平成18検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画について

 金融庁では、先般(7月27日)、「平成18検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画」を公表し、平成18検査事務年度における検査の実施方針や実施予定数を明らかにしました。検査基本方針及び検査基本計画の概要は以下のとおりです。
 当庁は、「金融改革プログラム」の下、利用者の満足度が高く、国際的にも高い評価の得られる金融システムの実現を目指しています。また、検査においては、「金融検査に関する基本指針」の運用等により金融機関との双方向の議論を重視して検査を行うほか、金融検査評定制度の定着に努めているところです。
 こうした中、平成18検査事務年度は、利用者保護の徹底の要請やバーゼル II (新しい自己資本比率規制)の開始等現下の金融機関を取り巻く情勢の変化に留意し、金融機関の業務の健全かつ適切な運営を確保するため、以下の基本方針に基づき、適正でかつ実効性ある検査の実施に努めることとしています。

 (a)

 利用者保護の徹底
 金融商品取引法が制定される中、金融取引における利用者保護を徹底する観点から、顧客保護等管理態勢等に重点を置き、金融機関の利用者保護への取組みを検証します。検査に当たっては、検査情報受付窓口に寄せられた情報のほか、昨年7月に開設した金融サービス利用者相談室等の情報も引き続き積極的に活用します。
 (b)  リスクの多様化及びリスク管理の高度化についての検証
 金融機関の資産運用や業務が多岐にわたってきていることによるリスクの多様化や金融機関のリスク管理の高度化について適切な検査を行います。
 (c)  金融業務の国際化・構造変化を踏まえた検証
 金融業務における国際化や構造変化、業務の外部委託の増加及び新たな事業者の参入に対して適切に対応します。
 (d)  中小企業金融についての検証
 金融機能の強化を通じて、中小企業の事業再生や地域経済の再生・活性化を図る観点から、金融機関による中小企業の実態把握の状況を勘案し、地域金融機関における中小企業の事業再生に向けた取組みを検証するなど、中小企業の経営実態等に即した検査を推進します。
 地域金融機関については、引き続きマニュアル別冊等を踏まえ、中小企業の事業再生に向けた取組みを十分に検証します。

 また、本事務年度の検査基本計画では、預金等受入金融機関300機関、保険会社15社、証券会社等10社、貸金業者等その他の金融機関385社のほか、政策金融機関・日本郵政公社6機関の検査を予定しております。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「平成18検査事務年度検査基本方針及び検査基本計画」の公表について(平成18年7月27日)にアクセスしてください。
 

 平成18年7月〜平成19年6月

「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」の進捗状況について

 昨年3月に公表された「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」(以下「新アクションプログラム」という。)に基づき、各地域金融機関は、それぞれの「地域密着型金融推進計画」(以下「推進計画」)を策定・公表し、取組みを進めています。
 各金融機関が「推進計画」の平成17年度(17年4月〜18年3月)における進捗状況について、それぞれ公表を行ったことを踏まえ、金融庁においても、去る7月4日、平成17年度の金融機関による取組み実績とこれについての評価及び今後の課題等について取りまとめ、公表しました。概要は以下のとおりです。

(参考)対象金融機関数 576金融機関(平成18年3月末現在)
地方銀行65行(埼玉りそな銀行を含む)、第二地方銀行47行
信用金庫292金庫、信用組合172組合


.金融機関の取組み実績
 各金融機関の17年度における取組みについては、創業・新事業支援機能等の強化、取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化、事業再生へ積極的な取組み、担保・保証に過度に依存しない融資の推進のいずれにおいても、着実に実績を上げています。具体的な項目について、主な傾向をまとめれば以下のとおりです。
 
(1)  創業・新事業支援機能等の強化
 創業等支援融資商品による融資の実績は、件数、金額とも大幅に増加しているほか、企業育成ファンドへの出資、創業・新事業支援に係る政府系金融機関との協調融資も大きく増加しています。

(参考)
 
創業等支援融資商品による融資
15年度 1,948件 179億円 ⇒ 16年度 2,817件 250億円 ⇒ 17年度 5,449件 603億円
企業育成ファンドへの出資
15年度 94億円 ⇒ 16年度 153億円 ⇒ 17年度 241億円
政府系金融機関等との協調融資
15年度 346件 374億円 ⇒ 16年度 702件 684億円 ⇒ 17年度 809件 987億円

(2)

 取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化
 商談会の開催等ビジネスマッチングの取組みが積極的に行われており、その成約案件は大きく増加しています。また、要注意先債権等の健全債権化等に向けた取組みについては、各金融機関において引き続き多様な経営改善支援の取組みが積極的に実施されています。このような中、17年度に経営改善支援を行った債務者(正常先を除く)の16.5%(約9,800先)の業況が改善し、債務者区分がランクアップしており、これは前回のアクションプログラムの1年目の実績を上回っています。

(参考)
 
ビジネスマッチングの成約案件
15年度 6,228件 ⇒ 16年度 10,428件 ⇒ 17年度 15,954件
経営改善支援取組み先(正常先を除く)のランクアップ率
平成15年度(集中改善期間の1年目) 16.0% ⇒ 平成17年度(重点強化期間の1年目)16.5%

(3)

 事業再生に向けた積極的取組み
 事業再生に向けた取組みについては、事業再生を行うためのノウハウの吸収・習得に引き続き努めているほか、中小企業再生支援協議会の活用が着実に増加しており、また、企業再生ファンドへの出資も増加しています。さらに、再生手法としては、DDS(債務の資本的劣後ローン化)やDES(債務の株式化)等の活用が見られます。

(参考)
 
中小企業再生支援協議会の再生計画策定先
15年度 201件 2,305億円 ⇒ 16年度 302件 3,422億円 ⇒ 17年度 380件 3,572億円
企業再生ファンドへの出資
15年度 109億円 ⇒ 16年度 168億円 ⇒ 17年度 169億円
DDS
15年度 7件 56億円 ⇒ 16年度 57件 281億円 ⇒ 17年度 64件 257億円

(4)

 担保・保証に過度に依存しない融資の推進等
 動産・債権譲渡担保融資が着実に増加しているほか、財務制限条項を活用した融資商品も、件数、金額とも大幅に増加しています。また、スコアリングモデルを活用したビジネスローンや私募債の引受け、シンジケートローンへの参画の実績も大きく増加しており、担保・保証に過度に依存しない融資の推進、中小企業の資金調達手法の多様化に向けた取組みも着実に成果を上げています。

(参考)
 
動産・債権譲渡担保融資
15年度 10,098件 1,102億円 ⇒ 16年度 19,000件 1,737億円 ⇒ 17年度 23,585件 1,998億円
財務制限条項を活用した商品による融資
15年度 2,131件 339億円 ⇒ 16年度 3,632件 954億円 ⇒ 17年度 5,486件 2,031億円
スコアリングモデルを活用した商品による融資
15年度 13.6万件  1.0兆円 ⇒ 16年度 19.1万件  1.8兆円 ⇒ 17年度 25.0万件  2.6兆円


.金融機関の取組みについての評価及び今後の課題
 
(1)  金融機関の取組みに対する評価
 
(a)  中小・地域金融機関に対する利用者等の評価に対するアンケートの結果によると、取組み全体に対する評価については、「大変進んでいる」「進んでいる」という積極的な評価が増加し5割を超えています。
(b)  他方、各施策に対する評価をみると、「事業再生への取組み」や「担保・保証に過度に依存しない融資等への取組み」に関しては、取組みが不十分であるとの意見も多く、特に「地域の利用者の利便性向上への取組み」については、「進んでいる」という積極的な評価よりも、「進んでいない」とする消極的評価が多く、地域との関係においては今後改善の余地があると考えられます。

(2)

 金融機関の取組みについての今後の課題
 18年度は、新アクションプログラムの2年目となりますが、今後、地域密着型金融の機能強化を図っていくためには、事業再生や担保・保証に過度に依存しない融資の一層の推進をはじめ、各種施策に引き続き積極的に取り組んでいくことが必要であり、とりわけ分かりやすい形での情報発信等を通じて地域の利用者の理解を高めていく努力が各金融機関に求められます。


 詳しくは金融庁ホームページの「報道発表資料」から「『地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)』の進捗状況について(平成17年度)」(平成18年7月4日)にアクセスしてください。

金融庁子ども見学デーの開催について(8月23日、24日)

 去る8月23日(水)と24日(木)の2日間、金融庁において「子ども見学デー」が開催されました。
 「子ども見学デー」とは、主催の文部科学省をはじめとした府省庁等が連携して、業務説明や省内見学などを行うことにより、親子のふれあいを深め、子どもたちが夏休みに広く社会を知る体験活動の機会とするとともに、あわせて府省庁等の施策に対する理解の増進を図ることを目的としており、今年は29省庁が参加しました。
 金融庁は平成16年度からこの見学デーに参加しており、この機会に暮らしの中の金融の動きや金融庁の仕事について理解を深めてもらうことを目的として開催しております。
 今年の見学デーも昨年と同様、事前に往復はがきで参加者を募りました。その結果、全国各地から昨年以上の応募があり、広報室での厳正な抽選の結果、23日21名の子ども達と19名の引率者、24日は20名の子ども達と18名の引率者にご参加いただきました。

 両日とも朝10時に9階特別会議室に集合いただき、まず、オリエンテーション及び業務説明、金融庁ホームページに掲載されている「カネールのKIN★YOUランド」の説明及び紹介を行いました。子ども達の多くは金融庁ホームページ内にある「カネールのKIN★YOUランド」を既にパソコン上で遊んでおり、今回はスクリーンに映し出されたゲーム内容を見ながら説明を受けていました。
 「櫻田副大臣とお話しよう!」では、副大臣の子どものころについての質問や、ゼロ金利解除に関する質問などを、副大臣から1つ1つ丁寧に答えていただきました。
 また、「大臣室見学」も行い、あいにく与謝野大臣は両日とも不在でありましたが、参加者は国会議事堂をバックに思い思いのポーズで室内を撮影されました。
 その後、審判廷に会場を移動し、子ども達参加者が抽選により「審判官」や「指定職員」、「被審人・代理人」となり、「有価証券報告書の虚偽記載事例」をテーマに「模擬審判」を行いました。子ども達は、最初こそ緊張した様子でありましたが、時間の経過とともに審判廷の雰囲気にも慣れ、最後は堂々とした発言をしており、子ども達はもとより引率者からも大変好評を得ました。なお、この模様はテレビでもニュースの一コマとして放映されました。

 子ども達及び引率者に記入いただいたアンケート結果からは、「とてもおもしろかった、とても参考になった」との感想のほか、「審判廷見学および模擬審判体験」が大変参考になったという意見が多く寄せられました。
 今回いただいた様々な参加者の声は、来年の子ども見学デーに活かしていくことはもちろんのこと、日頃の業務にも活かしていきたいと思います。今後も子ども達に金融の動きや金融庁の仕事について興味を持ってもらい、理解を深めてもらえるように金融庁としても努力してまいります。
 

金融コングロマリット監督指針の一部改正の公表について

 金融庁は、平成18年7月31日、「金融コングロマリット監督指針」について、所要の改正を行いましたので、その概要について説明させて頂きます。


.改正の経緯
 近年の金融コングロマリットに対する検査・監督の中で、グループ内金融機関の経営管理、コンプライアンスやリスク管理をはじめとする内部管理業務に関する不適切な事案が散見されました。こうした実状を踏まえ、「金融コングロマリット監督指針」を改正し、金融コングロマリットにおける経営管理態勢及び内部管理態勢を検証する着眼点として、以下の改正を行いました。


.改正の内容
 
(1)  金融コングロマリットにおける持株会社等をはじめとする経営管理会社が、グループ全体の適切な経営管理態勢の構築・遂行に果たすべき役割を明確にしました。さらに、グループ内金融機関の経営に対し、その金融機関又は持株会社等の経営陣でない個人などが実質的に関与していることによって、金融機関自身の経営管理態勢が疎かになっているような場合には、監督上特に留意することとしています。

(2)

 グループ内金融機関が、内部管理業務を経営管理会社又は他のグループ内金融機関と共通の役職員によって行わせている場合(証券取引法第45条ただし書に基づく弊害防止措置適用除外の承認など)における、監督上の着眼点を明確化しました。具体的には、内部管理業務を複数の金融機関で兼務する役職員が、適切な内部管理を行うに足る十分な知識・経験を有しているか、内部管理部門の人的構成・業務運営体制等がグループ内金融機関の業務規模や範囲等に適合したものとなっているか、といった点を検証することとしています。


.その他
 平成16年11月に監督局総務課内に設置された「コングロマリット室」は、金融庁組織規則(府令)の改正により、平成18事務年度から府令室となり、専担職員を配置した上で金融コングロマリット監督に当たっております。また、同府令の改正に伴い、金融コングロマリット監督指針の金融コングロマリットの定義に係る箇所についても所要の改正を行っております。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「金融コングロマリット監督指針の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について」(平成18年7月31日)にアクセスして下さい。
 

 銀行、保険、証券会社等(証券会社、証券投資顧問業者又は投資信託委託業者)のうち、2以上の異なる業態の金融機関を含むグループをいいます。詳しくは、金融庁ホームページのアクセスFSA第30号(2005年5月号)「金融便利帳」にアクセスして下さい。

信託会社等に関する総合的な監督指針の一部改正の公表について


.はじめに
 金融庁は、信託の委託者及び受益者保護の観点等から信託引受審査体制の整備に関して、平成18年7月19日に「信託会社等に関する総合的な監督指針」(以下、監督指針と言う。)を改正しました。本コーナーにおいては、監督指針改正の経緯及び改正の概要について説明させて頂きます。


.監督指針改正の経緯
 改正信託業法の施行(平成16年12月30日)後、信託会社を始めとして、信託契約代理店、信託受益権販売業者等の新規参入が着実に増加しており、監督指針に対する照会や業界からの規制緩和要望等を踏まえ、本年4月28日付で監督指針の一部改正(施行は5月1日)を行いました(平成18年4月28日付「信託会社等に関する総合的な監督指針の一部改正について」ご参照)。その際、信託会社等の参入時の審査及び参入後の監督上の着眼点として新たに明示することとしていた「信託引受審査体制の整備」に関しては、検査局において新たに策定される「信託検査マニュアル」の考え方や一部の信託銀行の検査において把握された問題事例を踏まえ、その記載内容を監督上の着眼点としてより適切なものとなるよう再検討することとしていたことから、今般、監督指針の一部改正を実施しました。
 今回の改正は6月6日から7月6日までの間にお寄せいただいたパブリックコメントを踏まえ、7月19日に改正・公表し、同日から施行されています。また、7月19日にはパブリックコメントの結果も公表しておりますので、併せてご参照ください。


.改正の概要
 
(1)  新規参入時の審査における着眼点にかかるもの
 
(a)  信託引受審査体制の整備
 委託者及び受益者保護の観点等から、運用型信託会社及び信託兼営金融機関の新規参入時の審査事項として、法令等及び信託契約に基づく信託業務の適正な履行が可能な信託の引受けを行うための信託引受審査に関する社内規則が整備されているか、また、当該規則に基づく適正な信託引受審査を確保するための体制が整備されているか、との着眼点を明記しました。また、併せて、当該規則において記載すべき事項を例示しました。
(2)  参入後の監督上の着眼点にかかるもの
 
(a)  業務運営状況の評価に関する留意事項
 信託会社及び信託兼営金融機関等に対して業務運営状況に関し報告・改善を求める場合の、当該業務運営状況の評価に当たっての留意事項として、委託者に対する契約内容の説明や契約締結前の信託引受審査、受託後の信託財産の管理・運用等の信託業務を適正に行うための態勢が整備され、かつ、当該信託業務に関する適切な内部管理を行うための態勢が確保されているか否かについて検証することを明記しました。
(b)  善管注意義務の遵守状況の評価に関する留意事項
 信託会社及び信託兼営金融機関等における善管注意義務の遵守状況の評価に当たっての留意事項として、信託受託者として善管注意義務を十分に果たし得るには、信託受託のための調査・審査・管理が適正に行われる必要がある旨明記し、当該調査等の状況の検証に当たって留意すべき点を例示しました。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「信託会社等に関する総合的な監督指針の一部改正について」(平成18年7月19日)にアクセスしてください。

信託検査マニュアル(金融検査マニュアル別編〔信託業務編〕)の概要について

 金融庁では、検査官が信託兼営金融機関(信託銀行及び信託業務を営む都銀・地銀等)の信託業務を検査する際の手引書(マニュアル)である「信託検査マニュアル(金融検査マニュアル別編〔信託業務編〕)」を本年7月13日に策定し、検査局長通達として発出しました。
 本コーナーにおいては、「信託検査マニュアル」の概要について説明させていただきます。


.信託検査マニュアルの概要
 
(1)  本検査マニュアル策定の趣旨
 金融庁では、平成11年以降、金融検査マニュアル等を策定するなど順次整備してきました。その整備の一環として、今般、信託兼営金融機関における信託業務に係る検査マニュアルを策定しました。
 近年、資産の流動化・証券化において信託が活用されるケースが増加しているなど、金融技術の進展や市場の動向を踏まえ、信託兼営金融機関の信託業務の果たす役割はますます重要なものとなってきています。この時期に本検査マニュアルを策定することは、時宜にかなったものと考えています。

(2)

 本検査マニュアル公表までの経緯
 平成18年4月、金融庁検査局内に民間の有識者・実務者を含む検討会を設け、本検査マニュアルの整備に向けて専門的・技術的観点から検討を開始しました。検討会においては、様々な角度からの議論(詳細については、議事要旨をご参照)が行われました。
 そして、その検討を踏まえた上で、「信託検査マニュアル」(案)を取りまとめ、広く一般からの意見をいただきました。寄せられた意見等を基に検討を行い、PDF「信託検査マニュアル」として成案を得、検査局長通達として発出した。
 なお、本検査マニュアルは、平成18検査事務年度(平成18年7月)以降に実施する検査において適用することとしています。

(3)

 本検査マニュアルの適用
 信託兼営金融機関の検査を行うに当たっては、銀行業務と信託業務の区分を明確に意識し、信託業務や信託兼営金融機関特有の問題に関しては本検査マニュアルに基づき、また、銀行業務に関しては金融検査マニュアルに基づき、検査を実施することとしています。
 また、信託兼営金融機関において取扱っている信託商品は、多岐にわたり、その特性も区々であるため、検査官が、本検査マニュアルを適用する際には、金融機関の規模・特性に加え、信託商品の特性に留意し、機械的・画一的な運用に陥らないように留意すべきことを明記しています。


.各チェックリストのポイント
 
(1)  信託業務管理態勢の確認検査用チェックリスト
 信託業務管理態勢は、信託業務全般を適切に管理するための内部管理態勢について、 I .経営全般、 II .法令等遵守、 III .リスク管理、 IV .内部監査の4項目に分け整理したチェックリストです。
  I .経営全般については、(a)信託業務に係る経営方針を明確に定めているか。(b)善管注意義務、忠実義務、分別管理義務等の履行を信託業務に係る経営方針に定めているか、(c)利益相反行為を防止する態勢の整備について信託業務に係る経営方針に定めているか、などのチェック項目を設けています。
  II .法令等遵守、 III .リスク管理、 IV .内部監査については、信託業務に精通した人材を配置しているかなどのチェック項目を設けています。

(2)

 信託引受管理態勢の確認検査用チェックリスト
 信託兼営金融機関が信託契約を締結する際には、契約内容の適正な説明等を前提とした信託引受を行うことが必要です。
 このため、本チェックリストにおいては、(a)委託者の属性(知識、目的、経験、財産の状況等)を把握し、個別の勧誘行為が適合性に照らして問題が無いか確認しているか、(b)委託者に対して、法令上、説明が義務付けられているリスク説明等の事項や投資判断に必要な事項等の情報を提供するなど、受託者としての説明責任を果たしているか、(c)信託契約による信託の引受に関しては、委託者保護の観点から不実の告知や断定的判断の提供等の法令上禁止されている行為を行っていないか、などのチェック項目を設け、信託引受管理態勢の整備状況・機能発揮状況を検証することとしています。

(3)

 信託引受審査態勢の確認検査用チェックリスト
 信託兼営金融機関は、信託契約の締結時までに、(a)善管注意義務などの受託者としての義務が履行可能なものかどうか、(b)法的所有者としての責任を果たすことができるものかどうか、(c)委託者の違法行為等に加担することにならないか、などの観点から委託者の目的や信託財産などの適切な審査を行い、法令等及び信託契約に基づく信託業に係る業務の履行が可能な信託のみを引き受ける態勢を確保することが重要です。
 そのためには、新規商品や新規スキーム等に関する事前の審査及び信託の引受前における受託審査を適正に行う態勢を整備し、適正な引受審査を行う必要があります。
 このため、本チェックリストにおいては、(a)信託契約の内容やスキームが、脱法的なもの、マネーローンダリング等の法令等により禁止されるものでないか、(b)信託契約の内容が、委託者の不適切な目的(例えば、損失隠し、開示逃れ、脱税)に基づくものでないこと、などを詳細に確認・検証しているか、(c)オフバランスを目的とする流動化案件について、会計上のオフバランスの可否について確認・検証しているか、(d)受託金額(信託金額)については、委託者の不公正な会計処理を助長したり、流動化スキームにおいて、信託財産を受託する際に、信託財産から生み出す収入を過大に見積ること等により評価額を過大評価し、その結果、受益者の利益を損なったりすることがないように妥当性を確認・検証しているか、(e)不動産を信託財産とする際には、建造物に関する法令等違反の有無を確認し、違反がある場合には、その実態等を把握した上で、合理的にみて是正可能な期間内に適法状態へ是正するなどにより、受託者としての所有者責任を履行することが可能か否かを検証する態勢となっているか、などのチェック項目を設け、信託引受審査態勢の整備状況・機能発揮状況を検証することとしています。

(4)

 信託財産管理に係る管理態勢の確認検査用チェックリスト
 信託兼営金融機関は、善良な管理者の注意をもって、信託財産の分別管理や委託者の権利保全の確実な実施などの信託財産管理が求められます。
 このため、本チェックリストにおいては、(a)信託兼営金融機関が、受託した信託財産を自己の固有財産及び他の信託財産と明確に区分し、かつ、信託財産に係る受益者を適切に判別できるように信託財産の分別管理を行う態勢となっているか、(b)委託者等の運用指図権者の指図に従い、信託財産を有価証券で運用する場合の約定照合や受渡決済が適切に行われているか、(c)株式や社債の価値に変動を及ぼす株主割当、合併及び会社分割等のコーポレートアクション等については、信託財産に損害を与えないように、迅速かつ的確に情報収集を行い、権利保全を適切に行っているか、(d)信託財産である土地・建物等の不動産の管理については、信託契約の条項を遵守し、また、環境リスク等問題のある不動産を受託した場合には、所有者責任及び受託者責任の観点から、当該問題に係る状況の変化を把握するための監視や問題の治癒などの方策を講じているか、などのチェック項目を設け、信託財産管理に係る管理態勢の整備状況・機能発揮状況を検証することとしています。

(5)

 信託財産運用管理態勢の確認検査用チェックリスト
 信託兼営金融機関は、善管注意義務や忠実義務等を踏まえた信託財産運用を行う必要があります。
 このため、本チェックリストにおいては、(a)善管注意義務の履行の観点から、信託契約及び資産配分や分散投資などを定めた運用ガイドライン等を遵守する態勢となっているか、(b)信託財産を有価証券で運用する場合、開示されている気配値や取引条件に基づき、顧客にとって最良の条件で取引が行われる態勢が整備されているか、(c)委託者に対して信託財産の運用方針等の説明、運用実績の報告を行う態勢となっているか、(d)受益者への忠実義務の観点から、利益相反取引を防止する態勢となっているか、などのチェック項目を設け、信託財産運用管理態勢の整備状況・機能発揮状況を検証することとしています。
 特に、(d)については、信託財産運用管理上、最も重要な事項と考えます。信託兼営金融機関は、自己の固有財産と信託財産双方の財産を運用しているために、様々な利益相反行為が発生しやすい業務環境にあります。そこで、信託勘定の利益を犠牲にして自己または第三者等の利益を図ることがないように利益相反行為を防止する必要があります。
 また、 V .受託者固有資産(銀行勘定)のリスク管理態勢の項目においては、銀行勘定の健全性確保の観点からのチェック項目を設けています。信託兼営金融機関は、預金等の取扱を行っていますので、信託業務を行うにあたっては、受益者の保護と預金者の保護を両立させる業務運営を行うことが重要です。

(6)

 併営業務関連リスク等管理態勢の確認検査用チェックリスト
 信託兼営金融機関においては、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第1条第1項各号に掲げる併営業務を行うことができます。その併営業務で発生する事務リスク、
 システムリスクの特性及び併営業務に関し遵守すべき法令等を十分に認識し業務を行っていくことが必要です。
 このため、本チェックリストにおいては、信託兼営金融機関で行うことができる併営業務のうち、遺言執行業務、証券代行業務、不動産関連業務及び年金制度管理業務の適正性を確保するための態勢が整備されているかチェック項目を設け、併営業務関連リスク等管理態勢の整備状況・機能発揮状況を検証することとしています。


.おわりに
 本検査マニュアルは、あくまで検査官が信託兼営金融機関の信託業務を検査する際に用いる手引書として位置付けられるものです。各信託兼営金融機関においては、自己責任原則の下、このマニュアル等を踏まえ創意・工夫を十分に生かし、それぞれの規模、特性及び業務内容に応じた内部規程・業務細則を自主的に作成し、信託兼営金融機関の業務の健全性と適切性の確保、委託者及び受益者の保護を図ることが期待されます。
 また、本検査マニュアルのチェック項目を信託兼営金融機関と共有することで、検査における金融機関と検査官の双方向の議論を充実し、より効率的かつ実効的な検査に繋がるとともに、金融行政の透明性の向上に資することが期待されます。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「信託検査マニュアル(金融検査マニュアル別編〔信託業務編〕)の策定について」(平成18年7月13日)にアクセスしてください。

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