IV.その他の課題                                                        

                                                                          
  (1) 技術面での適正性確保                                                
                                                                          
    以上においては、電子マネー・電子決済に係る取引の信頼性確保や電子マネー
  の発行体の適格性確保による利用者保護を通じて、電子マネー・電子決済に対す
  る利用者の信認の確立を図ることについて検討を進めてきたが、その前提として
  技術面の安全性確保が必要であることはいうまでもない。そうした観点から、特
  に電子マネーのセキュリティは各国においても重要な関心事項であり、BIS  
  (Bank for International Settlements、国際決済銀行)等の国際的な場におい
  ても検討が行われてきた。                                                
    我が国においても、「電子マネー及び電子決済に関する懇談会」において、電
  子マネー・電子決済を支えるセキュリティ技術について、情報開示を軸とした対
  応が提言された。                                                        
    この点に関しては、安全な電子マネー・電子決済を実現するためには、決済サ
  ービス提供者が自主的な努力によりセキュリティを確保していくことが最も重要
  である。決済サービス提供者には、技術革新を視野に入れて、セキュリティ対策
  を不断に見直していくことが求められる。また、この面についても関係団体の積
  極的な役割が望まれる。                                                  
    その際、電子マネー・電子決済のための要素技術には暗号技術、耐タンパー技
  術等の様々なものが存在するが、電子マネー・電子決済の技術的安全性は、そう
  した要素技術やそれを基盤としたシステム設計技術、運用技術等を統合した総合
  技術として評価されるべきことに留意する必要がある。この点を踏まえると、決
  済サービス提供者がセキュリティ技術に関する総合的な評価を専門機関等から受
  けることが可能となることが望ましい。                                    
    他方、電子マネー・電子決済が広く普及した段階でセキュリティに重大な欠陥
  があることが発覚した場合には、決済システムに深刻な影響が出ることもあり得
  る。電子マネー・電子決済のセキュリティ技術が全体として向上していくことを
  促進するためには、発行体の業務・財務の状況に関する情報開示制度の一環とし
  てセキュリティ対策の状況について情報開示を求めていくことが必要である。  
                                                                          
  (2) 犯罪、不正利用対策                                                  
                                                                          
    電子マネー・電子決済が健全に普及・発展するためには、まずは利用者がそれ
  を安心して利用できるよう利用者保護が図られることが重要である。一方で、電
  子マネー・電子決済では偽変造やなりすましのような個々の利用者に被害が及ぶ
  犯罪行為のほか、マネーロンダリング等の不正利用の温床になるおそれがあるこ
  とも指摘されている。そうした犯罪、不正利用に電子マネー・電子決済が広く用
  いられる場合には、社会から認知されずその健全な発展が望めなくなると考えら
  れることから、適切な犯罪や不正利用の防止・取締対策が図られることが望まし
  い。                                                                    
    そうした対策としては、基本的には技術面においてセキュリティ対策が確保さ
  れることが重要である。なりすましによる犯罪等に対しては暗号技術を活用した
  認証技術の利用が有効な対策であり、電子マネーの偽変造に対しては、これを個
  別に追跡し得る仕組みや偽変造を早期に発見し速やかに対応できる仕組みが考案
  されている。また、事業のスキームの面では、保有可能限度額をあまり高く設定
  しないことが、犯罪、不正利用等の経済的なインセンティブを抑制する効果を持
  つと考えられる。                                                        
    こうした事業者の取組みを促進するものとしては、前述の外部からの技術面で
  の安全性評価が考えられる。                                              
    また、こうした事業者の取組みが行われるとともに、電子マネーが刑事法上の
  保護対象たり得るだけの一定の客観性を備えた決済手段となる場合には、その社
  会的信頼を保護するため、偽変造等について刑事法上の手当てが検討されること
  が必要である。                                                          
                                                                          
  (3) 民事法上の課題                                                      
                                                                          
    民事法的な観点からみれば、電子マネーには幾つかの形態のものがあり、その
  中には、あたかも電磁的記録自体が財産的価値を有しているかのように観念され、
  電磁的記録の移転により決済が完了するようなものも存在する。しかし、電磁的
  記録自体に財産的価値を認め、それが物権的に移転していくと観念することは、
  現行の民事法において想定されていないため、第三者との法的関係をどのように
  とらえるべきかという考え方が確立していないという指摘もある。            
    いうまでもなく、この点が解決されない限り電子マネーのサービス提供自体が
  行えないわけではない。また、電子マネーの発行見合資金が確実に払い戻される
  場合には、そうした問題も極めて小さなものとなると考えられる。従って、まず、
  電子マネー事業が発展し、確立したものとして社会に認知されることが重要であ
  る。                                                                    
    その上で、電子マネーに係る財産的価値を有する電磁的記録の民事法上の位置
  づけについて、今後、検討されることが必要である。さらに、今後の高度情報通
  信社会を展望すれば、電子商取引を巡る環境整備の一環として、電子署名・電子
  取引等に係る国際的な動向を踏まえた検討が望まれる。

[目次に戻る]