府保証を活用した資本増強を行うことにより、不良債権の処理額や有価証券の含み損を考慮してもなお十分な資本勘定を確保する。
 
(注) 資本増強後の自己資本から、なお残る有価証券含み損を控除した各行の実質的な自己資本比率は概ね10%程度になるものと想定される。
 更に、信用収縮に対しては、国内企業向け貸出、特に中小企業向け貸出等の額(特殊要因を勘案した実質ベース)について、11年度には増加させるものとする。
 
4. 経営健全化計画
 
 金融システムに対する内外の信頼を回復するためには、業務の再構築、リストラ、金融機関の再編を促進することにより、金融機関の収益性を向上させる必要があり、このような観点から経営健全化計画の審査を行った。
 業務の再構築やリストラについては、金融取引に係る市場全体の観点を踏まえ、横並び的な業務の再構築ではなく、明確かつ特色ある戦略による収益性の向上や組織の抜本的改革を図ることを評価する。また、特に海外を含む不採算の拠点からの撤退を評価する。
 
(注) 各行の経営健全化計画においては、リージョナルバンク等の海外全面撤退、不採算の海外支店等の廃止、支店営業体制の改革などが計画されている(別添資料12参照)。
 人件費を含む固定費の見直し等のリストラにより、スリムで強靱な経営体質に転換し、収益性の向上を図ることが必要であり、人件費や機械化関連費用を除く物件費等の削減、相談役・顧問制度の廃止等を評価する。
 
(注) 各行の経営健全化計画においては、人件費・物件費の削減とともに、役員数の削減、相談役廃止などが計画されている(別添資料13参照)。
 金融再編については、合併、子会社化、資本・業務提携など、実態に応じた対応が進捗しているところであり、これにより金融機関の収益性や財務内容の改善が図られることを評価する。
 
(注) 信託銀行間の合併、都銀と信託銀行との間の子会社化・資本提携、地域間・他業態間の業務提携といった具体的対応が図られている。(別添資料14参照)
 更に、自力調達が図られていること、不良債権の流動化計画が具体的であること、行内の企業格付の信頼性が高いこと、減配や役員賞与の縮減等により利益流出が十分に抑制されていることなどといった経営健全化計画上の改善点を評価する。
 
5. 商品性
 
 不良債権処理の原資等といった観点から、劣後債や劣後ローンより、むしろ転換型優先株といった資本勘定となる商品を基本とする。
 引受条件については、「優先株等の配当率等に関する基本方針について」(10年12月17日)に従った配当率等とするとともに、次の考え方による。
 
 早期健全化勘定の全体の運用利回りは、原則として当該勘定の資金調達コストを下回らないものとする。
 個別の金融機関において、優先株式の配当率は、早期健全化勘定における資金調達金利の最低水準である、公定歩合以上とする。
 個別の金融機関において、普通株式の配当利回りは、優先株式の配当率以下とすることを原則とする。
 なお、優先株式の配当率は、個別の金融機関が許容し得る資金調達コストを目途とする。
 具体的には、配当率等の決定は、以下の方法によるものとする。
 
(1)  まず、各行が市場で調達する場合の収益力、調達力、リスク耐久力等が織り込まれた市場での評価を想定するが、早期健全化法の趣旨を踏まえ、資本増強の実施により内外からの信頼が回復し、いわゆるジャパンプレミアムに象徴されるような金融システム不安は解消されたものとする。
(2) また、各行の申請した商品は異なったものとなっており、これらの配当率等の算定については、市場で通常行われている方法により行う。
 
(注) 資本性の高い優先株式の配当率は、劣後債・劣後ローンの利率よりも低目になる傾向にある。次に、同じ優先株式であっても、最低転換価格が時価と比較して十分に低い場合、当初転換価格の決定時点が転換開始時ではなく発行時である場合、転換開始時期が早い場合などにおいては、投資家にとって有利な商品であることから、配当率は下がることとなる。
(3)  更に、経営健全化計画における業務の再構築・リストラ、金融再編への対応が十分であれば、財務内容・経営内容が改善するものと見込まれることから、前記4.にある一定の項目に基づく評価を配当率等に反映させるものとする。
 
(注) (1)及び(2)については、市場において一般に通用している考え方に則り、(3)については、経営健全化計画の改善点を一定の基準により評価した結果を外生要因としてこれに加味した。
 
III . 審査結果、フォローアップ
 
 以上のような基本的な考え方に則り、申請のあった15行について、その申請内容、経営健全化計画等を精査した結果、これらの申請を承認することが適当であるとの結論に至った。今後、所定の手続きを経て、3月末に資本増強が行われることになるが、これにより、金融システムに対する内外からの信頼が回復するものと考えられる。
 資本増強を受けた金融機関においては、資本増強の趣旨・目的を踏まえ、経営健全化計画に沿った健全な経営が行われ、収益力が向上することを期待する。経済状況の著しい悪化等の特段の理由がなく、経営健全化計画の基本となる重要な事項について履行が確保されない場合には、経営責任の明確化が図られるべきである。
 また、経営健全化計画上の業務の再構築・リストラ、金融再編への対応などの履行状況については、早期健全化法第5条第4項に基づき報告を求め、これを公表する。これにより、金融機関自身による自己規正を促す。
 その際、業務の再構築や金融再編への対応等の積極的な理由がある場合には、経営健全化計画の見直しを行うことを可能とする。
 更に、上記の報告等を通じた状況把握の結果、資本増強を受けた金融機関が、経営健全化計画を自ら的確に履行しようとしていないと認められた場合には、必要に応じ、同法第20条第2項に基づく銀行法上の措置の発動により、適切に対応するものとする。
 大手行については、今回の資本増強により不良債権問題の処理が基本的に終了することとなるが、金融システム改革の進展に伴う金融再編とともに、資本増強を契機とした新たな再編を促進することにより、金融システムの効率化を図るものとする。
 

 

問い合わせ先

金融再生委員会事務局金融危機管理課

杉本、片桐、井上、向後
早川、渡邉、市川、林、田中


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