アクセスFSA 第76号(2009年3月)

【トピックス】

金融円滑化のための新たな対応について

1.はじめに

金融庁では、3月10日に「金融円滑化のための新たな対応について」を公表しました。以下、今般の「対応」の趣旨・内容について、説明します。

2.「金融円滑化のための新たな対応」の趣旨

金融庁においては、企業等に対する円滑な金融は金融機関の最も重要な役割の一つであるとの認識の下、金融機関が安心して資金供給できる環境を更に整備する観点等から、金融機能強化法の改正法の迅速な施行、貸出条件緩和債権に該当しない場合の取扱いの拡充、銀行等の自己資本比率規制の一部弾力化等、これまで様々な措置を講じてきました。今般の「対応」は、世界の景気が急速に悪化する中で、中小企業はもとより、中堅・大企業や住宅ローンを抱える個人も厳しい状況に直面していることを踏まえ、企業金融や個人向け融資(住宅ローン)の円滑化に向けて、特別ヒアリングと集中検査の実施や緊急保証に係るリスク・ウェイトの見直しをはじめとする、追加的な措置を講じることとしたものです。

3.「金融円滑化のための新たな対応」の内容

  • (1)金融円滑化のための特別ヒアリング、集中検査の実施

    • (a)特別ヒアリング

      企業金融の円滑化に向けた金融機関の取組み状況についてきめ細かな実態把握に努めるとともに、金融機関に対し、年度末に向けた金融の円滑化を改めて要請することを目的として、2月中旬から、主要行をはじめ原則全ての銀行及び信金・信組に対し、個別に年度末の特別ヒアリングを実施しています。

    • (b)集中検査

      (a)の特別ヒアリングの結果等を踏まえて、(1)中小企業向け融資、(2)中堅・大企業向け融資、(3)住宅ローンの各分野を対象に、(ア)年度末金融への取組み状況及び(イ)新年度入り後の信用供与の状況について、

      • 金融機関が期待される金融仲介機能を十分に発揮しているか
      • 貸し渋り・貸し剥がしと受け取られかねない対応がなされていないか

      といった点に焦点を絞り、4月~6月に短期集中的に検証します。

  • (2)緊急保証に係るリスク・ウェイトの見直し

    信用保証協会による緊急保証付き融資については、緊急保証制度の政策的役割や政府予算によりほぼ全額バックアップが講じられていることなどを踏まえ、特例的に自己資本比率規制上のリスク・ウェイトを10%から0%に引き下げました。これに関しては、すでに告示改正を行い、本年3月末決算から反映可能であり、具体的な取扱いに関しての解釈集(Q&A)も併せて公表しています。

  • (3)コベナンツ対応の弾力化の促進

    景気が急速な悪化を続ける中で、売上げの減少等により収益が悪化している企業等において、金融機関からの借入れに係るコベナンツ(借り手に対して一定の純資産の維持等を義務付ける条項)に抵触する事例が生じつつあります。

    こうした状況を踏まえ、金融機関がコベナンツの変更・猶予を行っても、それのみで不良債権(貸出条件緩和債権)に該当しないことを「貸出条件緩和債権関係Q&A」において明確化するとともに、コベナンツを機械的・形式的に取り扱わないよう、金融機関に対して要請しました。

  • (4)市場型間接金融(シンジケート・ローン等)の積極的活用の要請

    景気が急速な悪化を続ける中で、中小企業はもとより中堅・大企業も含め企業の資金繰りは厳しさを増しています。加えて、昨年末には社債・CP市場における調達環境が急激に悪化し、企業が銀行借入れにシフトするといった動きが見られました。

    こうした直接金融の機能低下と間接金融へのシフトを踏まえ、リスク分散を図った形での資金供給も促進する観点から、シンジケート・ローン等の積極的活用を金融機関に対して要請しました。

  • (5)金融機能強化法の活用促進

    金融機関に、金融機能強化法を積極的に活用し、金融仲介機能を適切かつ十分に発揮していただくため、以下の環境整備を実施します。

    • (a)公的資本の商品性について、金融仲介機能を平時に復するという制度の趣旨を踏まえ、配当利回り等は平時の水準に設定することとします。

    • (b)経営強化計画の「業務粗利益経費率(注)」については、計画終期の実績が計画始期の水準を上回った場合であっても、機械的に監督上の措置を講じることはない旨を、監督指針に明記します。

    • (c)金融機関に対し、トップヒアリング等の機会を通じて、金融機能強化法の活用や、将来に備えた優先株式の発行に関する定款変更等についても検討していただくよう要請を行います。

    • (注)業務粗利益経費率(OHR)=(経費-機械化関連費用)/業務粗利益

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、「金融円滑化のための新たな対応について」(平成21年3月10日)にアクセスしてください。


「貸出条件緩和債権関係Q&A」の改定について

1.はじめに

金融庁では、3月10日に公表した「金融円滑化の新たな対応について」の中の「コベナンツ対応の弾力化の促進」を受けて、以下のとおり「貸出条件緩和債権関係Q&A」を改定しました。また、併せて、先般(平成20年11月7日)の「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」による主要行等向けの総合的な監督指針等の改正を踏まえて、関連する記述を修正しています。

2.概要

景気の急速な悪化が続く中、売上げの減少等により収益が悪化している企業等において、金融機関からの借入れに係るコベナンツ(借り手に対して一定の純資産の維持等を義務付ける条項)に抵触する事例が生じつつあります。

他方、法令上、借り手を支援する目的で、「借り手に有利となるような貸出条件の変更」をした場合、その債権は原則として「貸出条件緩和債権」(不良債権)に該当することとされています。

そこで、コベナンツの変更・猶予そのものは、貸出金の金利や返済期間の変更等の貸出条件の緩和を行うものではないことから、コベナンツの変更・猶予のみをもって、「貸出条件緩和債権」に該当すると判断する必要はない旨を「貸出条件緩和債権Q&A」において明確化し、金融機関がコベナンツに弾力的に対応できるよう環境整備を行いました。

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、「貸出条件緩和債権Q&A」の改定について(平成21年3月10日)にアクセスしてください。


我が国の預金取扱金融機関のサブプライム関連商品及び証券化商品等の保有額等について

金融庁では、我が国の預金取扱金融機関について、昨年12月末時点におけるサブプライム関連商品等及びFSF報告書における先進的開示事例を踏まえた証券化商品等の保有額等を取りまとめ、3月6日に公表しました。

サブプライム関連商品等については、12月末において、我が国の預金取扱金融機関全体で、保有額は約5,650億円(9月末比 約▲2,320億円)、評価損及び実現損累計額の合計額は約1兆530億円(9月末では、約9,500億円)となりました。

他方、証券化商品等全体については、12月末において、保有額は約19兆4,080億円(9月末比 約▲2兆8,630億円)、評価損及び実現損累計額の合計額は、約3兆2,380億円(9月末では、約3兆2,730億円)となり、証券化商品等全体の評価損及び実現損の累計額は、9月末時点と比べ、約350億円減少しました。

このように証券化商品等全体で損失が減少した原因については、様々な要因が重複して影響したものと思われますが、主として有価証券に係る会計基準の見直しを受けて、一部の金融機関において、時価評価の方法の変更が行われたこと等によると考えられます。

金融庁では、平成19年9月末以降、我が国預金取扱金融機関全体におけるサブプライム関連商品等や証券化商品等(注)の保有状況を、統一した基準の下に開示してきました。

こうした取組みは、サブプライムローン問題に端を発するグローバルな金融市場の混乱が我が国金融システムに与える影響に関する、正確な理解に資するものであると考えています。 金融庁としては、情報発信の取組みをこれからも推進し、金融システムの現状や金融行政の考え方に容易にアクセスできる環境の整備を引き続き図っていきたいと考えています。

(注) FSF報告書における先進的開示事例を踏まえた証券化商品等の保有状況については、平成20年3月末時点より集計・公表しています。

我が国の預金取扱金融機関のサブプライム関連商品の保有額等について
FSF報告書における先進的開示事例を踏まえた我が国の預金取扱金融機関の証券化商品等の保有額等について

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、我が国の預金取扱金融機関のサブプライム関連商品及び証券化商品等の保有額等について(平成21年3月6日)にアクセスしてください。


「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」に基づく貸出条件緩和の状況について(平成20年7~9月期・10~12月期)

金融庁では、アクセスFSA第72号で取り上げたとおり、金融機関が借り手に対する貸出条件の緩和に柔軟に応じることができるよう、昨年11月7日に、各監督指針及び金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]を改定しました(「中小企業向けの貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」)。

そして、この措置を受けて、金融機関による中小企業向け融資の貸出条件緩和の状況について調査・集計し、平成21年2月10日に結果を公表しました。

この結果によると、金融機関が中小企業に対して貸出条件の緩和を行った債権は、主要行等、地域銀行及び信用金庫・信用組合全体で、20年10~12月期において32,837件(1兆3,123億円)となり、これを20年7~9月期と比較すると、件数ベースで17.2%(金額ベースで11.3%)の増加となっています。

また、貸出条件の緩和を行った債権のうち、経営改善の見込みがあり、不良債権に該当しなかった債権は、20年10~12月期において7,349件(3,112億円)となり、これを20年7~9月期と比較すると、件数ベースで5.1倍(金額ベースで5.9倍)となっています。

昨年11月7日に「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」を講じてから、2か月弱の時点での調査結果であるため、確たる判断は困難ですが、調査結果には、この措置の効果が現れてきていると考えています。

この措置を踏まえて、各金融機関では、条件緩和に柔軟に応じるため、行内規程の整備や営業現場の職員への研修といった態勢整備が進められており、金融庁としては、金融機関による貸出条件緩和に対する取組みが、これまで以上に進められることを期待しています。

「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」に基づく貸出条件緩和の状況について

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