III.取り組むべき課題-利用者の選好が的確に反映される市場へ

                                                                              
 (1)  以上のような金融を巡る環境の変化と改革の目標に鑑みると、今般の金融システム
    改革において取り組むべき課題については、現行の縦割りの金融制度の意義が薄れる
    中で、資産運用、資金調達両面における利用者を軸に据え、検討していくことが必要
    であると考えられる。                                                      
      この場合重要なのは、利用者にできるだけ多様な選択肢が与えられ、競争原理が徹
    底される中で様々な取引が行われることである。言いかえれば、利用者の選好が的確
    に反映される、公正で、効率的、かつ国際的な標準に整合的な市場が形成されること
    である。そうした過程では、銀行等への新規参入による新しい活力の導入も市場の活
    性化のために有効であるとの認識に立って、改革における諸課題に取り組んでいく必
    要がある。                                                                
      こうした観点から、商品とそれを扱う金融機関の業務・組織形態の自由化・多様化
    を図る必要があり、同時に、取引が適正な市場規律の下で活発に行われるよう、市場
    ・取引に係るインフラ整備及びルールとペナルティの明確化を行うことが求められる。
    また、改革を進め、競争原理の徹底を図るに当たっては、金融システムの健全性の確
    保も重要な課題となる。                                                    
      これらの課題に取り組む際の監督当局の関与については、事前指導的な行政から市
    場規律に立脚した透明性の高い行政への転換を徹底していく必要がある。        
                                                                              
 (2)  また、金融システム改革を実施するに当たっては、利用者利便の見地から改革の成
    果が全国に均霑される必要があること、及び、創意工夫による地域の実情に応じた金
    融サービスの提供により地域の活性化に貢献する、といった観点も重要である。  
                                                                              
 (3)  なお、今般の金融システム改革には、前回の金融制度改革の「総仕上げ」という面
    もあり、前回の金融制度改革において示された基本的な理念、目指すべき方向性等は、
    今般の金融システム改革を実施していくに当たっても、基本的な考え方となるべきも
    のと考えられる。このため、91年の調査会答申「新しい金融制度について」において
    検討された各事項については、そこで指摘されている考え方に基づき、できる限り早
    期の完了を目指して一段と加速して実施していくことが必要である。            
                                                                              
1.商品・業務・組織形態の自由化・多様化                                
                                                                              
 (1)  金融システム改革を利用者の立場から実施し、利便性・効率性の高い金融サービス
    の提供を実現するためには、市場原理の下で各金融機関が創意工夫を活かしつつ競い
    合うという環境が必要であり、このためには、商品・業務・組織形態の各分野にわた
    る思い切った自由化・多様化が前提となる。                                  
                                                                              
 (2)  商品・業務・組織形態の抜本的な自由化・多様化は、金融機関の経営における選択
    の自由度を格段に拡げることとなる。従来の、自由化を一つずつ積み上げていくよう
    な進め方の場合には、各金融機関が自由化された新規業務をその都度採り入れ、対応
    していく傾向にあったことから、金融機関の横並び構造が変わらなかったという面も
    否定できない。これに対して今般の金融システム改革においては、一定の期限を切っ
    て、その間に選択の自由度を大幅に拡げることにより、各金融機関は、採りうる多く
    の選択肢の中から、利用者との関係で自らが真に優位性を持つものに絞った選択を求
    められることとなる。                                                      
                                                                              
 (3)  こうしたことから、今後、各金融機関は、自らの経営判断に基づき、それぞれが有
    する能力を最大限に活かした特色ある経営・創造的経営を行うことにより、利用者の
    ニーズに応えていくことになると考えられる。例えば、マネーセンター・バンクを目
    指す金融機関においては、金融技術・情報技術を駆使した新しい高度な金融サービス
    の提供及び積極的な国際展開が特色となることが考えられる。また、リテールや地域
    に根ざした経営を目指す金融機関においては、個人利用者サイドに立ったきめ細かい
    サービスの提供に特化していくことが考えられる。                            
                                                                              
(参考)                                                                      
      この点に関し、近年の米銀の経営戦略についても、ホールセール業務を主力とす
    るもの、リテール業務を主力とするもの、双方を行うもの、プライベートバンキング
    など特定業務に特化するものなど、比較優位を有する業務への絞り込みが進められて
    いるとの指摘がある。                    
                                                                              
 (4)  なお、金融機関の取り扱える商品・業務の範囲を拡げる場合、一方で、経営の健全
    性確保等の面で、それに見合った規律が当然必要になるとの指摘があった。      
                                                                              
2.市場・取引のインフラ及びルールの整備                                
                                                                              
 (1)  各金融機関が特色ある経営を目指していく中にあって、金融当局としては、徹底し
    た規制緩和に加え、金融機関・利用者双方が市場において活発に取引を行うため、環
    境整備としてのインフラ及びルール作りを中心とした役割を果していく必要があり、
    これらを国際的な標準との整合性を念頭に置きつつ迅速に進めることにより、金融市
    場としての国際競争力・透明性が向上することになる。                        
                                                                              
 (2)  また、金融機関間の市場を通じた競争が活発化するにつれ、経営の健全性の格差も
    より生じやすくなり、市場によるチェック機能が一層働くようになる。すなわち、自
    由で効率的な市場においては、信用力やリスク管理能力に問題のある金融機関は、資
    金調達コストの上昇等を余儀なくされ、最終的には市場から排除されるといった形で、
    市場機能に基づく金融機関の選別がより明らかになっていくと考えられる。こうした
    市場による監視機能を十二分に発揮させる観点からも、規制緩和に加えて、ディスク
    ロージャーや会計制度・法制度の充実が重要である。特に、ディスクロージャーにつ
    いては、早期是正措置の導入を控え、開示の現状等も踏まえつつ、引き続き見直しを
    検討していくことが必要である。また、中立的な格付機関のあり方についても今後検
    討していく必要があると考えられる。                                        
                                                                              
 (3)  自由化の進展は、同時に、利用者にとり、多様化・高度化した金融サービスに伴う
    リスクとの共存を迫られることを意味する。利用者は、市場参加者として基本的には
    自己責任原則の下に行動することが求められており、こうした考えについて一層の浸
    透を図ることが必要であるが、他方、個人が金融機関を利用する場合、その専門的知
    識や損失負担能力には限界もあることに鑑み、適切な利用者保護を講じていくことが
    必要である。また、利用者が金融商品等の特性を正確に把握することができるよう、
    適切な情報提供をわかりやすい形で実施していくために一層努力すべきである。  
                                                                              
 (4)  なお、自由化の進展の中で金融システムの健全性を確保し、また、透明かつ公正な
    金融市場を構築していくためには、検査・監督体制の充実を図る必要があるとともに、
    その実効性を担保する観点から、当局に対する虚偽報告等に対しては罰則の強化を図
    ることも検討すべきである。                                                
                                                                              
3.金融システムの健全性の確保                                            
                                                                              
 (1)  80年代後半、資金余剰の下で金融自由化が進展し、各金融機関においてはリスク管
    理が不十分なままに業容拡大が進められ、この過程で資産価格の極端な上昇と下落が
    発生したことにより、多額の不良債権が生じた。                              
      他方、金融機関の不良債権の現状を見ると、不良債権総額、要処理見込額ともに着
    実に減少しており、個別金融機関の経営状況は様々であるが、金融機関全体としては、
    不良債権問題を克服することは可能であると考えられる。                      
      金融システム改革は、バブル崩壊の処理に追われる金融機関によっては様々な苦痛
    を伴う面も否定できないものの、金融機関の利用者にとって、また、21世紀の日本経
    済にとって不可欠のものであり、金融機関の不良債権をできる限り速やかに処理しつ
    つ、改革を遂行していかなくてはならない。                                  
                                                                              
 (2)  また、今般の改革は、銀行・証券・保険・ノンバンク分野に及ぶ広範な改革であり、
    それらに伴い、会計・法制・税制の制度見直しまで含みうるものである。加えて、金
    融行政機構改革、日銀改革も進められていることも考え合わせれば、英国のビッグバ
    ン等に比べても諸改革の影響は相当広範なものとなることが予想されるところである。
    今後、自由化に伴い、新規業務が増加するとともに競争が一層活発化していく中、利
    用者のための改革がかえって混乱を引きおこすことのないよう、各金融機関において
    はリスク管理体制の整備に最大限の努力を行うべきである。また、こうした体制整備
    は、金融機関の経営体質強化の観点からも重要である。                        
                                                                              
 (3)  今後、競争が一層活発化していく中、自らの経営選択の結果として経営困難に陥り、
    市場から退出する銀行等が出てくることも考えられる。その場合の破綻処理のコスト
    については、96年6月に成立したいわゆる金融三法により、2000年度末までは預金者
    の負担とせず、預金の全額を保護しうる枠組み等が整備されたところである。    
      今後については、95年12月の調査会答申「金融システム安定化のための諸施策」は、
    預金者に自己責任を問いうるための環境整備は2000年度末までのできるだけ早期に完
    了する必要があり、その後においては、信用秩序に与える影響等を十分に考慮する必
    要はあるが、ペイオフも選択肢の一つとなるとしている。                      
                                                                              
 (4)  これらの点に関し、98年4月より、銀行等の経営の健全性を確保していくための、
    市場規律に立脚した新しい監督手法である早期是正措置の導入が予定されているとこ
    ろであり、自己査定を基本とする本制度の導入により、金融機関の自己責任原則に基
    づく経営改善への適時かつ迅速な取組みがより促されることになるものと期待される。

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