【金融フロンティア】

 金融庁広報誌「アクセスFSA」では、本号より、「金融フロンティア」と題して金融庁金融研究研修センターにおける研究等に関する記事を連載いたします。第一回目は、この夏金融研究研修センター長にお招きした吉野直行 慶應義塾大学経済学部教授に、センターの現状と課題、日本の金融業の今後とセンターの果たし得る役割などについて、幅広くお話を伺いました。そのインタビューの概要を、以下のとおりお届けいたします。
(インタビューは平成15年11月11日に実施しました。)

 ※

 金融研究研修センターは、平成13年7月、金融庁における「研究と研修の効果的な連携」を目的として発足し、金融理論・金融技術等に関する研究を通じて専門的な知識を蓄積しつつ、それを活かした研修等により不断に職員のレベルアップを図っていくための活動を行っています。センターの概要や活動内容等については、ホームページ(http://www.fsa.go.jp/frtc/index.html)を御覧下さい。
   
吉野直行金融研究研修センター長インタビュー

 1.センター長に就任して
 2.海外への情報発信
 3.金融産業の競争力強化のための研究プロジェクト
 4.国内と海外のリスクとリターン
 5.戦略的な人材流動化
 6.産・官・学の連携
 7.監督・検査の目的とメリハリ
 8.現役世代の知的充電
 
1.センター長に就任して
― 吉野先生は、今年の8月に当金融研究研修センターのセンター長にご就任くださいました。先生には、当センターの活動全般に関してアドバイスをいただいていますほか、国内の大学あるいは海外研究機関との連携、情報発信の点でもお力添えをいただいています。当センターは平成13年7月に発足したばかりの組織で、これまでの2年強の間は、まずは金融庁の行政担当部局へのサポート役としての存在意義を模索してきた期間だったと考えております( → 参考資料「金融研究研修センターの活動」参照)。吉野先生におかれましては、8月以降、私どもと一緒に活動をしてくださいまして、センターの現状や活動についてどういった印象をお持ちでしょうか。
 「1998年に財金分離で財務省(大蔵省)と金融庁(金融監督庁)が分かれたのですが、金融庁は、金融の検査・監督に徹していくという意味でとても重要な省庁だと思います。
 第一に重要なことは、マクロの議論も忘れないでいただきたい。個別金融機関に対する検査や監督は、マクロ的に日本の金融業を良くしていこうということにつながるものでなければいけないと思いますし、それから現場に行かれる検査官の方たちも、日本全体として金融業がどうなるべきかということをいつも考えながら、いろいろなマニュアルに従って金融機関の検査をやっていただきたいと思います。そういう意味では、この金融研究研修センターが、実務的なものと同時に、マクロの財政金融政策や日本経済に関する話も、今後の研修などに入れていただければと思います。
 二番目は、このセンターでは研修と研究の両方をやっていかなければならないわけです。研修の方は実務的な研修というものを積み重ねていくということだと思いますが、その中でも絶えず改善・向上していかないといけないと思います。いろいろな検査や監督のマニュアルを作ると同時に、それを常に見直していくことが必要だと思います。レギュレーター(金融機関の検査・監督者)としての立場だけからではなくて、それを受ける側(金融機関の側)、それから日本の金融業全体の視点から、常に見直していくということが必要だと思います。
 研修の面では、アジアをはじめ海外に発信できる金融研究研修センターであって欲しいと思います。アジアの各国も日本と同じように、1997年以降不良債権が溜まって銀行が大きな問題を起こしたわけです。これまで日本のODAというのは、どちらかと言うと製造業や電力といった目に見える形のODAが多かったと思います。これに対して、現在、日本が経験していることは、途上国、特にアジアにとって非常に重要な教訓となることですから、今後はこれまでのODAという目に見えるものから、目に見えない技術的な援助(金融の検査・監督に関する技術など)になっていく必要があると思います。金融に関する技術支援は、金融庁から送るんだという形での世界への発信は、研修の面でも日本ができると思います。
 もう一つの点は、中小企業金融がいろいろと議論されていますが、アジア各国は中小企業が中心です。中小企業金融をどう改善するか、リレーションシップバンキングに関する報告書がとりまとめられましたが、中小企業金融の監督とか検査、その制度をどのように構築するかというテーマは大きな論点です。中小企業金融に関する新しい研究が出来、それに関連する研修のチームが出来れば、途上国に対しても良い影響を与えると思います。
 研究に関しては、これまで日本では種々の金融機関の破綻処理をしてきましたが、“破綻処理”の議論になりますと、アメリカのS&Lの議論とか、あるいはスウェーデンの経験とかがよく引き合いに出されます。せっかくこれまで日本でやってきた経験を、まず順序良くまとめて、海外に発信していくこと。第一弾ということで、11月12日に韓国で行われるコンファレンスに参加しますが、将来的には国際会議を開いて、金融機関の破綻処理なり、あるいは不良債権問題に対する世界各国の知識を集めて、日本のいろいろなやり方に対する評価を諸外国からしていただき、またそれを改善していく。こうした研究分野でも発信ができればと思っております。」

2.海外への情報発信
― 非常に多くの課題をいただきました。まずは行政との連携ですね、マクロの視点も踏まえた研究・研修をしつつそれを行政に反映していくこと、また日々発展していく実務の動向も行政サイドに伝えていくこと、さらに海外への発信と、いずれも現在の研修センターにとってはこれからの大きな課題だと思います。
 まず海外への発信について非常に多くのご指摘をいただきましたのでお聞きします。当センターから海外に向けて情報発信を行っていくということについて、基本的な質問ですが、どういった意義があるとお考えですか。
 「まず一つは、先程も申し上げましたが、アジア諸国の多くは不良債権を抱えており、中小企業金融をどういう形で立て直したら良いかということが大きな論点となっています。そうであれば、日本の検査の方法、民間の中小企業金融のやり方なりを、インターネットで英文にして発信するという方法があると思います。さらに一冊の書物にして、それを金融庁の金融研究研修センター発のものとしてアジアの国々に持って行けば良いと思います。なぜかと申しますと、世界銀行やIMFなども金融セクターの再構築ということを言っておりますが、欧米系の見方での再構築が大半であります。アジアは元来、中小企業中心なのです。とすれば、欧米系の国際機関や金融機関が言っていることが、必ずしも正しくない面もあるかもしれません。これこそ日本のチャンスでありまして、私が参加した2週間前のタイでの議論でも、欧米系の人達はリレーションシップバンキングというのは認めない人が多かった訳です。借り手の経営者と金融機関の間が親密な関係になってしまうと良くないはずであり、マーケットメカニズムでやるべきだと言うのですから、アジアのやり方とは違うような気がします。欧米(アングロ・サクソン)とは違った中小企業金融の日本的やり方について、インターネットでいろいろな研修のプログラムを発信して、「日本ではこういうやり方でやっています」というのを英語に直して発信していただければ、海外からアクセスできますから、日本の方法をあまりコストをかけないで海外に発表できると思います。こうすることによって海外から「もうちょっと詳しい資料が欲しい」というのであれば、金融研究研修センター発の小さなパンフレットなどを提供していくということができると思います。
 さらには、日本でいろいろ訓練された検査官の方達(ある程度年配の方達でよいと思います)がアジアに行って、向こうの金融検査・監督の方達にODAの予算で研修すると良いと思います。その時よく言われるのが、「言葉の問題があるじゃないか」ということですが、日本に留学した経験のある人達(10万人計画でたくさん呼んでいるわけですから)にその時の通訳をお願いすれば良いと思います。研究の方の発信に関しても、研究成果を英文に直して、インターネットに載せる。さらにもしできれば、海外のジャーナルなどに発表したり、英語の本として発表するといった発信が必要だと思います。
 さらに言えば、東欧諸国も、日本の高度成長と同じような状況にありますが、ほとんどはアメリカに研究に行っています。アメリカで中小企業の信用保証をやっているSBA(中小企業庁)を勉強しています。例えば、日本的な中小企業金融について日本がもっと発信すれば、東欧諸国に対しても、アメリカとは異なる方法を伝えられると思います。まず第一歩をアジアから始めて、それから徐々に東欧やその他の国々へと広げていけば良いと思います。」

3.金融産業の競争力強化のための研究プロジェクト
― アジアへの展開ということにつきまして、日本の金融機関はバブル崩壊後、海外拠点から段々撤退してくるような形で、縮小してきている現状にあると思うのですが、そういった民間活動と、政府間の情報交換との関係ということにつきましては、いかがでしょうか。
 「さらに金融研究研修センターでやりたいと思っています研究は、いかに日本の金融業を強くして世界から稼げるようになるかということです。産業構造を見ますと、日本の場合は、製造業の付加価値、つまり名目GDPに占める製造業の付加価値割合が、1980年代前後には<別図 >のように30%程度でしたが、最近では93SNA統計で約20%まで落ちてきています。しかし、この減少を補うような産業が発達していないのが、日本で大きな問題ではないかと思います。
 イギリスやアメリカを見ますと、製造業が落ちてくる中で、イギリスでは、金融・保険サービス業がそれを補完して成長しているわけです。アメリカでも、金融業の付加価値は非常に高くなっています。日本の金融業の付加価値は5−6%程度ですから、日本の産業を支えるには至っていません。私の一つの見方は、日本の金融・保険業を一つの産業として見ることです。これまで日本の金融は血液の循環のためにあって、筋肉とか肉というのは製造業だという感じが強かったと思いますが、アメリカやイギリスでは金融業自身が筋肉になっているわけです。ですから、血液である金融業が同時に筋肉にもなることが必要だと思います。そのためには、製造業でよく行われていた研究開発やR&D(デリバティブなどの新しい金融技術の勉強と開発)、これによって、現状の日本の金融業はどういうところでアメリカやイギリスに劣っているのかをまず明らかにすることができます。その次には、劣っている金融技術面について、製造業やコンピューター産業などでやったように、どのような技術を開発すればアメリカやイギリスの金融を抜けるのか、そしてその技術をどのように製品化していけばよいのかを研究する必要があると思います。さらに、海外のいろいろな拠点から情報をもっと集める、そして情報を生産するということが日本の金融業に足りないと思います。情報を生産することによって、どういうところにビジネスチャンスがあるのか、同時にどういう金融技術を開発すればビジネスチャンスを収益に結びつけることができるのか、こういう発想に立って、金融・保険サービス業が、日本において、従来の製造業に代わる産業になれば良いと思いますし、少しでも金融研究研修センターの研究がそういうものに役立つことになればと願っています。」

4.国内と海外のリスクとリターン
― 今の金融産業・金融技術の国際競争力に関する研究プロジェクトに関しましては、吉野先生にご発案いただき構想を練っているところで、先日(10月24日)開催しました当センターのアドバイザー会合でもご議論をいただきました。その時のご議論を整理しますと、主に、国内市場における収益性をどう上げていくかという議論と、海外においてプレゼンスをどう上げていったら良いかという2点に分けられるかと思うのですが、まず国内の収益性に関して、現在の金融機関をご覧になってどういった問題点があるとお考えでしょうか。
 「やはり貸出のリスク分析というものが、日本の金融機関の場合はまだまだ出来ていないと思います。最近CRD(Credit Risk Database)などさまざまな中小企業のデータが集まってきています。貸出リスク分析(信用リスク分析)には二つやり方があると思います。一つは、集まってきたデータを用いながら分析するというもの。もう一つは、これまでの、財務諸表などを見ながら経験を積んで判断するという手法です。このような「科学的な分析」と「経験」の両方を結び付けることが不可欠だと思います。大手の日本の金融機関の場合はこの二つの融合が始まっていますが、中小金融機関の場合はこれからです。そういう意味では、「統計的な処理」と「現場の今までの経験」とのすり合わせが必要になります。そうすることによって信用リスクが分かりますから、それに応じた金利も稼げるようになると思います。
 よくリテールバンキングやリレーションシップバンキングは日本国内の問題だと言われますが、先程申し上げたように、アジアではそういう金融をもっと育てたいと思っています。つまり、日本の中小企業金融機関がやっていることが、アジアにビジネスモデルとして展開できる可能性があるわけです。別にインベストメントバンクのようにインターナショナルに活躍しているところだけが海外から稼げるわけではなくて、日本の地道なところでやっている中小企業金融の経験も、いくらでもアジアでビジネスモデルとして展開できる可能性があると思います。欧米の金融機関は中小企業金融もマーケットメカニズム重視ですから、日本のやり方がひょっとしたらアジアに通用するかもしれません。こうした日本の中小企業金融の手法がアジアでも収益源になる可能性は十分にあると思います。さらに、インターナショナルマーケットで既に活躍している金融機関が欧米系のインベストメントバンクと同じように活躍していくという二つの側面から、日本の金融業を“稼げる産業”としていくことが必要だと思います。」

― 以前、九州で金融機関の方にお話をお聞きしたことがあるのですが、九州というのはアジアと近い関係にありますので、以前から割とアジアに目を向けてきた方なのではないかと思うのですが、そういった地域の金融機関においても、今この現状においてはリスクがなかなか取れないということで、どうしても国内市場に回帰してしまうということを言われました。国内で貸出先を分散してリスクの分散を図るといっても限界があるのではないかとお聞きしても、やはりそこは海外のリスクに比べればということになるのですが、この辺についてはいかがお考えでしょうか。
 「なぜ国内の方がリスクが少ないと思われるかというと、国内には情報を集めるネットワークがありますが、海外には国内のようには十分な情報収集のネットワークを持っていないからです。国内と同じように、海外にもいろいろなネットワークを持つことによって、日々の情報が入るように工夫する必要があります。日本に欠けているところで、各国の専門家なり各地域の専門家が少ないと思います。製造業ではジェトロ(JETRO)という組織がありますが、金融業に対してはそういう組織がないわけです。日本の金融業を一つの巨大な産業として育成するには、金融業に情報を提供するJETROに当たる機関が必要かもしれません。日本の金融機関の関係者が、各国で常にそれぞれの国の情報を取ることが必要です。そういう人たちには、例えば韓国の大学に留学したり、人的なネットワークを持っていることも必要だと思います。さまざまな工夫により海外のネットを作ること、そこで情報も持って来ること、あるいは日本人だけでなくても、日本に留学した経験のある留学生を雇ってもよいと思います。アメリカは、そういう人的な交流とビジネスが結び付いていると思います。日本は、人的な交流は人的な交流、ビジネスはビジネスで分かれてしまっていますが、国家的な戦略で結び付けなければいけないと思います。
 金融研究研修センターが出来て、例えば、アジアの人達が毎年必ずこの金融研究研修センターで国際会議や研修会を開催していろいろな問題点について話し合い、またアジアのFSAの組織に発信でき、さらには東欧の人達を呼んだり、欧米の方々にも参加してもらえれば、交流の和がさらに広がると思います。」

5.戦略的な人材流動化
― 今仰った人材の流れとビジネスの流れが分かれているということについてですが、それは、行政の人材の流れとビジネスの人材の流れが日本では分かれてしまっているというところにも関係があるように思います。これは、アメリカで言います「リボルビング・ドア」が日本では定着していないというところにも表れているかと思うのですけれども、そういった観点から、人材交流の面ですとか、あるいは研究機関と行政との連携の面で、日本において今どういうデメリットがあって、今後どうしていったら良いかという観点からお考えをお聞かせください。
 「一つは、1ヶ月前に北京に行った時に、北京が上海に負けないように北京版ウォールストリートを作ろうという会議だったのですが、そこに米国のイリノイ州の議員の方が、シカゴの弁護士の方や会計士事務所の方を連れて来られて、アメリカは北京にウォールストリートを作ることを全面的にサポートしますということでした。さらにそこで驚いたのが、北京の「ベイジンストリート(ウォールストリートを北京版に直した呼び方)」の若手を毎年5人ずつイリノイ大学のシカゴ校に留学させてあげ、2年間でMBAを取って北京に返しますというわけです。このように、アメリカの政治とビジネスと大学が全部結び付いて、アメリカ流の手法を中国に持っていき、中国の国内にネットワークを張って、アメリカ系のコンピューター会社が受注をすることも可能になります。すると、通信情報インフラがアメリカ式のものになりますし、教育もアメリカ流になり、政治的にもメリットがある訳です。日本では「大学の留学生を呼ぶなど大学の話」、「コンピューターは情報産業の話」、「金融については金融業の話」と、すべてが別々に動いています。
 話題は変わりますが、金融庁と民間・大学の間での交流も更に必要だと思います。民間の金融機関で働かれていた方がしばらく金融研究研修センターで実務的な経験を教え、人的に交流することが大切だと思います。ただその時には守秘義務をきちんと守らなくてはいけませんが、法律をしっかりと決めておけば良いわけで、人材の交流は必要だと思います。我々の研究の分野でも、実際の経済政策の研究を行おうとすれば、論文だけを読んでいたのでは新しいことはなかなか出てこないわけで、現実の経済の動きも知らなければなりません。同様に、金融庁で行政をやられている方々も、内部だけで議論していただくだけでは架空の議論になってしまいますから、実務を知らないといけないと思います。昔は、良い意味ではいろいろと交流がありましたから、情報の行き来というものがあったと思います。しかし、今はなかなか情報が流れ難くなっていると思います。例えば1年とかある程度の期間の研修という形で民間の金融機関に行くとか、大学との間で交流するということが重要だと思います。金融研究研修センターは大学との交流は割合やり易いわけですから、金融関連分野の大学の先生たちと一緒に議論していただく、あるいは出来た論文に関しては外部の先生方からいろいろと叩いていただく、そして更に論文を改善するということが必要です。さらに、あるプロジェクトに関しては民間のノウハウを持った方々に集まっていただくことも必要だと思います。金融研究研修センターは、行政の中でも一味違った研究機関として良い交流が出来ると思いますので、是非進めていただけたらと願っております。」

6.産・官・学の連携
― 今のお話を伺って、自然科学系を中心とする産・学・官の連携と研究成果のビジネス化の金融版ということで、非常に新鮮に聞こえたのですけれども、その時に、大学を中心とした学と、産はこの場合金融機関だと思うのですけれども、それと官たるセンターのそれぞれの役割分担をもう少し教えていただければと思います。
 「企業では、新しい分野の研究をしたいと思っても、それまで主流だった技術の技術者の抵抗もあってなかなか進めにくいといったケースがあるようです。そこで金融に関しても、製造業で、かつての通産省が作った研究開発組合のような仕組みを作って、いろいろな技術者が集まり、どういうファイナンシャル技術が欧米で開発され、どういうところが日本では劣っているのかを研究する。個別の金融機関は、不良債権を抱えている状況ではこうした研究に多くの時間と資金を向けることはできないと思います。そうであれば、金融研究研修センターがそういう役割を担って、そこで研究し、数学的な知識を持っている方々にも集まっていただき、欧米に負けない金融技術の研究を行うことが必要だと思います。こういう方々は、本当は能力を持っているのですけれども、「あいつは難しい数学をやっているけれども役立つのか」と内部で言われますと、フラストレーションが溜まってしまうと思います。中立的な金融研究研修センターに専門家が集まれば、いろいろな議論が出来ると思いますし、さらに、皆で議論することによってレベルアップが出来ると思います。そこで何が遅れていて、どういう研究開発をすれば良いのか、学者がここに来て数式的な問題を解く、あるいは工学部の方も来ていただく、それから金融庁の方もおられるし、各金融機関の専門家も集まって議論をする。こうした発想の転換が今の日本には必要だと思います。金融研究研修センターで出来た金融技術を、それぞれの人たちが自分の金融機関に持ち帰り、それぞれ違う金融商品を作っていくこと、これはまさに製造業がやっていたことです。これからやるべきことは、リレーションシップバンキングを含めた金融サービス産業の研究開発によって、世界から稼げるものを創るのだということです。

― そういう議論が、米国では政府レベルから、先程仰ったような州の議員の方のレベルまで浸透している理由というのはどの辺にあるのでしょうか。
 「例えば、クリントン前大統領がアーカンソー州知事の時には、大統領の時代よりも日本に来た回数が多いそうです。自分の州に日本の製造業の工場を持って来よう、自分の州を潤そうということです。先程申し上げた、北京に来たイリノイ州の議員の中心都市はシカゴであり、シカゴの金融産業を北京に持って来ようという発想です。アメリカでは、自分の地元が何らかの形で世界からお金を稼げるようにしようという発想です。」

7.監督・検査の目的とメリハリ
― 金融業を稼げる産業にするということは、非常に重要な話だと思いますが、一方で、金融庁は監督・検査というかたちで、チェック機関という位置付けになっていますが、そこでの関係はどうあるべきなのでしょうか。
 「監督・検査が金融ビジネスの機会を殺すようではいけないと思います。金融サービスの中身を知ることによって、監督・検査もやり易くなると思います。新しい手法がどういうものか、どういうところに問題点があるかということも自ずと見えてくると思います。検査・監督は、強くなるところを阻害してはいけないと思います。世界からも稼げる金融業を目指すために検査・監督を行っているのであって、良い面はもっと伸ばし、悪いところに対しては規制を実施するという姿勢が必要だと思います。」

8.現役世代の知的充電
― 日本の金融界にしろ、金融庁にしろ、一生懸命働いていて、知的な蓄積、充電をしなければ限界効用はゼロになってしまうということは皆分かっているわけですが、なかなか必死になればなるほどそれができないと、皆の悩みだと思うのですけれども、そういう悩んでいる現役の世代に対して知的な充電をどういうふうにやっていったら良いかということについてお聞かせください。
 「財務省では以前、修士論文を書くぐらいの研修があったのですが、そうした研修も金融庁では必要だと思います。短くても、例えば夏休みの3週間とか、実務からしばらく離れて、疑問に思っていることは理論的にどうなのかを考え直してみる機会が必要だと思います。例えば、3週間位いろいろな分野の先生にお越しいただいて、この金融研究研修センターの研修コースとしてレポートを書くというような研修は必要だと思います。あまりにも毎日のことに没頭されてしまいますと、少し高い視点から見ることを忘れてしまいますから。人間が成長していくためには、実務を見て、また違った立場の理論的な勉強をして、そしてまた実務を見るというやり取りが必要だと思います。そういう意味では、金融研究研修センターで例えば3週間の研修をすることは、良い方法ではないかと考えます。」

― 本日は、本当にどうもありがとうございました。

【ピックアップ:中小企業金融】
 
「中小企業金融特集」のホームページ掲載について

 金融庁では、中小企業金融の円滑化を図るため、金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]の改訂作業を進めるほか、平成15年〜16年度までの2年間を「集中改善期間」として、中小・地域金融機関の機能強化を図り、中小企業金融の再生に向けた取組を進めるなど、様々な施策を実施してきています。
 このような取組について、資金の借り手である中小企業や金融機関で実際の融資業務に携わっている方々にも理解を深めていただきたく、10月20日にホームページ上に「中小企業金融特集」を掲載しました。
 今後とも日本企業の大宗を占める中小企業の金融環境や地域経済の改善を図るため、地域・中小企業金融の円滑化に一層積極的に取り組んでいきたいと考えています。

「地域経済再生シンポジウム」の開催について(関東財務局)

 関東財務局では、日本政策投資銀行と共催し、関東財務局管轄地域内の地域金融機関を対象に地域経済再生シンポジウムを、10月14日(火)、さいたま新都心合同庁舎において開催しました。
 地域活性化の鍵となる地域プロジェクトや地場中核企業に対する支援に当たって地域金融機関の果たす役割が今後益々重要となる中、金融審議会金融分科会第二部会長の堀内昭義中央大学総合政策学部教授をお招きし、「日本経済と地域金融」と題して基調講演をしていただきました。
 当日は、管内の地域金融機関の役職員約300人が参加し、リレーションシップバンキングを核とした金融システムの再構築に関する講演に熱心に耳を傾けていました。
 基調講演の後、地域金融機関の中小企業金融の機能強化を図るべくワークショップを開催し、M&A、事業再生、PFI、ベンチャー支援・知的財産権の4つのテーマについて、日本政策投資銀行の担当者から説明を行いました。
 なお、基調講演においては、

 1

.日本のマクロ経済の現状
 長らく不況に苦しんできた日本経済も、今年の後半に入ってからは株価のかなり足早の回復を受けて、やや楽観的な見通しが出るようになった。それにつれて、金融の危機的状況にも一段落の感じが出てきている。しかし、日本経済の基盤となるべき地域経済は、必ずしも楽観を許さない状況にあると思われる。
 2 .日本における金融の現状についての認識
 企業部門のマネーフローをみると、中小企業を含めて資金余剰の状態であるが、これは、銀行が融資活動に消極的になったということを反映しており、このため企業の中には積極的な固定的投資を控えているところもあり、日本経済の再活性化の足を引っ張っている面もあるのではないかと思う。
 当面の企業金融について考えてみると、二極化への進展が今後更に進んでいくのではないかと思う。つまり、大企業については、キャピタルマーケットから資金を調達する傾向を益々強めている。
 一方、中小企業については、依然としてリレーションシップバンキング機能に依存しており、今後も変わりはないと考えている。
 3 .日本におけるリレーションシップバンキングの現状
 リレーションシップバンキング機能に関する理論家の期待としては、単に不完全な情報をできるだけ補うために情報生産者として銀行が機能するというだけではなく、企業が経営危機に陥ったときに破たん処理を円滑に進めていく場合のエージェントとしての役割を銀行が担うという面を期待するところがあろうかと思う。
 しかしながら、日本の現状では、企業情報が当事者以外に伝わらないことから貸付債権の評価が難しく、銀行はリスクマネジメントができないといったことや融資先企業と銀行の相互独占的な関係により銀行側が取引上優位に立っているといったデメリットが挙げられる。
 4 .結び − より長期的なパースペクティブ
 長期的にみれば、日本の金融システムのバランスが高められるよう資本市場の機能を発展させていくことが必要。しかしながら、資本市場の機能の発展には、情報開示制度とそれを監査する仕組みに一層の信頼性の確保が必要であって、それは一朝一夕にはできないことが分かってきた。
 従って、リレーションシップバンキングをベースにした中小企業金融というものは依然として今後も重要であり、長期的に見た場合にも日本経済の活力を支えていく上では、この機能がどこまで働くかということが鍵を握っているのではないかと思っている。
といった内容のお話がありました。

「中小企業金融に関するシンポジウム イン 大阪」の開催について(近畿財務局)

 近畿財務局は、去る10月21日(火)、KKRホテルオーサカに於いて、竹中金融担当大臣を迎えて『中小企業金融に関するシンポジウム』を日本政策投資銀行関西支店の共催を得て開催しました。
 当日は、竹中金融担当大臣による講演及びパネルディスカションが行われ、近畿財務局管内の地域金融機関や中小企業の方など約200名の参加者等でほぼ満席となりました。
 はじめに、竹中金融担当大臣により『地域経済と金融の円滑化に向けて』と題した講演があり、その中で竹中金融担当大臣は、「構造改革全体の進捗の中で、とりわけ金融の問題と中小企業金融の問題で今どのような取組みが進みつつあるのか、今後の課題は何であるか」という点についての話がありました。
 次にコーディネーターである大村近畿財務局長の進行によりパネルディスカッションが行われ、パネリストとして中小企業経営者2名、企業再生関係者、政府系金融機関及び竹中金融担当大臣の5名が参加しました。

パネルディスカッションでは、パネリストから
 ・ 政府の制度融資等を活用して積極的に前に出た結果、地元金融機関からの信用も増してプロパー融資も受けることができ、事業がスムーズにいった。
 ・ 金融機関の融資において資産査定は大企業も中小企業も同じとなっている。
 ・ 目利きする人が少なく本店のコンピューターにおける審査となっている。
 ・ 金融庁の検査が厳しいために本来の融資が出来ていない。
など、地域における中小企業の現状や、リレーションシップバンキングの機能強化を図っていく中で、金融庁や地域金融機関への様々な注文、意見等のプレゼンテーションがありました。
 竹中金融担当大臣からは、「意見は大きく二つに分けられる。一つ目は世の中の制度が目まぐるしく変化している中で、制度そのものについて前向きに活用する姿勢を持とうとすること、二つ目は風通しを良くすることであるかと思うが、金融庁としても『中小企業金融懇話会』、『中小企業金融モニタリング』という制度を新たに創設しており、意思疎通を良くするよう努力していきたい。」との発言がありました。

 引き続いて、参加者との意見交換が行われ、この中で参加者からは、
地域金融機関に対しては、
 ・ 目利きの人材の育成
 ・ 中小企業の融資に当たっては、キャッシュフローだけではなく、経営者の考え方、取組み方を判断して融資して欲しい。
 ・ 借り手としては、金融機関の支援等が得られるよう努力する必要があるが、支店長には工場や、仕事の実態を見に来て欲しい。
などの要望があり、

 また、金融当局に対しては、
 ・ アメリカには地域中小企業に対して金融機関がどれだけ支援をしたか評価する法律があるが、日本もこのような法律、制度を整備してほしい。
 ・ 政府においても官から民、中央から地方へと進められているが、税金や年金の原資が有効に使われるよう、より良い制度や仕組みに改めて頂きたい。
などの意見がありました。

 最後に、参加者のご意見に対し、竹中金融担当大臣は、「銀行に関することは、リレーションシップバンキングの考え方そのものでしっかりやれ、ということだと思う。政府への要望は、官の構造改革という問題であり、財政の健全化、効率化の観点からも重要な問題である。また、この場に来て、その報告ができるようにしっかりやりたい。」旨発言して締めくくり、盛況のうちにシンポジウムを終了しました。

「中小企業金融に関するシンポジウム イン 名古屋」の開催について(東海財務局)

 去る10月23日(木)、名古屋市内のウェスティンナゴヤキャッスルにおいて、東海財務局主催、日本政策投資銀行共催による「中小企業金融に関するシンポジウム」が開催されました。
 当日は、中小企業経営者、金融機関役員等、約160名が参加する中、竹中金融担当大臣による「地域経済と金融の円滑化に向けて」と題した講演の後、参加者と竹中大臣との意見交換が行われました。続いて中小企業金融の実情等に詳しい有識者に加わっていただいて、中小企業経営者、金融機関役員のそれぞれを対象にしたワークショップが開催されました。

<参

加者と竹中大臣との質疑応答>
 
 今後の中小企業金融を考えるうえで、政府系金融機関の位置付けや信用保証制度についてどう考えるか。
(竹中大臣)
 日本では信用保証制度に大きく依存している。マクロ的には2つ要因があり、一つは国際的にみると日本の貸付金利水準が低いことに関連。金利が低い分、何らかの形で債権を保全するような社会的なシステムが必要。それが担保や保証に依存している。そこは今後の金利設定の問題とパラレルに動いていく要素があるのではないか。
 もう一つは、金利とある意味で絡むが、まさに金融機関の目利きの問題。金融機関は一種のリスク管理業であるが、このリスクの評価について、右肩上がりで恒常的な資金不足が長く続いた経済の中では、必ずしも厳しく求められてこなかったのだろうと思う。こういう目利きの部分を放棄した形で第三者保証に依存してしまっている。先程、「メガバンクのいくつかが、担保・保証人に依存しないシステムを作っている」と申し上げたが、それは、まさにそこでリスクとリターンが見合ったようなシステムになりつつあるのだと思う。そういう問題の中で解決していかざるを得ないのではないか。
 ただし、政府系金融機関に関しては、保証の業務はむしろ重要になってくる可能性もある。日本の政府系金融機関の特徴は直貸しの比率が非常に高い。欧米等では、民間でお金を貸すとその保証機能を政府系金融機関が持つという形も結構みられる。そういう要素を絡めながら全体としてはダイナッミックに発展していくのではないか。少し時間はかかるが、そのような方向に動いているのではないか。
 中小企業の決算書の信憑性を高める仕組みづくりや税理士の活用についてどう考えるか。
(竹中大臣)
 今我々が作っていかなければならないのは、情報開示のためのインフラ整備。会計士の独立性を更に強化するための制度や、会計士試験そのものの制度を改めて、会計専門家が会計士としてだけでなく、企業の財務部で働いていただいてもいいし、教育機関で教えていただいてもいい。そういうまさに資本主義を担う情報開示のインフラ整備をやっており、我々としては、公認会計士制度の改正とか証券取引法の改正という形での制度整備を続けていきたい。その上に乗っかっておられる会計士、税理士の方々に、今の制度を利用して社会的評価を確立して、更に高めていただくよう努力していただきたい。

<中

小企業経営者を対象としたワークショップ>
   竹中大臣の講演後開催されたワークショップでは、中村中氏((株)ファインビット代表取締役社長)、忽那憲治氏(神戸大学大学院経営学研究科助教授)、川井正夫氏((社)中小企業診断協会愛知県支部長)の3氏をお招きし、日本政策投資銀行渋谷東海支店長の司会のもと、「中小企業の再生と地域経済活性化に向けて」をテーマに各講師からご発言いただいた後、質疑応答が行われました。
 
(中 村氏)
 
 金融機関の立場からすれば、いわゆる「貸し渋り」は1997年を境に始まった。これは金融庁の金融検査マニュアルを受けて「格付け」が市民権を得たことによる。これにより借り手側からすれば、「昨年は貸してもらえた」、「担保は十分にある」という既成概念では可能であったものが、貸し手側からすれば「格付け」というしばりにより貸せない、というねじれ現象がおこり、それによりいわゆる「貸し渋り」と捉えられた。ここで必要なことは借り手が「格付け」の仕組みを理解すること。「格付け」は定量的(財務)、定性的(販売力・技術力など)要因により判定するもので、従来のような担保の重要性は薄らいでいる。「格付け」を向上させるには自己資本比率、総借入額、総資産、営業利益の4点を向上させることに加え、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」を参考にされたい。金融機関側には自分の会社の良さを強調することが必要(PR)であるし、個人資産を明確にしたり、先の4点の項目を中心にしっかりとした現場の数字を基とした経営計画を作ることも必要である。

(忽

那氏)
 
 リレーションシップバンキングは細かいサービスを実施する分コストがかかる。リレーションシップバンキングとスコアリングは対極にある。貸し手と借り手の関係が深くなることでプラスの効果が出ているのは、米を中心とする研究結果が大半である。他の国を対象とした分析では金利が高くなったり、担保要求が厳しくなったりするなど、マイナスの効果を示す結果が多く示されている。これは貸し手が手に入れた情報から生じるレントを自分達で蓄積するのみで、借り手に還元しないということで起こっている。
 ただ、おもしろい例では発展途上国で主として用いられているグループレンディングという手法がある。これは互いに信頼のある企業がグループを構成し、そのグループに対し銀行が融資を行うというものである。グループ内の企業による相互のモニタリングによってデフォルト率が大幅に低くなるというメリットが指摘されている。
 一方、借り手側も借りることだけが資金調達ではないということを認識すべき。キャッシュフローの管理をしっかり行うことで無駄な借入を圧縮することが可能である。

(川

井氏)
 
 業績の良い企業は、社長と社員が企業の将来的なビジョンを共有しているということが良い影響を与えている場合が多い。このほか、仕入れ権限を支店長に委任することにより、自己責任で販売を促すなど様々な取組みが経営に良い影響を与えている。
 一方、金融機関では、支店長から権限を取り上げているところが前期末まで目立っていた。全て本部の意向に左右され、円滑な交渉の妨げとなっていた。この間隙をついて政府系金融機関が活躍している。融資条件でも低利で長期のものを提示するなど、柔軟な対応が目立ち、政府系金融機関の有効性が大きくなってきていると感じている。
 これからは、真のリレーションシップバンキングを望んでいる。リレーションシップバンキングはコストが大きくなり金利が高くなるが、それだけのメリットがあれば良い。こうしたノウハウは中小金融機関が一番蓄積できていると考える。金利競争だけではどこの金融機関も倒れてしまう。コンサルティングサービスの質が明暗を分けるだろう。

〜質

疑応答〜
 クレジットスコアリングモデルは借り手としては金利も下がってきており、使い易くなってきている。これがさらに下がって同レベルの金利が提示されるようになるとリレバンは機能しなくなるのではないか、との懸念があるがどうか。
 
(中 村氏)
 金利の要素は四つある。仕入値(原価)、収益、コスト、リスクであり、これが複合したもの。リレバンは十分に中身を知ることによりリスクは減るが、情報の集積の段階でコストがかかっているもの。四つの要素がうまく機能していけばやっていける。


グループレンディングについて詳しく教えてほしい。
 
(忽 那氏)
 互いがよく知っているということで、それが厳しい相互のモニタリングとなる。発展途上国の手法であるが、デフォルト率の低下には有効であると考える。

<金

融機関を対象としたワークショップ>
 金融機関を対象としたワークショップでは、日本政策投資銀行・長尾秀樹氏(新規事業部次長)より「ベンチャー支援・知的財産権」をテーマに、また、同行・水野雄司氏(地域企画部地域プロジェクト班課長)より「地域企業への新たな資金調達手法」をテーマに、講演が行われました。
 
(長 尾氏)
 
 知的財産権担保融資については、特許権等をベースにした事業の予想キャッシュフローを現在価値で評価し、融資するかどうかを判断することになる。
 知的財産権(特許権等)の課題としては、期間が経つにつれ価値が陳腐化し、それに対応した追加担保取得が困難となるリスク、登録料を支払わないと消滅する場合や第三者からの無効請求のリスク、担保処分ができるかどうかのリスク等がある。
 知的財産権の活用については、大手企業にライセンス契約を行い安定収入を確保するタイプと知的財産権を自社で事業化して活用する場合がある。後者の場合が多いが、この場合、キャッシュフローの評価が重要であり、成長性をどうみるかが課題である。
 知的財産権を利用した事業のサイクルとしては、企業は知的財産権を活用し5年で回収を図り、その資金を元手に次の事業を展開していく姿が望ましい。

(水

野氏)
 
 地域企業の新たな資金調達手法として、二つ、コミュニティ・クレジットと自治体CDOを紹介。
 コミュニティ・クレジットとは、地域社会において互いに信頼関係にある企業が、資金と情報を拠出し合い連携することで高い信用を創造し、金融機関からの資金調達を円滑化するとともに、地域の資金を地域に還流させる金融手法であり、具体的には、地域で設立した「金融プラットホーム」が、金融機関から借り入れて企業に融資を行う。この場合、金融プラットホームへの出資企業が、相互に借入・保証・審査・監視を行う。実際に融資に至った事例としては、「神戸コミュニティ・クレジット」がある。
 自治体CDOとは、自治体の募集条件により銀行が多数の企業に貸し出す債権を一括して証券化することにより、資金の出し手側のリスクを軽減し、企業側に新たな資金調達の道を提供する試みで、これまでに、東京都、大阪府、福岡県で行われ、大阪市、千葉県も導入予定となっている。課題としては、地方では参加可能な企業の層は薄く、スキームの検討が必要である。

次の項目へ