(仮訳)

プレス・リリース

1999年6月 3日

新たな自己資本充実度の枠組みに関する市中協議ペーパー

 

 バーゼル銀行監督委員会は、本日、1988年に公表された現行の自己資本合意に代わる新たな自己資本充実度に関する提案を公表した。バーゼル委員会の議長で、ニューヨーク連邦準備銀行の総裁兼CEOであるWilliam J. McDonough氏は、「この新たな自己資本に関する枠組みは3つの柱で構成されている:1988年の自己資本合意で示されている標準的規制を発展・拡張させることを目指した最低所要自己資本;金融機関の自己資本充実度と内部評価プロセスの監督上の検証;そしてディスクロージャーを強化し、安全で健全な銀行業務を促進する梃子としての市場規律の効果的な活用である。当委員会は、これらの三要素は、全て合せて、実効的な自己資本の枠組みに不可欠な柱であると考えている」と述べてこの提案を紹介した。当委員会はまた、現在銀行システム内にある自己資本全体の水準が、新たな枠組みでは、少なくとも維持されるべきであると考えている。

 当委員会は、また、信用リスクに対する現在の標準的自己資本規制の見直しと同じ時間的枠組みの中で、一部の銀行に対して、最低所要自己資本を銀行自身の内部格付に基いて設定する代替的な手法を開発することを目指している。さらに将来を見据え、McDonough氏は、19994月に公表された報告書、「信用リスク・モデル−現状とその活用」で強調されているように、信用リスク・モデルの規制上の活用可能性を当委員会が分析し続けると述べた。

 「1988年の自己資本合意は現在の国際金融の枠組みの基礎である。それは、国際的な銀行システムの健全性と安定性を強化することの一助となり、国際的に活動する銀行の間の競争上の平等性を高めた」とスウェーデンの金融監督庁(Finansinspektionen)長官で、自己資本合意の見直しの中心となった自己資本規制の将来に関するタスク・フォースの議長であるClaes Norgren氏は述べている。しかしながら、現行の自己資本比率規制を用いて計算した銀行の自己資本比率が必ずしも銀行の財務状態を示すうえで適切な指標ではない場合があるところまで、過去10年間に金融市場は大きく発展した、とNorgren氏は付け加えている。また、世界の金融システムは最近かなりの経済的混乱を経験している。彼は、「新たな枠組みは、自己資本規制を実際のリスクとより整合的にし、リスクの計測と管理についての進歩を反映するよう設計されている」と述べた。

最低所要自己資本

 当枠組みの第一の柱については、信用リスクに関してより包括的でリスク感応的な取扱いをすることが目的である。当委員会は、最低所要自己資本を設定するための以下のアプローチ、すなわち、既存のアプローチの修正、銀行の内部格付の利用、ポートフォリオ・ベースの信用リスク・モデルの利用、について検討した。

 本日公表した市中協議文書では、自己資本賦課額を実際のリスクとより整合的にすることを狙って、当委員会は現行のアプローチの修正を提案している。ソブリン・リスクについては、当委員会は、外部の信用評価機関をリスク・ウェイトの設定に用いるシステムで現在のアプローチに置き換えることを提案している。こうしたアプローチが、直接または間接に、また様々な程度で、銀行、証券会社及び一般事業法人に対するリスク・ウェイトにも適用されることが意図されている。この結果、信用度の高い企業向け与信のリスク・ウェイトが軽減されるとともに、特定の信用度が低いエクスポージャーに対して100%超のリスク・ウェイトが導入されることとなる。資産証券化に対応する新たなリスク・ウェイトの枠組みと、特定の種類の短期のコミットメントに対して20%の掛目を適用することも提案されている。

 当委員会は、商業用不動産への抵当権により保全された貸出には、原則として、100%以外のリスク・ウェイトが適用されるべきではないことを決定した。商業用不動産への抵当権により保全された資産を含め、各種の資産の自己資本規制上の適切な取扱いについては、市中協議期間中、そしてコメントを受取った後も、当委員会による検討が続けられることとなる。

 当委員会はまた、特定の種類の取引については、1988年の自己資本合意は信用リスク削減手法に対して的確なインセンティブを提供しないことも認識している。例えば、担保については最低限の所要自己資本の削減しか認められていないし、自己資本合意の構造は、所要自己資本を削減するものとして認識されるヘッジの種類および所要自己資本額の双方に規制を設けることにより、新たに開発された特定の形態の信用リスク削減策を認めてこなかったとも言えよう。そこで、当委員会は、信用リスク削減手法に関するより健全で整合的な自己資本規制上のアプローチを開発することを目指している。これには、適格な担保や保証、オンバランスシート・ネッティングの範囲を拡大する提案も含まれている。

 上記に示された提案は、大多数の銀行の所要自己資本額を設定する標準的アプローチの基礎を形成することを意図している。しかしながら、当委員会は、銀行によっては、監督当局による承認と定量的・定性的基準の達成を条件に、内部格付が規制上の自己資本のベースとして利用可能であると認識している。したがって、当委員会は、銀行の内部格付に基づいた規制上の自己資本のアプローチを、信用リスクに対する標準的手法の見直しと同じ時間的枠組みの中で開発することを目指している。当委員会は、今後作成される協議文書において、この提案についてのより詳細な分析を提示する予定である。

 当委員会は、ポートフォリオ・ベースの信用リスク・モデルが規制上の自己資本を設定する際に使用できるか否かについても検討した。「当委員会は、これらのモデルの利用とさらなる開発を推奨する」とバーゼル委員会の事務局長で、信用リスク・モデルに関するペーパーを作成したモデル・タスク・フォースの議長であるDanièle Nouy氏は述べている。そのペーパーでは、利用可能なデータの存在やモデルの有効性等、数多くの問題が解決されないと、こうしたモデルを規制上の目的で用いることはできないと記している。Nouy氏は「当委員会では、さらなる開発とテストの後に、信用リスク・モデルがどのように規制上の自己資本の設定に利用可能となるかを検証する予定であり、本件に関する進展を注意深くモニターして行く所存である」と付け加えた。

 当委員会はまた、その他の主要なリスクの種類をカバーするよう、自己資本合意の適用範囲を拡大することを目指している。現行の自己資本合意は、主として信用リスクに焦点を当てているが、その後、マーケット・リスクにも対応するよう改訂されている。バンキング勘定の金利リスクやオペレーショナル・リスク等のその他のリスクは、明示的には取扱われてこなかった。しかしながら、これらその他のリスクが一層重大になってきていることから、これらのリスクは自己資本の枠組みの中で別途取扱うだけの重要性があると当委員会は結論付けた。したがって、当委員会はバンキング勘定の金利リスクが大幅に平均を上回る銀行に対する自己資本賦課方法を開発することを提案する。また、当委員会は、その他のリスク、主としてオペレーショナル・リスクに対しても明示的な自己資本の賦課方法を開発することを提案し、これを実務上どのように行えるかについて検討している。

 最後に、新たな自己資本合意の適用範囲を拡大し、完全連結ベースで銀行グループの親会社である持株会社も含むようにすることが提案されている。

監督上の検証プロセス

 当枠組みの第二の柱である、自己資本充実度の監督上の検証は、銀行の自己資本のポジションと戦略がその全体的なリスク・プロファイルや戦略と整合的であることを確実にしようとするものであり、したがって、自己資本がリスクに対する十分な緩衝を提供していない場合には早期の監督当局による介入を奨励する。ペーパーでは、監督当局は、規制上の最低自己資本比率を超えた自己資本を保有することを銀行に要求できるべきであると指摘されている ──この点は新興市場国の監督当局との議論の中で強調された点である。さらに、新たな枠組みは、銀行の経営陣が内部的な自己資本評価プロセスを開発し、当該行に特有のリスク・プロファイルと管理環境に見合った自己資本の目標水準を設定することの重要性を強調する。こうした内部プロセスは、監督上の検証と、適切な場合には介入に服することになる。

市場規律

 当委員会はまた、監督当局が、銀行システムの安全性・健全性を強化する梃子として、第三の柱である効果的な市場規律を活用することに強い関心を有していると考えている。市場規律が実効的であるためには、市場参加者が十分に根拠のあるリスク評価ができるような信頼性があり、しかもタイムリーな情報が必要である。当委員会は、自己資本の水準、リスク・エクスポージャー、そして自己資本充実度に関するより詳細な指針を本年内に公表する予定である。

次のステップ

 自己資本合意は金融技術革新とリスク管理実務の発展に歩調を合わせていくべきであると当委員会は考えている。当委員会は、全ての関心がある主体からのコメントを2000年3月31日までに求めている。新たな自己資本合意が実施される具体的な日付は、寄せられたコメントと、その間に行われるべき作業に依存する。当委員会は、市中協議プロセスにより銀行や業界との幅広いやり取りが行われることを期待している


 

新たな枠組みの目的

  •  自己資本合意は引続き金融システムの安全性と健全性を促進すべきである。

  •  自己資本合意は引続き競争上の平等性を高めるべきである。

  •  自己資本合意はリスクに対処するためのより包括的なアプローチを構築するべきである。

  •  自己資本合意は国際的に活動する銀行に焦点を当てるべきであるが、その基礎となる原則は、複雑さや高度化の水準が異なる銀行への適用にも適しているべきである。

新たな枠組みの対象範囲

 1988年の自己資本合意はG10諸国の国際的に活動する銀行向けに設計されたものであった。その後自己資本合意は世界中で採用され、多くの国において国際的に活動する銀行だけでなく、国内的な銀行にも適用されている。新しい自己資本合意の焦点は再び国際的に活動する銀行であるものの、三つの柱に具体化されているその原則的な考え方は、一般的に、どこの法域のどの銀行であっても適用可能である。それぞれの状況は十分に勘案されるべきである。例えば、多くの非G10諸国は、マクロ経済レベルでより大きな変動を示している。さらに、監督当局は、自己資本合意に示されている不可欠な前提条件が満たされているかどうか──例えば健全な会計原則・実務が備わっているか──を慎重に検討する必要があり、必要な場合には適切な措置を採らなければならない。個別銀行の状況(例えば、規模、多角化、リスク管理システム、リスクの度合い)と監督当局の状況(監督上の検証に利用可能な資源等)は、全て、何時、如何に個別国で自己資本合意を適用できるかに関係する事柄である。

バーゼル銀行監督委員会

 バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、英国及び米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行のWilliam J. McDonough総裁兼CEOである。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行において開催される。

自己資本規制の将来に関するタスク・フォース

 Norgren氏が議長を務める自己資本規制の将来に関するタスク・フォースは、新たな自己資本合意に関する諸問題を議論する目的でバーゼル委員会により1998年12月に設立された。

モデル・タスク・フォース

 Nouy氏が議長を務めているモデル・タスク・フォースは、1994年に設立された。当タスク・フォースは、バーゼル委員会に参加している機関の監督専門家により構成されている。

本レポートの全文をどこで入手できるか?

「新たな自己資本充実度の枠組みに関する市中協議ペーパー」のテキストは、1999年6月3日の中央ヨーロッパ標準時(CET)の12時半より、インターネット上のBIS websitehttp://www.bis.orgから入手することができる。また、バーゼル委員会の事務局やバーゼル委員会のメンバーである銀行監督当局や中央銀行からも入手可能である。

 

<問い合わせ先>

金融監督庁 国際室

石村(内線3156)、木股(内線3162)


新たな自己資本充実度の枠組み

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