付属文書2.第一の柱:最低所要自己資本
 

A.自己資本の構成要素

  1.  自己資本の構成要素に係る当委員会の定義は、1998年の自己資本合意に述べられている(1998年10月27日に発出された「自己資本の基本的項目(Tier 1)としての発行が適格な資本調達手段」に関するプレス・リリースにおいて明確化)。当委員会は、現段階において自己資本の定義に更なる修正を加えることは提案しない。

 

B.バンキング勘定の取扱い:標準的アプローチ

  1.  当委員会は、バンキング勘定に含まれる資産のリスク・ウェイト付けについて、外部信用評価をより広範にとり入れた新たな標準的アプローチを提案する。現行の自己資本合意においては、こうした外部信用評価の利用はトレーディング勘定の一部の項目に厳密に限定されている。当委員会は、こうした信用評価への依存には一定の困難が伴うことを認識している。また、自己資本合意において外部評価の利用を拡大することに伴い、評価機関自身に対するインセンティブや結果的な影響についても懸念はある。こうしたことから当委員会は、各国監督当局に対し、銀行が外部信用評価に基づいて資産を有利なリスク・ウェイトのカテゴリーに機械的に分類することを認めないよう提案する。むしろそうしたことを行い得るのは、評価の根拠や手法の質について銀行自身および監督当局が満足している場合に限られるべきである。銀行は、特定の評価メカニズムを一貫して用いなければならず、異なる評価の中から有利なものを選択(cherry pick)すべきではない。

1)ソブリン向け債権

  1.  現行の自己資本合意においては、ソブリン向けおよび中央銀行向け債権は、当該国が「OECD諸国」であるか否かによって異なるリスク・ウェイトが適用されている。同様に、銀行向け債権も、債務者が「OECD諸国」内に設立されているか否かによって異なるリスク・ウェイトを付される。現行自己資本合意における「OECD諸国」とは、全OECD加盟国、および、国際通貨基金の一般借入取極(General Arrangement to Borrow)に関連して同基金と特別な貸付取極を締結している国で、かつ過去5年間に対外公的債務のリスケジュールを行っていない国が含まれる。本アプローチが採用された当時、当委員会は、純粋にデフォルト・リスクを考慮すれば優遇に値しない国が優遇されるグループに加えられる一方、潜在的には信用度が高い「OECD諸国」外の国が優遇グループに加えられないといったことが起こり得るとの明白な欠陥を認識していた。しかしながら、OECD/非OECDのアプローチは、その採用当時においては、リスク・ウェイト上の優遇に値する国を識別する手法として最も適切な手法であると判断された。

  2.  当委員会は、このアプローチの問題点に対処する方法について何度か協議を行ってきた。今日に至り、当委員会は、ソブリン向けおよび中央銀行向け債権につき、現行のアプローチに代えて、一定の要件を満たす外部信用評価機関が行った評価結果に照らして設定したリスク・ウェイトを適用することを認める方式を採用するよう提案する。このアプローチの下では、例えば、最高の信用度を有すると認められたソブリン(および同国の中央銀行)に対するリスク・ウェイトはゼロとすることができる。一般的に、当該ソブリンの長期外貨建債務の信用評価が用いられるべきである。

  3. 上述のとおり、当委員会は、信用評価機関の利用については幾分の留保がある。特にソブリンの格付については、対象が超プライム国である場合を除けば、格付機関の経験は未だ限られており、実績も一様ではない。また、ソブリンの格付には、個々の国の金融インフラストラクチャーの充実度(弱い銀行システムによる偶発的な債務や銀行監督の適切性等)がいつも適切に反映されてきたか明らかではない。これらの理由により当委員会は、例えばG10諸国の輸出保険機関など、同様の信用評価機能を果たす他の機関をも利用することを提案する。当委員会は、様々な信用評価を利用するに当たって、慎重なアプローチを開発する所存である。

  4.  当委員会は、様々な外部信用評価機関が用いている信用分析手法や格付用語がそれぞれ異なることを認識しており、自己資本規制の枠組みの中で如何にこれらを一貫性をもって用いることができるかを引続き検討していく所存である。現段階では、当委員会は以下のアプローチを提案する。ゼロ・ウェイトのカテゴリーに分類され得るのは最も信用度の高いソブリンのみに限られる。例えば、格付機関のひとつであるスタンダード&プアーズ社が用いている手法においては、最低AA−の格付を得ているソブリンがこれに該当する16。A+からA−に格付けされた国に対する債権には20%のリスク・ウェイトが適用できる。BBB+からBBB−に格付けされた国に対する債権には50%のリスク・ウェイトが適用できる。BB+からB−に格付された国、および格付を取得していない国は100%のリスク・ウェイトが適用される。B−よりも低く格付けされた国に対する債権は150%のリスク・ウェイトが適用される。以下のパラグラフ30においては、本アプローチの下で様々な信用度評価が如何に用いられるかが例示されている。

  5.  自国通貨建ての、自国通貨で調達された自国政府(ないし中央銀行)向けエクスポージャーには例外的な取扱いを適用できる。各国監督当局は、適当と認められた場合には、こうしたエクスポージャーに適用するリスク・ウェイトを引下げることができる。この裁量が行使された場合には、他の監督当局は監督下の銀行に国内銀行と同様のリスク・ウェイトを適用することを認めてもよい。

  6.  当委員会はまた、ソブリン向け債権には当該国の中央銀行向け債権が含まれ、国際決済銀行には何れの信用評価アプローチを用いた場合でもソブリン向けに適用される最も低いリスク・ウェイトが適用されると考えている。

  7.  当委員会は、ソブリンが自らの金融・経済情勢について十分な情報を提供していない場合、銀行は当該ソブリン債務者に対する外部信用評価を用いるべきではないと考える。したがって、100%より低いリスク・ウェイトを適用されるためには、ソブリンはIMFの特別データ公表基準(SDDS)に賛同しなければならない、というのが当委員会の考えである。SDDSは、経済・金融統計の公表(国際金融市場への公表を含む)に関して参加国が従うべき基準を示している。当委員会では補足的なディスクロージャーの要請も検討する。

 

2)銀行向け債権

  1.  現行の自己資本合意においては、OECD諸国の銀行向けの全債権およびOECD諸国外の銀行向けの短期債権(すなわち1年以下)には20%のリスク・ウェイトを適用することが認められている。OECD諸国外の銀行向け長期債権には100%のリスク・ウェイトが適用される。ソブリンに係る現行のアプローチに代えて、上記に概説したように外部の信用評価を用いるアプローチを導入した場合には、銀行向け債権に対する現行のアプローチは最早適当ではなくなる。この問題に対処するため、当委員会は二つの主な選択肢を検討した。その何れか一方が用いられるべきか、あるいは各国の裁量により何れを用いることをも可とすべきかについて、意見が求められる。

  2.  第一の選択肢は、銀行向け債権に対し、その設立国のソブリンに適用されるリスク・ウェイトを基準として、自己資本合意を改訂するというものである。銀行に適用されるリスク・ウェイトは、ソブリンに適用されるものよりも一段階高いものとなるであろう17。例えば、ソブリン向け債権のリスク・ウェイトが20%であれば、当外国銀行向け債権には50%のリスク・ウェイトが適用される。リスク・ウェイトの上限は100%とするが、格付の最も低い国(例えば、スタンダード&プアーズ社の手法においてB−未満)の銀行向けの債権には最高150%のリスク・ウェイトが適用される。こういった目的で用いられるソブリンのリスク・ウェイトには、自国政府ないし中央銀行向けの自国通貨建貸出に適用することのできる特例措置は含まれない。

  3.  第二の選択肢は、外部信用評価機関が当該銀行に付与した格付を直接用いるというものである。格付を取得していない銀行を含め、殆どの銀行に対する債権は50%のリスク・ウェイトを適用される。しかしながら、信用度が非常に高い銀行向け債権(例えば、スタンダード&プアーズ社の手法においてAAAからAA−)は20%、格付がBB+からB−の銀行向け債権は100%、B−未満の銀行向け債権は150%のリスク・ウェイトを適用される。原契約期間の短い(例えば6か月未満の)銀行向け債権(最も低い格付の銀行を除く)には、当該銀行向け債権の通常のリスク・ウェイトより一段階低いリスク・ウェイトが適用される。例えば、ある銀行向け債権のリスク・ウェイトが50%であった場合、当該銀行向けの短期債権のリスク・ウェイトは20%となる。銀行向け債権のリスク・ウェイトの下限は20%であり、如何なる場合も銀行向け債権のリスク・ウェイトが当該国のソブリン向け債権のリスク・ウェイトを下回ることはできない。

  4.  何れの選択肢を採る場合も、銀行向け債権のリスク・ウェイトが100%を下回るのは、当該国の銀行監督当局が「実効的な銀行監督のための基本原則」に示された25の原則を実施しているか、採択し、実施に移しつつある場合に限られる。

  5.  現行の自己資本合意に定義されている国際開発銀行には、引続き20%のリスク・ウェイトが適用される。

 

3)中央政府以外の公共部門向け債権

  1. 当委員会は、公共部門(PSEs)向け債権を一般に当該国の銀行向け債権と同様に扱うことを提案する。しかしながら、各国監督当局は、自国の公共部門に対する債権を自国のソブリン向け債権と同様に扱うことができる。この裁量が行使された場合、他国の監督当局は、自国銀行の当該国公共部門向け債権に同様のリスク・ウェイトを適用することができる。

 

4)証券会社向け債権

  1.  当委員会は、自己資本合意において銀行に課されているのと類似の規制・監督体制(特にリスク・ベースの自己資本規制を含む)の下にある証券会社向け債権は、一般に銀行向け債権と同様の扱いとされるべきことを提案する。

  2.  証券会社向け債権のリスク・ウェイトが100%を下回ることが認められるのは、IOSCOの定めた証券規制の30の目的と原則18を当該証券会社の監督当局が採択し、実施に移しつつある場合に限られる。

 

5)事業法人向け債権

  1.  当委員会は、現行の自己資本合意の問題点の一つは、事業法人向け債権の信用度の差異が十分に反映されていないことであると認識している。当委員会は今回、事業法人向け債権の標準リスク・ウェイトを100%に据え置く一方、信用度の極めて高い(例えば、スタンダード&プアーズ社の手法においてAA−以上の)法人向け債権には20%、信用度の極めて低い(同B−未満の)法人向け債権には150%のウェイトを適用することを提案する。如何なる場合も、事業法人向け債権のリスク・ウェイトが当該法人の設立国のソブリン向け債権に付与されるリスク・ウェイトを下回ることはできない。

  2.  現時点では、G10諸国間において外部評価を取得している法人の割合は一様でないことから、当委員会は、最高の信用度を有する与信に対してのみ優遇的なリスク・ウェイトを提案している。信用度において最高とはいえない借手にまで優遇的なリスク・ウェイトを適用すれば、各国銀行間に競争上の不平等が生じる結果となる。しかしながら、当委員会はこの分野においてさらなる検討作業を予定しており、広範に実施され得るような、事業法人向け貸出をより細緻に区別する方法について業界の意見を求める。

  3.  ソブリン向け、銀行向け、および事業法人向け債権のリスク・ウェイトに関する提案を要約すれば、以下のとおりである(例として再びスタンダード&プアーズ社の手法を用いる)。

表1

債  権

信   用   評   価

AAA
〜AA−

A+〜A−

BBB+
〜BBB−

BB+
 〜B−

B−未満

未格付

ソブリン

0%

20%

50%

100%

150%

100%

銀  行

選択肢11

20%

50%

100%

100%

150%

100%

選択肢22

20%

50%3

50%3

100%3

150%

50%3

事業法人

20%

100%

100%

100%

150%

100%

1  当該銀行の設立国のソブリンに適用されるリスク・ウェイトに従ってウェイト付け。
 
2  個々の銀行に対する信用評価に従ってウェイト付け。
 
3  原契約期間の短い(例えば6か月未満の)銀行向け債権には、当該銀行向け債権の通常のリスク・ウェイトに比して一段階低いリスク・ウェイトが適用される。

 

6)不動産により担保された債権

  1.  当委員会は、債務者が現在または将来居住するか、もしくは賃貸されている住宅に対し設定された抵当権により完全に保全された貸出には、引続き50%のリスク・ウェイトを適用することを提案する。

  2.  過去数十年間において、多くの国の銀行業界が商業用不動産貸出からたびたび発生する不良資産に悩んできた経験に照らし、当委員会は引続き、商業用不動産への抵当権により保全された貸出には、原則として、100%以外のリスク・ウェイトが適用されるべきではないとの考え方を堅持している。

 

7)高リスクのカテゴリー

  1.  当委員会は、自己資本の枠組みを信用リスクに対してより感応的なものとする方針である。この点において、上述のとおり当委員会は、デフォルトや価格変動に係る相対的に良好な実績がある場合には、一定の信用度の高い資産に適用するリスク・ウェイトを軽減することを提案している。加えて、デフォルト経歴が相対的に芳しくなく、価格の変動性も高い場合には、一定の資産に100%を超えるリスク・ウェイトを適用する意向にある。具体的には、当委員会は、150%のリスク・ウェイト・カテゴリーを設定し、同カテゴリーに格付がB−未満の商品(ソブリン・銀行・事業法人向け債権)と、格付がBB+とBB−の間の資産証券化商品を含めることを提案している。当委員会は、リスク度がさらに高い資産を対象として、これ以上に高いリスク・ウェイトのカテゴリーを追加的に設けることも検討している。当委員会は、ここに提案した変更と、150%のリスク・カテゴリー    および、さらに高いリスク・ウェイト・カテゴリーの可能性    を如何に定義すれば、低いリスク・ウェイト・カテゴリーに含まれる債権に比して、信用リスクから発生する損失のボラティリティが平均的に高いエクスポージャーをより広範に取り入れることができるか、という点についてコメントを求める。当委員会は、銀行の内部信用格付手法の調査と併行して、寄せられたコメントを検討する予定であり、標準的アプローチと内部格付に基づくアプローチが整合的に取扱われることを目指す。

 

8)その他の債権

  1.  その他の全ての債権については、引続き標準的リスク・ウェイトを100%とする。

 

9)オフバランスシート項目

  1.  当委員会は、コミットメント以外のオフバランスシート項目については、現行の掛目を変更することは提案しない。現行の自己資本合意においては、原契約期間が1年以内のコミットメント、ないし任意の時期に無条件で取消し可能なコミットメントには自己資本が課されていない。原契約期間1年超のコミットメントは、所要自己資本額を算定するために50%の掛目が適用されている。こうした取扱いは、コミットメントの満期が長いほど、引出される、ないし借手の信用度が低下する、あるいはその両方の可能性が高くなるという事実を反映させることを意図したものであった。

  2.  上記のアプローチに対しては、銀行はコミットメントの期間を365日ないしはそれ未満に設定したうえでロールオーバーするという抜け道を多用してきた。当委員会は、短期のコミットメントであっても多少のリスクは伴う事実に鑑み、20%の掛目を設けることを提案する。本掛目の対象となるのは主として法人に供与されるコミットメントであろう。本掛目の適用除外が認められるのは、無条件で取消しが可能なコミットメント、ないし、借手の信用状態が悪化した場合に銀行により事前通知無しで実質的に自動的な取消しが随時なされるコミットメントである19

  3.  高い格付けを取得している機関に対して低いリスク・ウェイトの導入が提案されていることに鑑みると、OTCデリバティブ取引で取引相手に対するエクスポージャーに対してリスク・ウェイトの上限を設ける必要がなくなろう。したがって、現行の自己資本合意において、これらのOTC取引に関与する取引対象が一流の相手先であるとの仮定の下に特別の取扱いとして与えていた50%の上限を撤廃することを当委員会は提案する。この提案は、当委員会のペーパー、「銀行と、レバレッジの高い業務を行う機関との取引」20の提言に沿ったものである。

 

10)マチュリティ

  1.  債権のマチュリティは、当該債権が銀行に及ぼす総合的な信用リスクを決定する一要因であることを当委員会は認識している。信用度において同等の二人の借手に対するエクスポージャーであれば、長期の債権の借手に対するエクスポージャーの方が、短期の債権の借手に対するものよりも一般にリスクが高い。しかしながら当委員会は、借手の信用度に関する現行のアプローチが大まかなものであることに鑑みれば、債権のマチュリティに応じて所要自己資本額に差異を設けることによって正確性を追求することは難しいと承知している。例えば、信用度の高い借手に対する長期債権は信用度の低い借手に対する短期債権よりもリスクが小さい場合が多いことは周知のとおりである。したがって当委員会は、現段階では、一部の銀行向け債権を除き、債権のマチュリティを自己資本規制上考慮することは提案しない。但し、当委員会は、エクスポージャーの信用度をより精密に区別する方法を模索する作業が進展した暁には、信用リスクの評価にマチュリティをより明確に取入れる方法も検討することになろう。

 

11)外部信用評価機関の適格性基準

  1.  リスク・ウェイト付けの仕組みを上に概説したように改訂すると、監督当局は外部信用評価機関に対する依存度を強めることになる。したがって、健全性の観点からは、これらの機関を認定する基準が十分に高い水準に設定されることが重要である。最低限の認定基準として不可欠であると当委員会が考えるのは以下の項目である。

  1. 客観性:信用評価を付与する手法は、厳格・系統的・継続的であって、過去の経験に照らした何らかの検証を受けていなければならない。また、評価は継続的に見直され、財務状況の変化に対応するものでなければならない。当委員会としては、それぞれの市場のセグメントのために使用される、厳格なバック・テスティングを含む評価手法は、監督当局の認定を受けるまでに少なくとも1年間は確立されていることを要件とするよう提案するが、3年間確立されていることが望ましいと考える。

  2. 独立性:評価手法は、外部からの政治的な影響や制約、評価対象企業からの経済的圧力から可能な限り自由でなければならない。

  3. 透明性:検証用に、個々の評価は一般に入手可能でなければならない。

  4. 信頼性:信頼性は、上記の諸基準を満たすことによってある程度得られる。信頼性基準が新しい機関の参入に対する障壁として用いられるべきではないが、同時に、今回の監督制度変更以後に参入する機関を注意深く評価する必要はあろう。機密情報の不正使用を防ぐための内部手続が設定されていることも、信用評価機関の信頼性を強める要因となる。

  5. 国際的アクセス:複数国に亘って評価を行っていることは要件とならないが、評価結果は、正当な関心を有する国外の第三者に対しても国内の同じ立場の者に対するのと同じベースで提供されなければならない。

  6. 資源:信用評価機関は、評価対象企業の幹部および実務レベルの人々と継続的に接触するのに十分な資源を有していなければならない。

  7. 認定:各国監督当局は、上記の基準に基づいて信用評価機関を認定する責任を負う。当委員会の事務局が各国の監督当局により認定された機関に関する情報の交換所として機能することが提案されている。

 当委員会は、これらの基準を十分に厳格なものとするために更に強化する必要があるか否か、また、如何に強化すべきかについてコメントを求める。

  1.  当委員会は、企業の様々な債務にこうした評価手法を如何に適用するかをより詳細に定めるために、各種の有力外部信用評価機関が用いているアプローチについて実証的な分析を行う予定である。例えば、当委員会は、短期と長期の評価をどのような場合に如何に用いるべきか、また、グループ内の他社の未格付債務や外貨建の未格付債務にも信用評価を適用することができるか否か、といったことを判断する必要があろう。以下の表には、信用度が極めて高い(すなわち信用リスクが極めて低い)と考えられる債務と、信用度が極めて低いと判断された債務の格付が例示されている。

表2

信用評価機関

信用度が極めて高いとの評価

信用度が極めて低いとの評価

Fitch IBCA

AA−以上

B−未満

Moody’s

Aa3以上

B3未満

Standard & Poor’s

AA−以上

B−未満

輸出保険機関

121

7

 

  1.  当委員会は、所要自己資本額算出のベースとして用いることが認められるために必要な評価の数を決めるうえで、トレーディング勘定に適用される一般的アプローチを援用することを提案する。すなわち、2つの適格な外部信用評価機関からの評価を得ていること、ないしは、1つの適格な機関から評価を得ていて、他の適格な機関からより低い評価を得ていないこと、である。しかしながら、トレーディング勘定のポジションとは異なり、また、内部格付に基づいて所要自己資本額を算定するアプローチの開発までの間ではあるが、バンキング勘定においては、格付を取得していないものについて、同等の信用度を有するとの銀行自身の判断に従って債権を分類することは認められないものとする。

  2.  市場規律を促進するため、銀行に対しては、資産にリスク・ウェイトを付与するに当って使用した信用評価機関、および、そうしたそれぞれの信用評価機関に基づいてリスク・ウェイトを付した債権の割合を公表するよう義務付けることが提案されている。

 

12)資産の証券化

  1.  当委員会は、資産の証券化が、銀行から他の銀行ないし銀行以外の投資家に信用リスクを再配分するための効率的な手段となり得ることを認識している。この点において、証券化はリスクの多様化を進め、金融の安定を強化するものである。しかしながら当委員会は、一部の銀行が、自らのエクスポージャーに相応する自己資本を維持することを回避する手段として、仕組み金融(structured finance)や証券化を利用していることに懸念を強めている。また、現行の自己資本合意は、銀行がどのような種類の取引を用いるかによって、同一の経済的リスクに課される所要自己資本額にかなりの差が生じ得るという点において、一貫性を欠いている。その結果、こうした技術を用いることによって銀行は、ポートフォリオに付随する実際の経済的リスクに照らせば自己資本が脆弱化していることを隠しつつ、名目的な総自己資本比率を高めることが可能となる。

  2.  こうした懸念に対処するため、当委員会は、現行の自己資本合意を改訂し、適格な外部信用評価機関による格付を用いて資産の証券化に対する所要自己資本を設定する方式を採用することを提案する。本件に関する提案は、主として、資産プールを担保として証券を発行する特別目的会社(SPV)の設立を伴う取引を対象としている。当委員会は、証券化市場はグローバルな市場であり、国際的に活動する銀行が同市場に多数参加していることを認識している。また、国際市場で発行されている資産担保証券は、通常、信用格付を取得している。したがって、外部の信用評価を用いて証券化取引から生じるリスクに対する所要自己資本額を算定することは、自己資本合意の目的である競争上の平等性の確保を一段と促進するであろう。

  3.  当委員会は、証券化商品について以下の提案を行なう。

  1.  また、リボルビング・ファシリティについては、オフバランスの証券化債権(すなわち管理資産<managed assets>)に無条件の早期償還が認められていたり、マスター・トラスト取極めが適用されていたりすることがオリジネーターである銀行にとって特別な問題となり得ると監督当局が判断した場合、当局の裁量に従って、当該債権は20%の掛目により与信相当額に換算のうえ、債務者のリスク・ウェイトを適用される可能性がある。

 

C.バンキング勘定の取扱い:内部格付に基づくアプローチ

  1.  当委員会の目標は、個々の銀行にとって、規制上の所要自己資本が当該銀行に特有のリスク・プロファイルをより確かに反映する自己資本規制のアプローチを開発することである。このため、当委員会は、信用リスクに関する標準的アプローチに一定の修正を加えることを提案するが、これは引続き大多数の銀行に適用されることになる。

  2.  しかしながら当委員会は、銀行自身が自らの信用リスクを定量的・定性的に評価した結果に基づくアプローチは本質的に魅力があることを認める。したがって当委員会は、将来的には一部の先進的な銀行において、内部格付に基づく(IRB)アプローチが所要自己資本額を設定するベースとなり得ると考える。当委員会は、銀行業界との協議を行いながら、こうしたアプローチに関する主要な論点を検討し、標準的アプローチの見直しと同じ時間的枠組みの中でこれを開発することを目指す所存である。当委員会は、今後作成される協議用文書において、本提案のより詳細な分析を提示する予定である。

  3.  上記の作業の一環として、当委員会は以下のことを行う。

  1.  当委員会はまた、本アプローチにより算出される規制上の所要自己資本額が正確で標準的アプローチと整合的なものとなるよう、注意深く配慮する所存である。IRBの枠組みにおいても自己資本の枠組みの第二・第三の柱は鍵となる役割を果たすであろう。全ての銀行の内部格付システムの合理性、正確性、および比較可能性を評価するうえで、監督上の検証プロセスは重要な役割を果たすことになろう。また、当委員会はより広義の市場規律にも配意しており、この目的を達成するための措置(例えば、ソブリンによるSDDSの遵守を低リスク・ウェイト適用の条件の一つとすること)がIRBアプローチに組込まれるであろう。

  2.  以下の議論では、当委員会が今後作成するIRBアプローチに関する協議用資料においてより詳しく論じることを予定している問題の幾つかを取上げ、本アプローチが実務的にどのようなものとなり得るかを概観する。

 

1)自己資本規制に内部格付を用いることの長短

  1.  多くの先進的な銀行は、個々の信用エクスポージャーを概括する手段として内部的な信用リスク格付を用いており、こうした格付は、実務処理(例えば貸出の承認に係る要件設定)やリスクの管理・分析(値付けや収益性の分析及び内部的な資本配分等)など、銀行の様々な機能に広く組み入れられつつある。

  2.  内部格付には、顧客勘定の詳細なモニタリングや保証・担保のより深い知識など、外部の信用評価機関が通常は入手し得ない補足的な顧客情報が織り込まれている可能性があることを当委員会は認識している。また、内部格付は、個人や中小企業の信用度を信用スコアリングによって評価したり、未格付の大規模な企業を詳細な分析によって評価するなど、外部格付に比して格段に広い範囲の借手をカバーしている可能性がある。したがって当委員会は、標準的アプローチと並立する選択肢として内部格付に基づくアプローチを提案するに当り、銀行が、外部の信用評価機関の下した信用評価に過度に依存することなく、内部的な信用リスク管理・測定技術の更なる開発に務めることを期待する。

  3.  また、内部格付に基づくアプローチは、銀行の内部的な信用評価に依存するという点やリスク量の概念において、信用リスク・モデルと一部共通する面を有する。したがって、本アプローチは、銀行に対して信用リスク管理技術を一段と改良するインセンティブを与え、将来的に完全な信用リスク・モデルに移行するための準備を整えることにもつながる。

  4.  内部格付には上に述べたような利点があるので、監督当局にとっては、内部格付を最低所要自己資本を算定する際に用いることは、提案されている標準的アプローチからは大きな一歩を踏み出すことになろう。率直ではあるが極度に単純な現行のアプローチと、内部格付を用いることによって得られるであろう潜在的な正確性の向上ならびにカバレッジの拡大との間のトレードオフは、銀行と監督当局の双方に広範な影響を及ぼすと思われるため、注意深く検討されなければならない。銀行により用いられている格付システムは均質性に欠けるうえ、内部格付の付与に際しては主観的なリスク要因や経営上の判断が中心的な役割を果たすことから、内部格付に基づくアプローチにおいては、銀行間および各国間の比較可能性という点が大きな障害となる。さらに、内部格付は総合的なリスク管理において様々な役割を果たしているため、最低所要自己資本額の算定にそうした格付を用いるに当っては様々な論点が生じ得る。したがって当委員会は、それらの論点を注意深く検討しつつ、所要自己資本を内部格付に関連付ける手法を検討する。以下では、こうした作業を行なうに当たって考慮すべき事柄が示されている。

 

2)監督当局にとっての実務上の影響

  1.  銀行は、最低所要自己資本額の設定に内部格付システムを用いるに当たって、監督当局の事前承認を得る必要があるため、本アプローチの検討において決定的に重要な点は、監督当局が銀行の格付システムの総合的な適切性を如何に評価すべきか、ということである。当委員会は、この点を含む諸々の重要な問題に取り組むため、まず、銀行の内部システムに影響を及ぼす諸要因を検証し、内部格付を共通の基準に引直すために銀行が用いることができる手法を検討する。そうすれば、これらの内部格付システムを評価・検証するために監督当局が用い得る定性的・定量的基準について詳細な検討を行うことができるであろう。

  2.  監督当局は、規制上の所要自己資本を設定するために用いることを前提として銀行の格付システムの内容を評価する際、当該銀行のエクスポージャーにおけるリスクの範囲内で意味のある区別を設けるうえで、格付の区分の数が適切であるか否かを判断する必要があろう。監督当局はさらに、経営上の目的で用いられている格付の区分が測定可能な損失概念に適切に結び付けられているか否かを検証しなければならない。例えば、借手のデフォルト確率のみを問題にするシステムと、デフォルトが発生した場合の回収率をも考慮するシステムとでは、生じる結果が非常に異なるであろう。

  3.  監督当局は、エクスポージャーを各格付カテゴリーに分類するための基準に適切なリスク要因が全て織り込まれているか、また、当該基準が十分に明快かつ明示的であるか、といったことも考慮しなければならない。格付プロセスが明快かつ詳細であることは、一貫性のある正確な格付を可能にするのみならず、特定された性質を有する取引から発生した損失が銀行の予測と一致しているか否かを事後的に評価することをも可能にする。これは、格付の基準、もしくはリスク等級について定義されている損失面の特徴を調整する必要があるとのシグナルとなり得る。監督当局はさらに、格付の付与または見直し、ないしはその両者を行なう者が経験を有し、かつ与信承認や価格設定から独立していることが銀行のプロセスや統制により確実なものとなっている点を確認する必要があろう。

  4.  最後に、各格付カテゴリーについて定義されている損失面の特徴を評価する際、監督当局は、銀行自らの経験から得られた意味のある実績データ、もしくは当該格付対象資産と比較可能な商品についての第三者の損失実績によって、銀行が推計を裏打ちできることを確認する必要があろう。このためには、一般に、同一の格付を付与される貸出は全て、事前に予想される損失面の特徴が共通していること、かつ、こうした比較可能性を得るため、格付の基準とプロセスには貸出の種類、担保、保証、およびその他の特徴が適切に考慮されていることが必要となろう。

 

3)自己資本充実度の枠組みの他の部分との関連

  1.  また、当委員会は、内部格付の利用がリスク・ウェイトおよび自己資本充実度の枠組みの他の部分、ひいては自己資本比率に如何に関連付けられるかを検討する。ひとつの可能性として、自己資本合意について提案されている標準的リスク・ウェイトないしは拡張された一連のリスク・ウェイトに銀行の内部格付を紐付けるという方式があり得る。この方式を採った場合、何れの信用評価を用いたかに拘わらず、様々な資産やエクスポージャーに対する所要自己資本をより明確に比較することが可能になり、また、リスク・ウェイト付けの枠組みの強化と結び付けることもできる。こうした観点から当委員会は、所要自己資本を内部格付に関連付けるうえでの第一段階の選択肢は、実施時点における実務上の適用可能性と概念の健全性との間の適度なトレードオフを提供するものであろうと予想する。例えば、拡張された一連のリスク・ウェイトに内部格付を紐付けるという方法である。いまひとつの選択肢は、恐らく、より長期的展望に立った方式であろうが、当該銀行が用いる手法がこの目的に適していることを監督当局が認めた場合に限り、デフォルト確率など銀行自身が推定する損失額にその他の何らかの配慮を加え、それをそのまま当該エクスポージャーの所要自己資本額に換算することを認めるという方法である。しかしながら、本方式を適用するためには幾つかの問題が解決されなければならない。例えば、EDF(期待デフォルト率)やそれに関連するPDF(確率密度関数)といった測定値を用いた損失確率の推計、PDFの推計に用いられている手法に係る概念の評価(保有期間、信用事象の定義等)、検証、データの限界などである。

  2.  銀行が自らの所要自己資本を算定する際に考慮すると思われる要因は多様であるため、自己資本充実の枠組みの他の部分との関わりは、それぞれの銀行によってかなり相違し得る。信用リスク削減手法に対する標準的アプローチをどの程度適用し続け得るか、あるいは、その他のリスクに対する所要自己資本を、場合により、どの程度修正すべきか、といったことも個別銀行間の相違点に含まれるであろう。当委員会は、内部格付と自己資本充実度の枠組みの他の部分とのこうした関わりについて、さらなる検討を行う所存であり、これらの問題については業界との間で精力的に議論が行われることを予想している。


次へ

信用リスク・モデル:現状とその活用 エグゼクティブ・サマリー

Back
メニューへ戻る