D.バンキング勘定の取扱い:信用リスク・モデル

  1.  当委員会は、規制上の所要自己資本の設定にポートフォリオ・ベースの信用リスク・モデルを用いる可能性をも検討してきた22。当委員会は、こうしたモデルの利用と継続的な開発を推奨する。当委員会は、信用リスクのモデリングによって内部的なリスク管理が実際に向上する可能性があること、および、銀行の監督に用いることが潜在的に可能であることを認識している。しかしながら、信用リスクに対する所要自己資本を設定する正式なプロセスにポートフォリオ・ベースのモデル・アプローチを使用することを認める前に、監督当局は、リスク管理においてモデルが活発に用いられていることだけでなく、モデルが概念的に健全であり、経験的に検証され、銀行間の比較が可能なかたちで所要自己資本を算出するものであることを確認しなければならない。現時点では、こうした目標を達成するまでには、データの入手可能性やモデルの検証に係る問題を中心として、未だ少なからぬ障害を乗り越えなければならない。

  1.  当委員会は、さらなる開発とテストの後に、信用リスク・モデルがどのように規制上の所要自己資本の設定に明示的な役割を果たし得るかを検証する予定である。そのために、当委員会はこの分野における進展を注意深くモニターしていく所存であり、今後、業界に対しても建設的な対話への参加を促したい。

 

E.信用リスク削減手法

  1.  1988年の自己資本合意は、貸出金やその他のエクスポージャーの信用リスクを削減するために銀行が活用する特定の手法、具体的には担保の徴求や第三者からの保証の取得について、自己資本規制上、認識することとしていた。これらの信用リスク削減手法の形態で認識されるものの範囲を拡大すべきか否かの問題は、後述の担保、保証及びオンバランスシート・ネッティングに関するセクションで取扱われている。以下の段落では、信用リスク削減のその他の側面を考慮する。

  1.  この関連で、1988年の自己資本合意では、法的に有効なネッティング契約の下で同一の取引相手との間で相殺取引を行う実務を自己資本規制上認識する可能性が述べられている。自己資本合意は後にこうしたネッティングを認識するよう改訂された。さらに、1998年4月には、当委員会はオンバランスシートのネッティングを非常に限定的に自己資本規制上認識することを提案した。当委員会は、これらの問題の一部の側面について既に過去に市中協議を行っているが、現時点でこの自己資本合意の見直しの一環として本件に係る問題全体について協議することが有用であると考えている。

  1.  自己資本合意の信用リスク削減手法を認識する現在の手法は、自己資本合意が承認された時点の信用リスク管理技術の進展度合を大きく反映している。それはまた、適用や検証が容易なルールと、銀行に柔軟性を提供する反面、より多くの監督当局による監視や検証を要求するルールとをどのように比較考量するかについての当委員会の見方も反映していた。当時、こうした手法は殆ど担保の徴求と、銀行からのスタンドバイ信用状の形態でのあるいは政府からの保証の取得に限られていた。それ以来の10年間に、信用リスクを削減またはヘッジする手法・商品の活用と範囲、及び、関連するリスクを管理する能力は大きく広がった。こうした活用の増加は、銀行がより容易にリスクを分解し管理できるようにする目的で設計された新技術の開発により促進された面がある。特に、クレジット・デリバティブの形態での銀行による保証は広範に利用されている。これらの進展は、多くの銀行のリスク・プロファイルに重大な影響を及ぼした。

  1.  当委員会は、信用リスク削減手法の活用から生じる便益とそれらが健全なリスク管理を行ううえで果たし得る主要な役割を認識している。したがって、当委員会は、自己資本規制の枠組みがリスク削減手法をより反映することが重要であると考えている。

  1.  信用リスク・ヘッジの広範な活用は、信用リスク削減手法の利用による信用リスクの低下を自己資本規制上どのように認識するのが最善かという問題を生じさせた。この問題は二つの見方ができる。一方では、信用リスクのヘッジが不完全である場合(信用エクスポージャーと比較して信用リスクのヘッジ手段の期間が短い場合が、そうした不完全なヘッジの一例である)に、残余リスクを、自己資本規制上、どのように認識するのが最善か、という問題がある。他方、そうした手法を活用した結果、削減される信用リスクをどの程度自己資本規制上、認識するか、すなわち、現行の置換え方式(substitution approach)──原資産のリスク・ウェイトを担保ないしは保証人のそれに置換える手法──を変更して、所要自己資本額をそれ以上に軽減する方法が導入できるか(できる場合には如何に)との問題がある。

  1.  当委員会は、これらの問題に対処するための方法を考察してきた。手法を見出すに当たって、自己資本規制上の信用リスク削減効果の計測の正確性を追求することと自己資本規制の比較的単純な枠組みを維持することとの間の比較考量が不可欠である。正確性の追求は健全なリスク管理のためのインセンティブを強化することと整合的な筈である。他方、正確性は複雑性という費用を発生させる。不完全なヘッジに対する適切な自己資本と、健全なリスク削減手法を十分に認識するための所要自己資本額の削減との間でもバランスをとる必要がある。信用リスク削減手法が認められるためには、銀行は、適用している手法に十分な法的根拠があり、関係するリスクに対して実効的な管理プロセスがあることを確実にしなければならない。例えば、オンバランスシート・ネッティングの関連では、当委員会は、銀行が健全な方法により関連するエクスポージャーをネット・ベースで監視・管理していることが不可欠であることを強調した。以下のセクションに対してコメントを行う際には、銀行はこれらの条件が如何に満たされているかを示すことが重要である。

 

1)残余リスク

  1.  上記のとおり、ヘッジが不完全な場合に残余リスク(residual risk)が発生する。ヘッジが不完全であっても、信用リスクを削減することができ、それゆえ望ましいことである。同時に、残余リスクを適切に取扱うことが必要である。こうした残余リスクは様々な形態を取り得る。残存する将来の信用リスクは、原資産である債務より先にヘッジ手段の満期が到来する、すなわち期間ミスマッチがある場合に生じる。ベーシス・リスクは、ヘッジ手段の価値に不足が生じるような潜在的な市場価格の変動にエクスポージャーとヘッジ手段が晒されている場合に生じる。三つ目の残余リスクの種類は資産ミスマッチに関連しており、ある資産が異なるリスク特性を有する資産を参照するクレジット・デリバティブによりヘッジされている場合に生じる。これらの残余リスクと自己資本規制上の取扱いのあり得べきアプローチについての当委員会の考え方が以下に議論されている。

 

(i)期間ミスマッチ

  1.  現行の自己資本合意では、信用リスクをヘッジする商品の満期までの期間が原資産である債務の満期までの期間と見合っていることが明示的に要求されているわけではない。この結果、各国の実務では取扱いが異なる傾向があった。監督当局によっては、原資産である債務の満期とヘッジ手段の満期が見合っていない限り、自己資本規制上のヘッジ効果を一切認めていない。他の監督当局は、ヘッジ手段の満期が原資産である債務の満期より短い場合でも、残存し、確実に発生する、将来の信用リスクに対処するためのリスク管理の実務が備えられている場合には一般的に所要自己資本額の削減を容認している。その他にも、ヘッジ手段に0%のリスク・ウェイトが適用される場合(相殺可能な負債でネットされる資産といったケース)にはミスマッチのあるヘッジの効果は認めない一方、ヘッジ手段に0%よりも高いリスク・ウェイトが適用される場合(銀行が提供するクレジット・デリバティブにより保証される資産といったケース)には、将来の信用リスクをカバーするために何がしかの自己資本が提供されることからヘッジ効果を認めている例もある。

  1.  当委員会は、マチュリティ・ミスマッチがあるヘッジの自己資本規制上の取扱いは、より整合的になるべきと考えている。

  1.  残存する将来の信用リスクに対処する最も単純な方法は、マチュリティ・ミスマッチがある場合のヘッジのリスク削減効果を、自己資本規制上、認識しないことであろう。しかしながら、このアプローチは、ヘッジ活動や健全なリスク管理へのインセンティブを組込むものではない。

  1.  もう一つの選択肢としては、カバーされていないリスクに対して単純なアドオンの形式で追加的な自己資本を賦課することを条件に、マチュリティ・ミスマッチがある場合でもヘッジ効果を認識する方法がある。この方法については解決すべき問題が二つある。一つ目は、適切なアドオンの決定についてである。二つ目は、ヘッジが短期的なプロテクションしか提供していない場合にこの手法が健全であるか、ということである。後者の点については、当委員会は、それを下回った場合にはヘッジ効果を認識しない最低限のヘッジ手段の残存期間、例えば1年間、を設定することが必要であると考えている。ヘッジ手段の残存期間が一定以上、例えば2あるいは3年、ある場合には、アドオンは免除することも考えられる。このような免除は、銀行は将来の潜在的な問題に備えるにはより多くの時間があるため、将来発生する残余の信用リスクはより懸念の対象とはならないとの見方を反映したものである。これらの問題に関する意見や、自己資本賦課とマチュリティに関する要件とリスク管理のプロセス及び市場の実務との間のバランスを如何に採るべきかについて、意見が求められる。

 

(ii)市場価格の変動

  1.  エクスポージャーやヘッジ手段は、(適正な超過担保や頻繁な市場価格での洗替えがない限り)信用リスクに対するプロテクションに不足が生じるような市場価格の将来の変化に晒され得る。今日完全にカバーされているポジションであっても、ヘッジ手段の市場価格が原資産となる債務の価格を下回ると、完全にカバーされているわけではないことになる。こうしたベーシス・リスクはエクスポージャーが現金以外の担保でカバーされているときに生じるが、ネッティングの場合においても、例えば資産が相殺すべき負債と異なる通貨建てとなっている場合に生じ得る。

  1.  現行の自己資本合意では、アドオンの活用を通じた追加的な自己資本の賦課により、オフバランスシートのデリバティブ取引の将来の潜在的なエクスポージャーを認識している。その他では、オンバランスシートのポジションで異種通貨間のネッティングを認めていない以外はベーシス・リスクに対応していない。

  1.  当委員会はオフバランスシートの分野と同様のアドオンの活用と、一定の掛け目でヘッジ手段の価値を割引くヘアカットの手法を考察した。いずれの手法であっても、当委員会のペーパー、「銀行と、レバレッジの高い業務を行う機関との取引」23で議論されているような、不利な市場環境から発生するカバーされない潜在エクスポージャーの問題に対処することになる。アドオンはオフバランスシートのデリバティブ取引の取扱いと整合的という長所があるが、超過担保の度合いに拘らずポジションに対して自己資本のアドオンが賦課されるため、銀行に対して適切なインセンティブを提供するものではない。さらに、デリバティブ取引用に開発されたアドオンはオンバランスシートのポジションに関して適切ではないかもしれない。一方、ヘアカットの手法の場合には、十分に超過担保が積まれているポジションに対して追加的な自己資本を賦課することはしない。しかしながら、適切なアドオンやヘアカットの大きさを決めるには相当多くの実証分析が必要であり、中でも実効的な保有期間や価格の変動性に関する前提が重要になろう。当委員会は最も望ましい手法についてコメントを求める。

 

(iii)資産ミスマッチ

  1.  クレジット・デリバティブの参照資産と原資産が同一でない──資産ミスマッチの──場合、プロテクションの有効性が損なわれる可能性がある。当委員会は、両資産間のクロス・デフォルト条項と高い相関を要求すれば十分であるかどうかを検討した。当委員会は、現時点では、高い相関が資産ミスマッチ・リスクに対してヘッジを提供することを確保する(そしてそれを示す)に足る手法がないとの結論に至った。したがって、当委員会は、クレジット・デリバティブが原資産に対する所要自己資本を削減する効果を持つためには、参照資産と原資産は同一の債務者によって発行されており、参照資産は原資産と同一順位であるないしは、より劣後しており、そしてクロス・デフォルト条項が適用されていなければならないと考える。

 

2)リスク削減の程度

  1.  当委員会は、自己資本合意が、信用リスク削減手法により達成されるリスクの削減度合いを完全には捉えていないことを認識している。現在の自己資本合意のリスク・ウェイト置換え方式の下では、原債務者のリスク・ウェイトが担保ないしは保証人のリスク・ウェイトに単純に置換えられる。例えば、100%のリスク・ウェイトが適用される貸出金に対して銀行の保証がある場合には、銀行に対するリスク・ウェイトと同じ20%のリスク・ウェイトが適用されることになる。しかしながら、この例では、銀行が損失を蒙るのは貸出金と保証人の両方がデフォルトした場合だけである。

  1.  このベースでは、自己資本所要額は原債務者と保証銀行のデフォルト確率の相関を勘案するのがより適切であろう。保証人のデフォルトが必ず借入人のデフォルトを伴うのであれば、現行のリスク・ウェイト置換え方式は適切であろう。しかしながら、両者のデフォルト確率が本質的には無相関なのであれば、現行よりも少ない自己資本賦課が正当化されることになる。この文脈で、当委員会は、原債務者のリスク・ウェイトをヘッジ手段のリスク・ウェイトで置換える方法で導き出される現行の所要自己資本額に対し、単純なヘアカットを適用することにより二重のデフォルトの効果を認識することが可能かどうかという点について考察してきた。こうしたヘアカットは健全な低い水準に設定される必要があろう。

  1.  当委員会は、本質的には再保険である効果の長所を認識する論理を評価しており、リスクを管理するための適正なインセンティブを強化する意向である。しかしながら、当委員会は、幾つかの懸念を持っている。第一に、上記の二重のデフォルトの効果は対称的ではない──保証銀行が倒産した場合、銀行は原債務者に対するエクスポージャーを再度抱えることになり、将来のデフォルト・リスクに晒される。この点、銀行は、経済的資本の所要額が標準的な8%の所要自己資本よりも多いことが十分に想定されるような、より信用度の低いエクスポージャーに対して信用リスク削減手法を用いる場合が多いことは留意されるべきである。第二に、二重のデフォルト効果の認識は規制上のアービトラージの可能性を拡大しかねず、原資産に内在する信用リスクを差別化するうえで自己資本合意の標準的アプローチが採り続ける大まかなアプローチとバランスがとれないかもしれない。第三に、過去の経験によれば、保証人によっては特定の種類のリスクの大規模な集中を抱えている可能性があることから、実務的には景気循環上のないしは特定産業の下降期にはデフォルト相関は高くなることを示している。第四に、信用リスク・モデルの分野に踏み込まずに適切な二重のデフォルト効果によるリスク削減の効果を計測することは現実的ではないであろう。

  1.  これまでの段落ではリスク削減手法に関して一般化された取扱いをしてきた。実効的なリスク削減に対する正当な斟酌を行いながら残余リスクに対して適正な自己資本が賦課されることについてのバランスが求められている。クレジット・デリバティブや、担保、オンバランスシート・ネッティングを含む広範囲のリスク削減手法が利用可能である。それぞれ信用リスクを削減できるが、例えばマチュリティ・ミスマッチがある場合に契約更新ができないリスク(roll-off risk)等、残余リスクを銀行が管理できる程度が同じではない。これは、商品毎にリスク削減効果を認識する程度と残余リスクの取扱いを変える必要があるかもしれないことを示唆している。当委員会はこうした違いを示すような反応に興味を持っている。

 

3)担保、保証およびオンバランスシート・ネッティング

  1.  前セクションで説明されたとおり、1988年の自己資本合意では、担保の徴求や第三者からの保証の取得による信用リスクの削減をある程度認識していた。現金や、OECD諸国の中央政府、OECD諸国の公共部門、あるいは国際開発銀行によって発行された債券が担保となっているエクスポージャーには、担保に付与されるリスク・ウェイト(すなわち、ゼロないしは低いウェイト)が適用される。担保が認識される範囲がこのように限定的であることは、各国別に異なる銀行の担保徴求の実務や、実物資産・金融資産の担保価値の安定性に関する各国毎の異なる経験に照らして適切と考えられた。同様に、現行の自己資本合意で認識される第三者からの保証は、OECD諸国の中央政府や公共部門、OECD諸国内に設立された銀行・証券会社、原資産の残存期間が1年以下である場合のOECD諸国外の銀行、ないしは国際開発銀行からのものに限定されている。これらの機関による保証でカバーされているエクスポージャーは当該保証人への直接的な債権に適用されるリスク・ウェイト(すなわち、ゼロないしは低いウェイト)が付与される。担保ないしは保証で部分的にカバーされているエクスポージャーの場合には、カバーされている部分だけに軽減されたリスク・ウェイトが適用されることになる。

  1.  自己資本合意の見直し作業の中で、当委員会は、保証と適格な担保の範囲を拡大できるか、できる場合にはどのように拡大するか、について検討した。当委員会は、適格な保証人の範囲については、元のエクスポージャーよりも低いリスク・ウェイトが付与される先に拡大することを提案する。

  1.  当委員会は、適切な場合には信用リスクを削減するために担保を活用するインセンティブを銀行に提供したいと考えている。したがって、当委員会は、厳格な法律意見書に支持されていることと、銀行によって実現可能で容易に決定可能な価格があることを条件に、適格な担保の範囲を元のエクスポージャーよりも低いリスク・ウェイトが付与される全ての金融商品──市場性証券だけでなく──にまで拡大することを考慮している。トレーディング勘定に含めることができる商品は一般的に後者の条件を満たすであろう。例えば、適格担保には、AAA格やAA格の企業からの売掛金やデリバティブ取引から生じるキャッシュフローが含まれ得るであろう。当委員会は、こうした拡張の影響が重大である可能性があることに留意している。当委員会は、現金と市場性有価証券以外への適格担保の範囲の拡大、特にリスク削減効果のより大幅な認識を健全性の面での懸念を軽減するためにどのようにバランスさせることができるかという点について、意見を求める。

  1.  当委員会は、一定の条件付きで、オンバランスシート・ネッティングの範囲をバンキング勘定の全ての資産・負債にまで拡大するべきと決定した。しかしながら、当委員会は、これを実施する前に、このアプローチが持つ意味についてさらなる作業を行い、上記で議論されたような他のリスク削減手法の取扱いに照らして進むべき方向を考えたいと思っている。

  1.  当委員会はこの点についても、リスク削減効果の認識と適正な健全性基準とのバランスに焦点を当てながら、コメントを求める。

 

F.その他のリスクの取扱い

1)バンキング勘定の金利リスク

  1.  当委員会は、バンキング勘定の金利リスクが重要である場合があることを認識している。したがって、当委員会は、金利リスクが平均を著しく上回っている銀行(“outlier”)のバンキング勘定の金利リスクに対する自己資本賦課を設けることを提案する。こうした努力の一環として、当委員会は、outlierである銀行を識別するための、金利リスクへの銀行のエクスポージャーの計測に関する1993年4月のペーパー24に示された市中協議用の提案に言及されている手法の進展状況を確認する所存である。当委員会は、現行の実務に照らし、こうしたアプローチを如何にして導入できるか、業界のコメントを求めるところである。

  1.  outlierを識別するために当委員会が考慮しているアプローチは、銀行の内部的なリスク管理プロセスの適切性などの定性的要素の評価を含むものであり、したがって、この自己資本規制の枠組みの監督上の検証の柱と密接に関連する。さらに、当委員会は、1997年に示した25ような健全な金利リスク管理の実務を銀行が遵守しているかといった点も考慮されるべきであると考えている。この点、当委員会は多くの大規模な銀行が行内のリスク管理プロセスの一部として、十分に開発された金利リスクの計測手法に依存していることを認識している。これらの銀行のうち幾つかは、トレーディング・バンキング双方の勘定の金利リスクを捕捉するために内部のVARモデルを活用している。これらは金利リスクを計測するうえで十分に確立された手法ではあるが、当委員会は、コアとなる預金のデュレーションの定量化等、計測プロセスに関連して未だ議論が分かれる問題があることを強調する。結果として、outlierの定義とバンキング勘定における金利リスクの計測手法に関しては、なにがしかの各国裁量が必要であることを当委員会は認識している。

  1.  バンキング勘定とトレーディング勘定の金利リスクの間には、その他にも解決されるべき重要な違いがある。原則的には、現行の自己資本合意のマーケット・リスクを対象とするための改定における2つのアプローチ(すなわち標準的アプローチと内部モデル・アプローチ)のいずれもが、バンキング勘定の金利リスクを取扱うために拡張され得る。

  1.  当委員会は、どのような体系が提案されるにしても、バンキング勘定の金利リスクに対する明示的な自己資本賦課が銀行に与えるインセンティブや、バンキング勘定とトレーディング勘定の間の格差に取扱いの変更が与える影響を考察するための作業を行っている。当委員会は、outlierの定義に関するコメントを含め、金利リスクが平均を著しく上回っている銀行(“outlier”)に対して自己資本賦課を如何に適用し計算すべきかという点について、銀行からの具体的なコメントを求める。

 

2)その他のリスク

  1.  当委員会は、銀行にとっての信用リスクとマーケット・リスク以外のリスクの重要性を認識しており、そうしたリスクを健全に管理し、それらへのエクスポージャーを制限するためには、厳格な管理環境が不可欠であると考えているが、銀行の健全な経営を確保するためにはさらなる措置が必要である。この広い範疇のリスクを管理するための分析的アプローチは現時点では開発の初期段階にある。たとえば、殆どの銀行はオペレーショナル・リスクを明示的に計測・監視する枠組みを最近になって開発し始めたところである。この広い範疇の中のレピュテーショナル・リスクやリーガル・リスクといった他の要素も定量化が困難なため、銀行のリスク管理プロセスに対して課題を突き付けている。

  1.  しかしながら、これらの課題にもかかわらず、当委員会は、これらのリスクの水準を定量化、自行の全体的な自己資本適正度の評価に取入れるために銀行が必要な資源を投入するだけの重要性がこれらのリスクにはあると考えている。規制上の観点からは、この分野のリスクの重要性が増大しているため、自己資本規制の枠組みの中で別途取扱うだけの重要性があると当委員会は結論付けた。当委員会は、その他のリスクに対する明示的な自己資本賦課を開発することを提案し、それが実務上どのように行えるかについて探索している。しかしながら、業界における標準的な慣行が存在しない中、リスク・ベースの自己資本規制の枠組みの中に、真にリスクに対応した形でオペレーショナル・リスクを取込むことは困難である。当委員会は、この目的を達成するための様々な方法に対してコメントを求める。

  1.  オペレーショナル・リスクに対する自己資本を評価するのに可能なアプローチの中で、当委員会は、単純な指標から種々のモデル手法に至るまで、いくつかの選択肢を見出した。単純な指標は、総収入、手数料収入、業務費用、信託財産等(managed assets)、オフバランスシートのエクスポージャーで調整した総資産、ないしはこれらの組合わせ、といった集計値に基づくものがあり得よう。これに、貸借対照表に関連付ける項目を含めることで、バランスをとることもできよう。自己資本規制上のアービトラージの可能性や、それにより生じるかもしれないより良いオペレーショナル・リスク管理に対する負のインセンティブ、そして特定の種類の銀行に対する自己資本上の影響には、特に注意を払う必要がある。当委員会は、望ましい指標に関する意見を求める。

  1.  当委員会は、この他にもオペレーショナル・リスクに規制上の自己資本を配分する手法があり得ることを認識している。一つは、銀行にモデルの使用を認めることである。このオプションのためには、モデルの厳格性、データの質、ストレス・テスト、外生変数の変化に対する反応度合い、そしてモデルによってカバーされていないオペレーショナル・リスクの範囲といった点に特に注意が払われる必要がある(モデルの質に応じて、監督当局はモデルの算出結果に対してさらに乗数などの調整項目を適用することもできる)。当委員会は、現時点では、あるとしても非常に少数の銀行しかこうした基準を満たすモデルを保有しておらず、したがって、これらのモデルは将来的に使用し得るに過ぎないと考えている。しかしながら、当委員会は、自行のモデルが十分に機能していると考える銀行からの説明を歓迎する。

  1.  その他にも、銀行が自己資本をオペレーショナル・リスクに配分するうえで用いている種々の手法があるが、現時点では規制上の自己資本の評価に用いるのは困難であるように思われる。例としては、アーニング・アット・リスク(earnings-at-risk)、費用のボラティリティ、広く用いられている業務ラインの評価手法、ブランド価値、他と比較したある種の業務のリスク、非定量的な自己評価、ないしは、業務量に依存し複数の損失指標を参照する損失事象、といったものに基づく計測手法が挙げられる。当委員会は、こうした手法を用いる銀行からのコメントを歓迎する。

  1.  当委員会は、その他のリスクに対する自己資本賦課の様々なアプローチを考えていくうえで、各金融機関における管理環境の適切性に関する監督当局の評価に基づく定性的な判断を、監督当局も適用すべきであると考える。この判断の一部として、監督当局は、金融機関がオペレーショナル・リスクをどの程度評価し、計測し、コントロールするかに注意を払うであろう26

 

G.トレーディング勘定

  1.  現行の自己資本合意にはトレーディング勘定とバンキング勘定の違いから生じる様々な課題がある:異なる会計・評価の枠組み、前提とされる保有期間、リスク・ウェイト、を含む様々な要因の結果、両勘定間で信用リスクに対する最低所要自己資本額は別々の文脈の中で設定されている。これらの違いにより、トレーディング勘定の信用リスクに対する所要自己資本額は様々な面で潜在的に低くなっており、両勘定間での規制上のアービトラージを行う潜在的なインセンティブを銀行に提供している。したがって、バンキング勘定における自己資本規制の改定案に照らし、当委員会は整合性を確保し、規制上のアービトラージに対するインセンティブを削減するために、トレーディング勘定のポジションに対する取扱いを再検討する。これとは別に、当委員会は、自己資本合意が様々な商品の流動性の違いを考慮しないために、トレーディング勘定内のポジションの多様性も課題を提示していることを認識している。したがって、当委員会は、限られた流動性しかないトレーディング勘定のポジションに対し、(内部用、監督用、規制用と)異なる取扱いをする必要性を考察する予定である。

  1.  当委員会の、レバレッジの高い業務を行う機関に関するレポート27にあるように、市場規模の大きさとその拡大を受け、トレーディング勘定の(リバース)レポ取引の規制上の取扱いも、特に懸念される問題である。レポ取引における潜在的な取引先リスクに対処するために、当委員会は、原資産である債券の価格変動性と市場価格に評価替えされる頻度を反映して、適切な自己資本所要額を設定することを提案する。これらの自己資本所要額は、当ペーパーの付属文書2、セクションEで議論される担保評価の方法と整合的である必要がある。この提案に加え、当委員会は、レバレッジの高い業務を行う機関に関するレポートのその他の提言をフォロー・アップするためのさらなる手段を検討する予定である。


次へ

プレス・リリース 新たな自己資本充実度の枠組み(目次)

Back
メニューへ戻る