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問題の所在〜保険商品の販売・勧誘時の募集人等と消費者との認識の格差(ギャップ)〜
消費者が自らのニーズに合致した保険商品を適切に選択・購入することは重要ですが、実際にそれが出来るかどうかについては、以下のような指摘がなされました。 |
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保険商品の複雑性等により、消費者の商品内容に関する理解には限界がある。 |
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保険加入のニーズを直ちには感じない消費者は、自らのニーズの適切な把握が困難。 |
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他の保険商品や特約の付加等の、他の選択肢についても情報収集や内容の理解をしたうえでなければ、購入しようとする保険商品が自らのニーズに真に合致しているか否かの最終的な判断が困難。 |
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他方、保険販売の現状として、募集人等が顧客の属性やそのニーズを踏まえながら、顧客が求める保険商品の絞込みや商品設計を行い、オーダーメイド的な提案が行われています。
この場合、顧客は募集人等に一定の情報を提供し、募集人等はそれをもとに顧客のニーズに合致する保険商品に絞り込んだうえで顧客に提案する等、募集人等と顧客との共同作業が行われているものと考えられます。
しかしながら、上記共同作業に対する募集人等と顧客の認識には、以下のような格差(ギャップ)が存在しているとの指摘がなされました。 |
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【募集人等の認識】
あくまで顧客に対するサービスとして行うものであり、顧客のニーズに最も合致した保険商品を提供することにも限界があるとの認識。
【顧客の認識】
募集人等がその専門的知識を生かして助言を行い、顧客のニーズに合致した保険商品を推奨してくれることを期待。
従って、そのような期待から、真に自らのニーズに合致するか否かの確認を行わず、推奨された商品をそのまま受動的に購入してしまうケースがある。
顧客が自らのニーズに合致した保険商品を購入できるよう、このような認識の格差(ギャップ)を埋め、円滑な共同作業を確保するために有効な方策について検討が行われました。 |
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認識の格差(ギャップ)を埋めるための、募集人等と消費者の役割
保険商品の勧誘から購入にいたるプロセスを、募集人等と消費者との共同作業と捉えると、両者にはそれぞれ以下のような役割が求められるとの考え方が示されています。 |
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【募集人等の役割】 |
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(1) |
顧客のニーズに関して適切な情報収集を行ったうえで、それらの情報をもとに保険商品を推奨。 |
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勧誘の過程で、顧客が説明内容を誤解することがないように努め、顧客が理解していないことや誤解が明らかとなった場合には、より分かりやすい説明や、誤解の解消を行う。 |
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【消費者の役割】 |
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(1) |
自らのニーズに関する情報を適切に募集人等に提供。 |
(2) |
募集人等が推奨した保険商品をそのまま購入するのではなく、推奨された商品内容が自らのニーズに合致しているかを確認したうえ、自己の責任で購入するか否か判断。
このような考え方を具体化するために、いわゆる適合性原則や諸外国の法制度を参考にすれば、以下のような仕組みを設けることが有効であるとの提言がなされています。 |
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(3) |
具体的仕組みの内容 〜「意向確認書面」について〜
購入しようとする保険商品が顧客のニーズに合致しているものであるかどうかを顧客が契約締結前に最終的に確認する機会を確保するために、顧客のニーズに関して情報を収集し、保険商品が顧客のニーズに合致することを確認する書面(以下、「意向確認書面」という)を作成し、交付・保存することが有効であるとの考え方が示されています。
「意向確認書面」には、以下のようなメリットがあると指摘されています。 |
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(1) |
契約締結前に、顧客が自らのニーズや保険商品がそのニーズに合致するか否かを確認することができ、契約締結をなすか否かの再考が可能。 |
(2) |
募集人等が、「意向確認書面」作成の過程で、保険商品が顧客のニーズに合致したものであるか否かを確認することとなり、その推奨が適切か否かの再考が可能。 |
(3) |
購入経緯を双方が事後的に確認でき、事後に生じうる問題等の未然防止や解決に資する。 |
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ア.
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「意向確認書面」の具体的内容
「意向確認書面」には、以下の内容を記載すべきとの考え方が示されています。 |
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(1) |
募集人等が知り得た顧客のニーズに関する情報 |
(2) |
推奨する保険商品が顧客のニーズに合致すると考えた主な理由 |
(3) |
満たされない顧客のニーズがある場合にはその旨など、その他の特に記載すべき事項がある場合にはその旨 |
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募集人等は、顧客のニーズを特定するために、顧客からニーズに関する情報について提供を受ける必要がありますが、これについて以下のような指摘がなされています。 |
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・ |
ニーズに関する情報については、例えば死亡保障等のどのような分野の保障を必要としているか、というようなものから、主契約や特約ごとの具体的な保険料等の詳細な内容に関するものまで、様々なレベルのものが考えられる。 |
・ |
「意向確認書面」において、最低限求められるニーズに関する情報は、例えば以下のようなレベルまでのものとすることが適当 |
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(1) |
どのような保障を望むか(死亡した場合の遺族保障、がんや三大疾病の際の医療保障等) |
(2) |
貯蓄的部分を必要とするか |
(3) |
市場リスクを許容するか |
(4) |
求める保障の期間、保険料や保険金額に関する希望がある場合や優先的に希望する項目がある場合には、その旨 |
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・ |
上記以外の、詳細な内容に関するニーズ(例えば主契約や特約ごとの具体的な保険金額や保険料等)についても重要であることから、最終的な契約内容のうち重要なものについて、例えば設問等により顧客のニーズに合致しているかの再確認を求めることが適当。
「意向確認書面」の内容のうち、顧客から提供を受けたニーズに関する情報については、顧客に確認のうえ、事実に反する記載があれば、顧客が修正を求められるようにすることが適当であるとされています。
「意向確認書面」の作成・交付にあたり、その作成者・交付者を明らかにするために、募集人等の氏名・名称を明示することが適当であるとされています。
「意向確認書面」を提供する媒体については、顧客が購入の経緯を事後的に確認するため保存の必要があることから、書面が適当であるとの考え方が示されています。なお、顧客の了解があった場合には、電子メール等の電子媒体による提供も可能と考えられるが、印刷を可能なものとする等、顧客が保存できるようにすることが適当であるとされています。 |
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イ.
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「意向確認書面」の適用範囲
募集人等と顧客との間で情報等が相互に交換されていることにより共同作業が行われている募集形態であって、商品類型から顧客保護の要請が高いといえる下記の場合について、適用することが適当であるとの考え方が示されています。 |
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(1) |
投資性商品 |
(2) |
保障性商品については、例えば保険期間が長期のもの等、顧客のニーズに合致しないことにより顧客の受ける不利益が大きい場合に適用 |
(3) |
乗換・転換 |
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(4) |
「意向確認書面」が適用されない場合への対応
「意向確認書面」の作成・交付を要しない場合であっても、顧客ニーズを慎重に確認しなければならない重大な事項をチェックした書面等を保存することが適当であるとされています。
販売・勧誘のいかなる段階でどのような顧客の情報を収集するか、保険商品が顧客のニーズに合致しないことが判明した場合にどのような方法で顧客に説明するかについて、保険会社等に対して自主判断において適切な体制整備を求めることが適当であるとされています。
体制整備は事後的に販売・勧誘の適切性を検証しうるものであることが必要であり、その内容は、保険期間の長短等、各商品特性に応じそれぞれ定められるべきですが、例えば、アンケートや交渉経緯の概要を記載した書面等の保存などが考えられるとの指摘がなされています。 |
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その他募集人等に求められる行為
その他募集人等に求められる行為として、以下の考え方が示されています。 |
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顧客の理解に応じた説明や誤解の解消 |
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・ |
顧客が説明内容を理解していないことや誤解していることが明らかとなった場合には、より分かりやすい説明を行うことや誤解を解消するよう努めること。 |
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募集人等の立場の明示 |
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・ |
募集を行おうとする際には、取り扱える保険会社の範囲(専属か乗合か、乗合の場合には、取り扱える保険会社の数等の情報)の明示を行うことが適当。 |
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顧客が告知を行おうとする際には、告知受領権の有無についての明示を行うことが適当。 |
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法令上の位置付け
法令上の位置付けとしては、例えば、「意向確認書面」については、保険業法施行規則第53条の7による体制整備義務を具体化したものと位置づけ、監督指針においてそのルールを明確化することが考えられるとの指摘がなされています。 |