ディスカッションペーパー等

ディスカッションペーパーとは

金融研究センターにおける「ディスカッションペーパー(DP)」とは、当センター所属の研究官等が、研究成果を取りまとめたものです。随時掲載しますので、ご高覧いただき、幅広くコメントを歓迎します。

なお、DPの内容はすべて執筆者の個人的見解であり、金融庁あるいは金融研究センターの公式見解を示すものではありません。

24年度ディスカッションペーパー

(「ファイル」をクリックして本文を、「題名」をクリックして要旨を閲覧することができます。)

ファイル 題名 執筆者 年月
DP2012-6
(PDF:595KB)
回収実績データに基づくLGDの要因分析と多段階モデルによるLGDおよびEL推計 川田 章広
山下 智志
2012年12月
DP2012-5
(PDF:560KB)
エージェントシミュレーションを用いた「価格規制」と「ネイキッド・ショート・セリングの禁止」の有効性の検証 大井 朋子 2012年12月
DP2012-4
(PDF:737KB)
アジア諸国に対する電子記録債権普及の可能性と今後の課題 杉浦 宣彦 2012年12月
DP2012-3
(PDF:1,134KB)
証券市場における情報公開が市場参加者の行動と社会厚生に与える影響 中村 友哉 2012年5月
DP2012-2
(PDF:2,195KB)
家計へのストレスが住宅ローンへ与える影響 佐藤 慶一 2012年4月
DP2012-1
(PDF:428KB)
受益権が複層化された信託に対する課税ルールに関する一考察 吉村 政穂 2012年4月

ディスカッションペーパー要旨

DP2012-6
「回収実績データに基づくLGDの要因分析と多段階モデルによるLGDおよびEL推計」

川田 章広 統計数理研究所特別共同研究員
山下 智志 金融庁金融研究センター特別研究員
(統計数理研究所教授)

LGD(Loss Given Default)はPD(Probability of Default)とともに信用リスクの構成要素であり、正確な推定を必要とされている。これまで、市場データやリスク・プレミアムからLGDを推計するモデルについては提案がなされているが、回収実績データから作成される統計モデルについてはほとんど存在しない。とくに我が国においては、銀行の回収実績データが未公開なため回収率の決定要因や推計モデルが提案されていない。本研究では、地方銀行における事業法人向け融資の回収実績データをもとにLGDの要因分析とLGD・EL(Expected Loss)の推計モデルの開発を行った。その結果、LGDについては担保、保証、貸出規模(エクスポージャー)が重要であることがわかった。また、LGDのレベルはFIRBの回収率関数(LGDは0.35~0.45となる)に比較して、低いことがわかった。EL推計には多段階モデルを用いたが、その結果、担保や保証などの貸出要件がPDに影響していることなどが判明し、EL推計精度の向上に対する知見が得られた。

キーワード : 信用リスク、LGD(Loss Given Default)、EL(Expected Loss)

DP2012-5
「エージェントシミュレーションを用いた「価格規制」と「ネイキッド・ショート・セリングの禁止」の有効性の検証」

大井 朋子 金融庁金融研究センター研究官

空売り規制の是非については、規制当局、市場関係者、研究者からも賛否の両論があり、既往の理論研究や実証研究においても結論には至っていない。そこで本研究ではエージェントシミュレーション手法を用いて、空売り規制の効果に関し定量的な分析を行った。エージェントシミュレーションは近年、金融市場のモデル化や分析の研究技法としてよく用いられ、様々な市場の現象の解明に役立っている。本シミュレーションでは我が国の現行の空売り規制のうち2 つの措置(価格規制、ネイキッド・ショート・セリングの禁止)をモデル化し、それらの有効性について検証を行った。施策を導入した場合と導入していない場合の各市場において、価格変動の特徴やファンダメンタルバリューとの乖離、価格のボラティリティについて計測した。また、2 つの外生的ショック(ファンダメンタルバリューの急な下落や極端に安い指値注文によるショック)が与えられた時に、規制による市場の頑健性効果について考察を行った。その結果、多くの先行研究と同様に、規制を導入することで規制のない市場よりも市場のリスクは低下するが、価格が過大評価になる傾向があることがわかった。

キーワード : 空売り規制価格規制ネイキッド・ショート・セリングエージェントシミュレーション

DP2012-4
「アジア諸国に対する電子記録債権普及の可能性と今後の課題」

杉浦 宣彦 金融庁金融研究センター特別研究員
(中央大学大学院経営戦略研究科教授)

2010年12月24日に金融庁が公表した「金融資本市場及び金融産業の活性化のためのアクションプラン~新成長戦略の実現に向けて~」において、金融庁における今後の取り組み方策として「日本の電子記録債権制度をアジア諸国に普及させていくために、アジア諸国の金融・資本市場に関する実態調査を実施すること」が掲げられている。

その取り組みの一環として、金融庁は、アジア諸国における電子記録債権制度の導入に向けた環境が整っているか否かを把握するため、産業構造や金融制度、現地における商慣習、資金調達上の課題に関する基礎的な情報を収集した「アジア諸国の企業間取引の実態に関する調査」(以降、前回調査)を2011年に公表している。さらに、その後、実地調査と前回調査の結果を受け、文献調査に基づく前回調査の結果が実態と相違ないか等の確認のための調査が行われ、「アジア諸国に対する電子記録債権の日本型モデルの普及に関する調査」(以降、本調査)が2012年3月に公表されている。 これらを受けて、本稿では、これらの調査の後にも判明した事実等も加味して、企業間信用等の電子記録債権制度導入に影響を与える可能性のある事実や、電子記録債権制度導入における環境、さらには、電子記録債権制度に対する関係機関のニーズも含め、より具体的な導入可能性について分析を行い、わが国の電子記録債権制度が海外に普及する可能性について、検討を行うことを目的とする。

キーワード : 電子記録債権、制度輸出、アジア債権市場

DP2012-3
「証券市場における情報公開が市場参加者の行動と社会厚生に与える影響」

中村 友哉 金融庁金融研究センター研究官

本稿は、情報公開が社会厚生に与える影響を扱った研究を紹介することによって、証券市場の安定的運営に向けた情報公開政策に示唆を与えることを目的としている。はじめに、証券市場の誘導型として扱うことができるケインズ型美人コンテスト・ゲームを詳解し、公共情報公開による過剰協調問題を考察する。その上で、過剰協調問題を緩和する情報公開方法を扱った文献を紹介する。

キーワード : 情報公開、公共情報、戦略的補完性、ケインズ型美人コンテスト

JEL classification : C72, D82, D83, E58

DP2012-2
「家計へのストレスが住宅ローンへ与える影響」

佐藤 慶一 金融庁金融研究センター特別研究員
(東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター准教授)

本稿は、社会調査と統計技術を用いて、家計から我が国の住宅ローンのリスクをモニタリングする方法の検討を行ったものである。

住宅ローンを抱える世帯の収入は減少が続き、貯蓄も減少が続いているが、住宅ローン返済額だけは減少せずむしろ微増傾向にあり、住宅ローンの返済割合は上昇を続けている。我が国の住宅ローンのリスクとして、所得水準の低下によって安定して返済を続けてきた中間層が分解され返済に影響が及ぶことが懸念される。

収入の減少、金利の上昇などの環境変化が住宅ローンに与える影響は、個別の家計の状態(収入・消費や貯蓄等)と抱えている住宅ローンの詳細(商品属性や返済額等)が把握できなければ検討できない。

本研究では、家計と住宅ローンの商品属性を同時に尋ねるインターネット調査に対して全国消費実態調査を用いて補正推計されたデータを用いて、①返済継続可能性(可処分所得、消費支出、月々の住宅ローン返済額の関係チェック)、②家計調整(地方区分・世帯人数に応じて設定する消費支出限度額の付与)、③貯蓄取り崩し(家計調整しても不足する返済額の一部を貯蓄取り崩しにより賄うことが可能であるかのチェック)という3つの判定手順を作成し、収入や住宅ローン返済額等の環境変化を与えて影響分析を行った。

キーワード : 住宅ローン、家計、インターネット調査、全国消費実態調査

DP2012-1
「受益権が複層化された信託に対する課税ルールに関する一考察」

吉村 政穂 金融庁金融研究センター特別研究員
(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授)

信託法改正を機になされた平成19年度税制改正では、信託税制の大幅な見直しが行われたものの、受益権が質的に分割(複層化)された信託について、包括的な課税ルールが示されることはなかった。主にアメリカの取扱いを参考にしながら、受益権が複層化された信託に対する課税ルールのあり方を検討する。

アメリカ法においては、複数の種類の受益証券が発行される信託を対象としたシアーズ規則によって、投資目的に対する付随的な範囲を超える複層化信託は、信託課税の枠組みから排除されることが知られている。しかし、同規則は、複数の種類の所有持分(受益権)が存在する信託を前提とするものであって、そもそも所有持分と判定される受益証券の範囲について分節化がなされていることを本研究は指摘する。

その上で、本研究は、わが国においても、「受益者等」の範囲を定めるにあたって直接帰属の擬制を働かせるだけの実質が必要であり、それを欠く場合には、ある(単一種類の)受益者等のみが信託財産を保有し、その他の受益者は信託財産との関係が切断されるという仕組みを導入することが可能であることを主張するものである。

キーワード : 信託、所得税、複層化

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