平成10年6月16日  



                                                                              

                                                                              



        金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)



                                                                              

                                                                              

一  我が国における金融商品に係る会計基準に関しては、当審議会は、平成2年5月に

  「先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について」を公表し、先物取

  引、オプション取引及び市場性のある有価証券に係る時価情報の開示基準を整備した

  ところであり、その後も、先物為替予約取引に係る時価情報及びデリバティブ取引全

  般に係る時価情報の開示基準を逐次整備してきたところである。                  

                                                                              

二  これらの開示基準等の整備により金融商品に係る時価情報の提供は広範に行われて

  きたところであるが、最近の証券・金融市場のグローバル化や企業の経営環境の変化

  等に対応して企業会計の透明性を一層高めていくためには、注記による時価情報の提

  供にとどまらず、金融商品そのものの時価評価に係る会計処理をはじめ、新たに開発

  された金融商品や取引手法等についての会計処理の基準の整備が必要とされる状況に

  たち至っていると考えられる。                                                

    国際的な動向としても、国際会計基準委員会(IASC)は、昨年11月以降金融

  商品に係る暫定基準案の策定作業を続けており、米国財務会計基準審議会(FASB)

  は、平成5年5月に「特定の負債証券及び持分証券への投資の会計処理」を、平成8

  年6月に「デリバティブ及び類似の金融商品並びにヘッジ活動に関する会計処理(公

  開草案)」を公表している。これらの基準書等においては、金融商品の認識、貸借対

  照表価額、ヘッジ会計等に関する会計基準が明らかにされている。                

    こうしたことから、我が国においても、金融商品に関する諸課題全般に係る会計基

  準を設定することが求められている。                                          

                                                                              

三  当審議会は、このような状況にかんがみ、平成8年7月以降、金融商品部会(平成

  9年2月の部会改組以前は「特別部会・金融商品委員会」)において、金融資産・負

  債の発生及び消滅の認識に係る問題、時価評価に係る問題、ヘッジ会計に係る問題、

  複合金融商品に係る問題、貸倒引当金の計上基準に係る問題等、金融商品に係る広範

  な問題について審議を重ねてきた。この度、一応の成案を得たため、これを「金融商

  品に係る会計基準(案)」として公表することとした。                          

                                                                              

I  本基準の位置づけ                                                          

                                                                              

    当審議会は、平成9年6月に「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」を、平

  成10年3月に「中間連結財務諸表等の作成基準の設定に関する意見書」、「連結キ

  ャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」及び「研究開発費等に

  係る会計基準の設定に関する意見書」を公表した。また、平成10年6月に「中間監

  査基準の設定に関する意見書」、「監査基準、監査実施準則及び監査報告準則の改訂

  に関する意見書」及び「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」を公表した

  ところである。                                                              

    諸般の課題に係る一連の会計基準等の整備は、○内外の広範な投資者の我が国証券

  市場への投資参加を促進し、○投資者が自己責任に基づきより適切な投資判断を行う

  ことを可能にするとともに企業自身もその実態に即したより適切な経営判断を行うこ

  とを可能にし、○連結財務諸表を中心とした国際的にも遜色のないディスクロージャ

  ー制度を構築しようとする基本的認識に基づくものであり、もって、21世紀に向け

  ての活力と秩序ある証券市場の確立に貢献することを目指すものである。          

    今回の「金融商品に係る会計基準(案)」も、このような基本的認識に沿った会計

  基準の整備の一環をなすものである。                                          

                                                                              

II  金融商品に係る会計基準の要点及び考え方                                    

                                                                              

1.金融資産又は金融負債の範囲等                                              

    本基準の適用対象となる金融資産又は金融負債については、適用範囲の明確化の観

  点から、米国基準等に見られる抽象的な定義によるのではなく、有価証券、金銭債権

  債務、デリバティブ取引により生じる正味の債権債務等の具体的な資産負債項目をも

  ってその範囲を示すこととする。この金融資産又は金融負債の範囲は、国際的にみて

  も、米国基準等の適用範囲と特段の差異はないものと考える。なお、金融資産又は金

  融負債及びそれらを発生又は消滅させる契約を金融商品と定めることとしている。  

    商品先物のように現物資産(コモディティ)から派生した取引契約については、金

  融商品には含めないことが適当である。ただし、そのうち成熟した市場において決定

  された価格に基づき差金決済が可能であると認められるものについては、本基準を適

  用することが適当である。                                                    

                                                                              

2.金融資産又は金融負債の発生及び消滅の認識                                  

 (1)  金融資産又は金融負債の発生の認識                                        

      金融資産又は金融負債については、発生に係る契約締結時から時価の変動による

    価格変動リスクや契約の相手方の財政状態等に基づく信用リスクが契約当事者に生

    じるため、契約締結時においてその発生を認識することとする。                

      デリバティブ取引の契約締結時の測定については、取引契約に含まれる権利と義

    務をそれぞれ資産、負債として両建計上するという考え方もあるが、企業にとって

    のデリバティブ取引の価値が純額に求められる点にかんがみ、本基準においては、

    デリバティブ取引に含まれる権利と義務の純額を資産又は負債として計上すること

    としている。                                                              

                                                                              

 (2)  金融資産の消滅の認識要件                                                

    ○  総論                                                                  

        金融資産については、当該金融資産の契約上の権利を行使した場合、契約上の

      権利を喪失した場合又は契約上の権利に対する支配が他に移転した場合に、その

      消滅を認識することとしている。例えば、債権者が貸付金等の債権に係る資金を

      回収した場合、保有者がオプション権を行使しないままに行使期限が到来した場

      合、保有者が有価証券等を譲渡した場合などには、それらの金融資産の消滅を認

      識することとなる。                                                      

    ○  金融資産の譲渡に係る支配の移転                                        

        一般に、資産の譲渡については、譲渡人は当該譲渡を売却取引として会計処理

      し資産の消滅を認識する。しかし、譲渡資産が金融資産の場合には、譲渡人が譲

      渡後においても譲渡資産や譲受人と一定の関係(例えば、リコース権(遡求権)、

      買戻特約等の保持や譲渡人による回収サービス業務の遂行)を継続する場合があ

      る。このような条件付きの金融資産の譲渡については、金融資産のリスクと経済

      価値のほとんどすべてが他者に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する方

      法(以下、「リスク・経済価値アプローチ」という。)と、金融資産を構成する

      財務要素(以下、「財務構成要素」という。)に対する支配が他者に移転した場

      合に当該移転した財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続

      を認識する方法(以下、「財務構成要素アプローチ」という。)とが考えられ  

      る。                                                                    

        証券・金融市場の発達により金融資産の流動化・証券化が進展すると、例えば、

      譲渡人が自己の所有する金融資産を譲渡した後も回収サービス業務を引き続き行

      う等、金融資産は財務構成要素に分解され取引されることが多くなるものと考え

      られる。このような場合、リスク・経済価値アプローチでは金融資産を財務構成

      要素に分解して支配の移転を認識することができないため、取引の実質的な経済

      効果が譲渡人及び譲受人の財務諸表に反映されないこととなる。              

        このため、本基準では、金融資産の譲渡に係る消滅の認識は財務構成要素アプ

      ローチによることとし、金融資産の契約上の権利に対する支配が移転するのは以

      下の三つの要件がすべて充たされた場合としている。                        

      i)譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者

        から法的に保全されていること                                          

          譲渡人に倒産等の事態が生じても譲渡人やその債権者等が譲渡された金融資

        産に対して請求権等のいかなる権利もないこと等、譲渡された金融資産が譲渡

        人の倒産等のリスクから確実に引き離されていることが必要である。        

      ii)譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で

        享受できること                                                        

          譲受人が譲渡された金融資産を実質的に利用し、そこから元本、利息、配当

        等の投下した資金のほとんどすべてを回収できる等、譲渡された金融資産の契

        約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できることが必要である。    

          なお、譲受人が特定目的会社等の場合には、その発行する有価証券等の保有

        者が譲渡された金融資産の契約上の権利を享受できることが必要である。    

      iii)譲渡人が譲渡した金融資産を満期日以前に買戻す権利又は義務を実質的に有

        していないこと                                                        

          譲渡人が譲渡した金融資産を満期日以前に買戻す権利又は義務を実質的に有

        している場合は、譲受人が当該金融資産に係る元利金等を制約なく受け取るこ

        とができないため、支配は移転していない。例えば、譲受人からの買戻し請求

        権の行使が合理的に予測され、かつ、譲渡した金融資産に関して譲渡人の買戻

        し義務が契約上定められている場合は、支配は移転していない。              

          債務者の倒産等に基づく譲渡人のリコース義務(遡求義務)は、実質的な買

        戻し義務とは認められないと考えられるので、この場合にはリコース義務を金

        融負債として認識し、当該金融資産の消滅を認識することとする。          

                                                                                

 (3)  金融負債の消滅の認識要件                                                

      金融負債については、当該金融負債の契約上の義務を履行した場合、契約上の義

    務が消滅した場合又は契約上の第一次債務者の地位から免責された場合に、その消

    滅を認識することとしている。したがって、債務者は、債務を弁済した場合や債務

    が免除された場合に、それらの金融負債の消滅を認識することとなる。          

      第一次債務を引き受けた第三者が倒産等に陥ったときに二次的に責任を負うとい

    う条件の下において、債務者が金融負債の契約上の第一次債務者の地位から免責さ

    れることがある。この場合には、財務構成要素アプローチにより当該債務に係る金

    融負債の消滅を認識し、その債務に対する二次的な責任を金融負債として認識する

    こととしている。                                                          

                                                                                

 (4)  金融資産又は金融負債の消滅の認識に係る会計処理                            

      金融資産又は金融負債がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該金融資産

    又は金融負債の消滅を認識するとともに、それらの帳簿価額と対価との差額を当期

    の損益として処理することとする。                                          

      金融資産又は金融負債の一部の消滅を認識した場合の消滅部分と残存部分の帳簿

    価額は、それぞれの時価の比率により按分することとする。また、金融資産又は金

    融負債の消滅の認識に伴って新たに発生した金融資産又は金融負債は、時価により

    計上するものとする。                                                      

                                                                              

3.金融資産又は金融負債の貸借対照表価額                                      

 (1)  基本的考え方                                                            

    ○  金融資産の貸借対照表価額                                              

        金融資産については、一般的には、取引市場が存在すること等により客観的な

      価額として時価を把握できるとともに、当該価額により換金・決済等を行うこと

      が可能である。                                                          

        このような金融資産については、                                        

      i)金融資産の多様化、価格変動リスクの増大、取引の国際化等の状況の下で、

        投資者が自己責任に基づいて投資判断を行うために、金融資産の時価評価を導

        入して企業の財務活動の実態を適切に財務諸表に反映させ、投資者に対して的

        確な財務情報を提供することが必要である。                              

      ii)金融資産に係る取引の実態を反映させる会計処理は、企業の側においても、

        取引内容の十分な把握とリスク管理の徹底及び財務活動の成果の的確な把握の

        ために必要と考えられる。                                              

      iii)我が国企業の国際的な事業活動の進展、国際市場での資金調達及び海外投資

        者の我が国証券市場での投資の活発化という状況の下で、財務諸表等の企業情

        報は、国際的視点からの同質性や比較可能性が強く求められている。また、デ

        リバティブ取引等の金融取引の国際的レベルでの活性化を促すためにも、金融

        商品に係る我が国の会計基準の国際的調和化が緊要な課題となっている。    

        金融資産の時価情報の開示は、時価情報の注記によって満足されるというもの

      ではない。客観的な時価の測定可能性が認められないものや企業の保有目的等に

      かんがみ実質的に価格変動リスクを認める必要のないものを除いて、基本的な考

      え方として、市場価格による自由な換金・決済等が可能な金融資産については、

      投資情報としても、企業の財務認識としても、また、国際的調和化の観点からも、

      これを時価評価し、適切に財務諸表に反映することが必要であると考えられる。  

    ○  金融負債の貸借対照表価額                                              

        金融負債は、借入金のように一般的には市場性に乏しいか、社債のように市場

      性があっても市場価格による自由な清算に事業遂行上等の制約があると考えられ

      ることから、本基準においてはデリバティブ取引により生じる金融負債を除き、

      債務額等を貸借対照表価額とし、時価評価の対象としないことが適当であると考

      えられる。                                                              

                                                                              

 (2)  金融資産の貸借対照表価額                                                

    ○  原則として取得原価をもって貸借対照表価額とすることが適切な金融資産    

      i) 市場性のない有価証券及び債権                                        

          市場性のない有価証券並びに一般的には市場性に乏しい受取手形、売掛金及

        び貸付金等の債権については、客観的な時価を測定することが困難であること

        から、取得原価等をもって貸借対照表価額とすることとする。ただし、発行者

        又は債務者の財政状態の悪化等により実質価額が著しく減少した場合には貸借

        対照表価額を減額することとする。なお、債権の貸借対照表価額については、

        別途、貸倒引当金の計上方法として整理することとする。                  

      ii) 満期保有目的の社債その他の債券                                      

          企業が満期まで保有することを目的としていると認められる社債その他の債

        券については、金利の変動による価格変動のリスクを認める必要がないことか

        ら、取得原価等をもって貸借対照表価額とすることとする。                

    ○  子会社株式及び関連会社株式                                            

      i) 子会社株式                                                          

          子会社株式については、事業投資と同じく時価の変動を財務活動の成果とは

        捉えないという考え方に基づき、原則として取得原価をもって貸借対照表価額

        とすることとする。                                                    

          連結財務諸表においては、子会社純資産の実質価額が反映されることにな  

        る。                                                                  

      ii) 関連会社株式                                                        

          関連会社株式については、個別財務諸表においては、従来、子会社株式以外

        の株式の評価と同じ原価法又は低価法が評価基準として採用されてきた。しか

        し、関連会社株式は、他企業への影響力の行使を目的として保有する株式であ

        ることから、子会社株式の場合と同じく事実上の事業投資と同様の会計処理を

        行うことが適当であり、原則として取得原価をもって貸借対照表価額とするも

        のとする。                                                            

          連結財務諸表においては、持分法により評価される。                    

    ○  時価をもって貸借対照表価額とするとともに、評価差額を損益計算書に計上す

      ることが適切な金融資産                                                  

      i) 売却目的の有価証券                                                  

          時価の変動により利益を得ることを目的として保有される有価証券について

        は、投資者にとっての有用な情報及び企業にとっての財務活動の成果は有価証

        券の期末時点での時価に求められると考えられる。したがって、貸借対照表価

        額は時価によることとする。また、企業が当期中に売却を行うにあたっての事

        業遂行上等の制約がなかったと認められることから、評価差額は、当期純利益

        に反映させることとする。                                              

        (注) 特定金銭信託・指定金外信託等の信託財産として保有されている運用目

            的の有価証券                                                      

              特定金銭信託・指定金外信託等、運用を目的とする金銭の信託の受益権

            の価値は、当該受益権の信託財産の価値により決定される。信託財産を構

            成する金融資産は、企業が運用目的で間接的に保有しているものと考えら

            れ、加えて、受益権が信託財産を構成する金融資産又は時価換金した現金

            により契約満了時に支払われる場合、投資者及び企業双方にとって意義を

            有する受益権の価値は、信託財産の時価に求められると考えられる。また、

            信託財産の価値を、例えば保有期間中の配当収入と元本部分の価値に分け

            て捉えることもあるが、両者の合計は時価そのものであり、分けて捉える

            必要はないと考えられる。したがって、受益権の貸借対照表価額は、信託

            財産を構成する金融資産のうち時価評価が適切であるものについて、その

            時価を反映することが必要と考えられる。                            

              このため、受益権に係る信託財産のうち市場性のある有価証券の貸借対

            照表価額は時価によることとする。また、当該有価証券に関し委託者の事

            業遂行上等の観点からの売買・換金の制約がないことから、時価評価に係

            る評価差額は当期純利益に反映させることとする。なお、信託財産のうち

            金銭債権及び市場性のない有価証券等は取得原価等で評価することとす  

            る。                                                              

      ii) デリバティブ取引により生じる金融資産又は金融負債                    

          デリバティブ取引は、取引により生じる正味の資産又は負債の時価の変動に

        基づき保有者が利益を得又は損失を被るものであり、投資者及び企業双方にと

        って意義を有する価値は当該資産又は負債の時価に求められると考えられる。

        したがって、それらの貸借対照表価額は時価によることとする。また、デリバ

        ティブ取引により生じる正味の資産又は負債の時価の変動は、企業にとって財

        務活動の成果であると考えられることから、評価差額は、後述するヘッジに係

        るものを除き、当期純利益に反映させることとする。                      

    ○  時価をもって貸借対照表価額とするが、原則として評価差額を損益計算書に計

      上することが適切ではない有価証券(その他有価証券)                      

      i) 基本的な捉え方                                                      

          子会社株式や関連会社株式といった明確な性格を有する株式以外の有価証券

        であって、売却目的、運用目的又は満期保有目的といった保有目的が明確に認

        められない有価証券は、業務上の関係を有する企業の株式等から市場動向によ

        っては売却を想定している有価証券まで多様な性格を有しており、一義的にそ

        の属性を定めることは困難と考えられる。このような売却目的有価証券、運用

        目的の有価証券、満期保有目的有価証券、子会社株式又は関連会社株式のいず

        れにも分類できない有価証券(以下、「その他有価証券」という。)について

        は、個々の保有目的等に応じてその性格付けをさらに細分化してそれぞれの会

        計処理を定める方法も考えられるが、その多様な性格にかんがみ保有目的等を

        識別・細分化する客観的な基準を設けることが困難であるとともに、保有目的

        等自体も多義的であり、かつ、変遷していく面があること等から、売却目的有

        価証券・運用目的の有価証券と子会社株式・関連会社株式との中間的な性格を

        有するものとして一括して捉えることが適当である。                      

      ii) 時価評価の必要性                                                    

          その他有価証券のうち市場性があるものは、客観的な時価を把握することが

        可能であり、かつ、売買・換金等の途が拓かれていることから、前述の基本的

        な考え方に基づき、貸借対照表価額は時価によることとする。              

      iii) 評価差額の取扱い                                                    

        イ)評価差額の取扱いに関する基本的な考え方                            

            その他有価証券の時価の変動は投資者にとって有用な投資情報であるが、

          その他有価証券については、事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を

          行うことには制約を伴う要素もあり、評価差額を直ちに当期純利益に反映さ

          せることは適切ではないと考えられる。                                

            また、国際的な動向を見ても、その他有価証券に類するものの評価差額に

          ついては、当期純利益に反映させることなく、資本の部に直接計上する方法

          や包括利益を通じて資本の部に計上する方法が採用されているところであ  

          る。                                                                

            これらの点を考慮して、本基準においては、その他有価証券の評価差額を

          当期純利益に反映させることなく、税効果を調整の上、資本の部において区

          分掲記を要する剰余金として捉えることとする基本的考え方を採用した。な

          お、評価差額については、毎期末の時価と取得原価との比較により算定する

          ものとする。したがって、期中に売却した場合には、取得原価と売却価額と

          の差額が売買損益として当期純利益に含まれることになる。              

        ロ)評価差額の一部の損益計算書への計上について                        

            その他有価証券のうち時価評価を行ったものの評価差額は、前述の考え方

          に基づき、当期純利益に反映されないこととなるが、時価が著しく下落した

          有価証券については、原価までの回復の可能性があると認められる場合を除

          き、時価による帳簿価額の付け替えを行うとともに、その差額を当期の損益

          計算書に損失として計上するものとする。                              

            他方、企業会計上、保守主義の観点から、これまで低価法に基づく銘柄別

          の評価差額の損益計算書への計上が認められてきた。本基準においては、会

          計処理の連続性の観点も併せ考慮し、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差

          額を資本の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額を損益計算

          書に計上することを認めることとする。この場合、損益計算書に計上する損

          失の計算方法については、評価差額が取得原価と時価との比較により算定さ

          れることとの整合性から、洗い替え方式によることとする。              

            なお、本基準適用前において有価証券の評価基準として低価法を採用して

          いる企業が評価差額を全額資本の部の剰余金として計上する場合及び原価法

          を採用している企業が取得原価を下回る銘柄の評価差額を損益計算書に計上

          する場合には、これを会計処理の変更として取り扱うことが適当である。  

        ハ)評価差額の取扱いに関連する諸問題                                  

            その他有価証券のうち市場性を有するものの時価評価の取扱いに関しては、

          商法との整合性が求められる個別財務諸表において、次のような問題につい

          て検討する必要がある。                                              

          a.評価損が評価益を上回った場合、ネットの評価損を資本の部においてど

            のように取り扱うか。                                              

          b.各年度の企業の利益は、最終的に株主総会においてその処分が決まり、

            その結果として留保された利益も資本の部に計上されることとなる。した

            がって、評価差額を利益処分との関係においてどう取り扱うか。        

          c.評価差額を資本の部に計上するとすれば、配当規制等の社外流出規制、

            合併に伴う処理などの広範な企業のガヴァナンスの領域の問題についてど

            う考えるか。この場合には、同時に、評価差額が時の経過により変動する

            という点についても考慮する必要がある。                            

            これらの問題については、なお、我が国金融・証券市場の構造変化、企業

          経営やガヴァナンス等幅広い分野の動向等を踏まえ商法との調整を図ること

          が必要と考えられる。                                                

      iv)その他有価証券に係る本基準の適用時期                                

        イ)その他有価証券の会計処理方法は従来の方法と大きく異なり、実務上の対

          応を要すること等から、本基準全体の適用時期である平成12年4月1日以

          後開始する事業年度においては、時価評価に先立ち、その他有価証券に関し、

          期末帳簿価額と時価との差額について税効果を適用した場合の注記を行うこ

          とが適当である。注記における評価差額の中には、本基準を適用する場合に

          おいて、これを損益計算に含める等の会計処理を要するものがあることから、

          この点についても注記において明らかにされることが適当である。        

        ロ)企業会計における会計基準の適用は、これまで連結財務諸表と個別財務諸

          表を通じて同様に行うことを基本としてきたところである。本基準について

          もこうした考え方によることを基本としており、したがって、その他有価証

          券に係る本基準の適用は基本的に平成13年4月1日以後開始する事業年度

          以降、連単同時に行うことが望ましいと考えられる。                    

            なお、その他有価証券の貸借対照表価額及び評価差額に関する個別財務諸

          表上の会計処理について、商法におけるガヴァナンスの問題等さらに検討を

          要する課題が生じた場合においても、時価評価に関する投資情報等をできる

          限り早期に提供する観点から、平成13年4月1日以後開始する事業年度以

          降、連結財務諸表においてはその他有価証券について本基準を適用し、時価

          評価を行うこととすることが適当である。                              

          (注)その他有価証券に係る本基準の適用が、連結財務諸表から段階的に実

              施されるときには、個別財務諸表上の評価基準は従来どおり(原価法、

              切り放し低価法、洗い替え低価法)となる。したがって、連結財務諸表

              からの段階的実施の間において、連単の比較可能性等の投資情報の合理

              性・有用性を確保する観点から期末帳簿価額と時価との差額について税

              効果を適用した場合の注記を個別財務諸表について継続し、当該注記事

              項を基礎として連結上の会計処理を行うことが適当である。なお、段階

              的実施の間は、子会社がなく連結財務諸表の作成を要しない会社につい

              ても、同様の注記を行うことが適当である。 

[続きがあります]