5.「集団投資スキーム」に関するルール
 
 
(1) 集団投資スキームに関するルールの基本的な枠組み

 

○ 今後の「新しい金融の流れ」として、利用者・投資者のリスクテイクを前提に、いわゆる「集団投資スキーム(collective investment scheme)」による金融仲介チャネルが重要な役割を果たすことが期待され、これに関するルールを明確なものにしていく必要があるのではないか。
○ 「集団投資スキーム」は、仕組み行為者(スポンサー)が投資者の資金をプールし、これを専門家(ファンド・マネジャー等)が運用・管理する仕組みであり、その受け皿となるファンド等(いわゆる投資ビークル)は、信託、投資法人、特別目的会社、匿名組合、任意組合、特別勘定等、我が国法制上は、種々の法的形態を採っている。一方、投資者は、受益権者ないし株主、組合員といった持分権者として運用・管理サービスに関与し、リスクテイクを行うとともに、一定のガバナンス機能を担うことになる。(注)
 
(注)
1.関連する専門家としては、(a)商品および投資ビークルの仕組みを組成するスポンサー、(b)運用対象の原資産を組成するオリジネーター(債権流動化やプロジェクト・ファイナンスの場合)、(c)持分権や受益権を表す商品を引受けないし販売するアンダーライターないしブローカー、(d)資産の運用指図を行うファンド・マネジャー、(e)運用の助言を行うアドバイザー、(f)資産の管理・回収等を行うトラスティー、カストディアン、サービサー、(g)ファンドの監査を行う会計監査人、c保険・年金に関する数理人(アクチュアリー)等が挙げられる。
2.集団投資スキームのガバナンスに関して、例えば、米国等で見られる「投資会社」や、今般の金融システム改革法により導入される「証券投資法人」については、ファンドへの出資者による株主権の行使等を通じた私的自治によるガバナンス構造の下で、投資者が自己責任でのリスクテイクを行うという仕組みになっている。

 

(2) 集団投資スキームに関する我が国法制の現状

 

○ このような「集団投資スキーム」の機能と仕組みを活用する商品・サービスとしては、(a)証券投資信託、(b)商品ファンド、(c)不動産ファンド、(d)実績配当型の金銭信託商品、(e)SPC等を通じた証券化商品、(f)プロジェクト・ファイナンス、(g)投資事業組合、(h)変額保険等の投資性を持った保険商品、(i)確定拠出型年金等が該当するものと思われるが、我が国の「集団投資スキーム」に関連する現行法制を見ると、
(1) 金融商品の仕組みおよび業者の行為ルール等については、(a)有価証券については「証券投資信託法」、(b)商品については「商品ファンド法」、(c)不動産については「不動産特定共同事業法」、(d)リース・クレジット債権については「特定債権法」といった形で、投資対象に着目した縦割り型のルール体系となっている、
(2) 投資ビークルに関する私法上の根拠法制としては、(a)信託型ファンドについて は「信託法」、(b)匿名組合型ファンドについては「商法」、(c)任意組合型ファンドについては 「民法」および新たに制定される「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」にそれぞれ規定がある。さらに、会社型のファンドについて、金融システム改革法により、新たに(d)「証券投資信託法」における証券投資法人制度、(e)「SPC法」における特定目的会社について、それぞれ所要の法整備が図られている、
 といった現状にある。
○ こうした我が国の「集団投資スキーム」に係るルールの現状に対しては、
(1) 投資対象毎、商品毎の縦割りの法制となっているため、多様な投資対象を組み合わせた商品設計が制約され、金融システム改革の進展に伴う自由なイノベーションを阻害するおそれがあるのではないか、
(2) 投資ビークルの法的な形態等によってルールの適用関係が不明確であったり、ルール面や課税面等での取扱いが異なる場合があり、金融商品の開発等に当たって非中立的な影響を与えることにより、資源配分を歪めたり、利用者・投資者にとって情報の非対称性を拡大する結果となっているのではないか、
(3) 信託法や信託業法等の法制が実態にも必ずしもそぐわないものになっており、商品開発を制約しているほか、当事者間の責任配分に法的不安定性を残しているのではないか、
(4) 「集団投資スキーム」を通じた資産運用・管理サービスに係る専門家のいわゆる「受託者責任(fiduciary duty)」について、関連業法等には忠実義務等に関する規定を整備しているものが見られるものの、我が国の現状としては、(a)取引参加者の「行為規範」としては十分には浸透・定着していないのではないか、(b)「私法上の法理」として必ずしも確立していないため、受託者の関係する金融商品・サービスにおける取引当事者間の権利義務関係を示すルールが明確でないのではないか、(c)規定の整備の度合いについて、関係業法間でばらつきがあるのではないか、
等の指摘がある。
 
(注)
1.我が国の「集団投資スキーム」の中心的存在である証券投資信託については、法制定時(1951年)の歴史的な背景として、(a)戦後の資金不足経済の下で長期産業資金の調達を容易にすることを主たる目的として発足し、(b)預貯金類似の商品として金融制度上および課税上位置付けられてきた面があり、投資者のリスクテイクと専門知識の活用という本質的な部分が軽視されてきた面が否めないとの意見があった。
2.米国において、証券投資信託は「証券法」および「投資会社法」、商品ファンドは「商品取引所法」と商品毎の体系となっているとはいえ、例えば、商品ファンドについては、証券法上の「証券」の概念に含まれると解され、商品取引所法のほか、証券法および証券取引所法の規制(開示規制、ブローカー・ディーラー規制等)が横断的に適用されている。
 また、欧州においては、EU投資信託(UCITS:Undertakings for Col- lective Investment in Transferable Securities )指令に準拠して各国の法制が整備されており、例えば、英国では、金融サービス法により、投資物件の一形態である「集団投資スキーム」として包括的に規制されており、証券への投資以外に、先物や不動産等を投資対象とするファンドが認可されている。
3.現行の信託法制は、財産の存在を前提に、委託者の意思による財産の管理・保全または処分を本質とする「民事(の個別)信託」を前提としており、「集団投資スキーム」のように、合同運用の投資性を有するアレンジメントへの出資等とその管理・運営を本質とするいわゆる「商事(の集団)信託」を前提とする法制・ルールの検討・整備が望まれるとの意見があった。
4.なお、米国では、機関投資家向けの一定規模以下のファンド等について、「証券法」や「投資会社法」の適用除外としており、ベンチャーファンドへの活用等、自由な商品開発がなされるように配慮している。

 

(3) 集団投資スキームに関するルールのあり方

 

○ 「集団投資スキーム」に関するルールのあり方としては、(a)投資ビークルの主体(信託、組合、法人等)の法的な位置付けと投資者等によるガバナンスの確保、(b)集団投資スキームに関係する専門家(とりわけ受託者)の責任範囲の明確化、(c)集団投資スキームの「仕組み行為」の適格性の担保、といった視点を踏まえた上で、投資対象や投資ビークルの形態に関わらず、機能面に着目して、横断的に適用されるべきルールについて検討していく必要があるのではないか。また、その前提として、幅広い「集団投資スキーム」をカバーできる包括的な「金融商品」の定義のあり方についても考える必要があると思われるが、どうか。
○ 具体的には、前述の受託者責任等に係る私法ルールおよび行為規制等について、既存の関係各業法等の規定に照らしながら、商品毎ないし投資ビークルの形態毎ではなく、仕組み、販売、運用、管理、助言等の機能毎に仕分けし、「集団投資スキーム」という切り口で整理したルール(忠実義務、注意義務、分別管理義務、委託行為に関するルール、仕組み行為に関するルール等)を検討していくことが考えられるのではないか。さらに、「集団投資スキーム」におけるガバナンス構造の主体となる投資者のガバナンス機能の発揮をサポートする観点から、投資ビークル、ファンドに対する会計監査の充実も求められるのではないか。(注)
 
(注)金融システム改革法における証券投資信託法の改正により、投資信託の受益証券(証券取引法の開示制度の対象に追加)および証券投資法人に関する会計監査が導入される。また、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」により、同法による組合型ファンドについても会計監査が導入されることになる。
 
○ 他方、取引の実態に応じたより円滑な資金調達・運用の確保という観点から、有価証券、商品、不動産、貸付債権、リース・クレジット債権、事業プロジェクト等の投資対象に関して、その背景にある流通市場や投資対象の特性およびリスクの態様等に照らしつつ、それぞれに適用すべき特有のルールがあるのではないかとの意見があった。また、投資ビークルの法形態とルールの適用については、ガバナンス・メカニズムの違いも念頭に置いてルールの適用を検討すべきではないかとの意見もあった。

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