IV.改革の具体的内容



                                                                          


        以下、証券市場の改革の具体的内容とその背景となった考え方を、投資対


      象、市場、市場仲介者の三分野に分け、記述する。なお、個別改革項目の詳


      細については、当部会の下に設けられたワーキング・パーティの報告書を参


      照されたい。                                                        


                                                                          


  1.投資対象(魅力ある投資対象)                                  


                                                                          


   (1)  総論                                                        


                                                                          


        投資家の多様化・複雑化したニーズにこたえられる、多様な投資商品の供


      給が可能な仕組みを構築することが必要である。これは資金調達手段等の多


      様化を通じて企業活力の向上にもつながると考えられる。多様な投資対象及


      び資金調達手段が提供される仕組みの整備は、市場活性化の基本的条件であ


      る。                                                                


                                                                          


   (2)  多様な商品の提供の枠組み                                    


                                                                          


        このためには、事前的な取扱い規制を無くし、自由な商品開発を促してい


      くことが基本である。商品の自由化という点では、社債については、既に商


      品性規制の撤廃等により多様な社債商品が出現してきている。しかし、海外


      で普及している商品でも、刑法・商法等の基本法との関係で問題があり、依


      然として、国内においてその活用が制約されている例も見られる。        


                                                                          


        例えば、                                                          


      イ.ABS(資産担保型証券)が機動的に活用されるためには民商法等の特


        例が必要とされる。                                                


      ロ.MTN(ミディアム・ターム・ノート)については、従来、商法の解釈


        が必ずしも明確でなかったことから、国内での利用がほとんど行われない


        状況にあったが、先般、解釈の明確化等により、利用の促進が図られた。  


                                                                          


        今後とも、必要な法整備等を早急に進めることにより、多様な投資・資金


      調達手段を提供し得る環境整備を図るべきである。                        


                                                                          


   (3)  デリバティブ商品の多様化                                    


                                                                          


        店頭デリバティブ取引の活用については、賭博罪との関係の整理が必要と


      なるが、こうした法的な整理を行うことにより、証券デリバティブを全面的


      に解禁し、様々な金融革新が生まれる環境を整備すべきである。          


                                                                          


   (4)  投資信託の整備                                              


                                                                          


      ○基本的考え方                                                      


                                                                          


        投資対象の中でも投資信託は、広範な層の投資家が証券市場へ参加するこ


      とをより容易にし、投資家の資産運用に厚みと幅を与えるという点で重要な


      商品である。しかしながら、我が国の個人金融資産に占める投資信託の比率


      は、米国等と比べて低い現状にある。投資信託を従来にも増して魅力あるも


      のとするためには、投資信託の利便性の向上、商品の多様化、販売チャンネ


      ルの拡充等、その制度の整備を図る必要がある。                        


                                                                          


                                                                          


      ○利便性の向上と商品の多様化                                        


                                                                          


        投資信託の利便性を高め、商品の多様化を進めるとの観点からは、      


      イ.証券総合口座の導入、                                            


      ロ.私募投資信託の導入、                                            


      を行うとともに、                                                    


      ハ.会社型投資信託の導入                                            


      についても検討を行うべきである。                                    


                                                                          


      ○販売チャンネルの拡充                                              


                                                                          


        さらに、投資家の利便性の向上と新たな投資家層の拡大を通じた証券市場


      の活性化といった観点からは、投資信託の販売チャンネルを拡充することが


      必要であり、銀行等の金融機関による投資信託の販売を導入することが適当


      である。                                                            


                                                                          


   (5)  株式等の魅力の向上                                          


                                                                          


      ○基本的考え方                                                      


                                                                          


        ここで留意すべきことは、どのように商品の組成面で工夫を行っても、投


      資対象の魅力は、究極的には証券の発行体たる企業等にどれだけの魅力があ


      るかによって決まる、という点である。資本を調達する側が資本を有効に活


      用でき、その果実を投資家に十分に還元する意志があって初めて、金融技術


      を駆使することにより、さらに魅力のある投資対象を生み出すことができる。  


                                                                          


      ○株主を意識した経営                                                


                                                                          


        我が国の企業については、その低いROE(株主資本利益率)や額面配当


      を始めとする配当政策の面を捉え、株主を重視した経営が行われていないと


      しばしば指摘される。株主の拠出した資本を預かる企業としては、資本の効


      率的利用と、配当であれ内部留保による再投資を通じてであれ、利益を最も


      株主に有利な形で還元していく責任がある。                            


        株式を多くの投資家にとって魅力のあるものとするためには、企業経営者


      が株主をより一層意識した経営を行うことが求められている。            


                                                                          


      ○ストック・オプション制度の一般的導入と自社株消却の促進            


                                                                          


        今次国会で商法改正等により実現したストック・オプション制度や自社株


      消却促進のための特例についても、こうした観点に沿った積極的な活用が望


      まれる。                                                            


                                                                          


   (6)  有価証券定義の見直し                                        


                                                                          


      ○有価証券定義の拡大                                                


                                                                          


        提供される商品の種類の拡大に併せ、公正取引ルールの適用等の投資家保


      護のための措置が重要である。その観点から有価証券定義の見直しを行い、


      新たに出現してきた市場性のある投資商品を証券取引法による投資家保護の


      枠組みの中に取り込んでいくことが必要である。ただし、この場合でも、仲


      介者としてどのような主体を認め、どのような仲介者規制を課していくかに


      ついては商品ごとに検討していく必要がある。新しい商品の取扱いを証券会


      社に限定する必要は必ずしもない。                                    


                                                                          


      ○金融サービス法等の検討                                            


                                                                          


        金融商品に係る投資家保護との視点から、証券取引法の有価証券の範囲を


      更に大幅に拡げられないかとの議論もある。しかし、現行の証券取引法の体


      系が、投資性と市場性を兼ね備えた商品に対する適切な規制の方法として、  


      公衆縦覧型のディスクロージャー制度と市場における高度な公正取引の確保  


      を中心として構築されていることから、現行の証券取引法の体系のまま、そ


      の適用範囲を性格の異なる金融商品にまで拡大していくことは適当でない。


      今後、金融システムの全般的な改革において仲介者や投資商品・サービスの


      多様化が進んでいく中で、市場性の低い商品まで含め、様々な投資商品と金


      融サービスについてどのような投資家保護を図っていくべきかについての検


      討が必要となる。こうした観点からは、現在証券取引法の枠外にある投資商


      品と金融サービスをもカバーし得るよう、すべての市場参加者に横断的なル


      ールを適用する新たな立法(いわゆる金融サービス法)等も視野に入れた検


      討が行われるべきである。                                            


                                                                          


   (7)  証券税制                                                    


                                                                          


        税制も金融商品の供給コストやリターンを通じて、金融商品の選択や取引


      の態様に大きな影響を与える。市場原理が十分機能するためには、税制が様


      々な金融商品、金融取引に対して中立的であることが極めて重要であると考


      えられる。特に流通課税は、取引コストを高めることにより資産の組替えの


      妨げとなり、市場機能の発揮の上で障害となるほか、取引のグローバル化の


      中で市場の空洞化のおそれなどの問題がある。証券取引審議会としては、市


      場の効率化と市場の国際的競争力強化の観点からは、有価証券取引税及び取


      引所税について撤廃の方向での検討を要請する。また、今後、デリバティブ


      など様々な商品が生まれてくることも踏まえれば、金融商品、金融取引に対


      する課税の中立性、リスクキャピタル供給の重要性等の観点から、利子、配


      当、キャピタルゲインなど金融商品から生ずる所得に対する課税の在り方に


      ついても検討すべきである。                                          


                                                                          


                                                                          



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