【特 集】
金融商品取引法制の概要について【 第3回 】

 平成18年6月7日、第164回国会において、「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)及び「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同第66号)が可決・成立し、6月14日に公布されました。
 この法整備の具体的な内容は、大きく分けて、(1)投資性の強い金融商品に対する横断的な投資者保護法制(いわゆる投資サービス法制)の構築、(2)開示制度の拡充、(3)取引所の自主規制機能の強化、(4)不公正取引等への厳正な対応の4つの柱からなります。

 前回までは「(1)いわゆる投資サービス法制の構築」について紹介しましたが、今回は、「その他の改正内容【(2)開示制度の拡充、(3)取引所の自主規制機能の強化、(4)不公正取引等への厳正な対応】」について紹介します。
(※) 以下では、証券取引法を「証取法」、金融商品取引法を「金商法」と略します。
 

(2)

 開示制度の拡充
 
 上場会社等による開示の充実
 今回の法整備では、企業内容等の開示制度について、適時・迅速かつ適正な財務・企業情報の開示を確保するため、次のような改正を行っています。
 
ア)  四半期開示の法定化
 現行では取引所の自主ルールで行われている四半期開示制度を法定化し、上場会社等に「四半期報告書」の提出を義務付け、公認会計士・監査法人による監査の対象とします(金商法24条の4の7・193条の2)。四半期報告書の虚偽記載は、罰則・課徴金の対象となります。
イ)  財務報告に係る内部統制の強化
 
 上場会社等に対して、事業年度ごとに、財務報告に係る内部統制(財務に関する情報の適正性を確保するための体制)の有効性を評価する「内部統制報告書」の提出を義務付け、公認会計士・監査法人による監査の対象とします(24条の4の4・193条の2)。
 上場会社等に対して、有価証券報告書・四半期報告書等の内容が金融商品取引法令に基づき適正である旨の経営者の「確認書」の提出を義務付けます(24条の4の2・24条の4の8等)


 公開買付制度の見直し

 「公開買付制度」とは、会社支配権に影響を及ぼしうるような証券取引について、その公正性・透明性を確保するための制度です。具体的には、取引所市場外において株券等の大量の買付け等を行おうとする買付者に対して、買付期間・数量・価格等の開示を義務付けることにより、株主に対して公平な売却機会を確保することとしています。
 近年、企業の合併・買収件数が急速に伸びており、態様についても多様化が進む中、その一手段である公開買付けの件数も増加しています。こうした状況を受け、今回の法整備では、例えば次のように、公開買付制度の見直しを行っています。
 

ア)

 脱法的な取引への対応、買付者間の公平性の確保
 著しく少数の者(60日間で10名以下)からの買付けであっても、取引所市場外における買付けの後の所有割合が3分の1超となるものは、公開買付けを行わなければならないこととされています。
市場内外等の取引を組み合わせた急速な買付けの後に所有割合が3分の1超となるような場合について、公開買付規制の対象となることを明確化します。
ある者が公開買付けを実施している期間中に、3分の1超を所有している別の者が急速に買付けを進める場合は、公開買付けによらなければならないこととします。
(金商法(改正証取法)27条の2第1項4号・5号)
 

イ)

 全部買付けの義務化の一部導入
 
 公開買付けの後に上場廃止等に至るようなケースにおいて株主を保護する観点から、買付け後の所有割合が3分の2以上となる場合(政令事項)には、応募がなされた株式の全部を買い付けることを義務付けます。(27条の13第4項)

ウ)

 投資者への情報提供の充実
 
 買付対象会社による「意見表明報告書」の提出を義務付けます。買付対象会社は、「意見表明報告書」の中で、公開買付者に対する質問を行うことができます。
 意見表明報告書で買付対象会社から公開買付者への質問がなされた場合、当該公開買付者は「対質問回答報告書」を提出しなければならないこととします。(27条の10第1項・2項・11項)

エ)

 公開買付期間の伸張
 公開買付期間は、20日から60日(実日数ベース)の範囲で公開買付者が設定することとされています。
公開買付期間を営業日ベース(20営業日から60営業日)へと改める予定です(政令事項)。
対抗提案を提示し、株主に十分な熟慮期間を与えることが必要な場合を念頭に、当初設定された公開買付期間が短い場合であって買付対象会社からの請求があるときは、公開買付期間を30営業日(政令事項)に延長することとします(27条の10第2項〜3項)。
 

オ)

 公開買付けの撤回等の柔軟化
   買付対象会社においていわゆる買収防衛策が発動された場合には、公開買付けの買付価格の引下げや撤回を認めることとしています。(27条の6第1項1号括弧書き・第27条の11第1項(政令事項))


 大量保有報告制度の見直し
   「大量保有報告制度」とは、株券等の大量保有の状況を投資家に迅速に開示するための制度です。具体的には、例えば、上場株券等の保有割合が新たに5%超となった者は、その日から5営業日以内に「大量保有報告書」を提出しなければならないこととされています。ただし、日常の営業活動として大量の株券等の売買を行っている機関投資家については、その事務負担等を考慮して、報告頻度等を軽減する特例報告制度が適用されています。
 近年において、合併・買収に至らない株式の大量取得事例も増加している状況を受け、今回の法整備では、例えば次のように、大量保有報告制度の見直しを行っています。
 

ア)

 特例報告制度の見直し
 投資家への一層の透明性が確保されるよう、報告期限・頻度の短縮等を行います。
 例えば、上場株券等の保有割合が新たに5%超となった場合
 「3ヶ月ごとに翌月15日まで」に報告
 「概ね2週間ごと(毎月2回以上の基準日ごと)に5営業日以内」に報告
 (金商法(改正証取法)27条の26第1項〜3項)
 

イ)

 大量保有報告書の電子提出の義務付け
 大量保有報告書の電子提出を義務付けることで、EDINET(電子開示システム)を通じた迅速な公衆縦覧を図ります。(27条の30の2)
   

(3)

 取引所の自主規制機能の強化
 証券取引所は、平成12年の証券取引法改正により、株式会社化が認められています。株式会社形態の取引所は、株式会社としての「営利性」と取引所取引の公正性・透明性確保に向けた「自主規制機能」との間に利益相反が生じるおそれがあることから、自主規制機能を担う組織について、他の業務からの独立性を確保する必要が指摘されています。他方、具体的な組織形態の議論に当たっては、市場の現場に近いところで実情に即したきめ細かい対応が可能であるという、現場の品質管理という側面にも留意する必要も指摘されています。
 今回の法整備では、こうした議論を踏まえ、次のような制度を整備しています。
 

 ア)

 自主規制業務

 取引所の提供するサービスの品質を向上させる観点から、金融商品取引所は、「自主規制業務」(例えば、上場・上場廃止に関する業務や取引参加者の法令遵守状況の調査等)を適切に行わなければならないこととします(金商法84条)。

 イ)

 自主規制法人・自主規制委員会
 金融商品取引所は、内閣総理大臣の認可を受けて、自主規制業務の全部又は一部を「自主規制法人」(102条の2〜)に委託できることとします(85条)。自主規制法人の理事の過半数は、外部理事でなければなりません(102条の23第3項)。
 株式会社形態の金融商品取引所は、自主規制業務に関する事項の決定を行う「自主規制委員会」を置くことができることとします(105条の4)。自主規制委員会の自主規制委員の過半数は社外取締役でなければなりません(105条の5第1項)。
 

(注)

 これらの組織形態の採否は各取引所の自主的判断に委ねられます。ただし、金融商品取引所が自市場・他市場に上場する場合は、内閣総理大臣の承認を受けなければならないこととされており(122条・124条)、その際には、自主規制業務を適切に運営するための体制も審査対象になるものと考えられます。
 

(参考)取引所がとりうる組織形態


(4)

 不公正取引等への厳正な対応
 
 罰則の強化
 最近の一部上場企業を巡る一連の不正事件を受け、投資者保護の徹底、公正かつ透明な証券取引の確保及び証券取引に対する国民の信頼の確保を図る観点から、例えば次のように、証券取引法の罰則の法定刑の水準を引き上げています。
 
 


 「見せ玉」への対応

 「見せ玉(ぎょく)」とは、売買が盛んなように見せかけるため架空の注文を出し、約定が成立しそうになると取り消す行為であり、相場操縦の一手法です。
 現行では、この「見せ玉」に該当する行為のうち、顧客による売買申込み行為が、相場操縦行為として刑事罰の対象とされています。今回の改正では、不公正取引に関する規制の実効性を確保するため、証券取引等監視委員会の建議(平成17年11月29日)も踏まえ、次の改正を行っています。
 
 顧客による売買申込み行為を、相場操縦行為として課徴金の対象とします(金商法(改正証取法)174条1項)。
 証券会社の自己の計算における売買申込み行為についても、相場操縦行為として刑事罰及び課徴金の対象とします(159条2項1号及び3項・174条1項)。
 
  刑事罰  課徴金
顧  客 ×→○(今回の法整備で対応)
証券会社
(自己売買)

×→○(今回の法整備で対応)

×→○(今回の法整備で対応)


 施行期日について
 今回の法整備の施行期日については、次のように、段階的なものとなっています。

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