「個人信用情報保護・利用の在り方に関する懇談会」報告書
は じ め に
1 消費者向け信用供与は着実に年々拡大を続け、平成8年度の新規供与額は105
兆円(金融機関・貸金業者等からの消費者金融43兆円、クレジット業者等による
販売信用32兆円、住宅ローン30兆円)、平成8年度末の債務残高は218兆円
(消費者金融57兆円、販売信用18兆円、住宅ローン143兆円)に達する中、
国民生活に深く関わるものとなっている。金融機関等の与信業者は、顧客から個人
信用情報を収集するとともに、信用情報機関を通じて他の与信業者が収集した情報
の照会等を行い、これらの情報により与信判断を行っている。
2 個人信用情報の収集等は、最近における与信業者や信用情報機関による情報漏洩
問題にみられるようにプライバシーの侵害につながる場合があり、個人信用情報を
如何に保護するかが緊急の課題となっている。個人信用情報の保護に関しては、
(1)「情報主体」(債務者等個人についての情報に関し、その当該本人のこと)の権
利が明確でないことや、与信業者・信用情報機関等における情報管理のルールが明
確でないこと、(2)現行の通達を主体とした規制により、信用情報機関の登録・照会
については一定の措置が講じられているものの、与信業者が収集する情報で信用情
報機関に登録しない情報については何ら措置されておらず、また、違反行為に対す
る罰則がないこと、が指摘されている。
3 一方、個人信用情報の活用は信用取引の要である。情報を利用し、適正に与信判
断が行われれば、消費者の生活を破綻させる多重債務の発生の抑止につながること
に加え、貸倒れの減少等による与信コストの減少や競争の促進を通じた金利・手数
料の低下をはじめとしたサービスの向上による消費者利益の増進にも貢献する。
4 このような問題意識の下に、当懇談会(座長:堀部政男中央大学法学部教授)で
は、法律、経営、消費者問題等の専門家がメンバーとなって、昨年4月以来16回
にわたり、個人信用情報の保護・利用の在り方についての検討を続けてきた。
5 この報告書は、当懇談会での検討の成果を整理したものである。改めて現状と問
題意識、それらを踏まえた基本的な考え方を示した上で、そのような問題意識、考
え方に即した個人信用情報の保護・利用のためのルール、対応策としてはどのよう
な要素があり得るのか、諸外国の立法例なども踏まえながらできるだけ具体的に論
じている。情報の保護・利用のためのルールは、個人情報一般の保護法で手当てす
るべきであるとの考え方、あるいは消費者が与信を受ける場合の消費者の権利等を
一般的に規定する法律で措置するべきであるとの考え方もあり得るが、当懇談会と
しては、問題の重要性、緊急性にかんがみ、個人信用情報を対象とする保護・利用
のための法的措置をできるだけ早期に講じることが望ましいと考えるものである。
その場合には、この報告の中で示された種々のルールについての考え方が立法作業
の出発点になろう。また、法的措置と併せて業界の自助努力としての自主ルール、
約款等が相互に補い、役割分担を行うような重層的な制度整備を図るべきである。
社会一般の情報の保護、利用に対する関心の高まりの中で、この報告書を基に、今
後関係者においてばかりではなく、広く活発に議論が行われていくことを期待する。
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