I.電子マネー・電子決済を巡る内外の状況                                

                                                                          
  (1) 民間部門の動向                                                      
                                                                          
    電子マネー・電子決済は、従来にない効率的な決済方法を提供することにより
  利用者利便の向上に寄与するとともに、高度情報通信社会における電子商取引の
  発展の基盤となるものである。また、金融部門の重要な機能の一つである決済機
  能を高度化させるものでもある。                                          
    その意義を、電子マネー・電子決済における情報処理の具体的な方法に即して
  見ると、オープンなコンピュータ・ネットワークにおけるEDI(Electronic  
  Data Interchange、電子データ交換)によって決済サービスを行うことにより、
  紙や専用回線の利用による場合と比べ、決済に関する情報交換のコストの低下や
  自由度の拡大が実現されることが挙げられる。とりわけ、いわゆるストアド・ヴ
  ァリュー型の電子マネーにおいては、利用者サイドにおける即時決済・DVP  
  (Delivery Versus Payment、購買連動決済)、発行者サイドにおける保有者別口
  座管理の撤廃という特性が付加されることによって、情報処理コストが削減され、
  現金や預金による決済にはない効率性が実現されることが挙げられる。        
    こうした電子マネー・電子決済については、情報通信技術の革新等を背景に、
  更なる発展が見込まれており、各国・各分野の事業者が開発・実験・普及の取組
  みを進めている。                                                        
    技術面の取組みとしては、オープン・ネットワークにおいて流通する情報の改
  ざんや第三者によるなりすましが容易であるという問題に対して、公開鍵方式の
  暗号技術やその応用である認証技術による対策を実用化しつつある。また、情報
  を化体する電子データが完全な複製が可能であるという問題に対して、ICカー
  ドの耐タンパー性の設計や複製データの事後検出技術等の対策を開発している。  
    事業面の取組みとしては、米国においてインターネットを通ずる決済サービス
  が既に一般化しつつあるほか、各国・地域において電子マネーの実用化・普及の
  動きが進展している。例えば、モンデックス(英国、米国、香港等)、ゲルトカ
  ルテ(ドイツ)、ビザ・キャッシュ(米国等)、プロトン(ベルギー)、Eキャ
  ッシュ(米国、ドイツ等)と呼ばれるプロジェクトが実施されている。こうした
  中で、我が国においても、民間のコンソーシアム等により積極的な取組みが行わ
  れており、本年以降、首都圏で10万人規模の電子マネー実験プロジェクトが開始
  される予定となっている。                                                
                                                                          
  (2) 制度面の検討状況                                                    
                                                                          
    電子マネー・電子決済は、情報通信技術の革新等を背景として新たに登場した
  サービスであることから、その担い手のあり方、取引ルールや電子マネーの裏付
  けとなる資金に係る利用者保護等について制度面の課題が存在しており、各国に
  おいてその環境整備に向けた検討が行われている。また、G10(10か国蔵相・中
  央銀行総裁会議)、バーゼル銀行監督委員会といった国際的な場でも議論が行わ
  れている。                                                              
    具体的に諸外国の状況を見ると、電子マネー・電子決済に係る取引ルールに関
  しては、米国では、連邦EFT法(Electronic Fund Transfer Act、電子資金移
  動法)に基づくレギュレーションEの電子マネーへの適用等が検討されており、
  EUでは、電子決済における当事者間の取引関係に関する勧告を発表するなどの
  取組みが進められている。他方、英国では法律と同等の効果を有するとされるグ
  ッド・バンキング準則が、ドイツではZKA(Zentraler Kreditausschuss der K
  reditwirtschaftlichen Verbaende、金融業界連合会中央信用委員会)による協 
  定が、事業者の自主的な規律として確立している状況にある。                
    また、電子マネーの担い手のあり方に関しては、欧州大陸諸国では、一般的に
  電子マネーの発行を金融機関に限定すべきとの考え方が採られており、ドイツで
  は、そのための改正信用組織法が昨年成立し本年1月に施行されたところである。
  他方、米国では、現時点において電子マネーの発行を金融機関に限定しない方向
  での検討が進められている。                                              
    我が国では、96年7月より「電子マネー及び電子決済に関する懇談会」におい
  て検討が開始され、昨年5月には、電子マネー・電子決済に係るセキュリティ対
  策、利用者保護、金融政策への影響等の幅広い論点について課題の整理が行われ
  た。また、同年6月の金融制度調査会答申においては、「電子マネー・電子決済
  の普及・発展のための環境の整備は、21世紀に向けた金融システム改革の一環と
  して取り組むべき課題であり、速やかに具体的な施策に関する検討を進め、所要
  の措置を講じていくことが求められる。」とされた。                        
    本懇談会は、これを受けて、電子マネー・電子決済の健全な普及・発展のため
  の環境整備を図ることを目的に、上記の報告書や答申に示された考え方を基本と
  して、さらに具体的な制度整備のあり方について提言を行うものである。      
    なお、電子マネー・電子決済に係る制度整備は、電子商取引の実用化に向けた
  取組みの一環と位置づけられる。各国政府においては、電子商取引全般に係る制
  度面での環境整備に向けた検討が進められている。その検討課題は、電子署名制
  度、電子商取引への課税、プライバシー保護、知的財産権の保護、犯罪や不正行
  為の防止・取締り等、極めて多岐にわたっており、OECD等の国際的な場にお
  いても議論が行われている。                                              
    我が国においても、電子商取引を巡る制度面の環境整備は、政府全体として取
  り組むべき課題として位置づけられている。関係各省庁において、各々の所管分
  野に関する検討が進められてきているほか、内閣においても、昨年9月に設置さ
  れた高度情報通信社会推進本部・電子商取引等検討部会において、電子商取引の
  推進のあり方について検討が行われ、本年6月に基本的な考え方が「電子商取引
  等の推進に向けた日本の取組み」として取りまとめられたところである。

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