マネー・ローンダリング対策


I .マネー・ローンダリング

 マネー・ローンダリングとは、違法な起源を偽装する目的で犯罪収益を仮装・隠匿することであり、例えば、麻薬譲渡人が取得した譲渡代金をあたかも正当な商品を譲渡した代金であるかのように装うため売買契約書を作成する行為、あるいは借入金、預り金等を装ってその旨の書類を作成し、あたかも正当な取引により得た資金であるかのように偽装する行為がその典型とされています。
 このような行為を放置しておくと、犯罪収益が将来の犯罪活動に使われることを放任することとなり、また、犯罪組織が合法的な経済活動に支配力を及ぼす契機となることから、国内的にも国際的にもマネー・ローンダリングを防止することが重要な課題となっています。
 因みに、IMFによれば、マネー・ローンダリングの規模は世界全体のGDPの2〜5パーセントを占めているとの推計もあり、これは日本の一般会計予算規模に相当します。また、犯罪収益は、規制の緩い国へ流れていくという特徴を有することから、マネー・ローンダリング対策には、各国が協調して取り組むことが不可欠です。
 以下、マネー・ローンダリング対策に関する国際的な動向、我が国のマネー・ローンダリング対策について説明します。

 

II .マネー・ローンダリング対策に関する国際的な動向
 
.マネー・ローンダリング対策は当初薬物犯罪に関連して取り上げられました。
 1988年12月に採択された麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(麻薬新条約:1988年12月採択)では、薬物犯罪収益に係るマネー・ローンダリング行為の犯罪化が各国に義務づけられました。
 その後、アルシュ・サミット(1989年7月)における合意により招集された金融活動作業部会(FATF)がマネー・ローンダリング対策として「40の勧告(1990年4月作成、1996年6月一部改訂)」を提言しました。
 「40の勧告」では、マネー・ローンダリング対策として、金融機関等に対して顧客の本人確認及び疑わしい取引の報告等を義務づけることを提言しています。
 
.その後、ハリファクス・サミット(1995年6月)議長声明で、国際的な組織犯罪を防止する観点から、重大犯罪による収益の洗浄を防止するため効果的な措置を講じる必要があるとされたこと等を受け、FATFの「40の勧告」が一部改訂され、マネー・ローンダリング罪の前提犯罪を従来の薬物犯罪から重大犯罪に拡大すべきこととされました。
 また、疑わしい取引の届出に係る情報を犯罪捜査等に効果的に結びつけるためには、金融機関等からの届出情報を一元的に集約し、整理・分析して捜査機関等に提供する機関、すなわちFIU設置の必要性が認識され、バーミンガム・サミット(1998年3月)では、参加国間でFIU設置の合意がなされました。
 
.1999年(平成11年)10月にモスクワで開催された国際組織犯罪対策G8閣僚会合では、国際組織犯罪の資金的側面がテーマの一つとなり、FIUを設置していない国では設置することを奨励すること、マネー・ローンダリングの前提犯罪を薬物犯罪から他の重大犯罪に拡大することが重要であることなどがコミュニケに盛り込まれました。
 また、国連では、2000年(平成12年)中の採択を目標として、国際組織犯罪の取締り・防止等を目的とする国際組織犯罪対策条約の議論が行われており、その中で、マネー・ローンダリング対策に関する条文も検討されています。

 

III .我が国のマネー・ローンダリング対策
 
.我が国では、このような国際的な動向に対して、平成2年(1990年)7月に、顧客の本人確認に関する通達を発出するとともに、同4年7月から施行された「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為等を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。)で、金融機関等に薬物犯罪収益に関するマネー・ローンダリング情報の届出を義務づける「疑わしい取引の届出制度」を創設しました。
 
.さらに、麻薬特例法施行以降の国際的な動向を踏まえ、平成12年(2000年)2月から施行された組織的犯罪処罰法により、従来の「疑わしい取引の届出制度」が拡充されました。
 同法は、疑わしい取引の届出の対象となる犯罪を従来の「薬物犯罪」から「一定の重大犯罪」に拡大するとともに、マネー・ローンダリング情報を一元的に集約し、整理・分析して捜査機関等に提供する権限を、金融監督庁に付与することなどを内容としています。このほか、外国のFIUとの情報交換についての規定も整備されています。
 金融監督庁では、同法施行を踏まえ日本版FIUとして「特定金融情報室」を設置し体制整備を行いました。
 
(参考 )主なマネー・ローンダリング防止対策の沿革

 

IV 組織的犯罪処罰法の規定に基づく「疑わしい取引の届出制度」
 
.疑わしい取引の届出制度は、金融機関等から届け出られた情報をもとにマネー・ローンダリング罪及びその前提犯罪の捜査に役立てるとともに、犯罪者が金融機関等が提供する預金の受入サービスなどを利用することを防止し、金融機関等及び金融システムへの国民の信頼が損なわれることのないようにしようとすることを目的としています。
 
.疑わしい取引の届出を行う金融機関等の範囲は、疑わしい取引の届出に関する政令で次のとおり定められています。
 
 銀行、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、信用協同組合、信用協同組合連合会、農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、農林中央金庫及び商工組合中央金庫
 
 保険会社、外国保険会社等、証券会社、外国証券会社、証券金融会社、証券投資信託委託業者、共済水産業協同組合連合会、信託会社、無尽会社、抵当証券業者、商品投資販売業者、小口債権販売業者、不動産特定共同事業者、貸金業者、短資会社、住宅金融会社、商品取引員、金融先物取引業者、本邦において両替業務を行う者

 

V 金融監督庁のマネー・ローンダリング問題への取組
 
金融監督庁では、高い公共的使命を有する金融機関等が犯罪集団によって、マネー・ローンダリングに利用されることを阻止するため、内外の関係機関や関係団体との連携を強化し、マネー・ローンダリング対策に当たっています。
 平成12年(2000年)2月1日の組織的犯罪処罰法施行を踏まえ、同日付で日本版FIUとして特定金融情報室を設置しました。同室は、室長以下12名からなり金融監督庁の職員のほか、警察、検察、税関、厚生省麻薬取締官事務所からの出向及び兼務職員により構成されており、金融機関等から届出のあった疑わしい取引に関する情報を犯罪捜査等に効果的に結び付けるため、独自に開発した分析プログラムを活用して疑わしい取引に関する情報の分析を行い、その結果を捜査当局等に提供しています。

 
また、全国銀行協会等との定期的な情報交換や捜査当局等との連携を通じて、効果的なマネー・ローンダリング対策を検討するとともに、金融機関における個別具体的な取引が疑わしい取引に該当するか否かを判断する基準となる「疑わしい取引の参考事例」を適宜改訂することなどにより、疑わしい取引の届出制度の適切な運用を確保すべく努めています。
 他方、個別の金融機関に対しては、検査・監督を通じてマネー・ローンダリング防止のための内部管理体制の構築等を働きかけています。
 このほか、外国FIUとの情報交換や国際会議等への積極的な参加を通じて、国際的なマネー・ローンダリング対策にも積極的に参画しています。
 
(参考 )平成12年1月25日発表
「組織的犯罪処罰法施行後のマネー・ローンダリング問題への取組」

 


(資料)

麻薬特例法に基づく疑わしい取引の届出件数推移

4年

5年

6年

7年

8年

9年

10年

11年

12件

17件

6件

4件

5件

9件

13件

1,059件

 
 

疑わしい取引の届出制度


Back
メニューへ戻る