3.市場仲介者(顧客ニーズに対応した多様な投資サービス)          


                                                                          


     (1)  総論                                                      


                                                                          


        市場や商品の環境整備が行われる中で、実際にイノベーションの担い手と


      なるのは仲介者であり、仲介者の役割がますます重要となってくる。特に、


      今後、証券市場改革が進む中で、顧客のニーズを敏感に取り入れ、多様で価


      値ある商品・サービスを開発・提供していく活力ある仲介者がより多く生ま


      れてくる枠組みを整備することが必要である。仲介者が、新たに参入するこ


      とも含め、活発に競い合うことにより、利用者へのサービスの向上が図られ


      る。                                                                


                                                                          


     (2)  仲介者による多様な業務展開                                


                                                                          


      ○専業義務の廃止                                                    


                                                                          


        多様なサービスの提供のためには、証券会社が様々なサービスを組み合わ


      せ、あるいは切り離し、また従来証券業務に関連していると位置付けられて


      きた業務以外の業務とも組み合わせ、提供していけるような法的な枠組みが


      必要である。どのような業務が証券業務の一層効果的な遂行に役立つか、あ


      らかじめ見通すことは困難である。したがって、証券業務の遂行に特段の支


      障を生じるおそれが大きくない限り、どのような業務展開も可能となるよう


      規制の見直しを行い、専業義務を廃止し、業務の多角化を認めるべきである。  


                                                                          


      ○持株会社の活用                                                    


                                                                          


        証券会社の専業義務の見直しの結果、本体あるいは子会社を通じた業務の


      多角的展開が可能となる。また、持株会社が我が国において認められること


      により、特に証券市場の仲介者にとっても、多様な業務展開と経営の効率化


      のための有効な選択肢が更に与えられることとなる。本体あるいは子会社に


      おいて行うことが必ずしも適当でないと考えられる業務についても、有効な


      リスクの遮断を図った上で、持株会社の活用により、できるだけ自由に業務


      展開ができるようにすべきである。なお、証券会社本体に対する適切な監督


      の実効性を担保するため、証券会社を保有する持株会社等に対する報告徴取、


      及び検査の権限等についても検討すべきである。                            


                                                                          


     (3)  株式売買委託手数料の自由化                                


                                                                          


      ○株式売買委託手数料の完全自由化                                    


                                                                          


        多様なサービスの提供を促進していくために、法的枠組みを用意すること


      に加え、多様な業務展開のためのインセンティブを提供すべきである。こう


      した観点から、業務の多角化を認めて業務展開の自由度を保証した上で、手


      数料の完全自由化を進めるべきである。これにより、顧客は様々なサービス


      と価格の組み合わせを選べるようになり、投資家の利便も著しく向上するこ


      ととなる。                                                          


                                                                          


      ○手数料自由化の進め方                                              


                                                                          


        手数料の自由化は、証券会社のみならず、投資家を始めとする市場参加者


      に大きな影響を及ぼすものと考えられるので、市場改革全体の枠組みの中で


      位置付けられる必要がある。特に、その中でも取引所集中義務の撤廃やラッ


      プ・アカウントの導入などについては、手数料の自由化と密接に関連してい


      ることに留意すべきである。さらに、市場のグローバル化が進展する中で、


      98年4月には、改正外為法が施行されることも念頭に置く必要がある。    


        こうした点を考慮すれば、株式売買委託手数料の完全自由化は、以下のス


      ケジュールに沿って実施すべきである。                                


                                                                          


      ○  手数料自由化のスケジュール                                        


                                                                          


        まず、98年4月に売買代金5千万円超にかかる部分を自由化し、その後、


      業務の多角化等のための環境整備や新商品の導入及び所要のシステム対応な


      どが図られた上で、99年末には手数料の完全自由化が実現されていること


      が適当である。システム対応等には相応の準備期間を要すると思われるが、  


      その場合であっても、できるだけ早期に完全自由化が行われることが、市場  


      利用者にとっても、市場にとっても望ましいので、市場関係者の努力を期待  


      したい。                                                            


                                                                          


     (4)  資産運用サービスの強化                                    


                                                                          


      ○資産運用業(投資信託・投資顧問)の強化                            


                                                                          


        今後の証券市場の発展を展望すれば、投資家に対しては個々の投資家の資


      産運用ニーズを的確に捉えたサービスの充実が、資金調達者に対しては様々


      な資金調達手段等を駆使した財務構成の最適化等が仲介者に期待される。資


      産運用サービスについては、投資信託委託会社、投資顧問業者といった資産


      運用業者が、専門家として投資家の期待にこたえられるよう、今後とも一層


      の運用能力の強化を図ることが重要である。                            


                                                                          


        さらに、例えば、                                                  


      イ.投資信託に係る運用指図の外部委託の解禁、                        


      ロ.いわゆる私募投資信託の導入、                                    


      ハ.未上場・未登録株式の投資信託への組み入れ解禁                    


      等により、投資信託のより効率的な運用が行い得る仕組みを構築していくべ


      きである。                                                          


                                                                          


      ○証券会社の資産運用サービスの充実                                  


                                                                          


        証券会社についても資産運用サービスの充実が求められる。特にラップ・


      アカウントは、証券会社の手数料獲得目的の短期売買の危険が少ないなど、


      投資家のメリットが大きく、米国においても広く利用されるようになってい  


      る。また証券会社にとっても、ラップ・アカウント方式の資産運用サービス


      は、営業の多様化につながり、手数料自由化後の証券会社の提供サービスの


      高付加価値化を支える業務の一つになり得ると期待される。したがって、証


      券会社の投資一任勘定が禁止された経緯等を踏まえ、不正行為防止及び利益


      相反防止等のためのルールを整備しつつ、ラップ・アカウントを導入してい


      くことが適当であると考える。                                        


                                                                          


      ○格付・評価機関、アナリスト、ファイナンシャル・プラナーの役割の拡充  


                                                                            


        個人投資家を始めとする投資家に対し、投資情報を分かりやすく提供する


      格付・評価機関、アナリスト、ファイナンシャル・プラナーといった市場に


      おける情報仲介者も一層大きな役割を果たすことが期待されている。これら


      情報提供機関等は、その業務の独立性や中立性を維持しつつ、さらに専門性


      を高めていくことが求められている。                                  


                                                                          


     (5)  仲介者の監督の在り方及び参入規制                          


                                                                          


      ○基本的考え方                                                        


                                                                          


        仲介者の創意工夫をできるだけ促す観点から、仲介者の監督に当たっては、


      事前予防的な制限は極力なくすべきである。このため、業務方法書等の認可


      制等は廃止すべきである。また、新たな参加者が、新しいアイデアや技術と


      活力を証券市場に持ち込んでくることは、仲介機能の強化という観点からも


      必要なことである。                                                  


                                                                          


      ○参入規制の改革(証券会社の免許制から登録制への移行)            


                                                                        


        意欲と能力のある者の証券業への参入が抑制されるようなことがあっては、


      証券市場の活力を維持することは難しい。証券会社が創意工夫を発揮して、


      多様で魅力あるサービスを開発、提供していくことが何よりも求められてい


      る。参入規制は、できるだけ自由な参入が保証される仕組みとすべきである。


                                                                        


        むろん、この場合でも、証券会社は顧客の証券市場へのアクセスを提供す


      る役割を有していることから、顧客の信頼にこたえ得る存在であることが求


      められる。証券会社に求める資質を単純に引き下げることによって参入の促


      進を図るべきでないことは言うまでもない。証券会社が業務を誠実、確実に


      行っていく上で、財務面や人的な面において必要最低限の水準を満たし、維


      持されることが求められるのは当然のことである。また、求められる水準は、


      業務の専門性や必要なリスク管理の程度によっても異なるであろう。          


                                                                        


        投資家、資金調達者のこうした期待に沿った証券会社が出現するための制


      度としては、証券会社の専業義務の廃止や顧客資産の分別管理の徹底等の制


      度整備がなされることを勘案すれば、必要最低限の資質と業務水準を満たし、


      維持することは担保される必要があるが、現行の免許制を改め、登録制を原


      則とすべきである。                                                      


                                                                          


        その上で、例えば店頭デリバティブ業務や引受業務など、業務の専門性や


      より高度なリスク管理が求められる特定の業務については、必要な仲介者の


      質を確保する観点から、認可制とすることを検討すべきである。        


                                                                        


        また、資産運用業においても、競争を一層促進しつつ必要な投資家保護を    


      担保する観点からは、証券会社に対する参入規制改革の考え方も踏まえれば、


      業務の専門性が要請されている資産運用業である投資信託委託業及び投資顧


      問業における投資一任業の参入規制についても、認可制とすることを検討す


      べきである。                                                      


                                                                            


      ○  銀行からの参入                                                


                                                                        


        金融の自由化、国際化、証券化等の進展を背景に、93年の金融制度改革


      により、銀行、証券、信託間の相互参入が実施されている。その中で、銀行


      による証券業務への進出については、銀行経営の健全性の維持や利益相反に


      よる弊害の防止等の観点から、本体による参入ではなく、業態別子会社方式


      による参入が基本とされている。                                      


        また、金融制度改革の円滑な実施を図る観点から、参入は、漸進的、段階


      的に推進していくこととされ、銀行系証券子会社については、原則として、


      新規設立に限定とするとともに一定の業務が当初の業務範囲から除かれてい


      る。                                                                


        この業務範囲については、本年3月末の政府の規制緩和推進計画の再改定


      において見直され、                                                    


      イ.97年度下期より、新たに、エクイティものの流通業務、株価指数先物


        ・株価指数オプション取引(但し、現物株式の受渡しを伴う取引を除く)


        を解禁する、                                                      


      ロ.残余の業務制限の見直しについても、金融システム改革全体の中で完了


        させる                                                            


      こととされた。                                                      


                                                                          


        金融システム改革においては、証券会社の専業義務の廃止等、業務の多様


      化・差別化といった競争条件が整備され、銀行についても、商品・業務・組


      織形態の自由化・多様化が進んでいくことが見込まれている。また、独占禁


      止法において禁止されている持株会社についても、法改正等により認められ、


      持株会社方式での相互参入も可能になることが予定されている。          


        こうした状況を踏まえ、この残余の業務制限については、99年度下期中


      に、撤廃することが適当である。また、それまでの間は、銀行が持株会社を


      利用して参入する場合でも、子会社の場合と同様の考え方が適用されるべき


      である。                                                            


        なお、こうした制度改革が実現した暁には、金融制度改革の過程で設立さ


      れた銀行の証券子会社と国内一般証券会社を金融制度上区別する必要はなく


      なろう。                                                            


                                                                          


        ファイアー・ウォールについては、利益相反による弊害防止、競争条件の


      公平性確保等の目的に照らし、これまでの経験を踏まえつつ見直されるべき


      である。また、業務範囲が拡大する中で、ファイアー・ウォールの実効性を


      担保するための検査・監視体制の在り方についても、検討していくべきであ    


      る。                                                                    


                                                                          


        銀行の証券業務への参入の関連では、従来から、銀行の株式大量保有とそ


      れに伴う企業への影響力の問題が論じられてきた。これについては、銀行が


      特別な影響力を持ち得るような状況ではもはやなく、株式の持合いも経済合


      理性の無いものは解消に向かっているとの意見もあったが、影響力の議論の


      当否にかかわらず、銀行が余りに大量の株式を保有することは、銀行経営の


      健全性や株式市場への影響という観点から、決して望ましいことと言えない。


      持株会社制度の導入が、銀行本体での株式保有を解消ないし低減する方向で


      の、株式保有の見直しの一つの契機となることを強く期待したい。        


                                                                            


     (6)  証券会社の健全性確保と投資家保護の枠組み                  


                                                                          


      ○基本的考え方                                                      


                                                                          


        参入規制等の事前予防的観点からの諸規制を緩和・撤廃しても、投資家や


      企業が証券市場を利用するためには証券会社等を介する必要があり、仲介者


      が信頼を失ってしまえば、市場自体が機能しなくなるという点には留意すべ


      きである。仲介者が取引ルールを守り、その特別な立場を利用した不正等を


      行わないよう、必要な監視が機能するような仕組みが必要である。仲介者に


      あっては、市場の担い手としての責任を自覚し、法令等で要求されている以


      上の水準の規律を自らに課していく姿勢が望まれる。                    


                                                                          


        また、業務や参入の自由化を始めとした広範な改革を行う中で、円滑な退


      出の確保という点も重要である。証券市場に参加している投資家が、証券会


      社の退出により不測の損害を被ることがあってはならない。              


                                                                          


      ○証券会社の健全性確保のための方策                                  


                                                                          


        こうした観点からは、証券会社の業務及び経営の健全性を確保していくた


      め、自己資本規制を、実際のリスクをより的確に反映するように見直すとと


      もに、証券会社の経営内容のディスクロージャーを充実するなどの業務及び


      財務の健全性のチェックの充実を図っていくべきである。また、こうした健


      全性チェックの実効性を確保するために、各種の報告や検査における虚偽や


      隠蔽等に対しても、厳格な行政処分等を行うことが必要である。          


                                                                          


      ○証券会社退出の際の投資家保護の枠組み                              


                                                                          


        また、仮に経営上の問題等により退出の止むなきに至った場合でも、退出


      の過程で投資家が不測の損害を被ることの無いよう                      


      イ.顧客資産の分別管理の徹底、                                      


      ロ.寄託証券補償基金制度の充実                                      


      等の破綻処理を含む退出に関連する制度の整備が必要である。            


                                                                          



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