IV  個人信用情報の利用促進のための措置

                                                                              

1.情報提供の重要性                                                          

                                                                              

 (1) 顧客への与信判断の材料は、個々の借手から入手するとともに、信用情報機関

    の情報の照会等により行われる。特に残高や延滞等の債務に関する情報について

    は、借手本人から正確な情報を入手することが困難であることから、積極的な情

    報共有が求められるものであり、顧客はこれらの与信判断目的の収集・利用・提

    供を拒むことによって与信を拒絶されてもやむを得ないものと考えられる。    

                                                                              

 (2) 消費者にも正確な情報の提供義務を課すべきとの意見もあった。しかしながら、

    これに対しては、是非とも与信を受けたいと考えている消費者に正確な情報提供

    を義務づけ、これに法律的な効果を持たせること(例えば虚偽の申告により与信

    を受けた借手については、破産の際にも免責を受けられない等)までは困難であ

    る、悪質なケースについては詐欺罪等を適用することで対応すべきである、との

    慎重論があった。                                                        

                                                                              

 (3) 消費者に対しては、個人信用情報の保護に関する消費者の権利とともに、適正

    な与信を受けるためには個人信用情報の提供が不可欠であることについて周知さ

    せることが重要であり、啓発活動に努めるべきである。この点に関しては、将来

    の消費者を網羅的に対象としている学校教育の役割が重要である。現在の学習指

    導要領において、消費者信用が取り上げられていることは評価すべきであり、今

    後一層の充実が求められる。                                              

                                                                              

 (4) 個人信用情報の利用を図る一方、悪用に対する備えも必要である。この点から、

    ブラックリストを公表すると脅すことにより債権取立てを行うことや、信用情報

    機関の利用による適正与信システムを悪用したケースとして、ほかからの与信に

    より自己への返済を確保するため故意に誤情報登録や情報未登録とすることなど

    は禁止すべきである。                                                    

                                                                              

2.信用情報機関への情報の全件登録・全件照会とポジティブ情報の交流の促進

                                                                              

 (1) 信用情報機関への加盟与信業者による個人信用情報の登録については、加盟規

    約等で全件登録を義務づけることが好ましいが、法律で登録を義務づけることは

    困難との意見が大勢であった。一方、信用情報機関に登録・照会しない債権につ

    いては、破産時に当該債権を他の債権者に対抗できない等全件登録・全件照会し

    ないと不利益を被る等経済的メカニズムの構築が必要という意見もあった。    

                                                                              

 (2) 各信用情報機関をまたぐ情報交流の推進の観点からは、CRINのシステムを

    現行のようなネガティブ情報だけでなく、消費者のプライバシー保護に配慮しつ

    つ、ポジティブ情報(残高情報等)の交流まで拡張することが望ましく、引き続

    き検討を行っていくべきである。ただし、実現のためには、各信用情報機関の有

    する情報の質の違いやシステム導入に多額の投資を要すること等解決すべき多く

    の問題を抱えている。                                                    

                                                                              

 (3) 各信用情報機関に分散して登録されている債務残高情報の一元化に向けた当面

    の対応として、例えば現在業態別となっている信用情報機関について、会員資格

    に制限がある機関については業態を越えて会員資格の開放を行い、また与信業者

    の複数の信用情報機関への加盟を促進することなどにより、信用情報機関同士の

    競争を導入し、事実上の残高情報の交流を進めることも考えられる。          

                                                                              

 (4) 現行のCRINシステムでは、ある与信業者が自分の加盟している信用情報機

    関以外から顧客のネガティブ情報の有無等を引き出そうとする場合には、加盟し

    ている信用情報機関を通じて他の信用情報機関に照会できるので、その顧客がど

    の信用情報機関の会員から与信を受けているのか知ることができる。例えば、消

    費者金融専業者から与信を受けている事実をもって、その顧客は信用力がないと

    見なす金融機関もあるとの指摘もある。このため、今後ポジティブ情報の交流を

    検討するに当たっては、ある顧客についての照会を行う与信業者が、個別業者名

    はもとより、どの業態であるかも分からないようにすることが望ましいとの意見

    もあった。この観点から、ある顧客の不払いの記録や債務残高について、与信業

    者名を明らかにしないで示せるような共通データベースを活用したシステムを検

    討してはどうかのとの意見があった。                                      

                                                                              

 (5) なお、ポジティブ情報の交流については、3つの信用情報機関が従来から検討

    を行っているが、このような検討の進捗を図るべきであるとの意見があった。信

    用情報機関の検討に加え、情報の利用者のニーズを反映させるため、実際に情報

    を利用する与信業者が主体となって検討会を設け、ある程度目標年次を定めて議

    論すべきである。                                                        

                                                                              

 (6) また、経過的な措置の整備に関連し、例えばポジティブ情報の交流を始める場

    合等、既に保有する情報について、改めて本人同意が必要と考えるべきか、又は

    通知をもって足りるとすべきかといった点についても検討する必要があろう。  

                                                                              

 (7) いずれにせよ、信用情報機関間のポジティブ情報の交流については、一方で情

    報交流が効率的な与信業務につながる効果や多重債務問題の軽減につながる効果、

    他方で与信業者や信用情報機関の負担、交流を進めた場合の消費者のプライバ  

    シーへの影響、漏洩の危険性の拡大等を総合的に勘案しながら、段階的に進めて

    いくべきである。                                                        

                                                                              

 (8) 個人の信用力の証明を支援するためには、クレジット履歴(過去の借入、返済

    の履歴)の登録が有効である。一度の延滞で信用力をなくすことのないように、

    むしろ他のクレジットの完済履歴の登録をすることで、信用力の証明に活用でき

    る米国にみられるような制度を検討していく必要があるとの意見があった。    

                                                                              

3.信用情報機関の在り方

                                                                              

 (1) 信用情報機関は、業として、加盟している与信業者から個人信用情報を収集し、

    加盟業者のために利用又は提供を行うものと定義することができる。与信業者と

    の特定の委託契約に基づき、その与信業者だけのために情報を利用するような業

    者、例えば与信業者のダイレクトメール発送のために住所ラベルを作成する業者

    (ダイレクトメール代行業者)は、信用情報機関に当たらない。              

                                                                              

 (2) 当面、信用情報機関は、与信判断、債権管理の目的に限った必要最小限の情報

    を収集、利用、提供するにとどめるべきである。したがって、このような目的に

    無関係な情報を加盟業者から収集してはならない。                          

                                                                              

 (3) 米国の信用情報機関は、雇用主への雇用のための情報の提供やダイレクトメー

    ル代行業者への名簿情報の提供等幅広い情報の提供を行っているが、当面我が国

    では信用情報機関自体による目的外利用は慎重に考えるべきである。実際、我が

    国では現行法(貸金業規制法、割賦販売法)において、信用情報機関から提供さ

    れる情報を「資金需要者の返済能力の調査以外の目的のために使用してはならな

    い。」(貸金業規制法第30条第2項)、「信用情報を購入者の支払い能力の調

    査以外の目的のために使用してはならない。」(割賦販売法第42条第4項)な

    どと規定している。ただし、会員(与信業者)への利便という観点からも、第三

    者による債権管理(保証会社による保証業務、債権回収代行組合による回収業務

    等)のための利用に限っては容認されることを明確化すべきであるとの意見があ

    った。その場合、債権管理により取得した情報の信用情報機関への登録も徹底す

    べきである。                                                            

                                                                              

 (4) 現在、債権回収代行組合が自らの回収を円滑にさせるために設立した信用情報

    機関の会員の中には、電話会社、通販会社、不動産賃貸を行っている業者等与信

    業者以外のものが含まれており、不払い情報を登録している。個人信用情報の保

    護を図る観点からは、与信業者の収集した情報をこのような信用情報機関を通じ

    てこれら与信業者以外の業者に提供することは適当ではないと思われる。      

                                                                              

 (5) 信用情報機関は登録される情報を正確かつ最新の状態にするために、規約で加

    盟会員にメンテナンスの義務づけを図るべきである。また、信用情報機関は与信

    業者の不正をチェックしやすい立場にあることから、加盟会員が適切に情報を登

    録しているか、情報の漏洩・目的外使用をしていないかのチェックに加え、消費

    者クレームの調査(誤情報が登録されている場合、情報登録した与信業者等を調

    査すること)などのモニタリング機能を受け持つべきである。                

                                                                              

 (6) 信用情報機関は適正な与信システムの維持に重要な役割を果たしており、公益

    的色彩が強い機関である。レンダース・エクスチェンジ(与信業者が集まって設

    立・運営する信用情報機関)として発足した機関であるが、消費者保護、情報交

    換システムの健全性のための役割を明確にすべきである。業者が自らのために設

    立した機関との性格を払拭し、公益的な機関としての信頼を確保するため、また

    名簿業者を含む不当に個人信用情報を収集しているところを排除するため、適切

    な安全保護措置を設け、加盟与信業者へのモニタリング機能を具備しているなど

    適正な運営を行いうる機関に限定し、登録、認可等とすべきであるとの意見があ

    った。仮に登録制等にしないまでも、それに代わる厳重な行為規制を課すという

    方法も考えられる。                                                      

                                                                              

 (7) 登録制等にするか否かにかかわらず、機関の業務内容等のディスクロージャー

    を図る措置、及び情報登録項目、安全保護措置、情報登録・利用状況等について

    監督官庁に届出させ、一般閲覧させる措置が必要である。                    

                                                                            

4.個人信用情報の与信目的外利用の在り方

                                                                              

 (1) 情報主体の同意や侵害行為に対する対応等の個人信用情報の保護を前提に、与

    信判断以外の目的への利用も肯定されるものと考えられる。例えば与信契約に関

    しては、債権管理への利用、その他では同意を前提としたダイレクトメールの送

    付などがあり得る。                                                      

                                                                              

 (2) ダイレクトメールの送付は、それが無差別に行われる場合には、消費者の迷惑

    となる面があるが、個人の利便に資する場合もあり、個人信用情報を販売の促進

    に利用することは一律に否定されるべきではない。ただし、情報主体の同意を前

    提とし、情報主体がダイレクトマーケティングを希望する場合に限るのが望まし

    い。また、情報主体がダイレクトマーケティングの中止を求める場合には、与信

    業者は、直ちにダイレクトマーケティング業者への情報提供停止を含めた中止の

    ための措置を講じなければならない。                                      

                                                                              

 (3) なお、消費者に反感を持たれることは、与信業者にとっても最終的にはマイナ

    スに作用する。収集した情報を有効に活用して対象者の絞り込みを行い、無差別

    的なメール送付を自粛する等自主規制を行うべきである。                    

                                                                              

 (4) 米国では、前述のように信用情報機関自体がダイレクトメールの発送、雇用主

    への情報提供等を幅広く行っている。日本においても理論上は同様に幅広い業務

    への展開が考えられるが、借金の有無といった情報を雇用主に提供することにつ

    いても本人の同意があればよいとする考え方は、必ずしも国民感情に合致してい

    るとはいえない。個人のプライバシーへの配慮といった情報保護の基盤が十分に

    は確立しているとはいえない現状では、信用情報機関は、前述のように、まずは

    本来業務を中心とすべきである。信用情報機関や加盟業者が信用情報機関の保有

    する情報を利用することについては、与信判断、債権管理に当面は限定すること

    が適当である。                                                          

                                                                              


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