【特集:金融庁の平成16年度機構・定員及び予算について】
 
.はじめに
 平成15年12月24日に閣議決定された平成16年度政府予算案における金融庁関連の機構・定員及び予算の概要について説明します。
 金融を巡る内外の情勢変化に適切に対応し、金融庁の任務を引き続き的確に果たすため、より強固な金融システムの構築、証券市場の構造改革の推進など、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(6月27日閣議決定)に盛り込まれた諸施策等を迅速に実施することが喫緊の課題となる中、110名の増員及び総額約173億円の予算が認められました。


.機構・定員
 
(1 )より強固な金融システムの構築のための体制整備
 金融システムの信頼を高め、金融機関が本来の仲介機能を回復するため、「金融再生プログラム」等の着実な実施を通じて、平成16年度に不良債権問題の終結を目指すとともに、リレーションシップバンキングの機能を強化し、地域の中小企業への金融の円滑化等の諸施策を実施するために必要な検査・監督体制を整備することとしました。主なものとしては以下のとおりです。
 
 総務企画局審議官(不良債権問題担当)、検査局審査課審査企画官を設置するほか、「金融再生プログラム」等の着実な実施や地域の中小企業への金融の円滑化等のため、所要の要員が認められました。

(2

)証券市場の構造改革の推進のための体制整備
 証券市場の構造改革を一層推進するため、平成16年4月の「公認会計士法の一部を改正する法律」の施行に対応した公認会計士・監査審査会の体制整備をはじめ、証券取引等監視委員会において、ディスクロージャー違反等犯則事件の調査体制の強化等、市場の公正性・透明性の向上を図るために必要な体制を整備することとしました。主なものとしては以下のとおりです。
 
 平成16年4月に発足予定の公認会計士・監査審査会について、事務局総務試験室、同審査検査室を設置し、総計40名の定員が認められました。
 証券取引等監視委員会において、犯則事件の調査部門を中心に23名を増員し、市場監視体制を強化します。

(3

)実効性、効率性の高い検査・監督体制等の整備
 金融を巡る内外の情勢変化に適切に対応するため、金融庁の調査・研究機能及び情報システムの充実・強化を図り、高度化した金融商品等に対する検査・審査機能の強化、貸金業者等に対する検査・監督体制の強化等のために必要な体制を整備することとしました。主なものとしては以下のとおりです。
 
 検査局審査課審査企画官(再掲)を設置するほか、貸金業者等に対する検査・監督体制の強化等のため、所要の要員が認められました。
 調整機能の強化のため、総務企画局総括審議官、総務企画局総務課情報化・業務企画室を設置します。
 上記の体制整備のため、総計110名の増員が認められました。この結果、金融庁の16年度末定員は1,202名となります。

(内訳)

(内訳)

(注 1)中央省庁再編時の金融庁(金融再生委員会の廃止後、(平成13年1月))の定員は766名。
(注 2)公認会計士・監査審査会の16年度末定員には、総務企画局からの振替3名を含む。
(注 3)上記一般職の増員のほかに、特別職2名(公認会計士・監査審査会会長、同常勤委員)が認められた。


.予算
 
(1 )増員に必要な経費、公認会計士・監査審査会の運営に必要な経費等を含め、総額で約173億円(対前年度10.8%増)の予算が認められました。

(2

)「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」において、平成16年度予算で新たに導入することとされた、「モデル事業」及び「政策群」に関しては、
 
(a)  「モデル事業」として、有価証券報告書等の電子開示システム(EDINET)の更なる基盤整備に必要な経費(323百万円)が認められました。

(参考)金融庁のモデル事業について
 
事業名 有価証券報告書等に関する電子開示システムの更なる基盤整備等
定量的な目標 (a)EDINETによる開示書類の提出会社数(内国会社)
17年6月末 4,500社(100%提出可能な状況の構築)
(b)EDINETサイトへのアクセス件数(月平均)
16年7月〜17年6月 11.3万件
17年7月〜18年6月 12.3万件
達成手段 システム拡張(受理機能を拡充)やセキュリティ対策の徹底・強化等を行うとともに、一括印刷機能の追加や検索機能の高度化、ダウンロード機能の充実を図る。
16年度予算額 323百万円

(b)

 「政策群『ITの活用等による安全かつ効率的な国際物流の実現』」の予算措置として、マネー・ローンダリング及びテロ資金対策の強化(特定金融情報データベースシステムの充実)に必要な経費(47百万円)が認められました。
 
 「平成16年度予算で新たに導入することとされた『政策群』」について、詳しくは経済財政諮問会議のホームページから「平成16年度予算における『政策群』の活用について」にアクセスしてください。

(3

)なお、預金保険機構に係る政府保証枠については、金融システムの安定を引き続き揺るぎないものとするため、59兆1,500億円が認められました。このうち、金融機能強化のための新たな公的資金制度に係る政府保証枠としては、2兆円が認められました。

(参考)平成16年度預金保険機構の政府保証枠
(単位:兆円)
勘  定 15年度 16年度予算案
一般勘定   19   19
金融再生勘定   15   14
金融機能早期健全化勘定    6.9    6
危機対応勘定   15   17
金融機関等経営基盤強化勘定    1    1
金融機能強化勘定(仮称)    −    2
産業再生勘定    0.15    0.15
   政府保証枠 合計   57.05   59.15

平成16年度金融庁予算の概要(概算決定)
平成16年度金融庁予算の概要(概算決定)

(注)各々の計数を百万円未満で四捨五入したため、計数が符合しない場合がある。

(参 考)
(単位:百万円、%)
(参 考)
 
(注)1 .各々の計数を百万円未満で四捨五入したため、計数が符合しない場合がある。
.上記は(組織)金融庁の予算を部局等毎に整理したものである。


【集中連載】
 
市場機能を中核とする金融システムに向けて(金融審議会金融分科会第一部会報告)(第1回:「市場間競争の制度的枠組み」及び「ディスクロージャー制度の整備」)

 日本の金融資本市場の改革については、平成10年の金融システム改革関連法案の成立(日本版ビッグバン)により、フリー・フェア・グローバルの3原則の下、広範な分野にわたり総合的な改革が図られました。その後、平成14年の「金融システムと行政の将来ビジョン」により、新たな市場機能を中核とした複線的金融システムへの再構築に向けた方向性が示され、同年の「証券市場の改革促進プログラム」において、(a)誰もが投資しやすい市場の整備、(b)投資家の信頼が得られる市場の確立、(c)効率的で競争力のある市場の構築を掲げ、これらの視点に基づき、具体的な施策が盛り込まれました。
 このように、着実に進めてきた改革について検証を行い、更に日本の金融市場の地位を向上させるために必要な制度問題について検討を進める観点から、金融審議会金融分科会第一部会において審議が行われてきました。審議は平成15年9月から再開され、取引所のあり方に関するワーキング・グループ及びディスクロジャー・ワーキング・グループにおける検討を並行的に進め、最終的に平成15年12月24日に報告「市場機能を中核とする金融システムに向けて」を取りまとめました。その柱となっている項目は以下の通りです。
  1.市場間競争の制度的枠組み
  2.ディスクロージャー制度の整備
  3.市場監視機能・体制の強化
  4.投資サービスにおける投資家保護のあり方
  5.投資教育のあり方
  6.銀行・証券の連携強化
 この短期連載では、これらの項目につき、3回にわたって紹介をしていきます。初回は、「市場間競争の制度的枠組み」及び「ディスクロージャー制度の整備」について紹介します。


.市場間競争の制度的枠組み
 
(1 )基本認識
 ビッグバン改革においては、東京市場をニューヨーク、ロンドン並みの国際市場とすることを目指し、仲介者の新規参入や業務の自由化のみならず、市場間の競争を促進するため、
 

 ア

.取引所集中義務を撤廃し、取引所外取引の場としてPTS(私設取引システム)を導入
 イ .店頭市場を取引所市場と同等の存在として証券取引法に位置付け
 ウ .未上場株式の取引の場としてグリーンシートを創設(証券業協会規則)

といった措置を講じました。これらは米国において、インスティネットのようなPTSの成長が取引所との競争を促したこと、ナスダック店頭市場がニューヨーク証券取引所に匹敵する存在として活況を呈していること、未上場株式のピンクシートでも広範に取引が行われていることを意識し、企業にとっては成長段階に応じた資金調達の場、個人にとっては多様で魅力ある運用対象を提供しようとするものでした。

 取引所集中義務の撤廃に際しては、米国と異なり、顧客にとって最良の執行となる市場に注文を自動回送するシステムが存在しないことなどから、顧客が取引所外と明示しない限り取引所において執行する(取引所取引原則)こととし、かつ、PTSの価格決定方法も法令で限定して取引所との差別化を図りました。現在に至るまでPTSでの株式取引が低迷しているのは、取引所(とりわけ東京証券取引所、以下「東証」という。)の流動性、利便性が高いこともありますが、制度的に取引所を優先していることにも原因があるとの指摘があります。

 店頭市場は、その後ジャスダックと呼ばれて認知度が高まり、新興企業の資金調達の場として普及しましたが、元来、証券会社の店頭での相対取引が発展したものであるため機能面の制約があり、かつ、取引所と重複上場できないため、有力企業にとっては取引所上場までの経過的市場となっています。こうした状況を打開すべく、ジャスダックが自身の取引所化を指向しているのは、既存取引所と重複上場しながら市場間競争を促進していくものとして評価できます。

 グリーンシートは、未だ認知度が低く、中小企業の一般的な資金調達の場とはなっていません。ただ、グリーンシート銘柄への投資家は、ほとんどが縁故増資に応じた個人であり、それまで株式投資の経験に乏しく長期保有傾向が強いため、逆にいえば、潜在的にグリーンシート公開が可能な全国の膨大な数の中小企業が今後実際に活用するようになれば、新たな個人投資家の裾野が大きく広がる可能性があります。

(2

)改革の方向性
 取引所外取引の拡大は、取引所自身の効率経営に向けたインセンティブを高め、市場間競争を実効あらしめることが期待されます。このため、制度面でビッグバン改革を一歩進め、取引所とPTSの競争条件のイコールフッティングを確保する必要があります。具体的には、取引所取引原則を見直して証券会社の最良執行義務を導入するとともに、PTSに取引所と同じオークションによる価格決定方法を認めることが望ましいと考えます。
 最良執行義務の内容としては、大多数の投資家にとって取引所で執行することが利益に合致している実情を踏まえ、価格のみならず、コスト、スピード、執行可能性などさまざまな要素を総合的に勘案して執行する義務とし、具体的な執行方法は証券会社自らが定めて顧客に示す、そしてその通りに執行されているかどうか検証するための報告・公表を一層充実させることが考えられます。こうした義務であるから、例えば、価格のみに着目して事後的に最良になっていなかったとしても、それのみをもって当局から義務違反を指摘されるような性格のものではありません。
 また、PTSにつき、取引所同様のオークションを導入すれば、機能は取引所と同じになるため、一定の取引量を超えたところで取引所としての免許を要するし、公開買付制度の適用除外や相場操縦規制の適用、PTS自らの売買審査といった論点も整理していく必要があります。なお、債券や未公開株式は、店頭取引中心で取引量による区別が難しいため、量的基準を適用除外する必要があるでしょう。

 制度としての店頭市場は、ジャスダックが取引所化すれば不要になりますが、グリーンシートその他の自然発生的相対取引についての一定のルールを備えた受け皿になり得るため、当面存置しておいて差し支えないものと考えられます。

 グリーンシートは、ビッグバン改革に際しての店頭市場と同様、証券取引法に規定して国民の認知度を高め、不公正取引ルールを適用して信頼性を高めることが先決です。一方、ディスクロージャーについては、現在と同じく証券業協会の自主規制によることを基本にして、参入障壁を高めず自由度を維持していくべきです。
 加えて、グリーンシート銘柄への投資については、株式譲渡益がある場合の投資額の所得控除など、一定の政策支援を行うことが望ましいと考えます。

(3

)市場間競争の担い手の姿
 東証への取引の集中傾向が続いているのは、市場参加者が流動性、利便性を求めたが故の自然な帰結という側面があります。上場企業も、東証以外での取引が成立しにくいために重複上場を見直す傾向にあり、一極集中が加速する循環構造になっています。
 一方、市場間競争を促進するためには、有効な対抗勢力が存在した方が、東証自身も効率経営に向けた不断のインセンティブが働き、ガバナンス上有効と考えられます。
 こうした観点から、ジャスダックの取引所化を契機に、ジャスダックと東証以外の取引所との連携が重要との指摘や、ジャスダックを含む新興市場間の取引ルールの統一や統合を目指すべきとの指摘がありました。市場間競争の担い手の具体的な姿を推奨することは行政の任ではありませんが、こうした課題については、今後関係者間で、利用者利便を踏まえた前向きな検討が行われることが望ましいと考えます。

 また、米国における非上場取引特権制度については、既存の上場銘柄の取引がPTSで行えるのであれば、その銘柄を上場していない取引所での取引も行われて然るべきとの指摘がありましたが、仮にこの制度を導入しても、市場間競争にはつながらず、地方証券取引所が活性化されるとは考えにくいという意見が多数でした。

 昨年、当審議会は、クロス・ボーダー取引の増加や国際的な市場間競争の高まりを踏まえ、取引所のクロス・メンバーシップなど、積極的な海外展開を可能とするための制度整備を提言しました。今回提言する市場間競争の枠組みの整備は、国内市場の効率性・利便性向上や国際的な規制の調和を目指すものであり、昨年の提言と併せ、日本市場の国際的競争力の向上や国際的な資本市場の利便性につながるものであると考えられます。関係者の積極的取組みを期待しています。


.ディスクロージャー制度の整備
 
(1 )目論見書制度の見直し
 ディスクロージャーは、証券発行者にとって、自由に資金調達を行うためのコストですが、ベネフィットに比してコストが過重であったり、投資家にとっても煩わしく感じられるのであれば、仕組みそのものを見直すべきです。また、ディスクロージャー制度は歴史的に、株式投資家にとって有益な情報を開示させることが出発点でしたが、社債、投資信託、様々な証券化商品など商品特性に応じた開示のあり方は不断に追求していく必要があります。とりわけ投資信託については、ビッグバン改革において株式と同様に目論見書の作成・交付を義務付けましたが、両者の商品特性はかなり異なっています。もとより現行制度は、これまでの歴史のなかで、有効性を検証され、相当に洗練された体系となっていますが、投資家の判断にとって真に有益な情報が過不足なく提供されているかどうかについては改善の余地があります。

 市場入門商品である投資信託の目論見書については、まず、投資家のニーズに応じた情報入手を容易にするために、有価証券届出書の記載内容を、
 

 ア

.必ず投資家に交付しなければならない部分(目論見書部分)
 イ .投資家からの請求に応じて交付する部分(追加情報部分)
 ウ .公衆縦覧部分

 の三部構成とすることが適切であります。これは、現行の目論見書に記載される情報を削除ないし簡略化するものではなく、全ての投資家に必要な情報と、投資家によって必要なより詳細な情報を区分するものであり、追加情報部分も法定目論見書として民事責任に関する証券取引法の規定が適用されます。
 また、同一種類の投資信託について継続的に募集が行われている場合、同一世帯に複数の投資家がいる場合などにおいて、同意があれば交付を省略できるようにすることが、投資家にとっても無駄を省く意味で望ましいと考えます。更に、証券会社や銀行など販売会社についての情報(手数料、取扱場所など)は、目論見書に綴じ込んでともに入手できるようにすることが投資家利便にかなっています。

 株式や社債など投資信託以外の有価証券については、現在の目論見書の記載内容が、いずれも投資判断にとって等しく重要な情報であるため、有価証券届出書の記載内容の三部構成化にはなじまないと考えられます。但し、すべての有価証券に共通する事項として、名称制限の緩和、電子交付要件の簡素化などの措置は講ずる必要があります。総じてこの課題については、投資家にとって必要な情報の提供を担保するための一定のルールは必要ですが、投資家の理解を損わない範囲で、発行者の工夫の余地を確保しておくことが望ましいと考えます。
 目論見書以外の情報提供手段(販売用資料)の活用は、証券取引法に、何人も目論見書と異なる内容の表示をしてはならないと規定されていることにより事実上制約されてきました。
 一方、ディスクロジャーのあり方として、発行開示から継続開示、適時開示と価格形成に果たす役割が重視されるようになり、目論見書に記載される情報以外の価格形成に影響を及ぼす情報も投資家にとって有益な判断材料として開示を促す傾向が強まっています。
 こうした情報についても目論見書との矛盾や虚偽がなければ、民事責任を問われることなく販売用資料として活用できるよう、ルールの明確化を図るべきです。

(2

)公開買付制度の見直しなど
 公開買付制度は、市場外相対で短期間に広範な者から株式を買い付けようとする場合、買付者に買付期間・数量・価格などの情報公開を義務付けることにより、投資家に買付けについての情報を提供するとともに既存株主の平等待遇を保証し、取引の透明性を確保しようとするものです。
 一方、かねてより公開買付手続によらねばならないことが、迅速な企業再編を抑制しているとの指摘が多いため、経済実体に応じた合理的な仕組みとなるよう見直していく必要があります。

 まず、公開買付けの対象が、継続開示義務を負う会社の発行する株式となっている点については、公開買付けが議決権の変動を一般投資家に明らかにするという制度の趣旨に鑑みれば、社債を発行したことのみにより継続開示義務を負う会社の発行する株式にまで及ぼす必要はないものと考えられます。
 次に、著しく少数の者からの相対での買付けであっても、買付者と特別関係者の所有割合が3分の1を超える場合には公開買付けによらなければならないこと(強制的公開買付制度)に対しては、一般株主を排除するために市場価格以下にしなければならないことなどへの批判がありますが、企業支配権の移動を伴う相対取引は、投資家や既存株主にとって重大な影響があるため、この制度の廃止は望ましくないと考えます。但し、営業譲受けに伴って結果として他の会社の株式の所有割合が3分の1を超える場合や、買付者と特別関係者をあわせて既に所有割合が2分の1を超えている場合には、適用除外とすることが合理的であると考えます。なお、3分の1ルールそのものを2分の1に引き上げることは、2分の1に達するまでは市場外相対取引を行い、2分の1を超えるためにわずかな市場取引を行えば、公開買付けを行わずして支配権を得ることとなるため、制度の実効性を担保する上で望ましくありません。
 公開買付けの手続としては、開始公告媒体の要件緩和や電子公告の導入、開始公告や届出書の記載内容の見直しなど、実務のニーズを踏まえた措置を講じるべきです。

 以上二つの項目以外にも、私募による企業の資金調達を促すため、一定の要件を満たす事業会社、厚生年金基金、外国金融機関などに係る適格機関投資家の有効期間の延長や社債を私募発行する場合の転売制限の要件緩和、募集又は売出しが届出を要するか否か判断するための金額通算期間の短縮など、手続の簡素化、明確化を推進していくべきです。

 更なる当面の課題としては、国際的に見て市場の共通語が事実上英語となっている中での英文開示のあり方や、適時開示重視の流れを踏まえた四半期開示の制度化、証券取引法の対象範囲の拡大などに伴う更なる規制緩和などがあげられ、引き続き当審議会で検討していくこととしたいと考えます。


 金融審議会金融分科会第一部会報告「市場機能を中核とする金融システムに向けて」の本文等をご覧になりたい方は、金融庁ホームページの「審議会など」から「金融審議会」の「答申・報告書等」のうち、平成15年12月24日「市場機能を中核とする金融システムに向けて」(金融審議会金融分科会第一部会報告)にアクセスしてください。

【ピックアップ:中小企業金融】
 
経済活性化のための産業金融機能強化策

 平成15年12月24日、「産業金融機能強化関係閣僚等による会合」(出席者:官房長官、金融担当大臣、経済財政政策担当大臣、法務大臣、財務大臣、経済産業大臣、日本銀行総裁)が開催され、「経済活性化のための産業金融機能強化策」がとりまとめられました。

 これは、9月2日の経済財政諮問会議において、経済産業大臣から検討の提案があり、また、竹中大臣よりいわゆる「骨太の方針2003」を深化させる観点から、産業と金融に関し、関係閣僚等からなる議論の場を設けることが必要と発言されたことをきっかけに検討が始まったものです。

 まず、9月9日に同会合が開催され、ここでは、経済活性化に資する観点から、政府の各施策を有機的に連携させつつ、産業金融機能を抜本的に強化するため、産業金融をいかに多様化していくかについて検討することとされました。これを受けて、金融庁、経済産業省をはじめとする関係省庁等の間で具体策の検討が行われました。

 11月28日の経済財政諮問会議における「金融・産業再生」の集中審議において、竹中金融担当大臣から産業金融の機能強化に向けた金融庁の取組みの説明が行われました。

 こうした関係省庁等の検討を経て、12月24日の同会合において、本強化策がとりまとめられ、12月25日の経済財政諮問会議に報告されました。

 本強化策の考え方、取組みは以下をご覧下さい。

(考え方)
「経済活性化のための産業金融機能強化策」の考え方

(取組み)
経済活性化のための産業金融機能強化策


 「経済活性化のための産業金融機能強化策」について、詳しくは金融庁ホームページの「報道発表など」から「経済活性化のための産業金融機能強化策について」(平成15年12月24日)にアクセスしてください。

 

リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラムの進捗状況(平成15年度上半期)について

 昨年3月に公表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」においては、金融庁において同プログラムに記載されている施策の進捗状況及び金融機関の取組み実績をとりまとめ、公表することとされています。
 去る1月16日、金融庁では、施策の進捗状況及び金融機関の取組み実績について取りまとめ、金融審議会金融分科会第二部会に報告するとともに公表を行いました。


 リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラムの進捗状況(平成15年度上半期)について、詳しくは金融庁ホームページの「報道発表など」から「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラムの進捗状況(平成15年度上半期)について」(平成16年1月16日)にアクセスしてください。
 アクションプログラムの本文をご覧になりたい方は、金融庁ホームページの「報道発表など」から「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(平成15年3月28日)にアクセスしてください。
 アクションプログラムに基づき、各金融機関は、平成15〜16年度の2年間(「集中改善期間」)に中小企業の再生と地域経済の活性化に向けた取組を進めるため、機能強化計画を作成して8月末に当局に提出しています。そのとりまとめ状況については、金融庁ホームページの「報道発表など」から「リレーションシップバンキングの機能強化計画の概要について」(平成15年10月7日)にアクセスしてください。
 その他、金融庁における中小企業金融の円滑化へ向けた取組みについては、金融庁ホームページの「政策ピックアップ」にある「中小企業金融特集」にアクセスしてください。


【集中連載】
 
金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕の改訂について(第1回:改訂の背景)

 金融庁は、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者等の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることを任務としています。そのための手段の一つとして、銀行法などに基づき金融機関に対する立入検査を実施しており、検査における基本的な考え方及び具体的着眼点等を整理したものが「金融検査マニュアル」です。
 金融検査マニュアルでは、中小・零細企業の経営実態の把握の向上による適切な検査の運用確保のため、別冊〔中小企業融資編〕を作成、公表しておりますが、今般、本別冊の内容がより中小・零細企業の実態に即したものとなるよう改訂することとしております。
 そこでアクセスFSAでは、金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕の改訂の内容についてより多くの方々に知っていただくため、詳細な解説を連載いたします。
 初回は、改訂の背景等について解説します。


.金融検査マニュアル別冊の作成経緯
 金融検査における中小企業の取扱いについては、平成11年7月に作成・公表された金融検査マニュアルの中において、「特に、中小・零細企業等については、当該企業の財務状況のみならず、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容、保証状況保証能力などを総合的に勘案し、当該企業の経営実態を踏まえて判断するものとする。」ということを明記しています。
 金融検査マニュアルに則した検査を実施している中で、検査マニュアルにおける中小・零細企業等の債務者区分の記述が判りにくい、検査において金融検査マニュアルが機械的・画一的に適用されており、中小・零細企業の実態を踏まえた判断がなされていないとの意見も寄せられました。
 このような中で、平成14年2月に政府から発表された「早急に取組むべきデフレ対応策」において、中小・零細企業の経営実態に応じた検査の運用確保策の一つとして、「中小・零細企業等の債務者区分の判断について、金融検査マニュアルの具体的な運用例を作成し、公表する」ことが盛り込まれました。
 これを受け、当庁では検証ポイントと運用例からなる金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]の作成に取組み、平成14年6月に作成・公表することとなりました。


.金融検査マニュアル別冊の改訂の背景
 14年6月に別冊を公表しましたが、当庁ではこの別冊の定着を図るべく、検査官、金融機関のみならず債務者である中小企業者に対して、各種の研修や説明会を延べ300回以上開催し、その周知徹底を図ったところです。
 このような中で、15年3月に当庁が発表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」において、「中小企業の実情に即したきめ細かな実態把握に一層努めるため、別冊の定着状況等をモニタリングし、その内容が中小企業の実態による即したものとなるよう改訂する」ことが盛り込まれました。
 当庁では、別冊の定着状況のモニタリングのため、金融機関、中小企業へのヒアリング(約250先)、また、別冊に関するアンケート調査(約4,000先)を実施しましたが、この中で多種・多様な意見をいただいております。
 今回の改訂案を作成するに当たっては、いただいた意見を相当程度反映するとともに、最近の中小企業金融における環境の変化にも対応したものとなるよう改訂作業を進めました。そして、昨年12月22日に改訂案を公表しました(本年1月21日にパブリックコメントの受付を終了致しました)。


.改訂の趣旨
 今回の改訂案策定の背景として、金融機関が資金仲介機能を一層活発に発揮していくための環境整備を図っていくという狙いがあります。
 金融技術の革新に伴い金融仲介の手法が非常に多様化していく中においても、預金取扱金融機関を通じた金融仲介機能は、引き続き重要な役割を果たしています。特に中小企業金融においては、地域に密着した長期安定的な取引関係が典型的です。金融機関は、このような日頃の取引関係の中で蓄積される情報をベースに、債務者のリスクを評価し、リスクテイクする形で金融仲介の機能を果たしています。
 こうした金融仲介では、金融機関と債務者との間で質が高く、かつ密度の濃い意思疎通が図られる必要があり、「金融機関と債務者との間で中身のある意思疎通が行われているか」「意思疎通を通じて経営実態の把握や、債権管理の一環として債務者への経営指導等の働きかけが行われているか」といった点が重要となります。
 このような考え方の下、今回の改訂では、より積極的に債務者とのかかわり合いを真摯に果たしている、あるいは果たそうとしている金融機関について、結果として、検査でも差が出るよう改訂案を作成しています。この結果、各金融機関の「本来の意味での」積極的なリスク評価、リスクテイクといった資金仲介機能にインセンティブを付与することにもつながると考えています。
 しかしながら、あくまでもインセンティブの付与ですので、強制するものではありません。つまり、金融機関が様々なビジネスモデルの中で、独自性を発揮し積極的な金融仲介を果たそうとする際には、金融当局の関与が阻害要因になってはならない、という観点も今回の改訂案には含まれています。
 今回の改訂に当たっては、本稿で簡単に触れた「債務者との意思疎通」のほか、「擬似エクイティへの対応」、「小口・多数の債権の分散効果」、「運用の改善」、「事例の大幅な拡充」という5つの柱を建てており、これらの詳細については、次回以降の連載において詳細に記載することを予定しております。


 「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」改訂案については、金融庁のホームページの「パブリック・コメント」から「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕等の改訂(案)について」にアクセスしてください。また、「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」の基本的考え方等について、詳しくは金融庁ホームページの「政策ピックアップ」のコーナーにある「中小企業金融特集」の「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」にアクセスしてください。
 金融検査については、アクセスFSA第10号の「金融便利帳:金融検査」で解説しておりますので、アクセスしてみてください。

次の項目へ