プレス・リリース |
1999年4月21日
信用リスク・モデル:現状とその活用
バーゼル銀行監督委員会は、本日、信用リスク・モデルに関する現状と課題を分析する報告書を公表した。信用リスク・モデルは、先進的な銀行が異なる地域や業務ラインにまたがる信用リスクの計量化と集計を行う際に利用する、最新の手法である。本報告書は、信用リスク・モデルの現状を解説するとともに、監督・規制上の目的で信用リスク・モデルを使用し得る可能性を評価している。
また、本報告書は、信用リスク・モデルが信用リスクの測定及び管理について、個々の金融機関の特性に即した柔軟なアプローチを提供している、と述べている。さらに、モデルによる信用リスクの計量化が、業務ライン、顧客の信用度、市場の変動要素、経済環境における変化に関して影響を受け、かつ反映していることからみて、モデルがリスク管理の重要な手段となっていると結論付けている。本報告書は、モデル化における概念的アプローチについての各種手法を検討している。たとえば、リスク計測期間の選択、信用損失の定義、与信の集計やデフォルト事象間の相関の測定に関する様々なアプローチ、などを含んでいる。
本報告書では、規制上の所要自己資本を決定する際にモデルを使用し得る可能性が論点の一つとして挙げられている。本報告書は、信用リスク・モデルにより信用リスクに対する規制上の所要自己資本を設定するためには、主にデータの制約やモデルの検証などを含む多くの障害をクリアしなければならないとしている。
バーゼル委員会の議長で、ニューヨーク連邦準備銀行の総裁及び CEO であるWilliam McDonough氏は、「信用リスク・モデルにおける進展に刺激を受けるとともに、この分野におけるさらなる研究を歓迎する」と述べている。McDonough氏は、さらに、「将来において、信用リスク・モデルはリスク管理を行う上で重要な役割を果たし、本報告書で指摘した障害を克服できれば、規制上の所要自己資本の決定においても一定の役割を果たしうる」と述べた。
本報告書を準備するに当たり、バーゼル委員会のモデル・タスク・フォースは、数多くの公開の会議から選り抜いた資料や内々のプレゼンテーションをレビューするとともに、10カ国の銀行20行に対してモデルの利用状況に関する詳細な調査を実施した。本レビューでは、モデルの開発上用いられた方法論やモデルの算出結果の内部利用に関する、広範な実務に焦点があてられた。そこでは、以下に示すような現在のモデル化の実務に関する多くの課題及び制約についても強調された;
データの制約:本報告書は、デフォルト過程やその他の信用度の変化を引き起こす要因のモデルへの適用可能性について、貸出に関する過去の実績やその他の変数に関するデータの不足により、かなり制約されている、としている。信用リスクを測定する際のリスク計測期間がマーケット・リスクと比較してより長期であることから、これらの定式化は一層困難になっている。このことは、主要なパラメータを的確に推定するためには、複数のクレジット・サイクルにわたる長期間のデータが必要とされることを示唆している。
モデルの検証:本報告書は、信用リスク・モデルがさらなる信頼性を得るためには、銀行及び規制当局は、内部モデルが銀行のポートフォリオに固有のリスクの水準を適正に算出していることを確認できる手段を必要とする、としている。しかしながら、より長期のホライズンが必要であることから、信用リスク・モデルの検証はマーケット・リスク・モデルよりも根本的に困難となっている。本報告書では、現時点において、信用リスク・モデルの正確性について定期的に検証するための一般的に認められた枠組みは存在しない、としている。
バーゼル委員会の事務局長でありモデル・タスク・フォースの議長であるDaniele Nouy氏は、「当委員会は、上記及びその他の主要な論点に対処する更なる努力を歓迎するとともに、今後の建設的な対話への金融業界の参加を期待する」と述べた。当委員会は、1999年10月1日までに、本報告書に関して、関心のあるすべての関係者に対してコメントを求めている。
本報告書では、規制上の所要自己資本の決定を含め、監督上及び規制上の目的での信用リスク・モデルの利用可能性についても検討した。Nouy氏は、「内部モデル・アプローチに基づく自己資本規制により、所要自己資本は銀行資産のリスクとより一層密接に関係付けられ、また各銀行のポートフォリオの構成をよりよく反映した信用リスクの計測が可能になるであろう。」と述べている。しかし、本報告書は、ポートフォリオ・モデル・アプローチを信用リスクに対する所要自己資本の決定に利用するためには、規制当局は、モデルが能動的なリスク管理に利用されるだけでなく、モデルが概念的に健全であり、実証的に検証され、金融機関間で比較可能な所要自己資本を算出するものであることについて、確信しなければならない、としている。
<本件に関する照会先> 金融監督庁長官官房企画課
冨家(内線3166)、石村(内線3156)
注
バーゼル銀行監督委員会(The Basle Committee on Banking Supervision)
バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、英国及び米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行のW.J.McDonough総裁である。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行において開催される。
モデル・タスク・フォース(The Models Task Force)
モデル・タスク・フォースは、1994年バーゼル委員会により設置され、バーゼル委員会に参加している機関の監督専門家により構成されている。当タスク・フォースは、Daniele Nouyバーゼル委員会事務局長が議長を務めている。当タスク・フォースによる信用リスク・モデルのレビューは、銀行、モデルのベンダー及び研究者等、公開の会議から選り抜いた資料や市場実務家による内々のプレゼンテーションをも基礎としている。報告書は、10カ国の国際的活動を行っている銀行20行に対し、当タスク・フォースが行ったモデルの利用状況に関する詳細な調査の結果にも基づいている。
本レポートの全文をどこで入手できるか?(Where can I obtain the full report?)
「信用リスク・モデル:現状とその活用」のテキストは、1999年4月21日の中央ヨーロッパ標準時(CET)の16時より、インターネット上のBIS Web Site(http://www.bis.org)から入手することができる。また、バーゼル委員会の事務局やバーゼル委員会のメンバーである銀行監督当局や中央銀行からも入手可能である。