2.市場(信頼できる効率的な取引の枠組み)                        


                                                                          


     (1)  総論                                                      


                                                                          


        取引が行われる「場」においては、効率と公正の確保が何よりも重要とな


      る。従来は、市場で資金調達ができる企業を選別し、かつ、取引を証券取引


      所等に集中させることが、効率・公正の両面で最も効果的と考えられてきた。


      しかし、電子通信技術の発展、金融技術の革新に伴い、様々な取引形態が可


      能となってきており、また、新規産業の育成のためにも、幅広い企業に証券


      市場での資金調達の機会を認めていくことが必要になる。公正という観点か


      らも、従来のような取引所を中心とした仕組みでなくとも、取引の公正性を


      担保できる仕組みが構築し得る環境になってきている。さらには、市場のグ


      ローバル化によって、国内における制約があれば、取引が海外に流れてしま


      い市場が空洞化し、結局は効率も公正も実現できない結果になり得る点にも


      留意が必要である。                                                  


                                                                          


        公正取引ルールを含む投資家保護ルールを定めた上で、できるだけ自由に


      取引ができるよう、様々な市場間で競争が行われていくことが必要である。


      この考え方は、改革の基本理念にも合致する。具体的には、以下のような措


      置を講ずべきである。                                                


                                                                          


     (2)  特色ある多様な市場                                        


                                                                          


        投資家の取引ニーズの多様化等に対応する観点から、                  


      イ.取引所市場については、取引所内における取引システムの見直し・改善


        に加え、取引所集中義務を撤廃し、上場銘柄の取引所外取引を認めること


        とする。                                                          


      ロ.店頭登録市場については、取引所市場の補完との位置付けを見直すとと


        もに、流通面の改善策を実施することにより、その機能の強化を目指すこ


        ととする。                                                        


      ハ.未上場・未登録株の証券会社による取扱いについては、取引の公正性確


        保のためのルール整備を図った上で認めることが適当である。          


                                                                          


        市場を巡る基盤整備として、                                        


      ニ.取引・気配情報へのアクセスの改善、                              


      ホ.証券取引・決済制度の整備、                                      


      ヘ.貸株市場の整備                                                  


      等を進めていく必要がある。                                          


                                                                          


        こうした一連の施策の結果、様々な資金調達者、投資家が、それぞれの多


      様なニーズに従って市場を選択する幅が広がるとともに、そうした市場が相


      互に競争し合うことにより、全体としての市場システムの効率化・機能強化


      が図られることが期待される。                                            


                                                                          


     (3)  市場の効率化と株式の持合いの問題                          


                                                                          


        市場の枠組みを競争的にすることは、利用者の取引における利便性の向上


      に資するのみならず、効率的な価格形成の達成も目的とするものである。効


      率的な価格形成を通じ、企業の利益の将来的な見通しを始めとする企業に対


      する市場参加者の評価が、その株価や債券価格に集約され、ひいてはそれが


      資金調達や投資判断に影響を与え反映されることにより、市場原理に基づく


      効率的な資源配分が実現されていく。また、株価等が経営者の評価につなが


      ることにより、資本の一層効率的な利用や企業の競争力の強化のための圧力


      にもなる。                                                          


                                                                          


        我が国市場については、企業間取引の安定・強化や企業経営の安定化など


      を目的とした、企業による広範な株式の持合いの存在が指摘されており、そ


      れが株式市場の機能の適切な発揮を損なっている我が国市場の特殊性として


      しばしば取り上げられる。                                            


                                                                          


        この問題に関しては、非金融的な動機による株式保有を排除する必要はな


      く、株価の形成にゆがみをもたらしているとまでは言えないのではないか、


      また、経済合理性のない持合いは自然と解消に向かっている、との指摘があ


      る。                                                                


        他方、そうであったとしても、持合い株式については株主の立場からのチ


      ェックが不十分となりがちであり、コーポレート・ガバナンスを弱めている


      のではないか、また、個々の経営政策的な要因に基づく投資尺度を市場に持


      ち込むことにより、純投資家の株式への投資意欲を阻害するなど、市場機能


      のメカニズムの発揮を妨げている面がある、という意見がある。          


                                                                          


        持合いに関する議論で証券市場にとって最も重要な観点は、それが市場原


      理を通じた資源の最適配分と資本の効率的な利用などを阻害していないかと


      いう点である。その観点からは、持合いによる保有といえども、株主として


      資本のリターンを常に検討し、経営に対するチェック機能を有効に働かせる


      ことが要請される。                                                  


                                                                          


     (4)  個人投資家の主体的な市場参加                              


                                                                          


        多様な商品が提供される市場で、市場機能が十分に活用されていくために


      は、投資対象のリスクとリターンを厳しく判断する投資家の存在も不可欠で


      ある。適合性原則をはじめとした仲介者の顧客に対する義務をいささかも軽


      減するものではないが、個人投資家にあっても自らの資産を自らの判断によ


      って主体的に運用していく態度の確立が望まれる。                      


                                                                          


     (5)  公正で透明な市場の枠組み                                  


                                                                          


      ○新たな商品・サービスに対応した公正取引ルール等の整備              


                                                                          


        市場の公正さ、透明さの確保は、こうした自主的な投資判断を促す上での


      前提と言える。                                                      


        今後、新たな商品やサービスが開発・導入され、取引が高度化・複雑化し


      ていく中にあって、投資家にとって信頼され得る市場とするための公正取引


      ルールの整備を進めていくことが極めて重要である。証券会社の業務範囲の


      拡大、インターネットを始めとする電子取引の利用の拡大、有価証券関連店


      頭デリバティブ取引の導入等に見られる取引形態の多様化等に対応し、利益


      相反行為の防止、相場操縦禁止やインサイダー取引禁止等について、関連す


      るルールを拡充・整備していくことが必要である。                      


                                                                          


      ○行為規制違反の罰則強化                                            


                                                                          


        また、それに加え、証券取引法の行為規制違反に対する罰則についても再


      考することが適当であり、中でもインサイダー取引について、罰則の強化を


      図ることが適当である。                                              


                                                                          


      ○検査・監視・処分体制の充実・強化                                  


                                                                          


        こうした行為規制の実効性を担保するための執行面の整備として、証券取


      引等監視委員会の機能強化を始めとする検査・監視・処分体制の充実・強化


      が要請されるとともに、証券市場の自由化に適応した検査・監視手法を確立


      していくことが求められている。                                      


        なお、検査・監視の実効性を担保する観点からは、検査・監視当局への虚


      偽報告等に対する罰則の強化を図ることも検討すべきである。              


                                                                          


      ○自主規制機関の役割                                                


                                                                          


        高度に専門化し、急速に変化する市場にあっては、法令のみによっては、


      イノベーションを促進する自由と、公正さを担保するルールとの間の適切な


      バランスを取っていくことが困難な面がある。他の先進市場においても、刑


      事・行政的な検査・監視・処分体制と、個々の仲介者等の倫理と自己規律の


      精神との間を埋めるものとして、法律に裏付けられた自主規制機関が活用さ


      れている。自主規制機関は、仲介者を会員としつつも、適切な行為規範を確


      立し、会員にその遵守を求めること等を通じて、市場と仲介者に対する利用


      者の信頼を高める立場にある。そうした努力が、長期的には仲介者自身の利


      益をも増進することになる。我が国においても、より自由な環境の下で、自


      主規制機関がその役割を適切に発揮していくことがますます重要になる。    


                                                                          


      ○紛争処理制度の整備・充実                                          


                                                                          


        今後民事上の紛争が増加する可能性に備え、証券取引法上の自主規制機関


      によるあっせん等の制度を法制化するなどにより、紛争処理手続の整備・充


      実を行うことが適当である。                                          


                                                                          


     (6)  ディスクロージャーの充実                                  


                                                                          


      ○基本的考え方                                                      


                                                                          


        投資家の主体的な投資判断により市場原理を有効に働かせるとともに、紛


      争を未然に防止するため、投資対象のリスクとリターンを事前に投資家に十


      分周知しておくことが重要であり、透明で公正なディスクロージャーの充実


      を積極的に進めていくべきである。                                    


                                                                            


      ○会計制度の見直し                                                  


                                                                          


        具体的には、                                                        


      イ.多角化、国際化した集団の企業活動について、リスクとリターンの関係


        が投資家に対しより明示されるよう、ディスクロージャーの枠組みを連結


        主体へと転換するとともに、                                        


      ロ.21世紀に向けた会計上の重要課題である時価基準の在り方を含めた金


        融商品に係る会計基準、将来の企業年金の支払のための積立状況をディス


        クローズする企業年金に係る会計基準                                


      等の検討を進めることが必要となろう。こうした検討を通じ、国際的に遜色


      のない会計基準・開示内容を整備することが必要である。これについては、


      企業会計審議会において、本年6月6日に連結財務諸表制度の見直しに関す


      る意見書が取りまとめられ、実施に向けての諸整備が進められることとなっ


      ている。また、その他の課題についても検討が行われており、今後の審議を


      推進すべきである。                                                  


                                                                          


      ○公認会計士監査の充実・強化                                        


                                                                          


        また、会計・ディスクロージャー制度の整備と同時に、会計基準等の整備


      に対応して開示内容の適正性が担保されなければならない。こうした観点か


      ら、コーポレート・ガバナンスの向上に向けて公認会計士監査の充実・強化


      が進められる必要がある。これについては、本年4月24日に、公認会計士


      審査会から、監査の充実に向けて10項目の具体的施策に係る提言が示され


      たところであり、今後、日本公認会計士協会等における具体的施策の実施が


      求められる。                                                          


                                                                          


      ○ディスクロージャー情報へのアクセスの改善                          


                                                                          


        ディスクロージャー情報は、何よりも、投資家により利用され、理解され


      なければ、適切な投資判断には貢献しない。ディスクロージャー情報へのア


      クセスを容易にし、市場に関連する各種の情報産業・情報サービスを育成す


      るとの観点からは、ディスクロージャーの電子化、インターネットによる情


      報の提供などを実施すべきである。これについては、システム設計のための


      準備が進められており、今後とも、早期実現に向けて対応を進めるべきであ


      る。                                                                


                                                                          


      ○投資家啓蒙活動の推進                                              


                                                                          


        また、個人投資家に向けた施策として、投資家がこうしたディスクロー  


      ジャー情報の持つ意味を正しく理解して、自己の判断で主体的な市場参加を


      行うことを可能とするためには、投資家啓蒙活動を一層拡充していくことが


      望まれよう。                                                          


        こうした観点からは、例えば、投資クラブに見られるような投資家が株式


      や証券市場の仕組み等について自己啓発を行う取組みについては、これを伸


      ばしていくことが求められている。また、教育関係者の理解も得て、証券教


      育を含む広範な投資家・消費者教育の充実が図られていくことを期待したい。  


                                                                          



[次に進む]

[「証券市場の総合的改革」目次に戻る]