市場へのメッセージ

平成31年4月より、「証券監視委メールマガジン」は「市場へのメッセージ」へとリニューアルしました。
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市場へのメッセージ(平成31年4月~)
証券監視委メールマガジン(平成22年11月~平成31年3月)

最新号〔4月24日(水) 配信分〕

<目次>

  1. 大盛工業株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について
  2. 株式会社サカイホールディングスにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
  3. Quadeye Trading LLCによる高速取引に係る偽計に対する課徴金納付命令の勧告について
  4. タツタ電線株式会社社員による内部者取引及び情報伝達行為並びに同社員から伝達を受けた者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について

1.大盛工業株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和6年3月22日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました

【事案の概要】
 課徴金納付命令対象者は、大盛工業株式について、自己名義(4口座)を利用し、インターネット注文による現物取引及び信用取引で、同株式の相場を安定させる目的をもって、一連の売買及び委託を行ったものです。
 
 主な取引手法は、
連日にわたり最良買い気配から制限値幅の下限付近までの幅広い価格に大量の買い注文を重層的に発注して買い板を厚くすることで、株価が下落することを阻止(下値支え)し、
・直前約定値又はその上値に自身の売り注文と買い注文を発注(対当売買)
・直前約定値より上値に買い注文を発注(株価引戻し)
・引け条件付きの買い注文を直前約定値より上値に発注(終値関与)
となります。
 これらの方法により、目標水準の192円程度から株価が下落することを阻止する取引を行っていました。
 
【事案の特色】
 本件は、金融商品取引法第159条第3項を適用した安定操作取引の事案です。
 違法な安定操作取引とは、相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって行う取引のことであり、典型的には、株価の下落を阻止するために買い支えを行う行為などを指します。
 また、本件は、日本取引所自主規制法人から提供された情報等を参考として実態解明を行うなど、各機関との連携により勧告に至ったものです。
 
【証券監視委からのメッセージ】
 誘引目的をもって行う変動操作取引だけでなく、本件のような自然な需給関係に基づかない取引により、相場を安定させる目的をもって、自らが意図した株価に導こうとする安定操作取引もれっきとした相場操縦行為に該当します。こうした事案を周知することにより、このような違反行為を未然に防止する効果を期待したいと思います。

違反行為事実の概要について

2.株式会社サカイホールディングスにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、株式会社サカイホールディングス(以下「当社」といいます。)における金融商品取引法に基づく開示規制の違反について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和6年3月26日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました
 
【法令違反の内容】
 当社は、当社の連結子会社が行った不適正な会計処理により、純資産額を過大に計上すること等によって、「重要な事項につき虚偽の記載」がある下記の開示書類を東海財務局長に提出しました。
 
(継続開示書類)
・令和元年9月期有価証券報告書(令和元年12月25日提出)等、合計3通
・令和元年9月期有価証券報告書の訂正報告書(令和4年3月31日提出)
・平成31年3月期第2四半期報告書(令和元年5月15日提出)等、合計8通
・平成31年12月期第1四半期報告書の訂正報告書(令和4年3月31日提出)等、合計5通
 
【主な不適正な会計処理】
・売上の前倒しによる売掛金の過大計上
不正の概要(イメージ図)
 証券監視委は、本事例のような有価証券報告書等における虚偽記載などの開示規制違反に対して、引き続き厳正に対処してまいります。

3.Quadeye Trading LLCによる高速取引に係る偽計に対する課徴金納付命令の勧告について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和6年3月26日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました
 
【事案の概要】
 本件の課徴金納付命令対象者は、高速取引行為を行うことにつき関東財務局長の登録を受けた米国籍の法人であるQuadeye Trading LLC(以下「クアッドアイ」といいます。)であり、クアッドアイは、英国領ケイマン諸島籍のリミテッド・パートナーシップであるダックス・パートナーズ・エルピー(以下「ダックス」といいます。)との投資一任契約に基づき、ダックスの資産を運用していました。
 本件は、クアッドアイが、高速取引行為により、自らに有利な株式等の売買を行うことを企て、6銘柄の取引において、その相当部分を引け直前に取り消すことを予定した引け条件付き注文(※)を発注株数等の少ない側に発注することにより、引け板における引け条件付き注文の発注株数等の偏りが減少した状況を作出し、第三者に同引け条件付き注文が約定を意図したものであるとの錯誤を生じさせ、これを前提とした投資判断をさせた上で、大引け1マイクロ秒(100万分の1秒)前に、あらかじめ発注しておいた引け条件付き注文の相当部分を取り消すことにより、自己に有利な価格へ終値に影響を与えたという偽計事案です。
 
(※)「引け条件付き注文」とは、前引けまたは大引けに執行されることを条件とした注文のことです。
 
<取引形態の一例>
 本件における取引形態の一例を紹介します。
 
(1) クアッドアイ発注前
 クアッドアイ発注前の時点では、引け条件付き注文の発注株数等が買い側又は売り側に偏っているために、引値が上昇又は下落することが想定される状況にある銘柄を見つけることから始まります。
 概要図の「本件取引形態の一例」の右端のイラストをご覧ください。クアッドアイ発注前の時点において、大引けにおける需給バランスが買い側に偏っているために終値の上昇が想定される状況になっている銘柄であることが分かります。
 
(2) 大引け2時間前から数十秒前
 大引け2時間前から数十秒前の時点では、引け条件付き注文の発注株数等の少ない側に引け条件付き注文を発注することにより、引け板に表示される引け条件付き注文の発注株数等の買い側と売り側の偏りが減少した状況を作出します。
 概要図の右端のイラストでは、売り側に引け条件付き注文を発注することで、大引けにおける需給バランスについて、買い側と売り側の偏りが減少した状況を作り出していることが分かります。
 
(3) 大引け直前(1マイクロ秒前)
 大引け1マイクロ秒前の時点では2つの行為が行われます。
 1つ目の行為として、自ら発注した引け条件付き注文と売買が反対となる側にIOC注文を発注して即時に約定させポジションを構築します。
 なお、IOC注文とは、指定した値段かそれよりも有利な値段で即時に一部あるいは全部の数量を約定させ、約定が成立しなかった注文数量を失効させる条件付き注文のことです。
 また、2つ目の行為として、上記(2)の時点で発注しておいた引け条件付き注文のうち、その発注株数等からIOC注文の約定株数等を差し引いた株数等を取り消し、IOC注文の約定数量と同数量となるように引け条件付き売り注文の変更注文を行います。
 概要図の右端のイラストの大引けにおける需給バランスでも引け条件付き売り注文の一部を取り消したため、再び買い側に偏っている状況が作り出されていることが分かります。
 
(4) 大引け
 大引けの時点では、取り消さずに残した引け条件付き注文を自らに有利な終値で約定させ、大引け1マイクロ秒前に約定させたIOC注文との価格差により利得を得ています。
 
 クアッドアイは、6取引において、プログラムを用い、このような高速取引行為を行っていました。
 
【事案の特色】

(1) 本件は、高速取引行為による不公正取引に対する初の課徴金勧告事例です。
 高速取引行為の特徴としては、株式等の取引を行うことについての判断をプログラムに従って自動的に行っている点やコロケーションサービスという取引所の売買システムに近接した場所に取引参加者のサーバー設置を許容するサービスを利用した発注など、発注に係る情報伝達に要する時間を短縮するための方法を用いている点が挙げられます。
 本件では、6取引すべてにおいて、大引け1マイクロ秒前、つまり100万分の1秒前といった極めて直前のタイミングで、IOC注文によるポジション構築と、あらかじめ発注しておいた引け条件付き注文のうち、当該ポジションを超える数量の取消し等を行っているところ、このような発注は高速取引行為だからこそ可能であったものといえます。

(2) 本件は、ケイマン諸島、英国、米国の各金融規制当局から支援を受けて調査を進めたほか、日本取引所自主規制法人から提供された情報等も参考として、実態解明を行った事案です。
 また、証券監視委では、市場分析審査課が行う取引審査において、取引データの分析を行っておりますが、本件においても同課との連携により、クアッドアイによる高速取引行為の実態解明を行っています。

【証券監視委からのメッセージ】
 証券監視委では、「中期活動方針(第11期:2023年~2025年)」において、非定型・新類型の事案等に対する対応力強化に取り組むことを掲げています。
 本件違反行為を勧告することにより、高速取引行為による不公正取引という非定型・新類型の事案についても、証券監視委が監視しており、海外金融規制当局や自主規制機関との緊密な協力により、市場の公正を確保していることを社会に示すことができたと考えています。
違反行為事実の概要

4.タツタ電線株式会社社員による内部者取引及び情報伝達行為並びに同社員から伝達を受けた者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について

  証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、令和6年3月29日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました

【事案の概要】
 本件は、タツタ電線株式会社(以下「タツタ電線」といいます。)の社員である課徴金納付命令対象者(1)(以下「対象者(1)」といいます。)が、情報伝達規制違反及び内部者取引規制違反を行い、さらに、対象者(1)から伝達を受けた、課徴金納付命令対象者(2)(以下「対象者(2)」といいます。)が、内部者取引規制違反を行ったものです。
 
・ 対象者(1)について
 対象者(1)は、タツタ電線の社員を務めていましたが、同社の役員がその職務に関しJX金属株式会社(以下「JX金属」といいます。)からの伝達により知った、JX金属の業務執行を決定する機関がタツタ電線株式の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実(以下「本件事実」といいます。)をその職務に関し知りながら、親族である対象者(2)に対し、本件事実の公表前に、タツタ電線株式の買付けをさせることにより同人に利益を得させる目的をもって、本件事実を伝達し、当該伝達を受けた対象者(2)が本件事実公表前にタツタ電線株式を買い付けたものです(情報伝達規制違反:違反行為事実A)。
 さらに、対象者(1)は、本件事実の公表前に、対象者(2)名義で、タツタ電線株式を買い付けたものです(内部者取引規制違反:違反行為事実B)。
 
・ 対象者(2)について
 対象者(2)は、対象者(1)から本件事実の伝達を受けながら、本件事実の公表前に、タツタ電線株式を買い付けたものです(内部者取引規制違反)。
 
【事案の特色等】
 本件は、株取引に関して高い規範意識を保つことが求められる上場会社の社員が、日常業務のなかで知り得た公開買付け情報を悪用して、親族に対して利益を得させる目的で情報伝達を行い、さらに自らも当該親族口座で買付けを行っていたという事案です。
 
【証券監視委からのメッセージ】
 たとえ親類縁者であっても職務に関して知り得た情報を話すべきではなく、また僅かな取引や第三者名義の証券口座を利用した取引であっても、証券監視委は、幅広い調査・分析により、真の取引者を容易に把握することが可能であり、不自然な取引は見逃されることはないということを周知したいと思います。
違反行為事実の概要について
 
 

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