ディスカッションペーパー

ディスカッションペーパーとは

金融研究センターにおける「ディスカッションペーパー(DP)」とは、当センター所属の研究官等が、研究成果を取りまとめたものです。随時掲載しますので、ご高覧いただき、幅広くコメントを歓迎します。電子メールでのコメントは、frtc_comments★fsa.go.jp宛(注:★を@記号に置き換えて下さい)にお寄せ下さい。

なお、DPの内容はすべて執筆者の個人的見解であり、金融庁あるいは金融研究センターの公式見解を示すものではありません。

令和5年度ディスカッションペーパー

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ファイル 題名 執筆者 年月
 PDFDP2023-7
(PDF:4,264KB)
47都道府県データを用いた地域経済の分類と高齢化の下でのデジタル化による地域活性化 永井 秀樹
吉野 直行
2024年1月
PDFDP2023-6
(PDF:1,349KB)
最適投資比率と仲介業者の役割 杉本 卓哉
吉野 直行
2023年12月
PDFDP2023-5
(PDF:1,568KB)
Distortions in asset selection, varied ESG scores,
and confusion in the ESG debate
吉野 直行
湯山 智教
2023年9月
PDFDP2023-4
(PDF:725KB)
地域銀行における取締役会ジェンダー多様性の効果 杉浦 康之
中嶋 幹
2023年8月
PDFDP2023-3
(PDF:1,318KB)
インパクト創出と企業価値向上は両立するのか 
ー 事例調査とパーパスの内容分析に基づく実証分析の両面から ー
林 寿和
松山 将之
2023年8月
PDFDP2023-2
(PDF:1,398KB)
我が国における気候関連リスクによる住宅ローン・ポートフォリオへの影響分析 岡崎 貫治 2023年6月
PDFDP2023-1
(PDF:1,855KB)
インパクト加重会計の現状と展望 半世紀にわたる外部性の貨幣価値換算の試行を踏まえた一考察 林 寿和
松山 将之
2023年6月

ディスカッションペーパー要旨

DP2023-7
47都道府県データを用いた地域経済の分類と高齢化の下でのデジタル化による
地域活性化

   永井 秀樹 金融庁金融研究センター調査主任
   吉野 直行 金融庁金融研究センター長、慶應義塾大学名誉教授
            
 本稿では、都道府県別の経済やヒト、モノ、カネの流れを示すさまざまなデータから47都道府県の特色を主成分分析やクラスター分析を用いて類型化し、地域のバランスの取れた成長のために、リモート教育やリモートワークの推進が重要な役割を果たすことを議論する。
 まず、大きな人口移動が大学の進学時と就職の際に際立って観察されるのに対して、その他の時期の人口移動は一部の県を除いて小規模であり、退職後に故郷に戻るような動きはほとんど見られない。
 次に、モノの流れについて、製造品出荷額を見ると、第二次産業が盛んな県とそうでない県で大きな差がある。愛知県周辺、広島県周辺、京浜工業地帯は第二次産業が強く、移出額も多い。第二次産業と第三次産業を加えた県内総生産に占める移出額の割合では、東京、栃木、愛知が高い数値を示している。
 更に、カネの流れについて、貸出と預金の状況は、県内総生産比にしても県により、さまざまな特徴が見られる。預金が集まっても、貸出機会がない県も存在する。預金額に比して貸出額が少ない県は、自県の中に貸出需要があまりない県である。
 都道府県別クラスター分析を試みると、東京を除いて、四つのクラスターに分類される。①は、第二次産業等が強い県である。②は、県勢があり人口も流入する県である。③は、高齢化も進み、財政力指数も低い県である。④は、中間的なグループである。
 進学時、就職時の人口移動を抑えるためには、デジタル教育の推進とデジタル化による地域の雇用の拡大が有効である。
 理論モデルを用いて、リモート教育やリモートワークの推進が経済に好影響をもたらすことを示す。
 最後に、地域の金融機関の役割として、リモートワーク環境の整備も含めた企業のデジタル化を支援するような貸出を行うことや、地域に雇用を作り出す秋田県の洋上風力発電のようなプロジェクトへの貸出を行うことが挙げられる。

キーワード:47都道府県のクラスター分析、リモート教育・リモートワーク、人口移動、地域の金融機関の役割

DP2023-6
「最適投資比率と仲介業者の役割」

   杉本 卓哉 前 金融庁総合政策局リスク分析総括課コンダクト企画室課長補佐
   吉野 直行 金融庁金融研究センター長、慶應義塾大学名誉教授
            
 本稿の目的は、個人の最適なリスク資産への投資比率の決定において、販売業者の役割と、それに対する信頼の重要さを提示することにある。日本人の貯蓄形成において預貯金の比率が高かった要因については、①日本人固有の保守的な性向、②バブル崩壊以降の株式投資の収益性への期待の低下、また、近年では、③金融リテラシーの低さ、が挙げられることが多い。これら①~③のいずれも、程度の差はあれ、ファイナンスの典型的なモデルの仮定とは異なり、個人が合理的な意思決定を行っていないことを想定している。これに対して本稿では、個人の合理的な判断の帰結であったとしても、販売業者が信頼されなければ、リスク資産への投資比率が低下することを示す。販売業者の役割を明示的にモデルに導入することにより、販売業者が手数料収入を最大化し、かつそれらの手数料が個人から見て不透明で信頼出来ない場合、情報の非対称性の下での個人による合理的な判断の結果として、リスク資産への投資比率は最適な水準よりも劣後する。

キーワード:手数料体系、金融リテラシー、「安全資産/リスク資産」比率

DP2023-5
"Distortions in asset selection, varied ESG scores, and confusion in the ESG debate"

   吉野 直行 金融庁金融研究センター長、慶應義塾大学名誉教授
   湯山 智教 金融庁金融研究センター研究官

         
 近年、ESG投資への注目度が高まり、こうした投資をサポートする観点から、多くのESG評価機関が各企業のESGスコアを提示している。一方、ESGをめぐる議論は、特に米国では非常に混乱し、揺れており、政治的思惑も含めて、そのあり方について様々な議論がなされている。本稿では、この問題を投資理論的な背景から議論する。ESG投資では、ESG要因を考慮することを通じて、投資決定に際して、従来のリスク・リターンの2ファクター・モデルから、ESG要素を加えた3ファクター・モデルに移行した可能性がある。このため、伝統的なリスク・リターンの考慮からESGスコアの考慮へのシフトにより、ESG評価機関によるESGスコアの違いが資産配分に歪みを生じさせる可能性がある。これはグリーンボンドについても同様であり、その結果、グリーンボンド基準によって資産配分が歪められる可能性がある。さらに、温室効果ガス(GHG)排出量に対するネット炭素税の賦課が、気候変動問題に対処する上で、ネット炭素税引き後のリスク・リターンを見ながら投資をすることにより、資産配分の歪みを是正することができることを説明する。

キーワード:ESG (Environmental, Society and Governance); SDGs, Green investment; ESG score, Green credit rating; Net carbon tax.

DP2023-4
「地域銀行における取締役会ジェンダー多様性の効果」

   杉浦 康之 金融庁金融研究センター特別研究員
   中嶋 幹  金融庁金融研究センター特別研究員
         
 本論文は、日本の地域銀行を分析対象として、取締役会のジェンダー多様性が銀行経営に与える多面的な効果を明らかにするものである。一般に、取締役会には監督と助言の2つの機能があるとされる。日本の取締役会改革は、主としてリスクテイキングの促進を念頭に行われてきたが、銀行経営には過度なリスクテイキングを抑制することも求められる。このような観点から、2010年3月期から2020年3月期までの11期のデータを用いて、取締役会のジェンダー多様性が銀行の業績およびリスクに与える効果を実証的に確かめる。
 分析の結果、業績およびリスクテイキングに対するポジティブな効果を確認することはできなかった。この結果は、銀行業務の複雑性、社外取締役を通じてジェンダー多様性の効果が発揮される可能性、女性社外取締役の登用が進展した時期を考慮しても不変である。このような分析結果が得られた要因として、日本の地域銀行の社外取締役は男性中心に構成されている可能性が考えられる。また、経済都市圏が大きい地域を中心に女性社外取締役の任用傾向がみられることから、女性社外取締役の候補者プールが必ずしも十分でない可能性もある。取締役会のジェンダー多様性の水準が十分でないことが、先行研究の知見と異なる結果が得られた要因の1つであると推察される。これらの可能性を実証的に確かめることが今後の課題である。

キーワード:コーポレート・ガバナンス、女性社外取締役、地方銀行、board gender diversity

DP2023-3
「インパクト創出と企業価値向上は両立するのか 
 ―事例調査とパーパスの内容分析に基づく実証分析の両面から―」

   林 寿和  金融庁金融研究センター特別研究員
   松山 将之 金融庁金融研究センター特別研究員

         
 本稿は、「企業によるインパクト創出と企業価値向上は両立するのか」「企業がインパクト創出を目指すことは、企業価値向上との間でトレードオフを引き起こすのではないか」といった疑問や感覚が、企業経営の現場や投資の実務家の間で少なからず存在することを念頭に置きつつ、インパクト創出と企業価値向上の関係についての究明を試みるものである。本稿では、企業によるインパクト創出の源泉として、「パイの拡大」と「パイの分配の見直し」を区別するという捉え方を引用する。これにより、環境問題や社会問題の解決に資する事業の規模拡大という「パイの拡大」を通じてインパクト創出を目指す場合、本質的にはそこにトレードオフは存在しないことが示唆される。他方、利益という企業の取り分を減らすかわりに、社会の構成員の取り分を増やすという「パイの分配の見直し」によってインパクト創出を目指す場合、そこには本質的にトレードオフが存在することが示唆されるわけであるが、実際の企業事例調査からは、そのトレードオフを乗り越えようとする企業努力や、トレードオフの解消に繋がる規制環境等の変化といった好機を捉えることで、最終的にはインパクト創出と企業価値向上を同時に実現している企業の存在が明らかとなった。さらに、日本企業のパーパスに着目した実証分析を通じて、インパクト志向の強い企業のほうが、財務パフォーマンスも上回る傾向にあることも明らかとなった。これらの分析・考察により、インパクト創出と企業価値向上の同時実現は、常に可能というわけではないものの、状況次第では十分に可能であることが示唆される。

キーワード:インパクト志向、企業のパーパス、インパクトと財務パフォーマンス

DP2023-2
「我が国における気候関連リスクによる住宅ローン・ポートフォリオへの影響分析」

   岡崎 貫治   金融庁金融研究センター専門研究員

 近年、自然災害の頻発化・激甚化を受けて、金融セクターにおける気候関連リスクが高まっているが、リテール・ポートフォリオへの影響分析は、簡易的な分析に留まるケースが多く見られる。一方で、住宅ローン・ポートフォリオは、日本の地理的要因や、金融機関の貸出残高に占める住宅ローン残高の比率などを考慮すると、その影響は小さくない。
 先行研究では、エネルギー効率の高い住宅は、デフォルトリスクを下げる等の分析が示されている。本邦金融機関の実務では、住宅ローンの審査及びモニタリングにおいて、気候関連リスクを明示的に織り込んでいないものの、住宅価格の変動を通じて、気候関連リスクが反映されていることが示唆された。また、定量的影響度分析の手法について、既存のPD推計モデル等を活用した気候関連リスクの反映を試みた。火災保険については、住宅ローン・ポートフォリオのリスク削減における効果、並びに、近年の自然災害の頻発化・激甚化に伴う中での保険商品としての持続可能性に言及した。最後に、住宅ローン・ポートフォリオの気候関連リスクへの対応に係る課題を整理した。
  
キーワード:住宅ローン・ポートフォリオ、気候関連リスク、Residential mortgage loan、Climate-related risk

DP2023-1
「インパクト加重会計の現状と展望
半世紀にわたる外部性の貨幣価値換算の試行を踏まえた一考察」

   林 寿和   金融庁金融研究センター特別研究員
   松山 将之   金融庁金融研究センター特別研究員

         
 本稿は、主にハーバード・ビジネス・スクール(HBS)及びオランダのインパクトエコノミー財団によって研究・開発が行われている「インパクト加重会計」に焦点をあて、その用語の整理を行うとともに、インパクト加重会計の狙いと経済学的含意、その方法論の研究・開発の動向、及び国内外の企業による開示事例についての調査結果を報告するものである。さらに、インパクト加重会計の最大の特徴といえる、企業の様々なインパクトを貨幣価値換算し活用しようとする点に関して、様々な研究者や実務家の手によって、すでに半世紀ほどの試行の歴史があることに着目し、そうした過去の知見から得られる示唆を踏まえつつ、インパクト加重会計の今後を展望するものである。

キーワード:インパクト加重会計、外部性の貨幣価値換算、フルコスト会計

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