資金洗浄に関する金融活動作業部会の40の勧告(仮訳)
 

.勧告の一般的枠組み
 
告1
 各国は、1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(ウィーン条約)を批准し、完全に実施するための措置を速やかにとるべきである。
 
告2
 金融機関の守秘義務に関する法規は、これらの勧告の実施を妨げないものと理解されるべきである。
 
告3
 実効的な資金洗浄防止プログラムは、可能な場合、資金洗浄の捜査、訴追、犯人引渡しに関する多数国間協力及び司法共助の促進を含むべきである。

 

.資金洗浄と闘う際の国内法制の役割
 
資金洗浄の罪の範囲
 
告4
 各国は、必要に応じて、立法措置を含め、ウイーン条約に規定された資金洗浄を刑事犯罪とすることを可能とするための措置をとるべきである。各国は、薬物に関する資金洗浄の罪を重大犯罪に基づく資金洗浄に拡大すべきである。どの重大犯罪を資金洗浄の前提犯罪として指定するかは、各国が定める。
 
告5
 資金洗浄罪は、ウイーン条約が規定するとおり、少なくとも資金洗浄活動につき認識のある場合(客観的事実関係から推認される場合を含む)には適用されるべきである。
 
告6
 可能な場合には、法人の被雇用者だけでなく法人自体も、刑事責任を負うこととすべきである。
 
暫定的措置及び没収
 
告7
 各国は、必要に応じ、権限ある当局が洗浄された財産、あらゆる資金洗浄犯罪の実行により得られた収益、犯罪実行において使用され又は使用を意図された手段、又は、これらの価値に相当する財産を、善意の第三者の権利を侵害することなく、没収することを可能とするため、立法措置を含めウイーン条約に規定されているのと同様の措置をとるべきである。
 
 かかる措置は、当局が、
 
1)  没収対象となる財産を特定し、追跡し、及び評価する権限
 
2)  かかる財産の取引、移転、又は処分を防止するため、凍結、差押えなどの暫定措置をとる権限

並びに、

3)  捜査のためあらゆる適切な措置をとる権限

を含むべきである。
 
 没収及び刑事制裁に加え各国は、契約の結果、国家が没収又は科料、罰金徴収などを通じて財産上の請求権を回復する能力に不利益が生じることを契約当事者が認識し又は認識すべきであった場合の、罰金及び民事罰又は当事者による契約を無効にする民事手続を含む手続をも考慮すべきである。

 

.資金洗浄と闘う際の金融システムの役割
 
告8
 勧告10から29までは、銀行に対してだけでなく銀行以外の金融機関に対しても適用されるべきである。例えば両替商など、全ての国において必ずしも公式の規制監督制度の下にあるわけではない銀行以外の金融機関についても、各国政府は、これらの機関が他の全ての金融機関と同様の資金洗浄対策法規に従うこと、及びこれらの法規が効果的に実施されることを確保すべきである。
 
告9
 各国の適当な当局は、金融機関ではない事業会社や職業的専門家による商業行為としての金融活動について、かかる活動が許されている場合、或いは禁じられていない場合には、勧告10から21及び23を適用することを検討すべきである。金融活動は、別添に列挙されたものを含むものであるが、これに限定されるものではない。例えば金融取引がまれであるか、又は限定された状況でしか行われない場合など、資金洗浄対策措置の適用が必要でない特別の状況が定められるべきか否かの決定は、各国に任されている。
 
顧客の本人確認及び記録の保存に関する規則
 
告10
 金融機関は、匿名口座及び明らかに偽名による口座を保有するべきではない。金融機関は、取引関係を樹立するとき又は取引を行うとき(特に、口座又は通帳を開設するとき、信託取引を行うとき、貸金庫を貸すとき、大口の現金取引を行うとき)、公的又は他の信頼できる証明書類に基づき顧客の身分を確認し、記録することを(法律、規則、監督当局と金融機関との合意、又は金融機関相互間の自主規制の合意によって)求められるべきである。
 
 法人格に関する確認の要件を満たすため、金融機関は、必要な場合、以下の措置をとるべきである。
 
1)  公的登録もしくは顧客又はその双方より、顧客の名称、法的形態、住所、取締役及びその団体を拘束する力を規律する規定に関する情報を含む法人の証明を入手することによって、顧客の法的な実体、及び組織を確認すること。
 
2)  顧客のために活動していると称する人物がかかる権限を与えられているかを調べ、その人物を確認すること。
 
告11
 金融機関は、顧客又は取引者が自己のために活動しているか否かにつき疑いがある場合、例えば居住会社(domiciliary company)(すなわち、登録された事務所が所在する国において、商業若しくは製造業又は他のいかなる商業的活動も行わない機関、法人、基金、信託、等)の場合、開設された口座又は行われている取引の真の受益者の身分証明に関する情報を入手するための合理的な措置をとるべきである。
 
告12
 金融機関は、権限ある当局からの情報の要請に対し迅速に応ずることができるよう、国内及び国際的な取引に関するすべての必要な記録を、少なくとも5年間保存すべきである。かかる記録は、必要であれば犯罪行為の訴追のための証拠を提供出来るよう、(金額及び使われた通貨の種類を含め)個々の取引の再現を可能とするほど十分なものでなければならない。
 
 金融機関は、顧客の本人確認に関する記録(例えば、旅券、身分証明書、運転免許証、又は同様の書類など公的な身分証明書類の写し又は記録)、口座記録及び通信文書を、口座が閉鎖された後最低5年間保存すべきである。
 
 これらの書類は、刑事訴追及び捜査との関連で、国内の権限ある機関が利用し得るものとすべきである。
 
告13
 各国は、匿名性に利するような新たな又は発展しつつある技術に固有の資金洗浄の脅威に特別の注意を払い、必要な場合、資金洗浄のたくらみにおけるその使用を防ぐための措置をとるべきである。
 
金融機関の一層の精励
 
告14
 金融機関は、明白な経済的目的又は目に見える合法的目的をもたない、すべての複雑な通常でない大口の取引、又はあらゆる非日常的形態の取引に対して、特別の注意を払うべきである。かかる疑わしき取引の背景及び目的は、可能な限り広範に調査し、事実関係を文書でまとめた上で、管理者、監査人、及び法執行機関に役立つよう、利用し得るものとすべきである。
 
告15
 金融機関は、資金が犯罪的活動に源泉をもつのではないかとの疑いをもった場合、かかる疑いを権限ある当局に速やかに報告することを要求されるべきである。
 
告16
 金融機関、その取締役及び幹部職員、被雇用者は、その疑いを権限ある当局に善意で報告する場合には、たとえ内在する犯罪的活動が何であるかを正確に認識していなくても、また不法な活動が実際に行われたか否かに拘らず、契約又は法律、規則、若しくは行政規定により課されている情報開示に関する制限違反に対する刑事的又は民事的責任から法規定によって保護されるべきである。
 
告17
 金融機関、その取締役及び幹部職員、被雇用者は、顧客に関する情報が権限ある当局に報告されつつある場合、同顧客に対し通報するべきではなく、また適当な場合、通報することを容認されてはならない。
 
告18
 疑いを報告する金融機関は、権限ある当局からの指示に従うべきである。
 
告19
 金融機関は、最低限、以下の点を含む資金洗浄対策を開発すべきである。
 
1)  管理職レベルでの責任者の指名、採用に際して高い質を確保するための適切な審査手続を含む内部方針、手続及び管理の開発
 
2)  被雇用者訓練プログラム
 
3)  制度を検査するための監査機能
 
資金洗浄対策措置が無いか又は不十分な国の問題に対処するための措置
 
告20
 金融機関は、現地で適用される法及び規則が認める限りにおいて、海外、特に本勧告を適用していないか又は適用が不十分である国に所在する支店及び株式の過半を所有する子会社に対して、上記原則が適用されることを確保するべきである。現地で適用される法及び規則がその実施を禁ずる場合、金融機関は、親会社がある国の権限ある当局に対し、これら勧告を適用し得ない旨を通報すべきである。
 
告21
 金融機関は、本勧告を適用していないか又は適用が不十分である国の者(会社及び金融機関を含む)との業務関係及び取引に対して、特別の注意を払うべきである。これらの取引が明白な経済的目的又は目に見える合法的目的をもたない場合は常に、その背景及び目的を可能な限り広範に調査し、事実関係を文書でまとめた上で、管理者、監査人、及び法執行機関が、利用し得るものとすべきである。
 
資金洗浄を避けるための他の措置
 
告22
 各国は、情報の適正な使用を確保するための厳格なセーフガードを条件として、また資本移動の自由を如何なる形においても害することなく、現金及び持参人であれば誰でも換金できる手段の国境を越えた現実の移動を探知又は監視するための実行可能な措置の実施を検討すべきである。
 
告23
 各国は、情報の適正な使用を確保するための厳格なセーフガードを条件として、銀行及び他の金融機関並びに仲介業者が、権限ある当局が資金洗浄事件において利用できるよう、電算機データベースを備えた、国の中央機関に対し、一定の額以上の国内及び国際的な現金による取引を全て報告する制度の実現可能性及び効用につき考慮すべきである。
 
告24
 各国は、現金取引に代わるものを奨励するために、小切手、支払カード、給与小切手の銀行直接振込み、及び証券の記入記録の使用の奨励を含め、金銭管理の現代的で安全な技術の開発を一般的にさらに奨励すべきである。
 
告25
 各国は、資金洗浄者がシェル・コーポレーションを濫用する可能性に留意し、かかるシェル・コーポレーションの違法な使用を防止するために追加的な措置を講じることが必要であるか否かについて考慮すべきである。
 
勧告の実施、並びに規制機関及びその他行政機関の役割
 
告26
 銀行及び他の金融機関並びに仲介業者を監督する権限ある当局、及び他の権限ある機関は、被監督機関が資金洗浄を防止する適切なプログラムをもつことを確保すべきである。これら当局は、資金洗浄の捜査及び訴追に当たり、自発的に又は要請に応じて、他の国内の司法及び法執行機関に協力し、また専門知識を供与すべきである。
 
告27
 行政的監督及び規制を通じ、各国が定義する現金を扱う他の職業において、勧告の全てが効果的に実施されることを確保すべく、権限ある当局が指名されるべきである。
 
告28
 権限ある当局は、金融機関が顧客の疑わしい行動のパターンを探知することを助けるガイドラインを設定すべきである。かかるガイドラインは、時とともに発展し、決して網羅的ではありえないと認識されている。また、かかるガイドラインは、第一義的には、金融機関職員のための教育手段として使用されるものと認識されている。
 
告29
 さらに、金融機関を規制又は監督する権限ある当局は、犯罪者又はその共謀者が金融機関を支配し、又は相当程度の資本参加を行うことのないように、必要な法的措置又は規制措置をとるべきである。

 

.国際協力の強化
 
行政的協力
 
一般的情報の交換
 
告30
 各国の行政府は、中央銀行の情報と組み合わせることにより、海外の種々の流入先からの現金の流入及び再流入が概算できるよう、通貨の種類にかかわりなく、国際的な現金の流れを、少なくとも総計で記録することを考慮すべきである。かかる情報は、国際的な研究を促進するため、IMF及びBISが利用しうるものとすべきである。
 
告31
 権限ある国際機関、おそらくINTERPOL及び関税協力理事会は、資金洗浄及び資金洗浄技術の最新の動きにつき、情報を収集し、権限ある当局に提供する責任を与えられるべきである。中央銀行及び銀行規制当局も、各々のネットワークにおいて同様のことを実施すべきである。種々の分野における国内当局は、業界団体と協議の上、各国の金融機関にこの情報を流すこともできる。
 
疑わしき取引に関する情報の交換
 
告32
 各国は、権限ある当局相互間で、疑わしき取引及びかかる取引に関与した者及び法人に関し、自発的又は「要請による」国際的な情報交換体制を改善する努力を行うべきである。かかる情報交換がプライバシー及びデータ保護に関する国内及び国際的な規定と両立することを確保するため、厳格なセーフガードが確立されるべきである。
 
他の協力形態
 
没収、司法共助及び犯人引渡しのための協力の基礎及び手段
 
告33
 各国は、二国間又は多数国間で、各国の定義により異なる「認識」の基準、即ち、法令違反における故意の要素に関する異なる基準が、各国の司法共助を提供する能力又は意欲に影響しないことを確保するよう努めるべきである。
 
告34
 できるだけ広い範囲の司法共助に影響を及ぼすための実際的な措置を提供する目的で、一般的に共有された法的概念に基づき、二国間及び多数国間の合意及び取決めのネットワークにより、国際協力を支持するべきである。
 
告35
 各国は、犯罪収益の洗浄、捜索、押収及び没収に関する1990年欧州評議会条約のような資金洗浄についての関連国際協定を批准し、実施することが奨励されるべきである。
 
資金洗浄問題に関する司法共助改善の重点
 
告36
 各国の適当な当局間の捜査協力を奨励すべきである。この点で、一つの有効かつ効果的な捜査技術は、犯罪収益である財産又は犯罪収益と疑われる財産に関するコントロールド・デリバリーである。各国は、可能な場合、こうした捜査技術を支持するように奨励される。
 
告37
 外国管轄圏内での資金洗浄捜査及び訴追、並びに関連した行為において使用するための、金融機関及びその他の者による記録の提示、人及び建物の捜索、差押え並びに証拠取得を含む強制措置の発動に関する刑事事項における司法共助の手続が定められるべきである。
 
告38
 外国の要請に応じ、資金洗浄又は資金洗浄活動を生んだ犯罪から生じた収益又は収益に相当する価値の財産を認定し、凍結し、差押え、及び没収するための迅速な行動をとる権限が存在すべきである。
 
告39
 管轄権上の争いを避けるため、二カ国以上の国で訴追の対象となる事件において、正義のために容疑者を訴追する最善の場所を決定するメカニズムを考案し活用することについて、考慮が加えられるべきである。同様に、没収された資産の配分を含む差押え及び没収手続を調整するための取決めが結ばれるべきである。
 
告40
 各国は、資金洗浄又は関連する罪に問われている個人を、可能な場合引き渡すための手続を設定すべきである。国内の法制に関しては、各国は、資金洗浄を犯罪人引渡しが可能な犯罪として認識すべきである。各国の法的枠組みに従い、各国は、引渡し要求が適切な省の間で直接行われることを認め、逮捕令状又は決定のみに基づき犯人を引渡し、自国民を引渡し、又は正式の引渡し手続の放棄に同意する者につき簡略化された引渡し手続を導入することにより、引渡しを簡略化することも考慮し得る。
 

勧告9付表:金融機関ではない事業会社や職業的専門家が行う金融活動のリスト
 
 
.公衆からの預金及び他の返済義務付資金の受入れ
 
.融資(注)
 
.金融上のリース
 
.送金サービス
 
.決裁手段の提供及び管理(例/クレジット・デビットカード、小切手、旅行小切手、銀行発行手形)
 
.金融上の保証及びコミットメント
 
.顧客口座に係る以下の取引(直物、先渡、スワップ、先物、オプション等)
 
a)  資金市場関連取引(小切手、手形、譲渡性預金等)
 
b)  外国為替
 
c)  為替、金利及び指数取引
 
d)  譲渡可能有価証券
 
e)  商品先物取引
 
.証券引受及びこれらに係る金融サービスの提供
 
.個人及び総合ポートフォリオ管理
 
10 .顧客のための、現金又は流動性を有する証券の保護預り及び管理
 
11 .生命保険その他の保険関連商品取引
 
12 .両替
 
( ) とりわけ、以下の取引を含む。
 
 消費者信用
 
 抵当権設定与信(住宅ローン)
 
 ファクタリング(償還請求の有無を問わない)
 
 商業活動資金(没収されたものを含む)

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