第5章 電子マネー・電子決済に係る取引ルール

                                                                                    
1.電子マネー・電子決済に係る取引ルールと消費者保護                                
                                                                                    
(1) 公正な取引ルールのあり方                                                        
                                                                                    
イ.公正な取引ルールの必要性                                                        
                                                                                    
    通信回線等を通じたデータの授受により決済を行う電子決済においては、利用者等による
  電子機器や通信機器の操作により瞬時に処理が行われることから、効率的に決済処理を行え
  る利便性がある。その一方で、利用者が操作ミスをした場合でも直ちに処理がなされ、トラ
  ブルが生ずる危険や、通信途上で事故や第三者による不正な介入が行われ、想定通りの処理
  が行われずトラブルとなる危険があるほか、特にインターネットを利用した場合に典型的に
  表れるように、そのトラブルの原因が特定できず、適切な責任追及がなしえないおそれもあ
  る。このように電子決済については、利便性がある反面でリスクもあるものであり、利用者
  には、こうしたリスクも十分に自覚の上、適切なサービスの選択・利用を行うことが求めら
  れる。                                                                            
    他方、電子決済の普及・発展を考えた場合には、そうしたリスクが現実のものとなり、ト
  ラブルが発生した場合の処理等に関して、一般の利用者が安心して利用できるような公正な
  取引ルールの設定が必要となる。こうした公正な取引ルールは、利用者が法人の場合と一般
  の消費者の場合では異なると考えることができる。すなわち、法人の場合は、専門的な知識
  を有する者が担当することにより、電子機器等の適切な操作やサービスの安全性の評価、サ
  ービス提供者との交渉等が可能であり、また、ある程度の損失負担能力も想定できる。しか
  し、一般の消費者については、専門的な知識や損失負担能力には自ずから限度があると考え
  られる。こうした差異に鑑みれば、法人と一般の消費者とでは安心して利用できる取引ルー
  ルの内容にも違いがあるとすることが合理的である。米国においては、こうした観点を踏ま
  え、電子資金取引について、私法面でのルールとして「統一商事法典第4A編」が、また、
  消費者保護のためのルールとして「電子資金移動法(EFTA)」が整備されている。    
    近年、新たな情報通信技術を取り入れた電子決済サービスが次々と開発され、その内容や
  内在するリスクは従来以上に容易に理解しがたいものとなる状況にある。こうした中で、新
  たなサービスが一般の消費者にも利用され、社会において円滑に発展・普及していくように
  するためには、専門的な知識や損失負担能力に限界のある一般の消費者もこれを安心して利
  用できるよう、その立場に配慮した公正な取引ルールが用意されることが不可欠の条件であ
  ると考えられる。                                                                  
                                                                                    
ロ.消費者の立場に配慮した取引ルール                                                
                                                                                    
    一般の消費者が安心して電子決済サービスを利用できるようにするためには、まず、消費
  者がそのサービス内容や取引ルールを十分に把握できるようにする必要がある。このため、
  サービス提供者には、わかりやすいインターフェイスやマニュアルの開発・作成等消費者が
  利用しやすい環境を用意することに加え、消費者に対しトラブル発生時の対処方法や危険負
  担、個人情報の取扱い等の取引ルールを十分に説明することが求められる。              
    サービス提供者によるサービス内容や取引ルールの十分な説明等を前提としても、そもそ
  も専門的な知識に限界のある一般の消費者がこれを理解することは容易でなく、そうした消
  費者が不測のトラブルに見舞われる懸念は払拭されない。このため、一般の消費者を対象と
  した電子決済サービスの提供者には、十分な安全対策によりトラブルの発生を防止し、また、
  トラブルが発生した場合にもこれを利用する消費者が適切な対応をすることができるよう、
  証拠証憑の交付や挙証責任の転換、簡易な紛争解決手続の提供等、消費者の立場に配慮した
  非対称的なトラブル処理のルールの設定が求められる。                                
    また、専門的知識や損失負担能力に限界のある一般の消費者が安心して電子決済サービス
  を利用できるようにする観点からは、サービスを利用する消費者の責任や危険負担ルールが
  明確に定められていることに加え、第三者の不正行為等に基づくトラブルが生じた場合でも、
  消費者の負担すべき損失額が一定限度に限定されることが望まれる。                    
    なお、このような消費者の立場に配慮した公正な取引ルールを考えるに当たっては、消費
  者のモラルハザードを惹起するとの懸念や、消費者の自己責任に基づく選択を通じたよりよ
  いサービスの発展が阻害されるおそれにも留意が必要であるほか、電子決済サービスの国際
  的な利用や事業の国際的な展開も踏まえ、国際的な整合性への配慮も不可欠である。      
                                                                                    
(2) 公正な取引ルールの確保                                                          
                                                                                    
イ.取引ルールの設定                                                                
                                                                                    
    こうした取引ルールは、基本的には、電子決済サービスの提供者と利用者の間の契約によ
  り定められるものである。特に、一般の消費者等の不特定多数の者を対象としたサービスの
  場合は、サービス提供者が作成する約款により取引ルールが設定される。通信回線等を通じ
  た情報の授受に基づく電子決済における権利義務関係の変動についても、こうした契約・約
  款により極力明確に定められることが重要である。                                    
    他方、契約・約款に規定がない場合には、民法や商法等の民事法の規定が適用されること
  となる。今後、電子マネー・電子決済の利用の拡大も展望すれば、電子的な方法による情報
  の授受により行われる意思表示の法的効果等に関し、具体的な問題発生の可能性にも配慮し
  つつ、必要に応じ、民事法の規定の整備についても検討していくことが望まれる。        
                                                                                    
ロ.消費者保護の観点からの公的な関与                                                
                                                                                    
    一般の消費者等の不特定多数の者を対象とした電子決済サービスの場合には、上記の通り、
  サービス提供者が作成する約款により取引ルールが設定されることから、消費者はそのサー
  ビスを利用する場合にはその取引ルールを受け入れざるをえず、その取引ルールを公正でな
  いと判断した場合にはサービスを利用しないとの選択を行うこととなる。しかし、高度な技
  術を活用した電子決済サービスについて、消費者が取引ルールの適否も含めたサービス全体
  の的確な評価を行うことは容易なことではなく、その結果として電子決済サービスの利用が
  拡大しないおそれも指摘される。電子決済の円滑な普及を図る観点からは、消費者が安心し
  て利用できるような公正な取引ルールの設定が確保されることも重要である。            
    ATMを通じた振込や振替等の従来の電子決済サービスに関しては、全国銀行協会連合会
  が約款のひな型を作成し、これを基準として各金融機関が約款を定めるという形で標準的な
  取引ルールの設定が図られている。金融サービスの分野では、こうした業界団体による自主
  ルールの設定により取引ルールの標準化を図る仕組みも少なくなく、こうした仕組みを通じ
  て公正な取引ルールの設定の確保を図ることも考えられる。他方、情報通信技術の進歩を取
  り入れた新たな電子決済サービスが次々と開発される中で、このような仕組みが適切に機能
  しない状況も生じうることを考えれば、消費者保護の観点から、公正な取引ルールの設定を
  促進するための公的な関与について積極的に検討していくことが求められる。            
    消費者保護の観点からの公的な関与を考えるに当たっては、電子決済の円滑な普及を図る
  ため、消費者が安心して利用できる環境を整備するとの観点が重要であるが、他方、消費者
  に過度に有利な取引ルールの強制は、消費者のモラルハザードを生じさせるおそれがあると
  の問題のほか、サービス提供者の危険負担を増加させ、手数料の高額化等サービスの魅力の
  低下や収益性の悪化による新規参入意欲の減退等を招き、かえって電子決済の発展を阻害し
  かねないことにも留意する必要がある。こうした点を踏まえれば、電子決済に係る取引ルー
  ルに関する公的な関与については、まず、サービス提供者によるサービス内容や取引ルール
  等の十分な説明等の公正な手続の確保を重視することが適当である。                    
    また、消費者の損失負担額の限定に関しては、米国「電子資金移動法」に定めるいわゆる
  「50ドル・ルール」があるが、取引限度額の設定や一定額以上の取引に対する付保といっ
  た方法によっても同様の効果を実現することができることに留意が必要である。これを踏ま
  えれば、消費者の立場への配慮による普及の効果とこれに伴う費用等を総合的に勘案したサ
  ービス提供者の創意工夫を活かしつつ、消費者がサービスの利便性と適切な保護の双方を享
  受できるような環境を整備するとの観点から適切な方策を検討していくことが適当である。  
    なお、このような消費者保護のための措置を考える場合にも、国際的な整合性への配慮が
  不可欠である。                                                                    
    また、情報通信技術の進展に伴い、多様な電子決済サービスが考案されつつある状況に鑑
  みれば、消費者保護の措置に関しても、特定の技術や仕組みにかかわらず同様のサービスで
  あれば同様の保護が適用されるようにすることが望まれる。それにより消費者保護のループ
  ホールが回避できるとともに、サービス提供者に対しレベル・プレイング・フィールドを提
  供することが可能となる。                                                          
                                                                                    
(3) 電子マネーに特有の問題                                                          
                                                                                    
イ.電子マネーの紛失等                                                              
                                                                                    
    電子マネーを用いた決済システムにおいては、通常、利用者の電子機器に記録されたデジ
  タル・データにより、その表章する価値を当該利用者が保有することが示されることとなる
  が、利用者が電子マネーであるデジタル・データ又はそれを記録する電子機器を事故や盗難
  等により破損又は紛失させた場合の取扱いが問題となる。                              
    電子マネーを現金と同じように考えれば、こうした場合、利用者は基本的にその「価値」
  を失うこととなるが、他方で、これに見合う資金は発行体に残っていることに鑑みれば、利
  用者保護の観点から再発行を認めるべきとの指摘もある。特に、電子機器の破損等により通
  常の方法ではデジタル・データの読取りができないものの、電子マネーの発行体において技
  術的に読取りが行える場合のように、失われた「価値」の確認が客観的に可能であり、その
  再発行により発行体に損失が生じない場合でも再発行をしないとすることには必ずしも合理
  性がないとも考えられる。                                                          
    他方、電子マネーの紛失や盗難等について常に再発行を認めるべきとする場合、電子マネ
  ーの発行体は各利用者の保有額を個別に管理することが必要となり、電子マネーの基本的な
  制度設計の大きな制約となる。また、個別の保有額の管理に要する費用が手数料等に転嫁さ
  れて、そのサービスの魅力が低下するおそれもある。こうしたことを考えれば、電子マネー
  の紛失等の場合の取扱いについては、その電子マネーの対象とする取引や利用者のニーズを
  踏まえたサービス提供者の判断によるべき要素も少なくないことにも留意が必要である。  
                                                                                    
ロ.偽造された電子マネーの取得                                                      
                                                                                    
    デジタル・データである電子マネーに関しては、これが偽造・複製された場合、通常、善
  意の第三者にとって識別が困難であることから、そうした電子マネーを他の利用者から善意
  で受け取った利用者の立場が問題となりうる。                                        
    こうした事態において、そもそも電子マネーの発行体にも識別が困難であり、偽造・複製
  された電子マネーの換金にも応じるのであれば、善意の取得者は保護されることとなる。他
  方、例えば発行体が電子マネーの二重使用の防止の観点から利用者による複製された電子マ
  ネーの換金請求を拒否することもあるとする場合には、善意の取得者が不測の損害を被る結
  果とならないように、電子マネーの仕組みの設計上十分な配慮をすることが求められること
  となると考えられる。                                                              
                                                                                    
2.電子マネー・電子決済に係る法的環境の整備                                        
                                                                                    
    電子マネー・電子決済は、通信回線等を通じたデータの授受により決済を行うという決済
  の効率化を目指したものである。そこでの私法上の権利義務関係については、前述の通り、
  基本的には当事者間の契約・約款の規定により定められるものではあるが、例えば、以下の
  ように、民法の強行規定等により必ずしも望ましい権利義務関係の設定等が実現できない場
  合もあるとの指摘もなされている。電子マネー・電子決済の円滑な発展を図るため、民間部
  門が技術開発と創意工夫に基づく自由な開発・設計を行えるような環境を整備する観点から
  は、そうした場合に関して、具体的な問題発生の可能性にも配意しつつ、必要に応じ、立法
  的な手当てを講ずることについても検討を行っていくことが望まれる。                  
                                                                                    
(1) 電子決済に係る瑕疵ある意思表示等                                                
                                                                                    
    錯誤や強迫に基づく意思表示がなされた場合や行為無能力者による意思表示の場合、民法
  の規定に従えば、そうした瑕疵ある意思表示は無効であったり、取消ができることとされて
  いる。しかし、意思表示が通信回線等を通じて通常は非対面で行われる電子決済においてそ
  うした取扱いを認めることは、取引の安定性を害し、電子決済の円滑な発展の支障となりう
  るとの指摘がある。                                                                
    この問題は、これまでも例えばATMを通じた振替等について生じていたものであり、実
  務的に大きな支障はないとの見方もあるが、今後、電子マネーの利用の拡大等により利用者
  間でも問題となる事態の発生が想定されることも考えれば、必要に応じ、立法的な手当てに
  ついても検討していくことが適当である。                                            
                                                                                    
(2) 電子マネーの譲受けの第三者対抗要件                                              
                                                                                    
    電子マネーに関しては、例えば、利用者Aから利用者Bへの電子マネーの譲渡が、利用者
  Aの債権者による利用者Aの財産の差押えと相前後してなされた場合、利用者Bはこの電子
  マネーの譲受けを第三者たる利用者Aの債権者にどうすれば主張できるかといった譲受けの
  第三者対抗要件の問題が指摘される。                                                
    すなわち、電子マネーの法的性質に関しては、一種の金券と見る説や有価証券と考える説、
  指名債権とする説等様々な議論がなされているが、仮に、電子マネーを民法上発行体に対す
  る指名債権であると構成した場合、その譲受けを第三者に対抗するためには、債務者たる発
  行体への確定日付のある通知等の対抗要件の具備が必要となる。しかし、それでは電子マネ
  ーの円滑な流通の支障となることが懸念される。特に、電子マネーが小口・小売の決済への
  利用を想定している場合には、できる限り移転手続が簡素化されることが重要であり、利用
  者間の通信回線等を通じたデータの授受のみにより価値の授受を第三者にも対抗できるとす
  る取扱いが望まれる。                                                              
    この問題に関しても、例えばプリペイドカードについても法律構成によっては同様の問題
  が生じうるが、特別な立法的手当てがなくても相当程度流通していることも考えれば、電子
  マネーについても十分な安全対策等により二重譲渡が防止され、また、利用が少額取引に止
  まる限り、その流通に大きな支障が生ずる懸念は小さいとの指摘がある。他方、対抗要件は
  第三者の権利に係わるものであり、サービスの提供者と利用者間の契約により解決できるも
  のではなく、また、上記のような差押えの場合や譲渡者の破産の場合には問題が顕在化する
  可能性もあることから、立法的な解決が必要との指摘もある。                          
    いずれにしても、特に小口・小売の決済を対象とした電子マネーの円滑な普及を図る観点
  からは、こうした取扱いが早期に確立されることが望ましく、具体的な問題の発生の状況に
  も配意しつつ、立法措置に関する検討も行っていくことが適当である。                  
                                                                                    
(3) 電子マネーに対する強制執行                                                      
                                                                                    
    デジタル・データである電子マネーが「価値」のあるものであるとした場合、これに対す
  る強制執行に関しての法的な問題も指摘される。これも、利用者の電子マネーの保有が少額
  に止まる間にあっては、必ずしも深刻な問題とはならないと考えられるが、今後その利用が
  大口の取引にも拡大しうることを展望すれば、その執行関係の法律上の位置付け等について
  も検討していくことが望まれる。                                                    
                                                                                    
3.電子マネーの発行体の破綻への対応                                                
                                                                                   
(1) 発行体の破綻時の利用者保護の必要性                                              
                                                                                    
    電子マネーの価値は、第一義的にはその発行体の支払能力によって担保されているもので
  あり、電子マネーが利用され普及するためには、発行体の財務上の健全性を常に確保し、発
  行体が破綻する事態を防止することが極めて重要な課題である。しかしながら、電子マネー
  の発行体も私企業である以上は、経営破綻を来す可能性を否定することはできない。特に電
  子マネーに関しては、発行体がどんなに健全な経営に努めている場合であっても、偽造の発
  生・拡大により発行体が破綻に追い込まれる危険があることには留意が必要である。      
    電子マネーの発行体が破綻した場合に、その利用者が何らの保護を受けられず大きな損失
  を被ることとなれば、発行体の支払能力に対する信認を少しでも揺るがす事態──例えば偽
  造の噂──が生じただけで、多くの利用者が電子マネーを直ちに換金しようとして取付騒ぎ
  となり、結果的にその発行体の経営破綻を引き起こすおそれもある。さらに、多くの利用者
  にとって各種の電子マネー事業の具体的な相違は必ずしも明確でないことを考えれば、ある
  電子マネー事業の破綻が他の電子マネー事業の信頼性をも損なう事態に発展する可能性も否
  定できない。このような電子マネー事業の不安定性は、電子マネーが円滑に発展・普及する
  妨げとなり、また、仮に広く一般に普及した場合にあっては、信用秩序全体の不安定要因と
  なるとの指摘もある。このため、信用秩序の維持にも配慮しつつ、電子マネーの健全な発展
  を図る観点から、電子マネーの発行体が破綻した場合にも、その利用者が適切な保護を受け
  うるような環境の整備を図っていくことが必要である。                                
                                                                                    
(2) 利用者保護のあり方                                                              
                                                                                    
    電子マネーの発行体が破綻した場合の利用者保護に関しては、当面、電子マネーの利用が
  少額に止まる限りにおいてはそれ程深刻な問題ではないとも考えられるが、今後の電子マネ
  ーの発展も展望すれば、権利の実体的な保護と実行手続の整備の双方について十分な検討を
  行う必要がある。                                                                  
                                                                                    
イ.権利の実体的な保護                                                              
                                                                                    
    電子マネーの発行体が破綻した場合の利用者の権利の実体的な保護については、保険や保
  証といった第三者が利用者の損失を補填する仕組みや利用者に発行体の財産に対する優先的
  な権利を認める仕組みが考えられる。前者の例としては、保険会社による保証や預金に関す
  る預金保険制度がある。電子マネーに関しても、民間の保険による対応が考えられるのでは
  ないかとの指摘や類似の公的保険制度を整備すべきとの指摘があるが、そもそも保険の仕組
  みを構築するためには、誰が保険料を拠出するのか、最終的には利用者に転嫁されることを
  踏まえ適切な保険料水準の設定は可能か、本物と区別のつかない偽造の発生により発行体に
  とっての債務が限りなく拡大しうることにどのように対応できるか、といった問題について
  十分な検討が必要である。                                                          
    なお、現行の預金保険制度は、預金者毎に一定限度額までの保証を提供するものであり、
  電子マネーに関しても、その保有者と保有額を発行体の側で把握できる仕組みであれば、制
  度の適用対象とすることも考えられるが、これまで開発された多くの電子マネーがそうであ
  るように、発行体の側で保有者と保有額が把握できない仕組みの場合には、現行の制度を適
  用することは困難である。                                                          
    また、利用者に発行体の財産に対する優先的な権利を認める仕組みの例としては、現行の
  前払式証票の規制等に関する法律によるプリペイドカードの発行保証金の供託とこれに対す
  るプリペイドカード保持者の優先権の制度がある。この制度については、未使用残高の二分
  の一の発行保証金の供託がプリペイドカード発行会社にとって過大な負担となっているとの
  指摘や、反対に、利用者にとって二分の一の保証では十分でないとの指摘等もあり、電子マ
  ネーに対する適用の適否の問題も含め、制度そのものの見直しが必要となっている。なお、
  この制度においても、偽造の発生により発行体の破綻が生じた場合には、利用者は二分の一
  の保証さえ受けられない可能性もあることに留意が必要である。                        
                                                                                    
ロ.権利の実行手続の整備                                                            
                                                                                    
    電子マネーの発行体の破綻に際しての利用者保護の観点からは、利用者の権利の実体的な
  保護に劣らずその権利の実行手続の整備が重要である。すなわち、電子マネーの発行体の破
  綻が生じた場合に、いくら利用者の権利が実体的に保護されていたとしても、その利用者が
  残余財産からの正当な配当等の支払を確実かつ円滑に受け取ることができる手続が整備され
  ていなければ、利用者は実質的に保護されないこととなりかねない。このように同様の債権
  を有する多数の債権者が存在する場合の破綻処理に関する特別な仕組みとしては金融機関の
  更生手続の特例等に関する法律に基づく預金保険機構による預金者の代理の制度のほか、同
  様の機能も果たすものとして商法の規定による社債権者を対象とした社債管理会社の制度が
  あるが、これらも参考にしつつ、必要に応じ、適切な手続の整備の検討が望まれる。      
                                                                                    

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