特集:
お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウム
〜お金活き活き、まち活き活き〜
第3回
セッション2:「市民による地域社会の活性化・地域社会に貢献する市民のお金の使い方を考える」(12月17日・大阪)
基調講演(櫻田内閣府副大臣)(1月28日・千葉)
 
 第3回は、前号に引き続き、金融庁、近畿財務局、大阪府の共催により開催した「お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウム〜お金活き活き、まち活き活き〜」のパネルディスカッション・セッション2「市民による地域社会の活性化・地域社会に貢献する市民のお金の使い方を考える」の模様とアンケート結果について、また、平成18年1月28日(土)千葉にて、金融庁、関東財務局、千葉県の共催により開催したシンポジウムの模様の中から、櫻田内閣府副大臣の基調講演をご紹介いたします。
 

パネルディスカッション・セッション2「市民による地域社会の活性化・地域社会に貢献する市民のお金の使い方を考える」

 
 コーディネーター  生島 ヒロシ 氏
 パネリスト(順不同)   川北 英隆 氏  高見 一夫 氏  法橋 聡 氏


(生島) いよいよこれから第2部でございますが、「市民による地域社会の活性化・地域社会に貢献する市民のお金の使い方を考える」ということでお送りしたいと思います。


法橋 聡 氏(近畿労働金庫 地域共生推進センター長)より「地域発・市民発のコミュニティ・ビジネスが地域を元気にする〜支える仕組みを地域につくろう〜」と題して発表いただいた後、法橋氏を交えて次のとおりパネルディスカッションが行われました。〜


(生島) さて、いよいよ第2部です。まず川北先生からお話をお伺いしたいのですが、今小さな政府を目指そうとしていますが、小さな政府が生み出す地域社会とは一体どういうものとお考えでしょうか。

(川北) 小さな政府と聞いて思い浮かぶのは、日本はすごく豊かな社会だということです。そういう社会には本当はいろいろなニーズ、例えば、こういう生き方をしたい、こういう生活をしたい、こういう旅行をしたい、こういう活動をしたいといったニーズがあると思うのです。しかし、1億2千万人を統括している大きな政府ではそのようなニーズに応えることがなかなか難しい。政府が小さくなっていくことで、地方や地域での活動がより活発になるきっかけができると思います。すなわち、政府が小さくなることによって地域の工夫が生きてくるので、例えば大阪府の住民なら単に大阪府がどういう政策を取るのかと待つだけではなくて、自分たちのニーズを満足させるために自発的に活動する社会が生み出せるのではないかと思います。

(生島) 高見さん。今、法橋さんのお話にもありましたが、コミュニティ・ビジネスが注目されているのはなぜだと思いますか。

(高見) そうですね。今、先生がおっしゃったように、まず地域の中にいろいろな課題、ニーズがあると思います。1つは今までサービスの担い手である例えば、行政機関が公平性の原則や財源上の制約などでサービスを提供しにくくなっています。企業は今の国際競争の中で競争に奔走しなければならないし、営利という面からどうしても制約がありますので、そこから漏れ落ちるサービスがたくさんあるのだろうと思います。
 もう1つは、担い手が新たに出てきているということだと思います。これは、先ほどから話題になっている団塊の世代の方、地域でいつも暮らしに密着されている女性の方々、社会参加を求めておられる傷害のある方、また、今はどちらかというとニートや引きこもりが目立ってはいるのですが、生き方を模索している若い人たちが、地域の顔の見える関係の中で自分の在り方を探っていて、それがちょうどマッチングしてきていると思います。

(生島) 先ほど法橋さんのプレゼンテーションの中にもありましたが、団塊の世代の方はこれから会社を卒業します。実際もっと働きたいのだけれど一応定年だから仕方なく。しかし、今まで彼らの蓄えた力はすごく大きな物があると思うのです。新たに、退職金を全部使うのではなくてその一部を使って、また、例えば労金からお金を借りて、新たなビジネスを起こしたいと考える人がいると思いますが、既に先輩たちが起こしている、あるいはこういうのがうまくいっているといった具体例があれば教えていただけませんか。

(高見) うまくいっているかどうかはわかりませんが、コミュニティ・ビジネスの講座の中で最近目立ってきているのが、団塊の世代でもうすぐ退職になる50代半ば以降の男性です。地域へ戻っていかれるわけです。法橋さんがうまく「地域デビュー」と表現されましたが、地域の中で自分たちはどう生きていくのかが大きなテーマになっています。
 例えば、ある大手の通信会社の部長職にある方が、講座に来られました。私は「IT関係ですからパソコン教室でもされるのでしょうか」と問いかけますと、「いや、先生、とんでもないです。もうそんなことしたくないのです。だからここへ来ているのではないですか。」という答えが返ってきました。「何がしたいのですか?」と聞くと「中国茶の喫茶店」をやりたいとおっしゃいます。「それは儲かりますか?」と問いかけますと、「いや、儲からなくていいのです。地域のお役に立つような形で、地域の奥さんやお年寄りにどんどん来てもらってゆっくりしていただいて、なんとか回ればいい。少々の赤字で、うちの嫁さんが許してくれる範囲であれば、続けていきたい。」とおっしゃっているのです。
 ある意味、企業社会において利益を追求してがんばっていた在り方から、地域へ戻られたときには違う価値観で生きていきたい、そこにコミュニティ・ビジネスがフィットしているということもいえると思います。

(生島) 法橋さん。でも、そういうプランだったらお金を貸しますか?

(法橋) 個々に判断をいたします。お金を貸すのは本当に厳しいことですが、個々というのは別にして、そういうお金が流れる仕組みを地域でどうこしらえるかがスキームとしてこれから考えていかなければいけないところかと思います。
 コミュニティ・ビジネスの事例であれば、高見さんからもお話がありましたが、配布した資料の中に本が入っております。大阪府がこの2年間、今年の3月末まで行ってこられた事業で、助成金を受けて事業を展開しておられる実例がこの本に載っています。中にはホームレスの方々を支援するための株式会社など、本当に形態は様々です。先ほどの高見さんの話にもありましたが、ニートや引きこもりの問題を地域でやるために地域で喫茶店を起こすといった例もございます。社会復帰というのは会社に戻るということだけではなく、地域の主人公になるような、地域で生きていける場を創ろうということもあります。喫茶店などの事業をやりながら事業に参画してもらう仕事など、様々なものが動いています。例えば、吹田では、地域通貨「いっぽ」が動いています。地域通貨とは地域のサービスをみんなで共有して豊かにしていこうということですが、そういった先進事例がたくさんあったりします。
 私も付き合いが多くて、いろいろな人と付き合い、家へ戻りますと、「この頃あんたはNPO、ボランティアっていっぱい言うてるけど、家のボランティアはどうしたん?」とよく言われます。しかし、夜昼土日関係なしに動いておられる方は生き生きしておられる方が多いです。

(生島) なるほど。高見さん、素朴な疑問ですが、NPO法人は、「Non Profit Organization」の略ですね。つまり非営利組織です。コミュニティ・ビジネスにおいて、ある程度営利を求めてはダメなのですか?そんなことはないですよね。

(高見) 営利を求めてというか、収益は必要です。ただ、動機や目的が地域の様々な課題解決にあるということが違う所だと思うのです。
 付け加えたいのですが、法橋さんから事例の話がありました。配布した資料の中にハンドブックというのがありますが、これは2003、2004年度の2年間にわたって大阪府が立ち上げ資金を支援をされ、立ち上がった約100のグループの事例集です。大阪ボランティア協会が上手にまとめていますが、この中の94ページを見ていただきますと、大阪府が支援をされた経過が明らかになっています。
 例えば、テーマを決めずにどうぞ応募してくださいというのが「先導的CB(コミュニティ・ビジネス)創出支援事業」です。また、それ以外にも、今の地域課題に対して行政がテーマをリードされた「モデル提案型CB創出支援事業」があります。例えば健康福祉部の場合「母子家庭のお母さんの仕事作り」、あるいは「障害者と共に行うコミュニティ・ビジネス事業」、環境農林部の場合「環境にやさしい暮らし推進に関する事業」といったように様々なテーマが設定された結果、何百というグループが応募して実際に100のコミュニティ・ビジネスが動いているという事実を私たちは重視したいと思います。
 振り返って、なぜ今コミュニティ・ビジネスなのだろうと考えるのです。少なくとも高齢化社会がどんどん進んできているのですが、これから地方よりも大都市の方が高齢化が進んでいくスピードが速いと言われています。特に大阪では千里ニュータウンや泉北ニュータウンと大きなニュータウンが戦後に開発されましたが、そこでは高齢化が一斉に進んでいます。大規模でなくてもある地域に行きましたら、わずか5年後に高齢化率が50%を超えるという地域もあります。そういったことに対しどれだけ準備できているのでしょう。
 単に高齢化だけではなく、家族形態もすごく変わってきています。核家族化は最近では個族といわれ、ひとり暮らし家庭が非常に増えています。かつて家族が担っていたような家事や子育てを家族ではできなくなってきています。また、地域社会のつながりも薄くなってきて、その中で孤独死が起こったり、あるいは子供に対する虐待が起こったり、引きこもってしまったりということが起こってきています。そういうサインが既に出ているということなのです。
 そういった課題に対して対応しようとしているのがコミュニティ・ビジネスであると感じています。

(生島) これはNPOでなくてもいいわけですよね。

(高見) はい。ですからまず課題解決をやっているわけです。それはいきなり事業収入としてペイできないかもしれないけれども、例えば、子供の相談をしなければいけない、ひとり暮らしの高齢者の方の見守りをしなければならないという、必要だからやろうじゃないかというボランティア精神をスタートとしています。事業収入は後の話で、例えば会員の会費で収入をまかなったり、寄付でまかなったり、あるいは行政の何らかの助成金でまかなったりしながら、しかしそれだけでは維持するのは難しいので、事業収入を確保して、自立性を持って展開していこうとお考えいただけたらと思っています。

(生島) 法橋さん、ではコミュニティ・ビジネスが活性化するためには何が必要でしょうか。

(法橋) そうですね。コミュニティ・ビジネスについて厚生労働省の報告書があります。雇用創出会議の報告書だと思うのですが、コミュニティ・ビジネスの賃金水準というのがあり、平均年収で264万円となっています。これはしっかりした統計がなかなか難しい世界で、一般的にコミュニティ・ビジネスはそれに特化していますが、NPOの皆さんよりは多少高いようです。とは言え、なかなかそれで現役の方が一家をまかなう、食べていけるかといえば難しいです。ですから、お金を回し、事業を回し、キャッシュフローを回しながら、一番コアな方々がそれに関わりながら多少食べていけるような仕組みをどう作るかということが重要です。事業をしっかりやればいいということかもしれませんが、課題解決型事業に対して支える仕組みを自治体なり何なりでどう形成していくかということでしょうか。

(生島) 川北先生、どうですか。コミュニティ・ビジネスでお金が流れて行くためには、どういう事をしたほうがよろしいとお考えでしょうか。

(川北) そうですね。1つは府や市が助成するということがあるのでしょう。もう1つは、事業の担い手あるいはお金の出し手としてお年寄りを活用するということでしょう。特にリタイアされた人にとってみれば、そんなに収入を得なくてもいいが、自分たちがもっている知識を役立てたい、あるいは自分たちの労働力を安く提供してもよい、もしくはそういう事業にすごく社会的な意義を感じて寄付をしたいという方がおられると思います。そういう意味では、コミュニティ・ビジネス自身がもう少し目立って、ボランティアをしていただける方、労働力は提供できないがお金や知恵は出すという方を募るということが必要だと思います。
 もう1つは、法橋さんが先程おっしゃったように、地域の金融機関がSRI(Socially Responsible Investmentの略、社会的責任投資)を行う、むしろ金融機関のCSR(Corporate Social Responsibilityの略、企業の社会的責任)と言ったほうがいいと思いますが、そのような観点でお金を出すということが考えられます。地域の金融機関はその地域のニーズや状況をよく知っていますので、それが可能だと思います。金融機関自身が自分たちの収益の一部を地域に提供すれば、当面は儲からないかもわからないが、将来的にはその地域が活性化しますので、地域の金融機関自身の状況もよくなっていくわけです。このように、長い目でお金を還元していくことも必要だと思います。
 いずれにしても、いろいろな人たちがいろいろな所で支え合わないことには、多分成立しないビジネスかなという気がします。

(生島) 法橋さん、そういう点では地域の金融機関の役割がすごく大きいと思うのですが、そのあたりはどうお考えですか。

(法橋) そうですね。まさに川北先生がおっしゃったように地域の金融機関は地域の事情をよく知っている立場でもありますから、それぞれの領域に応じて地域にお金を回すようなことをすべきだと思います。金融機関は間接金融ですから、預金者の方々がその金融機関を通したお金がどう地域に回っているのかが、なかなか見えにくいのです。例えば、地域のスモールな事業でも地域の人々に見える事業と連携していく金融という姿があれば、割と地域の方々に金融の姿が見えやすいと思います。そういった意味では、金融機関の資源を通してですが、最近はSRI型の預金、自分の預金を社会に良く使いたい、極端に言えば多少リスクがあっても地域を良くするための仕組みであるのならば、そこにお金を流したいという方々もおられます。それに対応する仕組みが、まだ金融の中でできていませんが、そういったものを地域につないでいく仕組みを創るのが、特に地域の金融機関のこれからの在り方、もしくは切り口なのかなと思います。

(生島) 高見さん、どうでしょう。

(高見) それに付け加えて、法橋さんからもお話がありましたが「大阪府社会起業家育成支援プロジェクト」というのがあります。この中にある「大阪府社会起業家ファンド」の説明をさせてもらいたいと思います。
 大阪府民の寄付でできている福祉基金というのがあります。「大阪府社会起業家ファンド」は、その一部に枠をとり、コミュニティ・ビジネスの立ち上げを応援するファンドとして位置づけられているのです。
 これは3つの段階から成り立っております。まず第1段階はスタートアップ段階のコミュニティ・ビジネスを応援する、上限100万円までの助成金です。私たち(おおさか元気ネットワーク)もその一つなのですが、中間支援組織を経由して、中間支援組織が推薦を挙げる形を取っていますが、趣旨は、社会的課題、特に緊急性の高いもの、重要性のあるものを発見して、新しいアイデアや発想を持って、取り組んでいる事業計画について応援していきます。それについては、一般のビジネスもそうなのですが、マーケティング調査もやりますし、実際に事業プランを組んであたっていくのですが、1回やってみないと手ごたえが掴めないことがよくあります。それを3か月間あるいは6か月間という短期間の間資金的に応援をするので、フィージビリティ調査をやってくださいというのが、この第1段階です。
 次に第2段階ですが、ステップアップし、もう少し事業を大きくしなければならない時になりましたら、投融資を考えなければならなくなります。その際に法橋さんがおっしゃったような、近畿労金や大阪ではフューファイナンスという公的なノンバンクの金融機関がありますが、そういった方々が融資の制度を作っていただいておりますので、中間支援組織が応援して、融資につないでいくというのが第2段階です。
 最後に第3段階ですが、今度はもう少し大きく事業展開をしたいといった局面を迎えます。中には事業規模が売り上げ数千万円、中には億も超える事業所が出てきております。その場合には私たちは頼母子講的な、信頼関係のあるグループで基金を作り、それを信託して何倍かの融資を受けられる枠を作ろうではないかという計画が進んでいるところです。そのような形で事業の展開規模、あるいはニーズに応じて資金調達をしていこうと考えています。

(生島) 具体的な例として、どの位の金額まで融資してくださったのがあるのですか。

(高見) どうですかね。今、融資。

(法橋) 労金でということで言いましたら、NPO法人でも不動産を担保にする場合はかなり大きいものもあります。担保がない場合は、1,000万円までという制度でやっていますが、数千万ということも中にはあります。先ほど高見さんがおっしゃった頼母子講というのは、コミュニティ・ビジネス等を先駆的にやっておられる方々が次に続いて来られる方々のための土台を築いておこうと、自分たちでお金を出し合って何らかの形でお金を作って、例えばそれを労金の融資の裏打ちとして労金に入れていただくことにより、融資の枠を作ってしまうということです。こうしたスキームをこれから考えていこうかということです。
 それは先ほどの京都の仕組みとよく似ていて、テーマ別や地域別で地域のお金を回して行くための資金循環創造の機能を作っていこうというのです。金融機関の審査の目線だけでは、当然お金が返ってくるかどうかという目でのみ判断しがちです。しかし、金融機関の審査以前のところで、NPOもしくは市民の方自身が、その事業への融資が地域に役立つのかどうかといった、公益性をまず審査するという枠組みを入れることで、地域に本当に豊かなお金が流れる仕組みを市民と金融機関と自治体が一緒になって作っていくというイメージです。

(生島) 川北先生、僕の知っている人がある会社を作られて、息子さんに譲られて、のんびりしていたけれどもうイヤだと。やっぱり何かを起こそうということで、最近また会社を作られて、今度は上場にまで持っていくのです。65歳ぐらいの方です。引退されたときは、少し老けたかなと思いましたが、最近お目にかかって、生き生きしていらっしゃるのです。サミエル・ウルマンの言葉ではないですが、いくつになっても気持ちの持ちようで青春はあると思うのですが、そういう点ではいくつになっても起業する位の気持ちというのは必要ではないかと思うのですが。

(川北) それはおっしゃるとおりだと思います。私の父親を見ていても、商売人だったのですが、辞めてしまうと急に老けてしまうのです。それまですごく元気だったのに動けなくなるし、足は弱るし、頭も弱ってくるのです。私自身も老年に足を一歩踏み入れているのですが、年をとれば、若いときに比べて体力的に劣ってくるものの、逆に社会がよく見えてくることがあります。世の中の人はこういう動きをしているのだというのが見えてきます。
 後は、人とのつながりです。それは年齢の関数となると思いますが、年をとるとすごいネットワークを持っているはずです。そういうものを上手く活かすような活動をやれば、老けないと思います。上場まで持っていくのは特異な例だと思いますが、地域や社会のために役立つ仕事はいっぱい転がっているはずですから、そういうところで能力を活かしていただければと思います。私自身もできる限り活かそうと考えています。

(生島) なるほど。高見さん、例えば50代後半、もうそろそろ還暦だと。NPOやコミュニティ・ビジネスにとらわれなくてもいいのですが、このままでは終わりたくない、もう一花咲かせたいという意味では、最近介護で特養などをするときには国や地域からの援助もあるのではないかと思います。個々人の特性は置いておいて、時代の流れを考えると漠然と何かを始めたい、一応今までの経験はある、いろいろなネットワークもありますよと。今の時代を考えると、どういうお仕事をされると確率的に時代のニーズにもコミュニティのニーズにも合って、これはお勧めですよというのがありますか。

(高見) 一括りで言いますと、コミュニティ・ビジネスと私は言いたいのですが、今おっしゃったように、まだ元気な50代後半の方、あるいは60代の方、逆に70代を越えて障害を持ってしまった方もいらっしゃるのです。私の経験をお話しますと、あるひとり暮らしの高齢者73歳の男性のところにヒアリングに行ったことがあります。その方は、右半身に少し障害が出ているのです。フラフラして、どう見ても働ける人ではないのです。ところがこの方、にいろいろなデイサービスとか福祉の事を紹介しても見向きもしません。帰りに言われたのが「兄ちゃん、仕事くれや」という言葉でした。何かやらせてほしいとおっしゃっているのです。「なんにもすることあらへん」とおっしゃっているのです。その方は、例えばどこかに勤務することはもちろんできないでしょう。ところが、この方は本気でシルバー人材センターまで行って登録もしています。
 そういう思いに接した時に、地域の中に働きたい、何かしたいという方がたくさんおられるのだと思いました。それはビジネスという普通の企業の形になると少し荷が重くなってしまうのですが、地域の中でコミュニティ・ビジネス、ボランティアグループがあると、十分働き手としてやっていけるだろうと思います。当然、やはり商売だと考えられる団塊の世代の方もいらっしゃるでしょう。それはそれとして、地域のいろいろな課題があります。家事支援もあるでしょうし、リサイクルの切り口の取り組みもあるでしょう。町づくりの取り組みもあるでしょう。どんどん取り組んでいただきたいと思っています。

(生島) 川北先生、今後いろいろな意味で、蓄えるだけではなく、よい形でお金を増やすことと同時にお金を使うことでいろいろな貢献ができるわけですが、個人がお金を使うことは社会にどのような影響やインパクトを与えることができるとお考えでしょうか。

(川北) どうなのでしょう。消費の意味では、これから日本の人口が減っていくわけです。それに加えて、歳をとってくると食べる量、お酒を飲む量が減っていくので、日本経済全体の活性度が落ちていくのが1つの方向だと思います。ただし、その中で個人が、ボランティアをやるために少し足を伸ばして、例えば京都のお寺を回る趣味をもった大阪の人が京都へ行って、仕事上培った英語力で外国人を案内すればどうでしょう。自ずと交通費がかかりますし、外国人と一緒に少し飲み食いをするとか、そういうことが起こって、日本の人口減少による活性度の低下を持ち上げる効果が期待できると思います。

(生島) 法橋さん。最近は間接金融に頼らないで直接金融でいろいろな形でファンドを立ち上げたり、直接的にお金を投資していただきビジネスを始めたりする人もいるのですが、こうした中にあって、より地域が元気になる、そして国も元気になるという労金の役割を考えた場合、労金としては、どういうことをやり、また、どういう人を応援したいとお考えですか。

(法橋) そうですね。金融として考えましたら、労金だけではないかもしれませんが、コミュニティ・ビジネスもしくは地域貢献型事業への融資があるわけです。今はまだまだ少ないですが、安定的にたくさん大きくなってきた場合、それを逆にSPCなどを通して証券化していけば、市民が市民投資家としてお金を通してそういった事業をサポートする側に回れるのかと思ったりします。そういった金融技術を通じて、ボランティア等はできないけれども、こういった事業を応援しようかという市民を市民投資家として参画させるスキームを作る可能性も、それはそれであるのかなと思います。また、労金だけではなく、企業の社会貢献活動についても、時代時代はありますが、特に関西では継続してそれなりに動いていますから、そういう所との連携や大阪府との連携などを通して何か応援するためのファンドを作るなど、いろいろな形は考えられると思います。

(生島) 金融がだんだん複雑になってきてはいるのですが、個人も企業をおやりの方もいろいろな意味で金融の知識を持っていかないと大変な時代です。川北先生、いろいろな意味で今後生き残っていくためには金融に関する情報をしっかり身に付けるということが大切です。また、そういう意味で、金融機関や、特に高見さんがかかわっているような事業などの関係で、こういうものを使うといい形でもっとビジネスができますよ、収益が増えますよといった情報を流していただくこともとても大切な時代ですよね。

(川北) それに関して申し上げますと、先ほど前半のセッションで投資のリスク、すなわちどこまで損する可能性があるのか、これをきちんと考えて投資をするべきだと申し上げました。この観点から地域ファンドのことを考えてみますと、それはすごくいい事だと思うし、地域の活性化に役に立つと思います。ただし、万が一の場合を考えると、大阪なら大丈夫かもしれませんが、吹田市とか茨木市の地域ファンドはかなりリスクがあるわけです。例えば、地震が来てその地域が壊滅的な打撃を受けると、そのファンド自身が大きな損失を生む可能性があると思います。そういうリスクを地域金融機関として防ぐためには、労金は全国組織なので、それぞれの労金が作り上げた地域ファンドを全国組織でカバーをして、全国規模で投資できるようにすることが必要です。そうすれば、どこかの地域が地震で打撃を受けたとしても、他の地域がカバーしてくれる仕組みが作れるわけです。地銀も同じです。
 地域金融機関には全国ネットワークを使った仕組みをぜひ作り上げていただきたいと思います。逆に地域ファンドに投資をされる皆さん方には、損失をある程度カバーできる仕組みがそのファンドにきちんとあるのかどうかを、ぜひ投資をされるときに質問や確認をしていただければいいと思います。

(生島) ありがとうございます。法橋さん、僕は思うのですが、自分で最近いろいろな事をやってみて、知らない自分はもったいないと。銀行にだけ預けておいて、これは安全だ、ペイオフの対策も取っているということで、ゼロ金利でいくのも安全なのですが、多少リスクを取って、それこそ外国の物や国内の物で分散投資して、リターンを狙うのも手だなと思います。それは企業にも当てはまると思います。企業をおやりになる方も個人も地域中心にアクト・ローカリーでいいですが、しかし、世界的な流れで今動いているわけですから、シンクグローバリーが重要かなと思います。だからそういう発想で、地域も大切にするのだけれど、考え方としてはグローバルな考え方が時代として必要ですよね。

(法橋) 必要ですね。当然アクト・ローカリーではありますが、物事はやっぱり社会的に、世界的に動いています。大きなお金の流れがどうなっているのかというあたりから、すべてそうですね。オルタナティブとは言え、「共生型の経済」が世界の潮流として着実に動きつつあるという大きな脈絡の中で、グローバルに考えていきたいですね。

(生島) そうですね。高見さん、そういう点では本当にいろいろな意味で情報もきちんと提供していただいて、それを上手く活用して、例えば個人投資家になることもできますから、いい形で活かしていただきたいですよね。

(高見) そうですね。私たちももっと勉強させていただいて、賢くがんばって行きたいと思っております。ただ、申し上げたい事は、この流れは私たちが思っているよりも長期で強いのではないかと思っています。

(生島) 今のこの流れというのは、どの流れを指すのですか。

(高見) コミュニティ・ビジネスの流れでしょうか。今はNPO法人の形が80%ぐらいを占めています。福祉系、特に高齢者、障害者に関わる活動が多いと思いますが、もっと多様化するでしょうし、規模も多様化すると思います。また後で、美男美女が写っているリーフレットをご覧いただきたいと思うのですが「おおさか元気ネットワーク」といいます。中小企業では異業種交流のような形で当事者が集まって当事者が運営している組織です。助け合いの組織であり、後から来る人たちを中間支援としてサポートしていこうということなのですが、現在今年は月1回大阪市内でカフェをやっています。誰かが発題をして自由に交流してもらって懇親もしていくことなのですが、毎回30人〜50人が来られるのです。現在、大阪府も大阪市もいろいろな形でセミナーをやられていますが、ここにもたくさんの方が来られています。そういった意味での人の関心は非常に高いですし、何かやりたいという人はものすごく多いと思うのです。
 その中では事業収入だけで回っていくような事業で全てがいけばいいのですが、地域課題になってきますと必ずしも事業収入だけでは回らないこともあると思うのです。むしろ私たちの仲間の中には儲からない課題ばかり引っ張ってきて、一生懸命やっている方もたくさんいらっしゃいます。これが社会的にはどうなのだろう。事業収入にならないからといってやめるわけにいきません。むしろこれをどう評価するかが問われています。例えば寄付やボランティアによる出資の部分で支えていくことです。あるいは行政からも支えていただくということで、事業を成立させていく分野があるのだろうと私は思っています。そういう意味も含めて、多様な情報も入れて、私たちは賢く、これからこの事業を伸ばして行きたいと考えています。

(生島) ありがとうございました。本当にこれからのコミュニティ・ビジネスの活性化を祈念したいと思います。

 

「お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウムin大阪」アンケート結果のポイント


 シンポジウム当日は、参加いただいた皆様に対して、シンポジウムの感想等についてのアンケートを実施し、参加者359名のうち165名(46%)の方から回答をいただきました。その概要をご紹介します。


(回答者の属性)

 年齢別:

50歳代50名(35%)、60歳台32名(22%)、70歳台31名(22%)、30歳台14名(10%)、その他

(回答結果概要)

 シンポジウム全体の印象は、「有意義であった」が52%、「どちらかといえば有意義であった」と合せて約94%となっており、「今後も機会があれば参加したい」という意見も多く寄せられました。

 金融経済知識習得の必要性については、「感じた」、「どちらかといえば感じた」とする回答が96%、また、投資に対する学習意欲・投資意欲についても、「湧いた」、「どちらかといえば湧いた」とする回答が83%を占めており、当該シンポジウムに参加されて金融経済知識習得、投資学習等の必要性について十分認識していただけた結果となっております。

 また、地域のコミュニティ活動につきましても、「関心を持った」、「どちらかといえば関心を持った」とする意見が85%であり、地域での取組みにも高い関心が伺えます。

(主な意見)

 自分で責任をもってリスクをとることの大切さがわかった。

 自己責任時代を迎え金融教育の必要性を強く感じた。

 老後に対する資金の有り方を再度家族で見直していきたい。

 地域社会のためにお金を使うことに関心を持った。

 コミュニティ・ビジネスの活動が起こっていることを知って良かった。

など肯定的な意見の他、

 金融セッションと地域セッションの関連が薄い。

 もっと金融のことを具体的に教えてほしかった。

 必要以上に投資することを強調しない方がよい。

とのご意見もございました。 

 

 アンケートの結果、シンポジウム全体の評価は概ね好評であったものと思いますが、運営面に関し若干ご意見をいただきました。今後、今回いただいたアンケートの結果を参考にしていきたいと考えています。

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