1.電子マネーの不正使用の防止 電子マネー・電子決済に係る不正行為としては、前述のような電子マネーの偽造・変造や 通信途上での決済情報の改ざん等の電子マネー・電子決済に対する不正行為のほか、主とし て電子マネーに関連して、これがマネーロンダリングや脱税等の目的に利用されるという不 正使用の問題が指摘される。すなわち、特に電子マネーによる資金移動が匿名性を保証され る場合には、現金の場合のような物理的な制約を余り受けることなく不正な資金の移動や貯 蔵が容易にできるようになり、これが麻薬取引等の犯罪行為を助長するおそれがあるという ものである。 この点については、マネーロンダリングに関する国際的な協力の場である金融活動作業部 会(FATF:Financial Action Task Force )においても議論がなされているところであ るが、現在開発されている電子マネーは、主として小口・小売の支払手段を念頭に置いたも のであり、限度額の設定やクローズド・ループ方式の採用等の民間部門の安全対策上の措置 が講じられていることから、直ちにマネーロンダリング等の不正使用への利用可能性を懸念 すべき状況にはないと考えられる。しかしながら、将来、多額の資金を匿名性を持って移動 ・貯蔵することが可能となれば、依然として多額の電子マネーを現金化する場合の匿名性の 問題は残るものの、電子マネーが不正使用される可能性が高くなり、これに対する対策が必 要となることも考えられる。この場合、マネーロンダリングの国際的な性質等に鑑みれば、 諸外国と協調を図りつつ対策を講ずることが特に重要である。なお、今般の外国為替及び外 国貿易管理法の改正により、汎用性のある電子マネーも同法上の「支払手段」と位置付けら れたところであり、同法の適切な運用を通じ、国境を越えて行われる電子マネーの不正使用 の抑止が図られることも期待される。 2.電子マネーと通貨秩序 我が国において法的な意味での通貨は通常、法律により強制通用力が付与された紙幣や貨 幣を指すが、このような通貨の発行権は国が独占する制度がとられている。こうした国の通 貨発行権は、外観上類似のものの作成については通貨偽造・変造罪等の処罰対象となるほか、 機能的に類似のものの作成については紙幣類似証券取締法の取締対象となるという形で保護 が図られている。これは、通貨秩序が国の経済秩序の根底をなすものであり、確固たるもの でなくてはならないとの考え方に基づくものであるとされている。 電子マネーは、言わば現金に代替する一般的な決済手段を目指したものであり、通貨の機 能の保護を目的とした紙幣類似証券取締法の適用が問題となりうる。この点については、同 法は、そもそも電子マネーの出現を予想しておらず、その対象を紙幣類似の作用をなす「証 券」としていること等に鑑みれば、原則として電子マネーが同法の適用対象となることはな いと解される。しかしながら、同法の保護法益である通貨秩序の維持の必要性は今後も引き 続き重要なものであり、電子マネーの普及により通貨秩序の維持に関わる事態が生じるよう な場合には、厳正な対応を図っていく必要があると考えられる。
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