3.新しい金融法制・ルールの枠組み
 
 
○ 新たな金融に関する法制・ルールを考えるに当たっては、まず次のようなルールの基本的な枠組みについて整理しておくのが有益ではないか。
 

(a) どのような商品・サービスを対象とするか。この場合、今後の新しい金融の流れに即応し、利用者の多様なニーズに応える観点からは、「集団投資スキーム」のような資産運用・管理サービスに関する法制・ルールのあり方が重要な検討課題の一つとして、その検討が急がれるのではないか。
(b) 金融取引の機能面に着目して横断的なルールを考える場合、金融商品・サービスの提供主体・担い手である「業者」をどのように位置付けるか。
(c) 金融商品・サービスの取引の主体(市場への参加者)について、「プロとアマ」あるいは「ホールセールとリーテイル」の区分や、これに伴うルールの差異について、どのように考えるか。
(d) 金融商品・サービスの取引、あるいはその取引の主体(利用者・投資者、各種の業者等)について、どのような内容のルールを構築し、その実効性をどのように担保していくのか。
(e) 新しい法制・ルールの法形式はどのようなものか。これとの関連で、現行法制をどのように見直しまたは改廃していくことが考えられるか。

 

(1) 「金融商品」〜新しいルールの対象となる金融商品〜

 

(a)「金融商品」の特性

○ 「金融商品」を、最近の金融イノベーションの動向にも照らして、最も広義に捉えるならば、経済活動等に存する多様な将来のキャッシュフローとこれに付随するリスクを表象するいわばリスク・リターンのパッケージであり、これが様々な当事者間で取引されるものといえるのではないか。
○ もっとも、リスク・リターンの移転自体は、経済取引全般に付随するものであり、なぜ金融商品の取引について特にルールを考える必要があるのか、あるいは、金融商品のうちどのようなものに対して一般法規を具体化・明確化するルールが必要とされるのかについて、考え方を整理しなければならないのではないか。
○ 一般の経済取引については、対等な当事者間の取引において、「買い主注意せよ (caveat emptor )」が民商法の原則であり、商品の性質等について、売主が虚偽の情報提供をする等しない限り、詐欺には当たらず、取引は有効であるとして買い主が責任を負うことになる。一方、金融商品の取引については、 
 

イ、将来のキャッシュフローとリスクに係る情報という形のないものを取引することになるため、利用者(買い主)の商品に対する理解が必ずしも容易でなく、金融商品の仕組み等に係る技術の高度化・複雑化により、こうした面はさらに増幅される、
ロ、「集団投資スキーム」においては、第三者が運用・管理を行うこととなるため、利用者の排他的な支配・管理が行われず、利用者の意思が必ずしも適切に反映されない可能性がある、
ハ、経済効率性の観点から、より専門性の高い主体(多くの場合売り主)に一定の責任を担わせることで、紛争処理等に係る社会的コストが節約されうる、といった特性があり、「買い主注意せよ」という原則を一部修正して、「売り主も注意せよ」ということが求められる場合があるのではないか。
 
(b) 「金融商品」の範囲や定義についての考え方

○ 懇談会では、個別の商品について、どのようなものを「金融商品」に含めるべきかといった具体的な点まで議論するには至らなかった。しかし、今後、新たな金融法制・ルールを考えていく際には、以下のような点について検討していく必要があるのではないか。
 

i 「金融商品」の満たすべき要件は何か、対象となる商品は何か

・「金融商品」については、(a)現在から将来にわたるキャッシュフローの移転、(b)投資性(厳密には投資の共同性・受動性)という二つの条件を満たすことがコアの要件となるのではないか。
・ 商品の「流通性」については、法制・ルールの内容や程度の面で種々の考慮は必要になろうが、「金融商品」の要件とはせず、流通性が低いあるいは流通性のない商品についても、横断的な法制・ルールに取り込むことでよいか。その場合、価格形成による市場機能への影響の度合い等に留意してルールの内容等を考えていく必要があるか。
・上記(a)、(b)を同時には満たさない商品についても、少なくとも一方を満たす商品については、必要とされるルールが共通する場合もあると考えられ、取引の実態や別途の法制・ルールの整備状況等に照らしながら、全体としての法制・ルールの横断性・整合性が図られるように、適宜「金融商品」の範囲に加えていくべきではないか。(注)
 

(注)
1.例えば、デリバティブ取引については、投資の共同性・受動性という点は満たさないが、異なる性格のキャッシュフローの交換・移転という点で上記\の要件を充たしており、様々なデリバティブ取引を用いた金融ポートフォリオの管理が広く行われていること等に照らし、原資産やリスク種類の如何によらず、幅広く「金融商品」に取り込むことを考えてはどうか。また、ルールの内容としても、仕組みやリスクの説明といった面で他の金融商品と共通するのではないか。
2.コモディティ(石油、金属、農産物等)の差金契約取引(原資産自体は「金融商品」ではないが、取引の実体はキャッシュフローの交換であるもの)を含めるか、あるいは、両替や外為取引、差金決済を伴わない通貨スワップ等(一般的には広義の金融取引に含まれると考えられているが、受渡しの対象は外貨といったキャッシュフロー以外のもの)を含めるか、といった点についての検討が必要となるか。
 
・「新しい金融の流れ」に照らせば、「集団投資スキーム」を始めとして、上記(b)の「投資性」の要件に該当するいわば「投資商品」を中核として、必要に応じてその他の商品を追加したものを新しい法制・ルール上の「金融商品」として整理していくことになるのではないか。(注)
 
(注)
1.コモディティや不動産、さらには美術骨董品や競争馬といったものも含め、それ自体は「金融商品」とはいえなくても、集団投資スキームを通じて間接的に投資の対象となっている場合は、当該スキームの受益証書等について「金融商品」に係るルールが及ぶこととすべきか。また、保険リスクの証券化商品 (catastrophe bond:激甚災害の保険リスクを組み込んだ債券等)についてはどうか。
2.「金融商品」の範囲を広く捉えた場合、商品によっては、他の法制・ルールが重畳的に適用されることも考えられるが、ルールの整合性や監督・規制負担に適宜配慮することで、取引の自由度を阻害することなく、ルールの横断性を高めることができるのではないか。
3.「金融商品」の要件として、「投資性」を中心に考える立場からは、法制・ルールを検討する際の大まかな整理として、受信面(=利用者から見た投資)に関するルールと、与信面(=利用者から見た借入れ)に関するルールに分けて考えることができるのではないかとの意見もあった。
 
ii 預金、保険、融資等をどのように扱うか

・上記(a)、(b)を満たす商品でも、特別の政策目的がある場合等については、「金融商品」の範囲から除外、あるいは「金融商品」には含めるもののルールの適用を除外したり別途のルールを適用する、といったことがあるのではないか。
・このような政策的な取扱いが必要なものとしては、銀行等の決済性預金や保険等の長期保障性商品のように、外部性の存在による社会的なコストの削減といった観点から、公的セーフティネット等の保護が必要とされる商品・取引が考えられるのではないかとの見方がある。ただし、これらの商品・サービスに関して特別な配慮が必要とされる範囲については、金融の技術革新の進展も念頭に置きながら、十分な再検討が必要となるのではないか。
・預金や保険商品等も自由化に伴って多様化しており、また、預金や保険に類似する商品も登場してきているため、これらに関する具体的な線引きは、取引の実態やセーフティネットの適用範囲、投資性の程度、リスク把握の特性等に照らして検討する必要があるのではないか(預金および保険商品等についての考え方の詳細は9.で後述)。(注)
・融資についても、キャッシュフローとリスクの移転という面で「金融商品」に共通していると考えられるが、経済行為としての一般性(与信行為自体は金融分野に限定されない)やリスクの態様(信用リスクが中心)等に照らして、「金融商品」との関係を整理していくことになるか。(注)また、消費者に対する信用供与の問題といった別の観点が存在しており、こうした法制・ルールの今後の整備状況を見ながら、全体としての整合性を図っていくべきか(消費者に対する信用供与については8.で後述)。
 

(注)
1.具体的な検討を要すると思われる商品としては、(a)預金関連では、預金保険対象を超える大口預金、変動金利預金、譲渡性預金等の短期金融市場商品、外貨預金、デリバティブ組込型預金等、(b)保険関連では、年金保険、変額保険、一時払い養老保険、積立保険等、(c)融資関連では、変動金利融資や外貨建て融資、デリバティブ組込型融資等、が挙げられるのではないか。その場合、関連法制(銀行関連法、保険関連法、消費者信用関連法等)との関係も踏まえて、「金融商品」の適用の要否を検討していく必要があるのではないか。
2.このほか、預金や保険に類似した商品としては、金融債(⇔一般社債との関係)、貸付信託および合同運用指定金銭信託(⇔その他信託商品ないし集団投資スキームとの関係)、共済関連商品(⇔「投資性」のある保険商品との関係)の取扱いについても「金融商品」として取扱うべきか、整理していく必要があるのではないか。
 
(c) 我が国の現行法制との関係
 
i  証券取引法との関係

・「金融商品」については、証券取引法上の「有価証券」が最も関連の深い概念の一つではないか。具体的には、株式、社債、公共債等の列挙された商品・権利のほか、政令指定によって追加できる枠組みとなっており、その要件として、商品等の「投資性」に加えて、「流通性・市場性」も念頭に置いた法体系となっている。
・幅広い金融商品・サービスを対象とする横断的な法制・ルールを考える場合には、金融イノベーションが急速に進展するなかで、政令指定のような方法ではどうしても後追い的にならざるを得ない面があり、包括的な「金融商品」の定義を設けるとともに、これを機動的・弾力的に適用できるようにすべきとの意見があった。
・また、商品の流通性に着目すると、投資者保護の対象となる範囲が必ずしも十分でなかったり、証券取引法の適用外の取引について結果的に商品性(特に流通性)を制約するおそれがあるとの指摘もあった。
・一方で、現行証券取引法の枠組みを前提として、単純に「有価証券」の概念を包括的なものにすると、(a)新たな商品が有価証券に該当するか否かについて法的不安定性が生じる可能性がある、(b)これに付随して罪刑法定主義との抵触が問題となりうる、(c)同法における公衆縦覧型のディスクロージャー規制や公正取引ルールを流通性の低い商品に適用することが果して適当か議論の余地がある、等の意見もあった。なお、(a)、(b)については、ノーアクションレター等の機動的・弾力的な手法を整備・活用することにより、回避できるのではないかとの意見があった。

(参考)諸外国の法制
米国
 1933年証券法、1934年証券取引所法における「証券」の定義について、個別商品の列挙のほか、包括的な条項として「投資契約(investment contract )」を規定しており、その解釈については、1946年のハウイ判決がリーディングケースとなって、(a)収益の稼得を期待している、(b)共同事業への出資である、(c)収益が専ら投資者以外の者の努力によって得られる、ということが基本要件と考えられている。このほか、限定列挙されている商品についても、例えば、「ノート(一般的に信託証書によらない債券のことを指す)」に関しては、最高裁判例を通じて、類似性の基準(family resemblance)によって判断されるものと考えられている。こうした下で、米国では新しい金融商品等を「証券」の範囲に弾力的に取り込むことにより、投資者保護ルールに関する包括性と機動性を確保していると言われている。
なお、証券および商品関連のデリバティブ取引については、1992年の先物取引実施法および1993年のCFTC(商品先物取引委員会)規則等に基づき、原則として「商品取引所法」でカバーする法体系となっている。
英国
 1986年金融サービス法で「投資物件」を定義しており、個別商品の列挙に加え、「集団投資スキーム」、さらには、通貨や商品等に係る先物、オプション、差金決済契約等のデリバティブ取引や長期保険契約等も含む広範な商品を規定する内容となっている。すなわち、第三者の管理・運用による投資の受動性を持つ金融商品だけでなく、将来のキャッシュフローの取引という意味での投資性がある金融商品についても「投資物件」としてカバーする定義となっている。
ドイツフランス
 EUの投資サービス指令の「金融商品」の定義に準拠して、ほぼ英国と同様の形で「有価証券」ないし「金融商品」が広範に定義されている。
・欧米諸国における「金融商品」等の定義は、商品の「投資性」には着目するものの、基本的に「流通性」には着目していないものと思われる。

ii  出資法との関係

・新しい金融法制・ルールを考える際には、出資法との関係についても整理する必要がある。出資法は、元本返還を約した「出資金」(第1条)や「預り金」(第2条)を一律に禁止する枠組みとなっており、この結果として、各業法等の適用を受けないような商品・サービスを含めて、悪質業者等を排除する機能を果たし、利用者保護を担保する役割を実質的に担っているが、他方では、元本保証性のある商品・サービスの開発・提供に係る制度上の障害となっているとの指摘がある。
・ 元本保証性を持った商品・サービスの提供自体は、(投資対象の)価格変動リスクと(保証提供者の)信用リスクの組合せに過ぎず、公的セーフティネットが関係する場合を除き、リスクの所在が明確にされること等を通じて公正な取引が行われるのであれば、金融の機能の活性化の観点からは、取引参加者の契約意思に基づく自由な提供ないし利用が認められるべきものといえるのではないか。
・ 他方、(a)詐欺的な悪質商法は元本保証を騙って行われる場合が多いこと等を理由として、出資法が担っている役割は引き続き重要との意見がある。また、]元本保証性の商品は、銀行預金に類似した機能を持ちうることから、銀行制度との関係整理が必要であるとの指摘もある。
・ このうち、(a)については、出資法の見直しを含め、新商品・サービスの開発を阻害しない形で、悪質商法を有効に排除できる法制上の仕組みについて検討していくことが必要ではないか(詳細は8.で後述)。また、悪質商法が多様な形態で行われうる実態に照らし、これに対する取締りについて、「金融商品」に関する法制・ルールの枠内で対処すべきか、あるいは「金融商品」に限定しない別途の法制を用意するのか、についても検討が必要となるか。
・ また、(b)については、電子マネーの登場等の金融技術革新も踏まえつつ、銀行等以外による「預り金」禁止の意義を再検討していくことが必要ではないか(預金等と銀行の機能については9.で後述)。

 

(2) 「金融サービス」〜「金融商品」に関する取引行為等〜

 

(a) 「金融サービス」の類型
 
○ 新たな金融に関する法制・ルールの検討に当たっては、現行の縦割りの業法のような「誰が行うか」という体系ではなく、「何が行われるか」という機能面・行為面に着目した横断的な法体系としていくことが重要ではないか。
○ このような考え方の下で、具体的な法制・ルールにおいては、「金融商品」に係る取引等について、その機能面・行為面の特性に着目して類型毎に整理し、それぞれについて所要の行為ルール等を適用していくことになるのではないか。
○ 金融のリスク再配分という機能において、「金融サービス」の本質的な要素が、リスクに関する情報生産およびリスクの仲介にあると考えられることを念頭に、英国の金融サービス法やEUの投資サービス指令等を参考としながら、懇談会での議論を踏まえて、「金融サービス」の類型とそれぞれに関する行為ルールの例を整理すれば、以下のようなものが挙げられる。(注)
 
(注)なお、以下に列挙するもの以外でも、上記の要件を充たすものについて、「金融サービス」に含めて考えることが適当な場合もあるか。
i  販売・勧誘

・自己ないし代理人を通じた「金融商品」の販売・勧誘行為。金融商品の募集・売出しに際しての勧誘もこれに含まれるものと思われる。
・必要となる行為ルールとしては、販売・勧誘における金融商品の内容およびリスク等に係る説明、金融商品の募集・発行時における情報提供、詐欺的な勧誘・広告の禁止等が挙げられるか。
・インターネット等を通じた電子ベースでの勧誘・広告行為については、その特性に応じたルールが必要とされるか(注)。これらの行為がクロスボーダーで行われる場合についてはどうか。また、代理人を介する取引については、取引主体との間の責任分担に係るルールも重要となるか。

(注)インターネット等を通じた金融商品の募集・勧誘については、「公募」と 「私募」の区分をどうするかといった問題も指摘されている。

ii  売買(ディーリング)

・自己の計算による「金融商品」の売買のうち、マーケットメイク(価格・金利等に係るオファー・ビッドの呈示)等の価格形成機能を伴うもの。(注)
・必要となる行為ルールとしては、マーケットメイクにおける公正かつ連続的な価格の呈示等が考えられるか。

(注)自己勘定による「金融商品」の募集や売買については、「金融サービス」のエンドユーザー側の立場で一般の誰もが行いうるものであり、「金融サービス」の範囲に含める必然性は乏しいといえるか。ただし、金融法制・ルール全般としては、とりわけ市場機能の維持といった観点から、例えば、「金融商品」の売買行為一般に対して、インサイダー取引や相場操縦といった公正取引ルールを課すことがあるほか、価格・金利形成の市場メカニズムにおける公共性に着目して、これに関与する者に対して、何らかの行為ルールが課される場合があるのではないか。

iii  仲介(ブローカレッジ)

・ 他者間における金融商品の売買の成立に尽力する行為。有価証券等の売買注文を取引所等に繋いだり、顧客の売注文と買注文とを付け合わせるといった行為が典型例として挙げられる。
・ 必要となる行為ルールについては、売買仲介の依頼者に対する価格やタイミング等についての最良執行(best execution)の確保や、自己売買部門との間の利益相反の防止等が考えられるか。
・ 上記 i の場合とは異なり、仲介者は専ら依頼者のために行動するという点で、いわゆる「受託者(fiduciary )」としての役割を担うと考えられ、そうした点からのルールの検討が必要ではないか(「受託者」については(b)で後述)。

iv  引受(アンダーライティング)・売出(セリング)

・ 金融商品の発行者ないし保有者が当該金融商品を他者に売却する取引の円滑化に資する行為。具体的には、金融商品を売出す目的で発行者ないし保有者から取得する契約(買取引受契約)、金融商品を取得する者が十分にいない場合残りを取得する契約(残額引受契約)等がある。また、金融商品の発行に関して引受シンジケーションをアレンジする行為等も含まれると考えられる。
・ これについては、上記・〜・の複合したケースとも考えられ、必要となる行為ルールについても、投資者に対する説明・ディスクロージャーや発行・売却依頼者に対する責任範囲の明確化が挙げられるのではないか。

v  資産運用(アセット・マネジメント)

・ 他者の金融商品への投資における資産等の運用行為。具体的には、運用資産の売買指図、運用状況の管理・監視等が含まれるものと考えられる。
・ 必要となる行為ルールとしては、利用者の意思に沿った思慮深い(プルーデントな)運用の確保、利益相反の防止、運用方針・運用成果のディスクロージャー等が挙げられるか。なお、この場合も、運用者は「受託者」としての役割を担うものと考えられるか。

vi  資産管理(カストディ)

・ 上記 v の資産運用における資産等の管理行為。具体的には、運用資産の保管、記帳管理、分配金の支払等が含まれるものと考えられる。
・ 必要となる行為ルールとしては、資産の分別管理、無断流用の禁止、帳簿類の保管、取引記録の保管等が挙げられるか。なお、こうした行為についても、管理者は「受託者」としての役割を担うものと考えられる。

vii  助言(アドバイス)

・ 上記の i 〜 vi 等の金融サービス全般についての助言行為。広義に捉えれば、様々な機関や専門家(例:投資顧問、財務プランナー、格付機関、投資情報ベンダー、弁護士、会計士)等によって提供される金融取引関連の情報提供サービスも含まれうるものと考えられる。(注)

(注)インターネットやマスメディア等を通じた不特定多数を対象とする場合と、特定の利用者を対象とする場合とでの区別が必要か。また、一般的な情報提供と助言行為との線引きについても整理が必要か。

・ 必要となる行為ルールとしては、依頼者のニーズに見合った適切な助言の確保 (best advice )、虚偽の情報提供の禁止が挙げられるか。また、場合によっては、相場操縦や風説の流布の禁止等との連関も考えられるか。なお、助言者についても「受託者」としての役割が求められる場合があるのではないか。

viii  仕組み行為

・ 集団投資スキームや証券化商品について、投資会社、信託、匿名組合、任意組合、特別目的会社(SPC)といった投資に係る主体ないしユニット(いわゆる「投資ビークル」)を組成し、契約や約款に基づいて、持分権ないし受益権等を分割する行為。
・ 必要とされる行為ルールとしては、利用者保護等の観点から見たスキームの適正性確保、関係当事者(利用者、運営者、関連する専門家等)の間での有効なガバナンス構造の確保等が考えられる。
 

(b) 「金融サービス」における「受託者」行為
 
○ 我が国の場合、「受託者」とは、信託契約における受託者を指す場合が多いが、英米においては、これよりも広い概念として、他人のために報酬を得て何かを行う地位にある者を「受託者」として捉え、判例の蓄積等を経て、受託者の責任(fiduciary duty)に関する法理が一般的に用いられている。ここでは「受託者」を広義に捉えた上で検討を加えることが適切ではないか。また、受託者の責任に関する法制・ルールに関して、信託法制の枠内とそれ以外とでのアンバランスの見直し等が必要であるとの指摘があった。
○ なお、受託者責任の概念は、懇談会においても、高度な分業体制を基礎とする「集団投資スキーム」のような資産運用・管理サービスに関する法制・ルールを考える上での重要な柱ではないかとの見解が多く示されており、上記の「金融サービス」の iii 〜 vii 等に関連して、当該概念の具体化が今後の課題の一つとなるのではないか。

 

(3) 「金融サービス業者」〜「金融サービス」の専門的な担い手〜

 

○ 内外の金融サービス関連法制では、上記のような「金融サービス」行為を営業として行う者を「業者」として定義した上で、当該「業者」を名宛人として、一定の行為規制・ルールが課されている。「業者」の考え方としては、(a)当該行為を反復・継続して行う者、または、(a)に加えて、(b)不特定多数の者を相手として当該行為を行う者とする考え方等があるのではないか。(注)
 
(注)
1.(b)については、ルールの横断性・包括性という観点から、原則として「業者」の要件とはせずに、行為類型や取引の実態(プロ間取引、私募取引等)に応じ、適宜行為ルールを緩和したり適用除外を設けるほうが良いのではないか。
2.なお、「不特定多数」の意味については、 i 形式上は取引相手を特定しているが、実質的に見て不特定多数が対象となっている場合や、 ii 金融商品の発行時点では特定者に対する私募形式をとっているが、その後流通市場で不特定多数の投資者が購入する可能性がある場合等に関して、ルールの適用等に係る明確化が必要ではないかとの意見があった。
 
○ 他方、リスクに関する情報の移転といった金融取引の特性を考えると、行為の反復・継続性に着目するのではなく、情報優位性に着目して、「金融サービス」行為に関わる当事者のうち情報優位者を行為ルールの適用対象とし、情報劣位者の保護を図るという形で「業者」への規制を整理すべきではないかとの意見もあった。
○ 一般的に業者は、行為の反復・継続によって高い専門性を持つとともに、取引等に付随する多くの情報を保有しているものと推定され、「金融サービス業者=情報優位者」という図式が当てはまる場合が多いと思われる。しかし、洗練された機関投資家の増加や、インターネット等の情報通信技術を利用した利用者から業者へのアクセスの拡大等に鑑みると、いわゆる「業者」のみが情報優位者であるとは限らない面もあるのではないか。その一方で、情報優位者となる側がどちらかについて取引の都度確認を要するというコストとのバランスをどう考えるか。

 

(4) 「ホールセールとリーテイル」ないし「プロとアマ」の区分

 

○ ホールセール取引とは、「プロ対プロ」のアームズ・レングス(arm's length)の取引、すなわち対等な当事者間の取引を意味し、取引当事者は「買い手責任」の原則に従って行動することが求められると考えてよいのではないか。従って、自らのレピュテーション(社会的な評判)の維持・向上という観点から、当事者間での自己規律が基本となるのではないか。具体的な法制・ルールについても、取引参加者の共通の目安となる基本原則や任意性のある緩やかなルールが中心となるのではないか。
○ 一方、リーテイル取引とは、「プロ対アマ」といった情報格差がある者の間での取引を意味するものと考えられる。そこでは、取引当事者の自己責任を基本としつつも、金融サービス業者(専門家)ないし情報優位者に対して「売り手責任」の要素が加味されるため、業者ないし情報優位者に対する何らかの行為規範・規制等の重要性が高まることになるのではないか。(注)
 
(注)リーテイル取引の考え方に関連して、いわゆる消費者保護(詳細は8.で後述)についても、消費者を経済的な弱者として常に保護するという考え方ではなく、消費者と業者等との間の情報力・交渉力の格差の是正により、消費者の自立を支援するという考え方に沿って検討すべきとの見方がある。
 
○ このような対照的なルール体系について、双方の守備範囲および連続性が適切に整理されないと、取引参加者の自己責任意識の低下によってモラルハザードが惹起されたり、十分な利用者保護が図られなかったりすることになるおそれがある。従って、「ホールセールとリーテイル」ないし「プロとアマ」の区分について、その基準を明らかにしていくことが重要ではないか。
○ 具体的な基準の考え方を整理する際には、以下のような点について比較検討していく必要があるのではないか。
 
・ルールの明確性という観点からは、「プロ」または「アマ」に関する外形的な基準(注)を示し、「プロ対プロ」の「ホールセール取引」、「プロ対アマ」の「リーテイル取引」の範囲を明確に画していくことが適切か。
 
(注)外形的な基準としては、例えば、以下のものが考えうるか。
i  取引主体の属性に関して、(a)個人あるいは法人、(b)取引主体の資産・所得の多寡、(c)取引主体の知識・経験の程度等。
ii  取引の属性に関して、(d)取引金額の多寡、(e)商品の複雑性の程度、(f)取引当事者の不特定多数性の有無等。
 
・こうした基準について、法令によって明確な区分を設けるのがよいのか。実務上の対応も踏まえ、過不足のない区分が技術的に可能といえるか。あるいは、ガイドライン的に区分の基準を示し、最終的な判断はケース・バイ・ケースで考えていく方法もありうるのではないか。その際、大まかな区分の目安を示す程度に止め、むしろ「ホールセール分野」における取引ルールと「リーテイル分野」における取引ルールを予め明示した上で、一定の明確な手続きによって、何れのルールに従うのかを当事者が選択できるという方法も考えられるか。その場合に、取引当事者の属性等を念頭に置いて、ホールセールとリーテイルの何れのルールを原則(特段の手続き等がなされない場合に適用されるルール)とするのが望ましいか。

 

(参考)海外の法制・ルールにおける事例等

 

・英国
 1986年金融サービス法の付属規程に列挙される取引(取引種類毎に最低金額等を設定)について、イングランド銀行(BOE)の定めるリストに記載された金融機関(いわゆる「プロ」に相当)が当事者となる場合(双方がプロないしは一方がプロで相手方が一定の取引経験を有する場合)は「金融サービス法」の適用除外とし、BOEが定めるホールセール取引に係る行為規範(London Code of Conduct)に従う扱いとなっている。なお、同法においては、金融サービス業者を一律に賭博罪の適用除外としている。
・米国
 英国のような明確な規定がある訳ではないが、証券の私募発行に関するルールにおいて、自衛力認定投資家(accredited investor )ないし適格機関投資家(qua-lified institutional buyer)の概念(金融機関、一定以上の総資産を有する法人、一定以上の資産や所得を有する自然人等)が規定されており、これが「プロ」ないし「ホールセール取引」の範囲の目安とされている。
・なお、我が国においては、証券取引法、特定債権法、商品ファンド法、不動産特定共同事業法等において、それぞれ「プロ」の定義に相当する規定が見られるが、証券取引法は基本的に金融機関を対象としている一方、特定債権法、商品ファンド法、不動産特定事業法では資本金5億円以上の株式会社を含む規定となっている等、必ずしも確立された概念がある訳ではない。

 

(5) 新しい金融法制・ルールの枠組みのイメージ

 

○ 金融取引に係る新しい法制・ルールの基本的な枠組みについては、懇談会においても様々な見解が提示されたが、これを大括りに整理すれば、以下のような幾つかのルールのアプローチが考えられ、これらのルールの組合せによって、全体として機能面に着目した横断的なルールとしていくことが必要ではないか。
 
(a) 金融取引の当事者間の(私法的な)権利義務関係の明確化に関するルール(「取引ルール」)
⇒ 金融取引の特性を踏まえ、リスク移転に関する要件と効果を具体化し、当事者間の権利義務関係の明確化を図るルールを「金融商品」、「金融サービス」に関して整備・充実する。
(b) 市場機能の維持・発揮に関して、全ての取引参加者に適用される一般的な行為ルール(「市場ルール」)」
⇒ 金融取引が行われる場である「市場」を公共財として捉え、その機能の発揮を重視する立場から、「市場」の概念をできるだけ広範に捉え、金融取引における公正・円滑な価格形成の実現のために必要となる、取引参加者全体に適用されるルールを整備・充実する。
(c) 業者(特定の専門家等)に対する行為ルール(「業者ルール」)
⇒ 金融取引に係る専門家(=業者)ないし情報優位者に特定の行為ルールを加重したり義務付けることを通じて、取引の公正や利用者の保護等を図る。
 
○ これらのアプローチの関係を整理すると、「取引ルール」と「業者ルール」については、前者が金融取引におけるリスク移転等の私法上の要件と効果を明らかにする (例:説明すればリスクは移転する)ものである一方、後者はリスク移転等の要件となる行為を義務付ける(例:業者は説明しなければならない)ものであり、前者に基づく私法的な救済が実効的に機能するならば、後者の必要性は後退するという点で、互いに代替的な関係にあるといえる。また、ルールのエンフォースメントを補強する観点から、「業者ルール」の適用が「取引ルール」の私法上の効果に直接ないし間接に連動する場合には、双方は補完的な関係にあるともいえるのではないか。
○ 「市場ルール」については、例えば、(a)「取引ルール」で説明責任が求められるのに対して、情報伝達に係るコストや価格形成機能の公共性に着目して、公衆縦覧型のディスクロージャーが求められる、(b)「業者ルール」では特定の業者を対象に行為規制が行われるのに対し、市場機能を害する不公正取引について、何人をも対象とする一般行為規制が課される等、「取引ルール」、「業者ルール」の特別なものと位置付けることもできるのではないか。
○ また、「市場」の概念を広範に捉え、市場機能を重視する立場からは、「取引ルール」、「業者ルール」も市場での価格形成の効率性・公正性確保に資するものとして、広義の「市場ルール」に含めて整理できるという見方がある。他方、「取引ルール」および「業者ルール」によって個々の取引が円滑・公正に行われれば、その結果として、市場機能が適切に発揮されるという意味で、実質的に「市場ルール」をカバーしているという見方もある。なお、このような見解の差異は、アプローチの違いに起因するものであり、具体的なルールの内容で見れば、共通の部分が多くなるのではないかとの意見もあった。(注)
 
(注)以下の「論点整理」での検討においては、論点となりうる法制・ルールの内容の重複を避けるため、「市場ルール」の内容としては、特に断らない限り、狭義の「市場ルール」、すなわち、市場機能の維持・発揮に関して、全ての取引参加者に適用される一般的な(=名宛人を業者に限定しない)一定の行為を義務付ける(=権利義務に関する要件・効果ルールではない)ルールとして整理している。なお、市場機能の発揮という観点については、前述2.の基本的考え方にあるように、金融法制・ルール全般に関する基本理念の一つとして、「取引ルール」、「(狭義の)市場ルール」、「業者ルール」のそれぞれの検討に際して留意していくべきである。
 
○ 現行法制においては、金融取引に係る私法上のルールは一般民商法に委ねられる一方で、縦割りの業法の下で、業者に対する規制のウエイトが高くなっており、新しいルールの検討に当たっては、一般私法に基づく金融取引の権利義務関係を具体化するための「取引ルール」を充実させていく作業が重要ではないか。
○ 「取引ルール」については、これまで金融取引について民商法による権利義務の調整や私法的救済が十分に行われてきておらず、司法インフラの現状に照らし、司法手続き等を通じたルールの具体化・明確化や、エンフォースメントの確保には限界があり、今後その充実を図っていくとしても、「市場ルール」や「業者ルール」を活用する必要性が高いのではないか。
○ また、新しい金融法制・ルールの適用対象の基本的な「切り口」として、以下のような幾つかのものが考えられるのではないか。
 
イ、「市場型取引」と「相対型取引」
⇒ 取引の組織化ないし価格形成機能の程度に着目して、成熟した市場に対するルールの体系と相対型取引中心の市場に対するルールの体系とに整理し、前者については流通市場中心、後者については発行市場中心のルールを考える。

ロ、「直接投資」と「間接投資」(=集団投資スキーム)
⇒ 資産運用・管理の形態に着目して、企業等による証券発行のような直接金融取引と集団投資スキームのような専門家を介した市場型の間接金融取引とに整理し、前者については情報開示中心のルール、後者については投資ビークル(信託や組合等の集団投資に係るユニット)に関する規制や仲介者等の受託者責任を中心としたルールを考える。

ハ、「ホールセール取引」と「リーテイル取引」
⇒ 取引の高度性、取引参加者の洗練度等に着目して、ホールセール分野については市場参加者の自己規律に立脚したものとし、一方、リーテイル分野については利用者保護のためのきめ細かな行為規制・ルールを考える。
 

○ 具体的な法制・ルールの検討に当たっては、上記のようなルールのレベルや「切り口」を検討しつつ、(a)イノベーションへの柔軟な対応、(b)利用者にとっての分かり易さ、(c)取引に係る情報コストの節約、(d)実効的なエンフォースメントの確保といった観点も踏まえ、最適なルールの組合せを模索することになるのではないか。

 

(6) 新しい金融法制・ルールの法形式(「器」の問題)

 

○ 上記のようなルールの基本的な枠組みを前提に、我が国の金融法制・ルールを具体的に見直していく場合には、ルールの法形式(「器」)についても検討する必要がある。その際、証券取引法や各種業法といった現行の金融関連法制との関係も念頭に置きつつ、法令等の具体的なイメージを考えていくことになるのではないか。
○ 法制・ルールの「器」としては、法律等の法令のほか、行政当局のガイドライン、自主規制機関のルール、業界の自主ルール、市場慣行といった様々な形式とレベルが考えられるのではないか。
○ 横断的な法制・ルールを実現するためには、その「器」、特に「業者ルール」に関しては、現行の縦割りの業法を廃止ないし統合し、包括的・横断的な一本の法律とするほうが、簡素で利用者にとって分かり易いルールという観点では望ましいのではないかとの意見があった。
○ 他方、法形式面に固執するよりも、実質的に規制・ルールの統一性・整合性が確保されることが重要であり、新しい法制・ルールとして盛り込むべき内容を幅広く採り上げた上で、我が国の法体系・法理論や既存の諸業法との調整を図りつつ、横断的なルールの検討を進めるべきであって、諸業法の廃止や統合といった点のみにこだわる必要はないのではないかとの意見もあった。(注)
 
(注) なお、銀行や保険といった、特別の政策上の取扱いが必要とされうる分野を少なくとも部分的に営んでいる「業者」に対しては、「金融サービス」分野とは別途ないし追加的な観点から、財務健全性規制や参入規制等が必要とされる場合があるのではないか。なお、例えば、英国では、投資サービス分野について、「金融サービス法」を銀行、保険を含む幅広い主体に適用する一方で、銀行や保険については、別途「銀行法」や「保険会社法」も適用する法体系となっている。
 
○ 「取引ルール」については、一般民商法の具体化のための金融の特性に応じたルールという位置付けになると思われるが、(a)立法すべきか、(b)裁判規範として判例法の集積や学説の展開、精緻化に期待するか、(c)一般私法の解釈の明確化のための原則やガイドライン等を示すのか、といった点を検討する必要があるのではないか。
○ 「市場ルール」については、例えば、「証券取引法」の開示および公正取引に関する規定をベースとして、適用対象となる金融商品・サービスの範囲に応じて、ルールの法形式を検討していくことが考えられるのではないか。
○「業者ルール」については、現行の縦割りの体系を見直し、横断的な「器」となる法律に整理・統合する場合には、包括的な投資物件ないし金融商品を定義した上で、機能毎に業者の行為規制を規定している英国の金融サービス法やEUの投資サービス指令等が参考になる部分が多いのではないか。
○ また、「集団投資スキーム」や「リーテイル取引」といった「切り口」でルールを括り出し、それぞれについて法令上の「器」を用意することも検討に値するのではないか。
○ 他方、「取引ルール」、「市場ルール」、「業者ルール」の全てをカバーするような包括的・統一的な「器」を用意することも選択肢としてはありうるので、例えば、我が国の証券取引法をベースとする等して、広義の「市場ルール」に関する包括的な資本市場法制として抜本的に再構成してはどうかとの意見もあった。(注)
(注)我が国の証券取引法は、市場規制、一般行為規制、業者規制を包摂する体系となっており、新たな法制・ルールの法形式として参考になるのではないかとの意見があった。なお、証券取引法については、利用者にとっての分かり易さという観点からは、改善が必要ではないかとの意見もあった。
○ いずれの法形式を考える場合でも、実質的な規制・ルールの横断性・整合性の確保を図るためには、我が国の現行法体系・法理論等との様々な局面における調整が必要になると考えられるほか、我が国の社会的・制度的インフラの状況を踏まえたルールの実効性確保の仕組みも不可欠であり、新たな法制・ルールの具体化に向けては、総合的かつ体系的な検討が必要ではないか。

[続きがあります]