【保険業法関連法令等改正関係】
 
保険業法施行規則等改正案(第三分野の責任準備金等ルール整備関係

 第三分野の保険商品における責任準備金の積立ルール等を新たに定め「保険業法施行規則」、関係「告示」、「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正を行いました。


.第三分野商品の特徴と動向
   第三分野とは、医療保険、がん保険、介護保険などの疾病や傷病を事由とした保険金や治療のための給付金が支払われる分野を指します。
 従来、第三分野商品については大手国内生命保険会社では単独販売が認められないなど算入に制限が設けられていましたが、2001年1月以降段階的に解禁され、死亡保障中心であった保険契約者のニーズが医療や介護といった生存保障へ変化していることに伴い急速に売り上げを伸ばしています。平成16年度には、年換算保険料でみて、3兆5千億円を超えており生命保険会社でみると保有契約の2割を超える状況となっています。


.問題の所在と対応
   少子高齢化社会が進行する中で、医療保険や介護保険等の商品は保険契約者のニーズが高まっていますが、医療政策等の外的要因や保険契約者の想定外の行動の影響を受けやすく、また、わが国では終身保障タイプの商品が多いこと等から長期的な不確実性を有していると言われています。
 このような状況にもかかわらず、第三分野商品は商品内容が多種多様であり、十分なデータの蓄積もないことから標準死亡率、参考純率といったスタンダードな指標が存在しておらず、公的なデータや各社の実績等から給付事由ごとその発生率を見込まざるを得ないのが実情です。
 したがって、第三分野の保険事故発生率に関する不確実性に対しては、各保険会社において、標準責任準備金による積立を行った上で、発生率の事後的な検証により対応していますが、発生率の事後検証の方法、検証後の対応については、各社の判断に委ねられているのが現状です。一方、危険準備金については、リスク係数が一律・機械的に定められているため、各商品のリスクが危険準備金に適切に反映されていないという問題もあります。
 このような問題意識から、保険会社において適切なリスク管理が行われ、将来の債務履行のための積立が可能となるよう、「第三分野の責任準備金積立ルール・事後検証等に関する検討チーム」の検討結果を踏まえ以下のような積立ルールを整備することとしました。


.積立ルール等の概要
(1)  ストレステスト、負債十分性テストの実施
     第三分野保険の保険事故発生率の不確実性に焦点を当てた「ストレステスト」、「負債十分性テスト」の実施により、責任準備金の十分な積立水準を確保する新たな事後検証の仕組みを導入することとしました。
   ストレステスト
       毎決算期に、商品ごと予め設定した予定事故発生率が十分なリスクをカバーしているか確認するものです。実績の保険事故発生率等に基づいてテスト実施期間(10年間)の発生率に関するリスクの99%をカバーする発生率(危険発生率A)を予測し(図1)、将来発生する保険金額(図2−A)と予定発生率に基づく保険金額(図2−P)を比較して、予定発生率に基づく保険金額が大きければ保険料積立金が十分と判断(図2−ケースI)します。
       第三分野の保障内容やリスクの範囲が多岐にわたっており、商品により異なっていることから、保険事故発生率の将来予測において、どのようなモデルを設定するかは、保険会社が合理的に見込むこととします。

図1 将来の保険事故発生率の予測のイメージ
(予定発生率が十分なケース)
 将来の発生率を推計する際には、年齢・経過年数等を考慮する必要があります。
将来の保険事故発生率の予測イメージ

図2 ストレステストのイメージと危険準備金の積立
ストレステストのイメージと危険準備金の積立
(注) P:予定発生率によるテスト実施期間(10年間)の給付額
A:危険発生率Aによるテスト実施期間(10年間)の給付額
B:危険発生率Bによるテスト実施期間(10年間)の給付額
   

 負債十分性テスト
       ストレステストの結果、予め設定した予定事故発生率では、保険料積立金で対応すべき「通常の予測の範囲内のリスク(新ルールではリスクの97.7%)」に対応できないおそれがある場合は、負債十分性テストによる事後検証を行います。(図2−ケースIII)
       保険料積立金の十分性については、収入支出全体の動向を踏まえ実質的な不足が生じているのかを判断する必要があるため、将来収支分析(負債十分性テスト)により検証を行います。(図3)
       危険準備金は、保険事故発生率に関するリスクに備えるため発生率の上昇によるリスクのみを考慮して、将来給付額の比較(将来発生する保険金が予定を上回らないかどうか)により積立金を定めます。

図3 負債十分性テストのイメージ
 
 実績等を基に将来(10年間)の収入・支出を推計し、資産が負債である保険料積立金を下回ることがないか確認。
   基準年度は、資産=保険料積立金としてスタート
   保険料積立金(負債)は予定基礎率で計算
  資産は実績等から推計した各年の収入・支出を利用して計算
   

 保険金等の支出は保険事故発生率に関するリスクの97.7%をカバーする水準を設定
   保険料積立金を資産が下回った場合は積立不足と判断
   

 不足額の現在価値の最大値を基準年度において積み立てる必要がある。
 
夫妻十分性のイメージ
 


 危険準備金の積立
       保険事故発生率にかかるリスクの99%をカバーする水準まで危険準備金○(「リスクA」に対応)を積み立てることとします。(図2−ケースII及びIII)
 従来どおりの方法により計算した危険準備金(注1)は、当面の間、「将来を予測できない外的要因によるリスク」に対応する危険準備金○(「リスクB」に対応)として積み立てることとしました。
       損害保険会社は当面の間これまでと同様に「異常危険準備金(注2)」として積み立てます。
 

図4 保険料積立金及び危険準備金のリスク
(現 行)   (新)
保険料積立金及ぶ危険準備金のリスク
(注1) 現行生命保険会社の危険準備金の積立限度額(第三分野に係るものの例)
   疾病入院リスク 疾病入院日額に予定平均給付日数を乗じ、これに千分の7.5を乗じて得た額
(注2)   現行損害保険会社の異常危険準備金
   正味収入保険料の160%


 ソルベンシー・マージン基準
       「危険準備金○」の積立限度額として計算される額は10年間のリスクに備える積立であるため、これを1/10した額(1年分)をリスク量とします。
       「危険準備金○」の積立額を新たにソルベンシー・マージンへ算入します。
 
(2)

 実施状況等の開示
     第三分野の保険事故発生率が給付事由ごと見込まれており、ストレステスト及び負債十分性テストを実施する際の将来予測においても、保険会社はそれぞれ独自のモデルを用いていることから以下の内容についてディスクロージャー誌に開示することとしました。
     第三分野における責任準備金の積立の適切性を確保するための考え方、ストレステスト、負債十分性テスト(特に危険発生率の設定の仕方)の合理性・妥当性
     ストレステスト、負債十分性テストの実施状況(追加保険料積立金、危険準備金の状況)
     医療、がん、介護等の区分ごと保険料に対する保険金等の支出の状況
 
(3)

 定期的なオフサイトモニタリングの実施
     保険会社から、商品別の契約動向や収益率、発生率等の動向について、定期的にモニタリングを行い、保険会社に適切な対応を求める基礎資料として活用していきます。

(4)

 リスク管理態勢の充実等
     基礎率変更権の実効性の確保
       現状においては、基礎率変更権を付した契約であっても、その行使基準が不明確であり、現実に行使するのは困難であるとの見方が強いことから、基礎率変更権の行使基準に透明性のある数値基準を導入し、募集時における重要事項として予定発生率の合理性、基礎率変更権の行使基準(数値基準)、変更内容等を説明するとともに、契約者への保険料変更見通し等の情報提供の拡充を行い、保険事故発生率が悪化した場合の基礎率変更権の実効性の確保を図ることとしました。
     保険計理人の機能強化
       既存の保険計理人の実務基準に基づく確認に加え、新たに負債十分性テスト等の実施を行うこととし、責任準備金の積立水準に対する保険計理人のチェック機能を強化します。また、商品認可申請時に保険計理人が保険数理的なチェックを行った意見書の提出を義務化することとしました。
     再保険の開示
       再保険を活用して長期の第三分野保険の不確実性を管理する場合は、その再保険の活用状況を開示することとしました。


.施行期日等
   保険計理人が保険数理的なチェックを行った意見書は、平成18年5月1日以降の認可申請書等に必要となります。再保険・保険収支状況の開示については、平成18年4月1日以降に開始する事業年度から適用されることとなります。
   基礎率変更権については、平成19年4月1日以降に保険募集を行い又は契約を締結する場合に適用されることとなります。また、ストレステスト、負債十分性テストの実施を含めた保険料積立金、危険準備金及びソルベンシー・マージン基準に関する改正は平成19年4月以降の事業年度から適用されることとなります。
     
   詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「保険業法施行規則等改正案(第三分野の責任準備金等ルール整備関係)の公表に対する意見募集の結果」及び「見直し後の規則等改正案」の公表について」(平成18年3月31日)にアクセスしてください。
 

損害保険会社におけるIBNR備金の積立ルール整備等について

 金融庁では、損害保険会社における既発生未報告損害支払備金の積立ルール及び保険計理人の関与・確認業務の強化等について、「保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」、「保険業法施行規則第73条第1項第2号の規定に基づき、支払備金として積み立てる金額を定める件を改正する告示(案)」、「保険会社向けの総合的な監督指針の一部改正(案)」を平成18年2月27日に公表し、同日から同年3月27日までの間パブリック・コメント手続きを行いました。パブリック・コメントでは、「日本損害保険協会」、「外国損害保険協会」及び「個人」の方から計5件のコメントをお寄せいただきました。これらのコメント及びコメントに対する金融庁の考え方については、平成18年4月10日に当庁ホームページにおいて公表しておりますので、ご参照ください。


.改正の概要
   損害保険会社における支払備金のうち、既発生未報告損害支払備金(いわゆるIBNR備金)(注1)については、これまで大蔵省告示第234号の規定に基づき「ある年度に積み立てた支払備金を、その1年後に認識する保険金・普通支払備金の実績値と比較することによって、当初の支払備金積立時には把握できていなかった積立不足額を求め、これに発生損害増加率を考慮して、既発生未報告損害支払備金として認識する。」等の方法により算出することとされていましたが、この算出方法では、事故発生から保険金支払までに1年以上を要するいわゆる“ロングテイル”(注2)の保険商品について充分に捕捉することができない等の問題がありました。
 このため、こうした保険商品の既発生未報告損害支払備金については、事故年度別の発生保険金データの統計的分析を基礎とした保険数理に基づいた、より精緻な計算方法による積立ルールを整備することとしました。
 また、既発生未報告損害支払備金の計算のほか、損害保険会社における責任準備金等の適正・妥当な見積もり等が重要となってきているなど、損害保険会社においても保険数理に基づく分野が従来にも増して重要となってきている状況を踏まえ、保険計理人の選任を要する損害保険会社を拡大するとともに、保険計理人の関与・確認業務を強化する内容の内閣府令等の整備を行いました。
   
 
(注1)「支払備金」、「既発生未報告損害支払備金」とは?
   支払備金とは、保険契約に基づく保険債務の一つであり、保険業法の規定により、保険会社が、毎決算期において保険契約に基づいて支払義務が発生した保険金、返戻金等のうち、まだ支出として計上していないものについて、その金額を「支払備金」として計上することとされています。
 支払備金には、決算期において、「既に報告を受けた事故につき個別に支払額を見積もる普通支払備金」と、「まだ支払事由の発生の報告を受けていないが保険契約に規定する支払事由が既に発生したと認める保険金等について見積もりにより計算する既発生未報告損害支払備金」の二つにより構成され、既発生未報告損害支払備金は、金融庁長官の定める告示による計算方法により算出することとされています。
 なお、既発生未報告損害支払備金は、英語の「Incurred But Not Reported Reserve」の頭文字をとって、IBNR備金ということもあります。
   
 
(注2)“ロングテイル”とは?
   “テイル”とは英語で“尻尾”の意味を持ちます。事故発生から保険金支払までの間に長期間を要することを“尻尾が長い”ということがあることから“ロングテイル”という表現をしています。


.改正の内容
(1)  既発生未報告損害支払備金(IBNR備金)の新たな積立ルール
     これまでは、既発生未報告損害支払備金の積み立てを要する保険種目を自動車保険、傷害保険等の特定の保険種類について規定し、その金額については、一定の算式により算出して積み立てることとしていましたが、積立対象の保険種類を自動車損害賠償責任保険(いわゆる自賠責保険)、地震保険を除くすべての保険契約に拡大しました。また、保険種類ごとの引受区分別(これを「計算単位」といいます。)に一定のスクリーニングを行い、その結果、ロングテイルであり、且つ、重要性があると判定されたものは、統計的見積法により既発生未報告損害支払備金を算出することとし、それ以外のものは、一定の算式を用いて算出した金額を積み立てることとしました。
 スクリーニングについては、その考え方を保険会社の総合的な監督指針に盛り込む一部改正を行いました。
 
(2)

  保険計理人関係
   選任を要する損害保険会社
       保険計理人の選任を要する損害保険会社は、これまで保険料積立金を計算する保険種類(積立保険)及び長期第三分野保険を取り扱う会社に限定されていましたが、原則としてすべての損害保険会社(自賠責保険或いは地震保険のみを取り扱う損害保険会社を除く。)に拡大しました。
     保険計理人の関与・確認業務の強化
       保険業法等において、保険計理人は、保険料の算出方法等にかかる保険数理に関する事項について関与することとされており、損害保険会社の保険計理人については、関与対象契約を積立保険及び長期第三分野保険のみとしていましたが、自賠責保険、地震保険を除くすべての保険契約に拡大しました。また、責任準備金の適正性及び十分性等の確認業務についても自賠責保険、地震保険を除くすべての保険契約について行うことと対象範囲を拡大しました。
 これに加えて、損害保険会社の既発生未報告損害支払備金については、これまで確認業務の対象ではありませんでしたが、その見積もりが保険会社の健全性に影響を与えるとともに、この度の改正により保険数理に基づく統計的見積法を導入することから、既発生未報告損害支払備金の適正性も保険計理人の確認業務に追加しました。
     保険計理人の資格要件の強化
       近年、保険料の弾力化や保険商品の多様化に伴い、保険料や責任準備金の算出方法等についても、高度化・複雑化が進展している状況にあるとともに、自然災害リスクに対応した異常危険準備金や今回の既発生未報告損害支払備金の統計的見積法の導入など、保険計理人の関与・確認業務の遂行のためには、従来に増して、より高度な知識と経験が必要となっている状況に鑑み、保険計理人の資格要件については、社団法人日本アクチュアリー会の正会員であり、かつ、一定以上の実務経験を有することを要件とすることとしました。
 また、保険会社の保険計理人の選任に当たっての留意事項や保険計理人の職務遂行に当たっての態勢整備等にかかる考え方や、保険計理人の職務遂行状況にかかる監督上の着眼点等を保険会社向けの総合的な監督指針に盛り込む一部改正を行いました。
 
(3)

  その他の改正(保険会社向けの総合的な監督指針)
     今回の損害保険会社の既発生未報告損害支払備金の積立ルール整備のほか、次の内容の改正を行いました。
     価格変動準備金の取崩しに関する着眼点
     記載の趣旨が不明瞭となっているとの指摘を受けたことから、記載内容の明確化を図るための一部改正を行いました。(記載の明確化を図るものであり、考え方を改めたものではありません。)
     参考純率への対応について
       損害保険料率算出団体が算出する参考純率を使用する保険商品の場合、その参考純率が改定された後1年を経過してもなおその純率を使用している場合には、その使用している純率は参考純率を基礎としておらず、自社独自の料率とみなされることから、引き続き使用する純率の合理性・妥当性について、保険業法第128条に基づく報告または資料の提出を求める旨を盛り込む一部改正を行いました。


.適用時期等
   改正内閣府令及び改正告示等については、以下のとおり公布(公表)し、それぞれ、平成18年5月1日から施行(適用)しています。
   「保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令」(平成18年4月13日(木)公布)
   「保険業法施行規則第73条第1項第2号の規定に基づき、支払備金として積み立てる金額を定める件を改正する告示」(平成18年4月14日(金)公布)
 

 「保険会社向けの総合的な監督指針の改正」(平成18年4月14日(金)公表)
       
 なお、損害保険会社の既発生未報告損害支払備金の新たな積立ルール及び保険計理人関係の規定は、平成18事業年度から適用されます。
 

 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から『「保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令等(案)」に対するパブリックコメントの結果について(損害保険会社におけるIBNR備金の積立ルール整備等)』(平成18年4月10日)にアクセスしてください。

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