ii.市場・取引のインフラ及びルールの整備

                                                                              

1.金融先物取引のあり方                                                  

                                                                              

 (1)  基本的考え方                                                        

                                                                          

  ○  金融の自由化・国際化の進展を背景として、金融取引における金利や為替の変動リ

    スクは従来以上に大きなものとなっている。金融先物取引は、それらのリスクに関し

    て、異なるリスク選好を持つ経済主体間の取引を通じて社会全体として最適なリスク

    シェアリングの実現に資するものである。こうした観点も踏まえ、89年には東京金融

    先物取引所において金融先物市場が開設され、取引環境の整備が図られてきており、

    我が国における金融先物取引はこれまで順調に拡大してきている。              

      しかしながら、我が国の金融先物市場における取引が一商品に集中し事実上単一商

    品化していること、及び、取引手法等のインフラ整備が必ずしも十分でないこと、ま

    た、金融先物取引業者が破綻した場合の投資者保護の制度が十分ではないこと等の問

    題点も指摘されている。近年、海外市場においては、多様な商品の上場や取引時間の

    拡大、市場間の提携等の取引活性化の取組み等が積極的に進められ、我が国市場の相

    対的な地位の低下が懸念される中にあって、我が国市場の国際競争力を高め、内外投

    資者にとって魅力ある市場を育成するための方策について、早急に検討を行うことが

    必要である。                                                              

                                                                              

  ○  我が国の金融先物市場が果たすべき役割について考えれば、まず、円のマザーマー

    ケットとして、内外投資者にとって魅力のある流動性の高い円商品を提供していくこ

    とが挙げられる。また、我が国市場が米国時間、欧州時間の間のアジア時間に位置す

    ることに鑑みれば、その時間帯における中核市場として、ニューヨーク、ロンドン並

    みの国際金融市場となることも求められる。我が国の金融先物市場がこうした役割を

    適切に果たすためには、市場の厚みを増大させるとともに、取引環境の改善を行い、

    内外投資者にとって利用しやすい市場の整備を図っていく必要がある。          

                                                                          

 (2)  市場の活性化                                                        

                                                                          

      内外投資者にとって利用しやすい市場の第一条件は、ニーズに応じて自由な取引が

    できる市場の厚みである。新商品の開発はリスクが高く、海外市場においても上場・

    廃止が頻繁に繰り返されているのが現状であるが、多様化している内外投資者のニー

    ズに的確に対応し、厚みのある市場の形成を図るためには、そのコストに配意しつつ

    も、積極的に新商品を開発・上場していくことが必要である。こうした観点からは、

    東京金融先物取引所において日本円短期金利先物に係るスプレッド取引(限月間の価

    格差の変化に着目した取引)に関する検討が進められ、98年中にも導入を実現するこ

    とが期待される。                                                          

      また、海外市場との提携の促進や経済指標の発表等に併せた弾力的な取引時間の延

    長等も、我が国金融先物市場における取引を活性化し、市場の厚みの増大に貢献する

    ものであり、今後とも積極的な対応が求められる。                            

                                                                          

 (3)  取引環境の整備                                                      

                                                                          

  ○  内外投資者にとって利用しやすい市場の育成の観点からは、我が国の金融先物市場

    における取引環境を改善し、国際標準と整合的なものとしていくことも重要な課題で

    ある。東京金融先物取引所に関しては、国内の他の取引所に先立ち、証拠金の効率的

    な計算方式を導入する等これまで積極的な対応がなされてきているが、更に、多様な

    形態の取引を可能とする国際標準的な取引手法の導入についてもできる限り早期に実

    現を図ることが期待される。                                                

                                                                              

  ○  また、95年のベアリング社の経営破綻は、我が国の金融先物取引に関する投資者保

    護措置の問題点を明らかにした。すなわち、我が国においては、海外市場のように、

    証拠金等の顧客財産が分別管理され、倒産法制上も保護される仕組みが確立されてお

    らず、金融先物取引業者が破綻した場合に投資者が不測の損害を被るおそれが指摘さ

    れている。投資者の市場に対する信頼性を高め、我が国市場への参加を促す観点から

    は、速やかに適切な投資者保護措置の整備に向けた検討を進めることが求められる。  

                                                                              

  ○  内外投資者に対して魅力のある取引環境を整備する観点からは、取引に要するコス

    トの軽減も重要な課題である。取引コストは、言語の違い等様々な要因の影響を受け

    るものであるが、取引の直接的なコストを見ると、東京金融先物取引所での取引に係

    る委託手数料に関しては、概ね国際競争力のある価格設定が行われている。他方、取

    引所での金融先物・オプション取引に課される取引所税に関しては、これまでも軽減

    ないし非課税措置が講ぜられてきているものの、なお、国際競争力のある取引コスト

    の形成の妨げとなっているとの指摘もあり、デリバティブ取引に係る課税のあり方も

    踏まえつつ、我が国市場の活性化及び国際的な整合性の確保の観点から、廃止も含め、

    そのあり方の積極的な見直しが求められる。                                  

                                                                              

2.短期金融市場の整備                                                      

                                                                          

 (1)  基本的考え方                                                        

                                                                          

  ○  我が国の短期金融市場は、79年のCDの導入を皮切りに、無担保コール、TB、C

    P等の様々な市場が創設され、品揃えの面での多様化が図られてきたほか、取引慣行

    の見直し等の市場改善措置も講じられてきたことにより、順調にその規模を拡大し、

    効率性・透明性も高く、金利裁定も円滑に機能する市場に成長してきている。    

                                                                              

  ○  ただし、その一方で、我が国の短期金融市場に関しては、依然として、ア)米国や

    英国の市場と比べれば指標性が高く厚みのある市場の形成が十分でない、イ)我が国

    特有の制度や慣行により市場の効率性が損なわれていることがある、ウ)資金決済シ

    ステムの安全性確保の仕組みが十分でない、等の指摘もなされている。21世紀に向け

    て我が国の金融市場をニューヨーク、ロンドン並みの国際金融市場とすることを目指

    す観点からは、こうした課題についても積極的な検討・改善を行い、我が国短期金融

    市場をより安全かつ効率的で厚みのある市場とすることが求められる。          

                                                                      

 (2)  市場の厚みの増大                                                    

                                                                          

  ○  短期金融市場において、内外の市場参加者がいつでも十分な運用・調達を行いうる

    ためには、市場に十分な厚みがあり、取引期間や取引主体の信用力に応じた的確な金

    利・価格形成がなされていることが必要となる。このためには、短期金融市場の中核

    となる商品の市場において、期間に応じた円滑で透明性の高い金利・価格形成がなさ

    れ、これが他の市場における金利・価格形成の指標となることが求められる。    

                                                                              

  ○  こうした指標性のある中核商品市場を育成する観点からは、米国と同様に、我が国

    においても、信用力が高く商品の均一性にも優れた「短期の国債」の市場の一層の拡

    大を図ることが重要な課題となる。この観点から、引き続きTB市場を拡大していく

    べきとの指摘や現在のFBの発行方式を見直すべきとの指摘がなされている。ただし、

    FBの発行方式については、国庫制度や財政制度も含めた幅広い観点から検討すべき

    ことに留意が必要である。また、英国市場ではLIBORが指標となっていることに

    鑑みれば、日本円TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate)の指標性の向上も重

    要であり、コール市場におけるターム物の取引の活性化に向けた市場参加者による取

    組みの促進が期待される。                                                  

                                                                          

 (3)  市場の効率性の向上                                                  

                                                                          

  ○  効率的な金融市場においては、取引期間や信用力に応じた金利・価格形成が行われ

    るが、実際の市場では、その商品に係る法制度や取引慣行、税制上の取扱い等の影響

    を受ける。内外の市場参加者が利用しやすい市場の整備を図るためには、国際的な整

    合性にも配意しつつ、商品に係る制度、慣行、税制等についても我が国の短期金融市

    場の効率性の向上の観点からの徹底した見直しが必要である。                  

      このうち、取引慣行に関する問題としては、コール取引における約束手形の授受や

    金利の計算方法、今後拡大が見込まれる現金担保付債券貸借市場における担保金の授

    受等の取引手法等について、国際的な整合性の観点から見直しが必要であるとの指摘

    もあり、市場参加者において早急に検討を進めることが期待される。            

                                                                              

  ○  また、税制は、市場における金利・価格の形成に大きな影響を有するものであり、

    特に短期の資金運用・調達の場である短期金融市場の発展にとって重要な課題である。

    このため、我が国金融システムの改革に併せた金融関係税制の検討の中で、課税の公

    平性の確保にも配意しつつ短期金融市場の効率性の向上を図る観点から、積極的な検

    討がなされることが求められる。                                            

                                                                          

 (4)  市場の安全性の向上                                                  

                                                                          

      短期金融市場における取引の資金決済の大半は、日本銀行の当座預金決済により行

    われるが、現在、その大宗が時点ネット決済により処理されている。この方式は、資

    金効率に優れている反面、一の当事者の履行不能がシステム全体の決済の停止につな

    がる危険があるとの指摘がなされている。先進諸国の多くが決済システムのリスク削

    減のため、中央銀行決済システムの即時グロス決済(Real Time Gross Settlement、

    以下「RTGS」という。)化を実現していることも踏まえれば、我が国においても、

    短期金融市場の安全性の向上と国際的な整合性の確保の観点から、今世紀中にはRT

    GS化を図るべく、積極的に検討を進めていく必要がある。                    

      ただし、日本銀行の当座預金決済のRTGS化は、安全性の向上に資する一方で、

    市場参加者は取引の都度資金の手当てが必要となり、短期金融市場における既存の取

    引秩序に大きな影響を与えるものである。このため、その検討に当たっては、短期金

    融市場における円滑な取引が阻害されたり、市場参加者に過大な負担を強いることと

    ならないよう、十分な注意が必要であり、市場参加者の意見も踏まえつつ、円滑な実

    施に向けた具体的な対策の検討を行っていく必要がある。また、同時に市場参加者に

    よる新たな取引秩序の形成に向けた積極的な努力も期待される。                

                                                                              

3.会計制度の整備                                                      

                                                                          

    銀行等のディスクロージャーを充実させることは、銀行等の経営の透明性を高め、市

  場規律により経営の自己規正を促すものであるとともに、預金者の自己責任原則の確立

  のための基盤としても重要である。ディスクロージャーに期待されるこうした機能が適

  切に果たされるためには、銀行等の経営内容がより正確に反映された財務諸表が作成さ

  れることがその前提であり、最近の経済・社会環境の変化、金融証券市場の国際化等に

  対応して適宜会計制度の改善が図られることが必要であると考えられる。          

    今般の金融システム改革においては、国際的調和の観点から整備すべき課題として、

  企業会計審議会において、連結財務諸表制度、金融商品等に係る会計基準の検討が行わ

  れているところであり、97年6月、「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」が取

  りまとめられたほか、その他の課題についても論点整理が行われている。          

                                                                              

4.金融機関等の利用者の保護                                              

                                                                              

 (1)  基本的考え方                                                            

                                                                              

      今般の金融システム改革により多様化・高度化した金融サービスが利用者に提供さ

    れることとなることから、専門的な知識を持たない一般の利用者がこれらを安心して

    享受することができるよう体制を整備する必要がある。                        

      金融機関等の利用者は、本来、契約自由の原則の下、契約の当事者として市場に参

    加することが原則であり、基本的には自己責任原則の下行動することが求められる。

    他方、個人の利用者が銀行、貸金業者をはじめとする金融機関等を利用する場合、そ

    の専門的知識や損失負担能力に限界があるなど、実際には、金融機関等に対して全く

    対等の立場にあるとはいえず、当事者間の取引関係を全てその自治に委ね、最終的に

    は司法手続を通じてトラブルの処理を図ることとすれば、個人の利用者にとって、現

    実的には、費用等の面で著しい不利益が生じる場合があると考えられる。        

      こうしたことから、利用者が金融機関等を安心して利用できるようにするため、利

    用者保護のためのルールのあり方を検討する必要がある。                      

                                                                            

 (2)  消費者信用に係る問題について                                          

                                                                              

  ○  銀行等の消費者ローンに係る利用者の保護                                  

      個人利用者の保護という視点を重視する観点から、銀行等の消費者ローンについて

    は、従来の通達を中心とした規制の形式で十分と考えられるかという問題があるほか、

    書面の交付など通達によっても規制が行われていないといった問題もあり、銀行等の

    消費者ローンに係る更なる行為規制について、今後所要の措置を講ずる必要がある。  

                                                                            

  ○  貸金業者・割賦販売業者等の行う消費者信用に係る利用者の保護              

      「貸金業の規制等に関する法律」(以下「貸金業規制法」という。)や割賦販売法

    は、特定の業態や信用供与の形態に着目して規制する形式をとっており、消費者信用

    を行う全ての業態に対し横断的に規制するという形式をとっていないことから、業態

    や信用供与の形態により全く規制が課されていない、あるいは、規制の内容にアンバ

    ランスが生じている等の問題が指摘されている。                              

      今後、消費者信用市場の一層の拡大が予想されること等から、消費者信用に係る利

    用者の保護を適切に図っていくためには、現行の貸金業規制法、割賦販売法の規制の

    あり方を見直し、その整合性を図っていく必要がある。                        

                                                                              

  ○  信用情報の保護等を巡る問題                                              

      近年、多重債務問題の深刻化や信用情報機関の情報漏洩事件等の発生などが大きな

    問題となっており、こうした問題の対処方法の一つとして信用情報の保護とその有効

    な活用策が必要であると指摘されている。                                    

      この問題については、現在、大蔵省と通商産業省の共催の「個人信用情報保護・利

    用の在り方に関する懇談会」において検討が行われており、その結論を踏まえ、所要

    の措置を講ずる必要がある。                                                

                                                                            

  ○  今後の検討                                                              

      以上の消費者信用保護の諸施策については、今後検討を進めて97年度中に結論を得、

    速やかに所要の措置を講ずることが望ましい。その際、規制の対象が消費者信用とい

    う経済的に見れば同一の行為であり、同一の規制を課すことが望ましいことから、基

    本的には欧米の統一的な消費者信用保護法のように、消費者信用を行う全ての業態に

    対し横断的に適用される法制を構築することを視野に入れ検討すべきであると考えら

    れる。                                                                    

                                                                            

 (3)  カード業務について                                                      

                                                                              

      カード業務に関しては、第三者によりカードが不正使用され、カード保持者が不当

    な損害を被るなどのトラブルに直面した場合、その処理を当事者間の契約に委ねてお

    くだけで良いかという問題があり、今後、カード業務に係るルールのあり方等につい

    て検討を進めていく必要がある。                                            

                                                                            

 (4)  各種約款等について                                                      

                                                                              

      銀行等との取引における各種約款については、例えば、約款等の写しの交付が必ず

    しも徹底されていない、また、条項によっては利用者にとって一方的、あるいは不明

    確であるという批判がある。今後、こうした指摘があることを踏まえ、銀行等と利用

    者との衡平の観点、利用者にとって契約関係をより明確に分かりやすくする観点から、

    銀行取引約定書、消費者ローンひな型等の各種約款等の見直しについて直ちに関係業

    者において検討が開始され、98年度中にも所要の措置が講ぜられることが必要である

    と考えられる。                                                            

                                                                            

 (5)  銀行等における非預金商品取扱いに伴う利用者保護のあり方について          

                                                                              

      金融システム改革の進展に伴い、銀行等でリスクのある非預金商品の取扱いが増加

    することとなると考えられる。こうしたことから、銀行等において利用者が非預金商

    品と預金等とを誤認することを防ぐ必要があり、両者の区別について利用者に十分に

    説明する等のルール作りを97年度中に行うことが必要である。                  

      なお、金融システム改革の今後の進展の中で、市場参加者に共通に適用される横断

    的なルールについての検討を進める必要があると考えられるが、その場合、上記の非

    預金商品取扱いに伴う利用者保護のための行為規制は、最終的にはこうした横断的な

    ルールの中に包含されるものと考えられる。                                  

                                                                            

 (6)  苦情処理・紛争処理                                                      

                                                                              

      今後、多様かつ複雑な商品が登場することに対応して、司法手続に至る前段階で簡

    便に苦情、紛争の処理を図るため、民間レベルで、利用者に信頼されるような苦情処

    理・紛争処理のための仕組みを整える必要があると考えられる。こうしたことから、

    既存の民間における苦情処理・紛争処理のための体制の見直しも含め、関係業者を中

    心として早急に検討が進められることが必要であると考えられる。

[次に進む]

[「我が国金融システム改革について」目次に戻る]