電子マネー及び電子決済に関する懇談会報告書の概要

                                                                                    
    電子マネー及び電子決済に関する懇談会は、近年、情報通信技術を活用した新たな決済サ
  ービスの開発が内外で進展していることを踏まえ、我が国における健全な発展のための環境
  を整備する観点から、電子マネー・電子決済に係る安全対策の確保や公正な取引ルールの形
  成、担い手のあり方等の諸課題について検討を行い、今般(5月23日)、報告書を取りまと
  めたところ。その概要は以下の通りである。                                          
                                                                                    
1.電子マネー・電子決済の現状                                                      
                                                                                    
(1) 近年の情報通信技術の進展を背景として、金融サービスの分野においても電子化が進展し
  ている。こうした動きは、従来、企業による大口決済の分野で顕著であったが、最近では消
  費者による小口・小売決済の分野でも支払手段や支払方法を電子化し、利用者利便の向上を
  図る様々な試みが世界各地で進展している。我が国でも従来より金融サービスの電子化は進
  められてきているが、小口・小売決済の分野で広範囲での利用を目指した取組みは最近にな
  って本格化している。                                                              
                                                                                      
(2) 情報通信技術を活用した新たな決済サービスは、当事者間で交換する「価値」を電子化し
  たもの(決済手段の電子化)と金融機関の預金振替等の指図を電子的な方法により行うもの
  (決済方法の電子化)に一応区分できる。ここでは、「電子マネー」を電子化された決済手
  段の意味で用い、「電子決済」を主として新たな形態の決済方法の電子化を念頭に置きつつ、
電子的な決済一般を意味するものとして用いる。                                   
                                                                                    
2.電子マネー・電子決済に関する検討の視点                                          
                                                                                    
    電子マネー・電子決済は、効率的な決済の手段・方法を提供し、金融部門の決済機能を高
  度化させるものであり、利用者利便向上の観点からもそれが健全かつ円滑に発展・普及して
  いく環境整備を図る視点が重要である。これに加え、急速な技術革新の中で民間部門の技術
  開発や創意工夫を尊重するとの視点、電子マネー・電子決済の普及のため消費者の利用しや
  すい環境を整備するとの視点、国際的な利用等を念頭に置いて国際的な整合性に配慮すると
  の視点を重視する必要がある。                                                      
                                                                                    
3.電子マネー・電子決済を支える技術                                                
                                                                                    
(1) 電子マネーや電子決済については、偽造や通信途上での第三者による不正な介入等のリス
  クがあるが、高度な暗号技術や電子機器等を活用することにより相当程度有効な安全対策を
  講ずることは可能である。ただし、技術進歩に応じた不断の見直しは不可欠である。      
                                                                                    
(2) 技術的な安全対策は、急速な技術革新の進展の中で、基本的に、サービス提供者が自らの
  責任において講じるべきものであり、利用者の選択を通じて適切な水準の確保を図ることが
  適当である。この観点から、機械化通達については廃止も含め見直しを行う一方、安全対策
  に関する比較可能な形での情報開示の確保や開示情報の真正性の確保等について検討を行う
  必要がある。ただし、特に小口・小売決済を対象としたものについては、高度な技術を容易
  に理解できない一般の消費者も安心して利用できる環境を整備する観点から、適切な消費者
  保護の措置が必要である。                                                          
                                                                                    
4.電子マネー・電子決済に係る取引ルール                                            
                                                                                    
(1) 小口・小売決済を念頭に置いた電子マネー・電子決済については、専門的な知識や損失負
  担能力に限界のある一般の消費者も安心して利用できる環境を整備する観点から、サービス
  提供者によるサービス内容等の十分な説明、簡易な紛争解決手続の提供等の公正な手続の確
  保や、事故等の場合の消費者の損失負担額の限定等の公正な取引ルールの形成が必要である。
  特に、電子マネー等の新たなサービスについては、その円滑かつ健全な普及を図る観点から、
  公正な取引ルールの形成を促進するための公的な関与についても検討が適当である。      
                                                                                    
(2) 電子マネー・電子決済の自由な開発・設計のための環境整備の観点から、電子決済に関す
  る瑕疵ある意思表示の効力や電子マネーに関する譲受けの際の第三者対抗要件等の法律問題
  について、具体的な問題の発生状況にも配意しつつ、必要に応じ、立法的な解決に向けた検
  討を行っていくことが望まれる。                                                    
                                                                                    
(3) 偽造の発生その他の理由から電子マネーの発行体が経営破綻を来した場合にも、その利用
  者が適切な保護を受けることができるよう、権利の実体的な保護とその実行手続の整備の双
  方について検討することが必要である。                                              
                                                                                    
5.電子マネー・電子決済の担い手                                                    
                                                                                    
(1) 第三者の不正な介入のリスクが高いオープン・ネットワークにおいては、通信の安全を確
  保するための認証を行う認証機関の役割が重要となる。このため、その責任範囲や適格性に
  関する議論を進めていくことが必要である。                                          
    電子決済に関する認証を行う認証機関については、特に高い適格性が求められる。ただし、
  認証は決済サービスの一部とも考えられることから、消費者保護の観点からの適格性確保の
  措置が直ちに必要となる訳ではないことに留意が必要である。なお、金融機関による認証サ
  ービスの提供も許容していくことが適当である。                                      
                                                                                    
(2) 電子マネーの発行体には高い財務上の健全性や十分な技術的・事務的な能力といった適格
  性が求められるが、その発行体が銀行法等による免許を受けた現行の預金受入金融機関に限
  られるべきということには必ずしもならない。新規参入を促進し、多様な主体による市場で
  の競争を通じた電子マネーの発展を図る観点からは、むしろ、そうした現行の預金受入金融
  機関以外の主体も電子マネーの発行ができるような制度整備を行うことが適当である。    
    小口・小売決済を念頭に置いた電子マネーの発行体については、一般の消費者も安心して
  利用できる環境を整備するとともに、信用秩序の維持を図る等の観点から、適切な参入ルー
  ルの設定や監督等の適格性確保の措置が必要である。銀行法等による免許を受けた現行の預
  金受入金融機関の場合は既存の監督の枠組みの下で適格性の確保は可能と考えられるが、そ
  れ以外の主体に関しては、資産運用の安全性・流動性の高い資産への限定や業務運営の監督
  等の適切な適格性確保の措置が必要になると考えられる。                              
                                                                                    
6.電子マネー・電子決済と金融政策等                                                
                                                                                    
(1) 電子マネーの普及は、理論的には金融緩和効果を生じさせうるものである。また、支払準
  備需要の不安定化や中央銀行のバランスシートの縮小により、中央銀行の適切な金融調節に
  支障を生じさせるおそれがあるとの指摘もある。ただし、いずれにしても、普及が急激かつ
  大幅に進展しない限りは深刻な問題を生ずる懸念はなく、また、仮に問題が生じた場合でも
  適切な対策を講ずることが可能である。                                              
                                                                                    
(2) 電子マネー・電子決済は国境を越えた決済サービスの提供を容易にするものであり、我が
  国金融機関等の国際競争力の一層の強化が必要となる。こうした観点から、国際的な利用可
  能性も考慮したサービスの開発が求められるとともに、制度的な枠組みについても国際的に
  整合性のとれたものとすることが必要である。なお、外国の主体のサービスに関しては、国
  内の利用者保護の措置が適切に機能しないおそれもあることには留意が必要である。      
                                                                                    
7.電子マネー・電子決済と社会経済秩序の維持                                        
                                                                                    
(1) 電子マネーの不正使用については、特に電子マネーによる資金移動が匿名性をもつ場合に
  マネーロンダリングや脱税等に使用されるおそれがあるとの指摘がある。限度額の設定等の
  安全対策上の措置により、相当程度不正使用の防止も図られると見込まれるが、将来、特に
  多額の資金が取り扱われるようになった場合には、諸外国との協調を図りつつ、対策を講ず
  ることが必要となることも考えられる。                                              
                                                                                    
(2) 電子マネーは、原則として、強制通用力のある通貨である紙幣の機能の保護を目的とした
  紙幣類似証券取締法の適用対象とはならないが、電子マネーの普及により通貨秩序の維持に
  関わる事態が生じるような場合には、厳正な対応を図っていく必要がある。              
                                                                                    
                                                                                以上  

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