II  基本的考え方



                                                                            



1.個人信用情報保護の必要性



                                                                            



 (1) プライバシー権は「私生活の平穏の保護」という従来の捉え方に加え、情報が



    大量かつ広範に流通する現代においては、情報の流通を前提に「自己に関する情



    報の流れをコントロールする権利」と捉える考え方が主流になってきている。個



    人信用情報の保護に当たっても、このようなプライバシー権の考え方を基本に必



    要な措置を考えていく必要がある。                                        



                                                                            



 (2) 個人情報の保護は営業活動の前提条件であり、個人情報保護に反して営業活動



    を行う自由が憲法上保障されているわけではない。                          



                                                                            



 (3) プライバシー保護に関しては、従来から守秘義務という概念があった。例えば、



    医療情報は個人信用情報よりもセンシティブな情報と言えようが、これは刑法に



    基づく医師の守秘義務により保護がなされている。このほか、弁護士、公認会計



    士、電気通信事業者についても各法律で守秘義務の規定が置かれている。一方、



    プライバシーに関わる個人情報であっても、雇用、教育、旅行等に係る情報につ



    いては、現在のところ法律による保護は守秘義務の規定を含めて全く整備されて



    いないのが現状である。いずれにせよ、プライバシー権を上述のように自己情報



    コントロール権と考えた場合、守秘義務による保護だけでは不十分であり、情報



    主体の権利保護の観点から、国際的な立法例と整合性を持たせつつ、後述する同



    意原則やアクセス権などを含めた幅広い措置を考えていくことが必要であると思



    われる。                                                                



                                                                            



 (4) このように、我が国においては法律に基づくプライバシー保護が一般的に不十



    分であることから、プライバシー保護法のような一般的な個人情報の保護法の制



    定も検討すべきという意見があった。                                      



                                                                            



 (5) しかしながら、個人信用情報の漏洩が相次いで社会問題となっており、この保



    護のための法整備が緊急の課題となっていることに加え、個人信用情報は、○与



    信時に半ば強制的に提供を求められ、○その内容も個人の信用力を判断するため、



    個人生活に係わる詳細な、かつセンシティブな情報が中心であり、○いわゆる与



    信業者のみが信用情報機関を通じて登録された情報を利用することができ、与信



    業者間で共有されることが多いほか、 4情報の持つ経済的な価値が大きいため、



    実際に情報の不正入手・目的外利用の事件が発生している、といった事情がある



    ことから、他の個人情報に先駆けて措置する可能性を含め、個人信用情報につい



    ての立法をできるだけ早期に図るべきであると考えられる。                  



                                                                            



 (6) 業界等によるガイドラインについては、これらにおいて情報主体の権利等を明



    確にするとともに、違反行為に対する厳重な制裁や違反者の市場からの放逐等に



    より自浄作用が働くような仕組みづくりの検討が必要であり、各業務分野ごとに



    ガイドラインの一層の整備を図っていくべきである。                      



                                                                            



 (7) なお、情報主体による情報のコントロールを保証するためには、情報の収集・



    利用のプロセスに情報主体のコントロールが発揮されやすくするような技術面、



    システム面での対応を図っていくことも必要である。                        



                                                                            



2.適正与信のための個人信用情報利用の促進の必要性



                                                                            



 (1) 顧客への与信判断の材料は、個々の顧客から直接に入手するのが原則であるが、



    とりわけ顧客に不利な債務残高や延滞等の負債に関する情報については、正確な



    情報を入手するのは困難である。このため、与信業者は個人信用情報を信用情報



    機関を通じて共有し、その情報を活用することで適正与信を行うことが可能とな



    る。                                                                    



                                                                            



 (2) 信用情報機関を通じた情報の共有システムは適正与信の実施のためには不可欠



    な社会的インフラとして位置づけられるものであり、諸外国においても一般的に



    行われているものである。                                                



                                                                            



 (3) 現在、我が国においては、業界全体として与信額が拡大している反面、不良債



    権の発生も増加しており、これによる損失は、他の債務者の犠牲によりカバーさ



    れているとの指摘がある。こうした問題の背景に与信の適正化につながる信用情



    報機関への個人信用情報の登録、照会が徹底されていないことを挙げる意見もあ



    る。                                                                    



                                                                            



 (4) また、現在は、多くの業者の加盟している3つの信用情報機関は業界ごとに設



    立されており、これらの信用情報機関が上述のCRINのシステムを通じて行う



    情報交流は一定の評価は得ているものの、既述のように交流内容は限定的である。



                                                                            



 (5) このような現状を踏まえると、適正与信や多重債務防止の観点からは、信用情



    報機関への情報の登録の促進、信用情報機関をまたがる情報の交流の促進を含め、



    積極的に個人信用情報の利用、交流を促進するべきであるとの意見が大勢であっ



    た。このような立場に立てば、適切な情報の収集、利用及びその共有は、個々の



    業者自身が受けるであろうメリットを上回る与信業者全体又は社会全体のメリッ



    トがあるという点で、外部経済効果を持っていると解し得る。                



                                                                            



 (6) しかし一方で、信用情報機関は、機関を構成する与信業者の貸倒れ防止の必要



    性から、これまで業界ごとに独自に設立され、それが今や消費者信用の分野にお



    ける社会的インフラとしてその機能を果しているものであり、あえて制度的に個



    人信用情報の利用促進を図るには及ばないとの意見もあった。もっとも、このよ



    うな立場でも、例えばネガティブ情報や債務残高情報の交流を促進することを否



    定するものではない。                                                    



                                                                            



 (7) 個人信用情報の保護の強化を図るあまり、情報の適正な利用が妨げられてしま



    うことにならないよう留意すべきである。                                  



                                                                            




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