1 |
.参入基準等 |
|
(1) |
信託業の区分
信託は、受託者に対する「信認」を背景に財産権等の所有権を受託者に移転するスキームでありますので、信託を業とする者については、受益者保護の観点から、一定の参入基準を満たすものでなければなりません。
信託会社として行おうとする管理処分行為の態様は多様であることを考慮し、信託会社が行う信託業の機能及び業務内容に応じて、信託財産の運用を行う運用型信託会社と管理型信託会社とに区分し、参入基準を区分しております。
管理型信託会社は、受託者が自らの裁量で信託財産の形を変えたり処分したりせず、その財産の通常の用法に従って保存・維持・利用のみを行うか、又は委託者等の指図に従ってのみ処分を行う信託会社をいい、運用型信託会社は、受託者が自らの裁量で信託財産の形を変えたり、運用や処分を行います。
そして、運用型信託会社については、免許制とした上で、裁量性が低い業務のみを営む管理型信託会社については、一定の拒否要件に該当する不適格者を排除する登録制とし、より緩やかな基準のもとで参入を認めることとしました。なお、管理型信託会社については、定期的に登録拒否要件に該当するか否かチェックして不健全な業者を排除することができるよう3年毎の更新制としています。 |
(2) |
免許・登録審査基準 |
|
○ |
人的構成
免許、登録の申請がなされた場合には、内閣総理大臣は、定款及び業務方法書の規定が法令に適合し、かつ、信託業務を適正に遂行するために十分であるか、人的構成に照らして、信託業務を的確に遂行することができる知識及び経験を有しているか等について審査します(法第5条第1項、第10条)。
的確に信託業を遂行できる人的構成を有するか否かは、免許ないし登録申請書に添付された業務方法書に記載された具体的な業務内容に則して審査することとします。 |
○ |
財産的基礎
信託会社は、信託業務を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有していることが必要でありますので、最低資本金を法律で定めました。最低資本金は、委託者および受益者保護の見地から、信託財産に対する最終的な担保となります。
運用型信託会社は、他人の資産の運用の判断を自らが行うとともに、自らが財産の管理者となり分別管理等の受託者責任を履行して財産を的確に管理しなければならないことから、最低資本金を1億円としました(施行令第3条)。
これに対し、管理型信託会社については最低資本金を5000万円としました(施行令第8条)。管理型信託会社は、自らの判断で運用を行わないので、最低資本金額は運用型信託会社より低いものとしましたが、財産が受託者名義となり、分別管理が履行されないと受託者の破産等によって受益者に損害が生ずるというリスクを抱えた業務である点では運用型信託会社と同様であり、単なる財産の管理業者よりも高い経営の安定性が求められるためです。
信託会社は、受益者保護の見地から、最低資本金(1億円又は5000万円)を上回る純資産額を維持することも義務付けられます(法第5条第2項第2号)。そして、開業後に純資産額が最低資本金に満たなくなった場合、内閣総理大臣は、監督上必要な措置を命令できます。 |
○ |
組織形態
信託会社の組織形態については、業務の安定的な継続性及び会社の機関間の相互監視機能に優れている「株式会社」形態を原則としています。 |
○ |
主要株主規制
主要株主(20%以上の議決権付株式の保有等)の影響により経営が歪められることを防止し経営の健全性を確保するため、一定の欠格事由(取締役の欠格事由と同等の欠格事由等)を定め(法第5条第2項第9・10号)、その遵守を届出制によってチェックすることとしました。 |
|
|
2 |
.業務範囲等
信託会社については、受益者保護の見地から、他業との利益相反行為を防止するなど信託業務の適正な遂行を確保し、信託会社の財務の健全性を確保し、また信託業に専念することが要請されます。そこで、原則として信託業以外の他業を禁止され、内閣総理大臣の承認を受けた場合に限り、兼業が認められることとしました。
兼業承認の可否は、信託業務(本業)に与える影響及び信託業務との関連性により判断されます(法第21条第2項)。
兼業業務が信託業務に関連するかどうかは、信託会社が営む信託業務の内容に応じて具体的に判断すべき事柄でありますが、例えば、不動産の管理処分信託を行う信託会社における不動産管理・販売業務、有価証券管理処分信託を行う信託会社における証券業や投資顧問業等が、一般的には信託業務に関連するものと認められるものと考えられます。
なお、信託兼営金融機関については、従来から、幅広い分野に及ぶ総合的な信託業とあわせて併営業務を行ってきており、また金融機関として自己資本比率規制等により固有財産の健全性やリスク管理を確保する仕組みも存在することに鑑み、引き続き併営業務を営むことができるものとしました(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下「兼営法」という。)第1条第1項)。
その他に、利用者の誤認防止と信頼確保のための商号規制(法第14条)、経営の安定性確保のための取締役の兼職制限(法第16条)を規定しております。 |
3 |
.信託業務の第三者への委託
受託者は、委託者から信認を受けた者として、基本的には自ら信託財産の管理を行わなければなりません(信託法第26条第1項)。
しかしながら、金融の分業化や専門化、資産運用におけるグローバル化等が進む現代において、信託業務のすべてを受託者が行うことは、信託業務の効率的かつ適切な遂行の観点から現実的とは言えないということも事実です。
そこで、改正信託業法においては、信託契約に委託先(未確定の場合は選定基準及び手続)について定めがあり、委託先が委託された業務を的確に遂行できる者であり、委託契約において分別管理等が規定されているといった要件を充足する限りにおいて、信託会社は、信託業務の一部を第三者へ委託することができることとしました(法第22条第1項)。この場合には、受益者保護の見地から、委託先も信託業法の規定の適用を受けます(法第22条第2項)。
しかし、信託業務の全部を委託することは、信託業の引受けを免許制又は登録制とした本法案の趣旨を逸脱することから、認められません。
法第22条第1項に規定する信託業務の委託先としての「第三者」に該当するか否かは、当該第三者が信託財産の管理又は処分に関する裁量を有すると認められるか否かにより判断することとし、定型的なサービスを利用する場合や単純な事務処理を行わせる場合には、これに該当しないものと考えます。
また、受益者保護に欠けることのないよう、信託会社は委託先が受益者に与えた損害の賠償責任を負うこととしました(法第23条)。 |
4 |
.行為規制 |
|
(1) |
販売勧誘ルール、ディスクロージャー
信託商品は実績配当が基本であり(信託法第19条)、受益者の自己責任が求められることや、信託商品スキームは極めて複雑となり得ることを踏まえ、信託に係る取引の公正を確保し、委託者の保護に欠けることがないよう、販売勧誘ルール、ディスクロージャーについて規定しました。 |
|
○ |
虚偽の説明、断定的判断の提供、損失補てんの約束、特別の利益提供等が禁止されます(法第24条第1項)。 |
○ |
委託者の知識、経験及び財産の状況に照らした適切な信託の引受けをしなければなりません(法第24条第2項)。 |
○ |
信託契約の締結に先立ち信託契約の内容の説明を義務づけられます(法第25条)。これによって委託者が重要な事実について認識しないまま信託関係に入ることが防止できます。 |
○ |
信託契約成立時に信託契約の内容を記載した書面交付を義務づけられます(法第26条)。これによって契約内容の明確化が図られています。 |
○ |
計算期間毎に受益者に対して信託財産の状況報告書を交付するよう義務づけられます(法第27条)。これによって、受益者に対するディスクロージャーの強化が図られています。
なお、元本補填契約付信託については、預金類似の商品ですから、受益者保護のため、預金取扱金融機関としての健全性規制の備わった信託兼営金融機関のみが、引き続き提供できることとしました(兼営法第5条の4)。 |
|
(2) |
受託者責任
信託会社は、信託の本旨に従って、善良な管理者の注意をもって信託の事務を処理し(善管注意義務、法第28条第2項)。自己又は自己の利害関係人の利益を優先することによって受益者の利益を害する取引を行ってはならない(忠実義務、法第28条第1項)等の受託者責任を規定しました。
さらに、信託財産の保護を図るため、信託契約において当該取引を行う及び当該取引の概要について定めがあり、かつ、信託財産に損害を与えるおそれがない場合を除き、信託財産と固有財産間の取引(自己取引)を行ってはならないとしました(法第29条第2項)。実際に自己取引が行われた場合には、信託財産の計算期間ごとに、当該取引の状況を記載した書面を作成し、受益者に対して書面の交付を義務づけられます(法第29条第3項)。これにより、一層の信託財産の保護が図られるものと考えます。
また、受託者たる信託会社は、信託財産と自己の固有財産及び他の信託財産との分別管理体制の整備その他信託財産に損害を生じさせ、又は信託業の信用を失墜させることのない体制の整備を義務づけています(法第28条第3項)。 |
(3) |
営業保証金
信託会社等が業務を営むにあたって、上記のように定める管理失当や十分な説明義務を尽くさなかったことにより、信託商品を取得した顧客に損失を与える可能性があります。そこで、委託者・受益者の保護を図る必要から、営業保証金制度を採用し(法第11条)、信託の受益者に優先弁済権を認めました。
必要な営業保証金額は、信託会社については2500万円、管理型信託会社は1000万円としました(施行令第9条)。 |
|
5 |
.監督 |
|
(1) |
内閣総理大臣は、必要に応じて、信託会社に対し、立入検査を行うとともに、業務改善命令、業務停止、免許ないし登録取消し、役員解任の命令といった監督上の措置をとることができます(法第42〜45条)。内閣総理大臣は、業務運営の状況を把握する観点から、信託財産に関して取引する者(信託業務の委託先、受益者等)に対しても報告を求めることができます。 |
(2) |
破産により信託会社の免許・登録は失効するとともに(信託業法第46条第1項、第41条第2項第3号)、信託会社の受託者としての任務は終了します(信託法第42条第1項)。
裁判所は、信託会社の監督権を有していた内閣総理大臣と連絡、協力しつつ、破産手続を進めることが合理的であることから、必要な連絡・協力体制を講じるための規定を設けています(法第50条第1項、第2項)。 |
|
6 |
.信託会社の特例 |
|
(1) |
同一の会社集団に属する者の間における信託の特例
グループ企業各社が保有する知的財産権を親会社などが集中管理し、当該会社が、グループ全体として戦略的・効率的活用を図る方法として信託を活用しようとするニーズがあり、これに対応するため、グループ企業内の信託であって、かつ、受益者がすべてグループ内に収まっている場合には、受託者が信託会社としての免許・登録を要せず、届出のみで信託業を営むことができることとしました(法第51条第1項)。
この場合には、グループ企業以外に受益者が存在せず、また、グループ企業内での相互監視機能が働くことが期待されますので、営業として行われる信託であったとしても、信託業法で求める各種の規制(参入規制や行為規制・監督規制)は適用されません。 |
(2) |
承認TLO(Technology Licensing Organization)
「大学等技術移転促進法」に基づき主務大臣の承認を受けた技術移転機関(承認TLO)についても、特例を設けました。
承認TLOは、事業の実施計画が主務大臣(文部科学大臣及び経済産業大臣)の承認を受けていること、知的財産戦略本部決定(平成15年7月8日)において、信託業への「グループ企業内の管理会社やTLOの参入は原則自由とするよう、2003年度中に所要の法整備を行う」とされたことなどを考慮し、管理型信託会社の登録拒否要件の一部を緩和した登録制としました(法第52条第1項)。
承認TLOについては、株式会社でなくても、信託業を営むことができ、しかも、信託会社と異なり、最低資本金額規制がかからない、登録の更新が不要である、商号の使用は強制されない、取締役等の兼職制限や主要株主規制はかからないといったように、信託業への参入が容易になるように配慮しております。
信託業参入後については、委託者及び受益者保護を図るため、承認TLOに対しても、管理型信託会社に対するものと同様の行為規制・監督規制が課されることになります(同条第3項)。 |
|