アクセスFSA 第68号(2008年7月)
【トピックス】
平成19年度における地域密着型金融の取組み状況について
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」においては、地域金融機関が行う地域密着型金融に関して、全体の取組み状況を総合的に把握するために、年1回、取組み状況の報告を求め、決算期において開示を要請する主要計数等とあわせ、その実績を総合的に取りまとめ、公表することとされています。
金融庁においては、本年7月1日に平成19年度における地域密着型金融の取組み状況について取りまとめ、公表しました。概要は以下のとおりです。
(参考)対象金融機関数 555金融機関(20年3月末現在) |
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地方銀行 65行(埼玉りそな銀行を含む)、第二地方銀行 45行 信用金庫281金庫、信用組合164組合 |
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1. 地域金融機関の取組み実績
各金融機関の取組み実績や成果について、各金融機関の公表や業界団体の取りまとめをもとに主な傾向をまとめれば、以下のとおりです。
(1) ライフサイクルに応じた取引先企業の支援の一層の強化
○創業・新事業支援に向けた取組み
創業・新事業支援のために実施した融資実績は、19年度から、専用の融資商品の実績だけでなく、通常の融資による支援実績も含めて計上しているため、過年度の実績とは単純に比較できませんが、引き続き、産学官との連携等においても活発な取組みがみられるところです。加えて、地域金融機関による企業育成ファンドへの出資額も増加しています。
個別に見ると、ベンチャー企業向けファンドの出資及び組成、創業セミナーの開催や新規創業先に対する開業資金支援等の取組みが行われています。
(参考) 19年度の実績等 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 創業・新事業支援融資(※) 1,948件 2,817件 5,449件 6,983件 14,308件 179億円 250億円 603億円 742億円 1,880億円 企業育成ファンドへの出資 94億円 153億円 241億円 196億円 212億円 (※)18年度以前は、「創業等支援融資商品による融資」。
○経営改善支援に向けた取組み
取引先企業に対するコンサルティング・情報提供機能の強化のため、商談会の開催等ビジネスマッチングの取組みが積極的に行われており、その成約件数は大幅に増加しています。
個別に見ると、取引先企業の経営改善を目的とした公認会計士による無料経営相談の実施、中小企業診断士協会との連携による取引先の企業診断調査の実施、経営改善支援先への職員出向、ビジネスマッチング支援のためのポータルサイト立上げなど、様々な手法による経営改善支援の取組みがみられます。
(参考) 19年度の実績等 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 ビジネスマッチングの成約案件 6,228件 10,428件 15,954件 24,000件 28,630件 経営改善支援取組み先(正常先を除く)のランクアップ率 16.0% 18.4% 16.5% 13.7% 11.5% ○事業再生に向けた取組み
事業再生に向けた取組みについては、全体的な傾向として、引き続き、大口先からより規模の小さい先やより再生が困難な先へ対象が広がる中、中小企業再生支援協議会等の活用件数等は、18年度と比べて減少となっています。
個別に見ると、地域金融機関と中小企業基盤整備機構等との共同出資による企業再生ファンドの設立、プリパッケージ型の民事再生による事業再生実施等の取組みが行われています。
(参考) 19年度の実績等 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 中小企業再生支援協議会の再生計画策定先 201件 302件 380件 391件 319件 2,305億円 3,422億円 3,572億円 2,803億円 2,092億円 整理回収機構の支援決定先 3件 10件 22件 38件 35件 608億円 631億円 942億円 1,176億円 694億円 金融機関独自の再生計画策定先 - - - - 8,495件 - - - - 34,198億円 企業再生ファンドへの出資 109億円 168億円 169億円 162億円 115億円 ○事業承継に向けた取組み
事業承継に向けた取組みについては、事業承継に係るM&A支援(19年度より集計開始)が一定の実績をあげています。
個別に見ると、プライベートバンキング機能の活用をはじめとするコンサルティング機能を発揮した事業承継支援や企業後継者を対象としたセミナーの開催、事業承継専用ファンドへの出資等の取組みが行われています。
(参考) 19年度の実績等 19年度 事業承継にかかるM&A支援実績 129件
(2) 事業価値を見極める融資手法をはじめ中小企業に適した資金供給手法の徹底
○不動産担保・個人保証に過度に依存しない融資等への取組み
財務制限条項を活用した融資商品の金額が増加。動産・債権譲渡担保融資については、幅広く普及しつつある中、動産担保融資の実績件数が大幅に増加しています。
個別に見ると、機械設備や商用車両から農水産物にいたるまで、様々な動産を担保とした融資、建築基準法の改正等に伴い資金繰りが悪化した建築関連事業者に対する融資商品の取扱い、信用格付高度化プログラムによる信用リスクの精緻化等の取組みが行われています。
(参考) 19年度の実績等 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 財務制限条項を活用した商品による融資 2,131件 3,632件 5,486件 4,592件 4,693件 339億円 954億円 2,031億円 2,385億円 4,858億円 動産・債権譲渡担保融資(売掛債権担保融資を含む) 10,098件 19,000件 23,585件 18,260件 13,592件 1,102億円 1,737億円 1,998億円 2,029億円 3,133億円 うち動産担保融資 ― ― 27件 153件 517件 ― ― 47億円 131億円 1,417億円 ○企業の将来性、技術力を的確に評価できる能力等、人材育成への取組み
人材育成に向けて、資格取得の推進や各種研修の実施については引き続き積極的に行われています。また、取引先企業の生産・販売現場への派遣研修や中小企業再生支援協議会へ職員を出向させるなど、企業実態に対する理解を深め、実践的な「目利き能力」の向上を図っている地域金融機関も見られます。
(3) 地域の情報集積を活用した持続可能な地域経済への貢献
○地域全体の活性化、持続的な成長を視野に入れた同時的・一体的な「面」的再生への取組み
面的再生への取組みについては、温泉街や地元商店街再生への資金面での協力のほか、活性化策の具体的提言などの取組みも見られます。
また、アグリクラスター構想(農業を中心に関連産業まで含めた産業群の活性化を支援)を立ち上げ、資金供給面をはじめ、幅広い支援を実施している地域金融機関も見られます。
○地域活性化につながる多様なサービスの提供
地域の活性化については、19年度においても、地域金融機関のPFIへの関与は積極的ですが、実績については前年度と比べて減少となっています。また、環境配慮型商品の設定や地域住民等への金融経済教育の実施のほか、地場産業振興に向けた観光客誘致のための各種施策等を実施している事例も見られます。
(参考) 19年度の実績等 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 PFI 22件 49件 71件 116件 89件 187億円 409億円 326億円 625億円 562億円
(4) 最近の経済情勢を踏まえた地域金融機関の対応
昨今の原油・原材料価格の高騰や建築基準法の改正等を背景に中小企業を取り巻く環境が厳しくなる中、金融庁としては、現下の経済情勢を踏まえ、中小企業金融の円滑化の観点から、金融機関に対し、与信取引に関する顧客への説明態勢等について注意喚起するための要請等を行ってきました。
各地域金融機関においては、セーフティネット保証や制度融資等を積極的に活用しているほか、独自の原油価格高騰対策融資商品や建築関連事業者向け融資商品等の取扱いなど、多様な取組みが実施されています。
2. 地域金融機関の取組みに対する評価
金融庁としては、平成15年度以降、地域密着型金融を推進してきており、これまで総じて実績が上がってきています。平成19年度における金融機関の取組み状況を見てみると、ビジネスマッチングの取組みや、中小企業金融の円滑化に向けた担保・保証に過度に依存しない融資等の取組みが引き続き積極的に実施されているほか、企業育成ファンドへの出資額が増加している等、引き続き堅調に実績が上がっている一方、前年度実績を下回った項目も見られます。
また、利用者アンケートの結果によると、地域密着型金融の取組み全体については積極的な評価が5割以上を占めていますが、個別の施策について見ると消極的評価が多い傾向となっています。
これらを踏まえ、今後も、各地域金融機関の一層の取組みを期待するとともに、当局としても必要なフォローアップを行っていきます。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、「平成19年度における地域密着型金融の取組み状況について」(平成20年7月1日)にアクセスしてください。
偽造キャッシュカード等による被害発生等の状況について
金融庁では、預貯金者保護法の実施状況等を把握するため、偽造・盗難キャッシュカード犯罪、盗難通帳犯罪及びインターネットバンキング犯罪について、20年3月末までの被害の発生状況及び金融機関による被害者への補償状況を取りまとめ、7月8日に公表しました。
«被害の発生状況及び補償状況の概要»
○偽造キャッシュカードによる被害発生件数は、17年度は913件、18年度は636件、19年度は663件と19年度は対前年度比で増加しました。補償については、(処理方針決定済みの被害のうち、)件数ベースで97.6%を金融機関が補償しています。
○盗難キャッシュカードによる被害発生件数は、17年度は6,121件、18年度は6,867件、19年度は4,955件と19年度は対前年度比で減少しました。補償については、(処理方針決定済みの被害のうち、)件数ベースで63.6%を金融機関が補償しています。
○盗難通帳による被害発生件数は、17年度は280件、18年度は254件、19年度は244件と減少傾向にあります。補償については、(処理方針決定済みの被害のうち、)件数ベースで22.7%を金融機関が補償しています。
○インターネットバンキングにおける被害発生件数は、17年度は49件、18年度は100件、19年度は231件と増加傾向にあります。補償については、(処理方針決定済みの被害のうち、)件数ベースで79.5%を金融機関が補償しています。
(注)19年度の被害発生件数等は、20年4月15日までに各金融機関から報告された被害を取りまとめたものであること等から、今後増加する可能性があります。
また、預金取扱金融機関のATM等における本人認証方法等の状況(20年3月末)について、アンケート調査を実施・集計し、その概要を公表しました。
«ATM等における本人認証方法等の状況»
○ICキャッシュカードについては、19年3月末時点で997金融機関(全体の60.6%)が導入していたのに対し、20年3月末時点では1,171金融機関(全体の72.7%)が導入しています。
○生体認証機能付ICキャッシュカードについては、19年3月末時点で198金融機関(全体の12.0%)が導入していたのに対し、20年3月末時点では269金融機関(全体の16.7%)が導入しています。
金融庁としては、引き続き、犯罪手口の多様化等を踏まえた情報セキュリティ対策の向上及び適切な顧客対応が図られるよう、金融機関の取組みを注視していきます。
また、依然として、偽造・盗難キャッシュカード犯罪等が多数発生していることから、預貯金者の皆様には、自ら防犯対策に努めるようお願いします。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、「偽造キャッシュカード等による被害発生等の状況について」(平成20年7月8日)及び「偽造キャッシュカード問題等に対する対応状況(平成20年3月末)について」(平成20年7月8日)にアクセスしてください。
また、本号内の【お知らせ】コーナーにこれら被害に遭わないための注意喚起文を掲載しておりますので、あわせてご覧ください。
公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方
(処分基準)について
本年4月より施行された「公認会計士法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます。)では、監査法人等における品質管理・ガバナンス・ディスクロージャーの強化や監査法人等に対する監督・責任の見直し等の措置として、○課徴金納付命令の創設、○業務改善命令など行政処分の多様化、○有限責任監査法人制度の創設、○監査法人の社員の公認会計士でない者への拡大などが行われました。
金融庁では、改正法の施行に伴い、公認会計士法に基づく公認会計士・監査法人の懲戒処分等の適切な実施を図るために、平成17年3月に公表した「公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方」(以下「処分基準」といいます。)の一部を改定し、6月23日に公表しました。
懲戒処分等の決定に当たっては、個々の事案により、内容、背景等が異なり、様々な特性、特徴を有していることから、的確に事実関係等を把握し、個々の事案に応じた適切な懲戒処分等が行われるよう努める必要があります。
このため、改定後の処分基準においても、公認会計士・監査法人に対する懲戒処分について、○虚偽証明・不当証明に対する懲戒処分、○法令違反に対する懲戒処分の2つに分け、それぞれの事由ごとに「基本となる処分の量定」を定め、個別事情・周辺事情等により基本となる処分を過重又は軽減するという従来からの考え方は変更していません。
改定後の処分基準における主な変更等は以下のとおりです。
○ 虚偽証明に対する基本となる処分の量定の変更
故意・過失の別 | 改定前 | 改訂後 |
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【監査法人に対する処分】※1、※2 | ||
社員の故意による虚偽証明・不当証明 | 業務停止3ヶ月 | 課徴金+新規契約の締結禁止1年+業務改善命令 又は 業務停止3ヶ月 |
社員の過失による虚偽証明・不当証明 | 業務停止1ヶ月 | 課徴金+新規契約の締結禁止6ヶ月+業務改善命令 又は 業務停止1ヶ月 |
【公認会計士に対する処分】※3、※4 | ||
故意による虚偽証明・不当証明 | 登録抹消 | 登録抹消 |
過失による虚偽証明・不当証明 | 業務停止6ヶ月 | 業務停止6ヶ月 |
※1事案の重大性、監査法人の内部管理体制不備の重篤性などから、監査業務を継続させることが適当でない場合には、既存業務を含む業務の停止とします。
※2事案が極めて重大かつ悪質な場合には、既存業務に係る業務停止の処分に加えて、課徴金を課すことがあります。
※3公認会計士による虚偽証明については、自ら実施した監査において、故意に又は相当の注意を怠っているという責任にかんがみ、基本的には従来どおり、登録抹消又は業務の停止を基本とした処分を行います。
※4個人事務所を経営している公認会計士については、事案が極めて重大かつ悪質な場合には、業務停止処分に加えて、課徴金を課すことがあります。
○ その他の改定
・ 品質管理担当者等の責任追及 | …… | 監査法人に対し、当該社員が業務に関与することを禁止する旨の命令を行います。 |
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・ 四半期レビュー | …… | 処分の対象に含めますが、年度監査に比して処分を軽減します。 |
・ 内部統制監査 | …… | 原則として、財務諸表監査と一体のものとして検討します。 内部統制監査のみの虚偽証明は、年度監査に比して処分を軽減します。 |
・ 有限責任監査法人制度の導入 | …… | 不正な登録、欠格事由への該当に応じた処分を行います。 |
・ 特定社員制度の導入 | …… | 法令違反行為について、公認会計士と同等の処分を行います。 |
その他所要の改定を行っています。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、「公認会計士・監査法人等の懲戒処分の考え方(処分基準)について」(平成20年6月23日)にアクセスしてください。
「金融分野における裁判外の苦情・紛争解決支援制度(金融ADR)の整備にかかる今後の課題について」(座長メモ)の公表について
金融トラブル連絡調整協議会は、6月24日、「金融分野における裁判外の苦情・紛争解決支援制度(金融ADR)の整備にかかる今後の課題について」(座長メモ)を取りまとめ、公表しました。
金融トラブル連絡調整協議会では、平成12年の金融審議会答申を踏まえ、消費者団体、自主規制機関・業界団体、弁護士会、学識経験者及び関係行政機関の自主的な参加により、金融ADRの改善について、様々な取組みが行われてきました。同協議会では、本年3月から4回にわたって、これまで8年間の取組みを振り返り、金融ADRの整備にかかる今後の課題などについて議論が行われ、去る6月24日、「金融分野における裁判外の苦情・紛争解決支援制度(金融ADR)の整備にかかる今後の課題について」(座長メモ)が取りまとめられました。
本座長メモでは、同協議会における主な取組みの経緯及び金融ADRの現状の問題点を振り返るとともに、金融ADRのあり方に関し、○金融ADRの理念、○運営主体、○中立性・公正性の確保、○実効性の確保、○統一化・包括化、○今後の方向性、の各論点について整理を行っています。
金融庁としては、本座長メモを踏まえ、金融ADRの更なる改善に努めていきたいと考えています。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「審議会・研究会等」から「金融トラブル連絡調整協議会」、または「報道発表資料」から、「「金融分野における裁判外の苦情・紛争解決支援制度(金融ADR)の整備にかかる今後の課題について」(座長メモ)の公表について」(平成20年7月1日)にアクセスしてください。
貸金業者による広告の調査結果について
金融庁(各財務(支)局、沖縄総合事務局)、東京都、大阪府、愛知県及び福岡県は、今般、貸金業者が夕刊紙・スポーツ紙に掲載した広告について、その内容が貸金業法第15条(貸付条件の広告等)及び第16条(誇大広告の禁止等)に則ったものとなっているかを共同で調査し、不適切と認められる内容の広告(332広告)を掲載した貸金業者(133業者)に対して、当該広告の是正指導を行いました。
※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から、「貸金業者による広告の調査結果について」(平成20年7月4日)にアクセスしてください。