アクセスFSA 第84号(2010年4月)

アクセスFSA 第84号(2010年4月)

写真1

多重債務者対策本部有識者会議
(3月26日)

写真2

企業会計審議会総会
(3月26日)

目次


【トピックス】

「監査基準の改訂に関する意見書」の公表について

  • 1.改訂の経緯

    公認会計士監査を行うに際しての規範である監査基準については、これまでも、国際的な監査の基準や監査をめぐる内外の動向を踏まえ、必要に応じて改訂を行ってきており、現行の監査基準は国際監査基準と比して内容等において遜色のないものになっています。

    国際監査基準では、すべての基準を必須手続とそれ以外の手続に明確に区分することなどを内容とする明瞭性(クラリティ)プロジェクトが、2009年3月に完了しました。今般の同プロジェクトは、基準の規定文言を明確化するための技術的な改正を中心とするものですが、改正後の国際監査基準と我が国の監査基準との間には、一部に差異が生じることになりました。こうしたことから、企業会計審議会(会長 安藤英義 専修大学教授)では、平成22年3月2日に開催された監査部会において、国際監査基準の明瞭性プロジェクトによる改正に対応し、監査人の監査報告書における意見表明の内容等を規定している報告基準における差異を調整することを中心に検討を行い、3月5日に改訂基準の公開草案を公表し、広く意見を求めました。その上で、寄せられた意見を参考にしつつ更に検討を行い、3月26日に開催した同審議会の総会において、「監査基準の改訂に関する意見書」をとりまとめ、公表しました。

  • 2.改訂基準の概要

    • (1) 監査報告書の記載区分等

      現行の我が国の監査基準では、監査報告書には(1)監査の対象、(2)実施した監査の概要、(3)財務諸表に対する意見を記載することが求められています。一方、明瞭性プロジェクト後の国際監査基準では、監査報告書を(1)監査の対象、(2)経営者の責任、(3)監査人の責任、(4)監査人の意見に区分した上で、(1)の監査の対象以外については、それぞれ見出しを付して明瞭に表示することを要求しています。こうしたことから、我が国の監査基準においても、監査報告書の記載区分を現行の3区分から4区分にし、「経営者の責任」「監査人の責任」を監査報告書上明確にするとともに、国際監査基準において求められている記載内容を踏まえてそれぞれの記載区分における記載内容を整理しました。例えば、監査の対象に含まれていた「財務諸表の作成責任は経営者にあること」「監査人の責任は独立の立場から財務諸表に対する意見を表明することにあること」については、それぞれ、(2)経営者の責任と(3)監査人の責任の区分に記載することにより明確化したほか、「監査手続の選択及び適用は監査人の判断によること」等の記載を新たに(3)監査人の責任の区分に記載することを求めることとしました。

      また、監査人による監査意見の形成過程そのものは、実質的に従前とは変わらないものの、「意見に関する除外」及び「監査範囲の制約」に関して、現行の我が国の監査基準では、重要な影響として一括して扱っていた、「重要性」と「広範性」について、国際監査基準では2つの要素を明示的に示すことになっており、今般の改訂においては、当該影響について、「重要性」と財務諸表全体に及ぶのかという「広範性」の2つの要素から判断が行われることを明確にしました。

    • (2) 追記情報

      現行の監査基準では、監査人は、監査人の意見とは別に、説明又は強調することが適当と判断した事項については、情報として追記するものとされていますが、財務諸表における記載を特に強調するために当該記載を前提に強調する強調事項と、監査人の判断において説明することが適当として記載される説明事項との区分がなく、混在して規定されています。明瞭性プロジェクト後の国際監査基準では、両者を区分した上で記載することが求められていることから、我が国の監査基準においても、財務諸表における記載を前提に強調することが適当と判断した事項と監査人がその他説明することを適当と判断した事項について、それぞれを区分して記載することを求めることとしました。

  • 3.実施時期等

    改訂監査基準は、平成24年3月決算に係る財務諸表の監査から実施されます。なお、改訂基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることを要請しており、平成24年3月決算より新様式による監査報告書が作成されることになります。

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から「監査基準の改訂に関する意見書」の公表について(平成22年3月29日)にアクセスしてください。


「未公開株取引等の問題に対する対応状況について

未公開株取引に関して、最近、金融庁金融サービス利用者相談室への相談件数が大幅に増加(平成19年1034件→20年1330件→21年2159件)しています。

その相談内容には、無登録業者が関与する詐欺的なものが多く、金融庁等の行政機関から委託を受けたと説明するものや金融庁等の職員を名乗る事例も見られているところです。

また、いわゆる集団投資スキーム(ファンド)の取引に関しても、無登録業者が関与する詐欺的事例のほか、金融商品取引業者(登録業者)による問題事例も発生しています。

こうした詐欺的な投資勧誘の問題について、金融庁は、従来から、証券取引等監視委員会等とも連携しつつ、下記のような対応に取り組んでいます。

さらに、最近の状況を踏まえ、以下のような取組みを進めて行くこととしましたので、ここに紹介します。

  • 1.被害の未然防止に向けた取組み

  • 2.被害の拡大防止に向けた取組み

    • (1) 平成22年3月9日に国会に提出した「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」において、金融商品取引法等に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対する裁判所の差止命令への違反に係る両罰規定の整備を目指しています(説明資料(1))

      これは、上記の裁判所の差止命令への違反があった場合に、当該差止命令に違反した行為者個人を罰することに加えて、法人に対しても罰則を科すことを可能とするものです。

    • (2) 平成22年3月19日に警察庁が設置した「資産形成事犯対策ワーキングチーム」への参画など、警察当局との連携の強化を図っています。

      上記の「資産形成事犯対策ワーキングチーム」とは、ファンドの取引を利用した悪質事業者の撲滅及び被害の拡大防止を図るため、警察庁、金融庁及び証券取引等監視委員会を構成員とし、警視庁等首都圏警察及び関東財務局をオブザーバーとするもので、今後、問題のあるファンドについて、各機関の権限及び役割に応じて、具体的な取組みを行って行くことを予定しています。

  • 3.被害の回復に向けた取組み

    • (1) 平成22年3月9日に国会に提出した「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」において、破産手続開始の原因となる事実がある場合に当局から破産手続開始の申立てを行える範囲を、一部の金融商品取引業者(証券会社)から金融商品取引業者全般に拡大する規定の整備を目指しています(説明資料(2))

      ファンドの販売業者や運用業者において、資金を流用する等の詐欺的事案が発生した場合、当該業者に対して業務停止等の行政処分を行うことは可能ですが、更なる資金流出等の被害を防ぐ観点からは、自己破産の慫慂を行うに留まるなど、当局の対応には限界がありました。

      今回の改正案が成立すれば、破産手続開始の原因となる事実がある場合、当局が破産手続開始の申立てを行うことが、すべての金融商品取引業者に対して可能となります。

    • (2) 平成22年3月19日付で、金融機関等に対し、未公開株取引・ファンド取引等を含めて、「詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為」に該当する場合には「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」に基づく手続を適切に実施する等の取組みを要請しました。

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から「未公開株取引等の問題に対する対応状況について」にアクセスしてください。


FSAリサーチ・レビュー第6号の公表について

金融研究研修センターでは、2009年度の研究成果としてFSAリサーチ・レビュー第6号をとりまとめました。本号は、一年間に公表されたディスカッションペーパーのうち、研究論文として所収するにふさわしいものを、外部のレフェリーによる審査を経て、金融研究研修センター長 吉野 直行(慶應義塾大学経済学部教授)の責任のもとに所収し、下記の研究官論文3本、特別研究員論文7本を掲載しました。

<研究官論文>

(1) 「一般均衡分析によるプロシクリカリティ抑制の考察」(吉野直行・平野智裕・三浦翔)

(2) 「コーポレート・ガバナンスと利益調整に関する実証分析」(三谷英貴)

(3) 「新興市場と新規株式公開を巡る論点整理-内外既存レビューと制度設計への示唆-」(岩井浩一)

<特別研究員論文>

(1) 「銀行倒産における国際倒産法的規律」(嶋拓哉)

(2) “A Note on Construction of Multiple Swap Curves with and without Collateral”(藤井優成・嶋田康史・高橋明彦)

(3) 「買収防衛策導入の株価への影響について」(竹村泰・白須洋子・川北英隆)

(4)「内部格付手法における回収率・期待損失の統計型モデル-実績回収率データを用いたEL・LGD推計-」(三浦翔・山下智志・江口真透)

(5) 「日本企業の負債政策と税制:パネル分析」(國枝繁樹)

(6) 「中小企業のデフォルトリスクとその期間構造:大規模財務データによる実証分析」(藤井眞理子・竹本遼太)

(7) 「海外における金融規制に関する政策評価の動向-英国・EUの政策評価の現状とわが国への課題-」(杉浦宣彦・近藤哲夫)

なお、FSAリサーチ・レビュー第6号に書かれている内容は、各執筆者の個人的な見解であり、金融庁あるいは金融研究研修センターの公式見解ではありません。

以下、リサーチ・レビューに掲載された各研究論文の要旨を掲載します

<研究官論文>

  • (1) 「一般均衡分析によるプロシクリカリティ抑制の考察」(吉野直行・平野智裕・三浦翔)

    バーゼルの自己資本比率規制は、例えば、8%の自己資本比率を、すべての国に対して要求してきた。しかし、各国のマクロ経済の状況は異なっており、株価・地価などの資産価格の動き、経済成長率、金利の動きは、各国で異なる動きをしている。

    銀行が、貸出の安定性を目指し、自己資本が貸し倒れリスクに対応するように準備される必要があるという制約条件の下での、銀行の最適な自己資本比率を導出している。それによると、最適自己資本比率は、(i)株価の動き、(ii)地価の動き、(iii)景気の変動、(iv)金利の動き、のそれぞれの変数の動きによって、変動させるべきであるという理論的な結論を導出している。景気が過熱している国では、自己資本比率を引き上げ、景気が低迷している国では、自己資本比率を低下させることが、望ましいことが理論的に証明されている。

    データを用いた計量分析(詳細な分析は、現在進められているが)では、日本の場合には、景気低迷期の最適自己資本比率は、-2.01%の引下げが望ましかったこと、米国の景気過熱時期には、自己資本比率を4.4%引き上げていたならば、バブルを和らげたという結果となっている。

  • (2) 「コーポレート・ガバナンスと利益調整に関する実証分析」(三谷英貴)

    各経済主体の株式保有という観点からコーポレート・ガバナンスをみると、(i)企業内部関係者による株式の保有(=内部メカニズム{経営陣による株式保有、大株主による株式保有、事業法人による株式保有、ストック・オプション})と、(ii)企業の外部者による株式保有(=外部メカニズム{国内・海外の機関投資家による株式保有、事業法人による株式保有、銀行などの金融機関による株式保有})に分けられる。本論文の目的は、株式保有のメカニズムが、経営者の利益調整に及ぼす影響について分析を行っているが、ここで利益調整とは、(i)企業が悪意のもとに実体を歪めた情報を流すことによって自らを利すること、(ii)株主よりも企業に関する情報をより多く保有している経営者が、企業の内部情報を株主に伝達すること、の二つに分類される。

    計量分析により、1999-2004年までの製造業799社の東証一部上場データを用いて、17業種の推計を行い、その結果から、以下のような点が導き出されている。(i)経営陣による株式保有は利益調整を抑制できないため、コーポレート・ガバナンスにとってマイナスである。(ii)大株主への株式保有の集中は、大株主による監視のインセンティブが高まるので、コーポレート・ガバナンスにとってプラスに働く。(iii)ストック・オプションは利益調整を抑制できないため、コーポレート・ガバナンスにとって有効な手段ではない。(iv)国内運用会社による株式保有と銀行による株式保有は、モニタリングのインセンティブが高まるため利益調整は抑制される。他方、海外機関投資家による株式保有は利益調整を抑制できないため、コーポレート・ガバナンスにとってマイナスに作用する。

  • (3) 「新興市場と新規株式公開を巡る論点整理-内外既存レビューと制度設計への示唆-」(岩井浩一)

    新興市場・新規株式公開を巡るこれまでの論点を整理し、ファイナンス分野の内外の既存の研究を整理している。この分野の大きな流れを知るためには、とても幅広く整理されたサーベイ論文である。

    基本的な分析視点としては、(i)入札方式・ブックビルディング方式等を比較し、過小付け値問題(Under Pricing)を説明し、(ii)中長期的な株価の低迷(Under Performance)、(iii)IPO(新規株式公開)時の価格変動要因の分析、が前半でなされ、後半では、新興市場・新規株式公開に係わる各種の法制度が果たす経済的な機能、制度設計の留意点が整理されている。分析の視点としては、価格決定・割当方式、上場基準・上場手数料、新規公開時の情報開示制度、需給調整制度、売買制度、上場廃止基準などとなっている。

    今後の制度設計として、(i)資金の制約を緩和して資金調達がしやすくなること、(ii)借り手と資金供給者の間に存在する情報の非対称性の緩和、(iii)新興市場に合った売買制度の確立、(iv)引受業者の競争促進によるエージェンシー問題の緩和、(v)投資家の保護、(vi)制裁金を課すことによるインセンティブの付与などを提案している。

<特別研究員論文>

  • (1) 「銀行倒産における国際倒産法的規律」(嶋拓哉)

    リーマンショックによって、再認識されたが、ある国の金融機関が破たんした場合に、クロスボーダーでの取引をどのように扱うかは、大きな課題となった。金融の国際化、クロスボーダー化の中で、銀行倒産手続きを一国の中だけでは捉えることが出来ず、国際的な視点からの倒産法制を研究する必要性が高まっている。

    また、銀行の倒産法制では、当該銀行の破たんが、借り手や預金者に、大きな影響を与えることを考慮し、日米などでは、預金者保護、金融システムの信頼維持・確保も、目的の中に含められている。銀行の倒産の場合は、企業の倒産とは異なり、特殊性、公権的性格も考慮することが必要である。もちろん、銀行破たん処理の手続きは民事的な倒産手続きの側面も有している。我が国では、外国倒産承認援助法による承認事例は、4件のみであり、解釈運用は、今後の具体的事案に委ねられている。今後に想定されるクロスボーダーにおける銀行破たん処理への対処を、しっかりと確立しておくことが重要であると考える。

  • (2) “A Note on Construction of Multiple Swap Curves with and without Collateral”(藤井優成・嶋田康史・高橋明彦)

    リーマンショック以降、取引相手の金融機関の健全性にマーケットが反応する傾向が強まり、担保付きのスワップ取引が増えているが、LIBOR(London Inter Bank Offered Rate)は、将来の期待収益の割引現在価値の計算に用いられており、LIBORが、担保付きか否かによって、異なる割引率を用いなければならない。通貨が異なる債券のスワップ取引ばかりでなく、同じ通貨でのスワップ取引(期間の異なるLIBORを交換する取引)でも、割引率の違いは影響を与える。

    最近では、担保付きによるスワップ取引が拡大してきているが、取引相手の金融機関の健全性に対する不安が払拭されなければ、担保付きの取引は、さらに拡大するものと思われる。担保が付いていれば、明らかに資金調達コストを変化させるため、従来の“LIBOR割引”の計算方法では、担保付きの取引の価格とヘッジコストが適切でないことになる。

    この論文は、担保付きと担保なしのLIBORのそれぞれについて、金利の期間構造を導出する方法を示しており、これは既存のスワップ市場の取引に大きな影響を及ぼしうるものである。

  • (3) 「買収防衛策導入の株価への影響について」(竹村泰・白須洋子・川北英隆)

    日本で買収防衛策が導入されてから、わずか5年しか経過していない。そのきっかけとなったニッポン放送の支配権をめぐる争いであるが、買収防衛策の一つであるライツプラン(差別的な条件を含む新株予約権を利用)は、2008年には500社を超える企業が導入している。本論文では、ライツプラン導入によって、株式市場は、その会社をどのように評価したか、中長期的な影響、予想された買収者の特徴の違いによって、株価にどのような影響を及ぼしたかを実証的に分析することが目的である。

    M&Aが企業価値にもたらす効果は、規模の利益・シナジー効果が得られる反面、買い手企業から売り手企業へと富(Wealth)が移転してしまうデメリットである。また、買収防衛策が企業価値に与える効果は、長期的視点に立った経営が行いやすくなるプラス効果と、経営規律が失われ、本来であれば得られたはずのシナジー効果を失うことになる。本研究は、イベントスタディーではなく、中長期的な期間で、株価にどのような影響を与えるかを考察している。

    実証分析の対象企業としては、素材産業・加工業・非製造業の3つに区分し、金融業は除いている。期間は、2005年から2007年の3年間の四半期データを用い、2008年でのライツプランの導入の有無をダミー変数として用いている。

    得られた結果からは、ライツプランの導入により、株価収益率には有意にマイナスの影響を与えている。これは、ライツプランの導入により、ポートフォリオとしての魅力が失われ、株式購入資金が入らなかったことも原因となっているかもしれない。業種別では、素材産業が有意にマイナスを示しているが、非製造業ではマイナスではあるが有意とはなっていない。

    (i)流動性資産比率、(ii)持ち合い株式比率について見ると、(i)流動性資産比率が低い企業ほど、株価へのマイナスの影響は小さい。これは、フィナンシャルバイヤーからは狙われにくい企業であるからである。(ii)株式持ち合い比率が高い企業は、実質的な防衛策を持っていた企業と見なされるが、ライツプランの導入により、株価へのマイナスの影響度が最も大きくなっている。(i)(ii)より、過度・過剰な防衛策を保有している企業は、株式市場からより厳しい評価を受けていると言える。

  • (4) 「内部格付手法における回収率・期待損失の統計型モデル-実績回収率データを用いたEL・LGD推計-」(三浦翔・山下智志・江口真透)

    貸出のデフォルトの境界を要管理以下の債権と定義し、最終的な回収率を担保、保証の関数としてモデル構築を行っている。デフォルト状態にいたってから回収が完了するまでにはかなりの時間がかかること、さらに、格付けは、時期によって変化するため、格付け推移行列を見ながら、時間の経過とともに、デフォルトの確率を導出している。デフォルトが発生した後、どの程度、回収できるかは、担保カバー率、保証カバー率の関数として導出され、それぞれの比率が高ければ、当然、回収率も高い関係が見られる。年次の格付推移行列から、正常債権に復帰する確率、デフォルトに陥る確率を求める。

  • (5) 「日本企業の負債政策と税制:パネル分析」(國枝繁樹)

    日本企業の負債比率((銀行借入+社債発行)/総資本総額)は、これまでは高いと特徴づけられていた。しかし、最近の状況は、必ずしも、諸外国と比較して日本企業の負債比率が高いとは言えなくなっている。1960-70年代には、企業の設備投資は旺盛で、銀行借入によって賄っていたが、その後、株式市場からの資金調達も増加し、最近では、60%台となっている。国際比較でみると、今では、米国企業の方が負債比率が高くなっている。

    現代コーポレート・ファイナンス理論においては、負債政策の決定に関し、いくつかの理論が存在する。法人税を考慮に入れれば、MM理論は成立せず、企業による借入の利子支払いは節税効果を持つため、負債比率が高い方が、企業価値を高めることになる。よって、法人税の限界税率が高まれば、負債比率を高くした方が有利になる。

    これに対して、Pecking Order仮説からは、企業が資本調達をする際には、優先順位があり、(i)内部留保、(ii)負債調達(銀行借入+社債発行)、(iii)新株の発行の順番となる。

    実証分析では、限界税率の変化が、企業の負債構成にどのような影響を与えているかを実証している。2004-2006年のデータを使用、負債比率の変化を従属変数とし、説明変数として、(i)限界税率、(ii)倒産確率、(iii)減価償却、(iv)総資産利益率、(v)企業規模などの変数を用いた、パネル分析を行っている。限界税率については、Shevlin(1990)及びGraham(1996)に基づき、企業ごとの課税所得の予測をシミュレーションし、モンテカルロ法を用いて、限界税率を推計している。

    限界税率の係数は、時点効果のみを入れた固定効果モデルでは「負」となっており、日本企業の負債政策に影響を及ぼしたことを示唆している。このことから、企業税制を考える際には、負債調達と株式調達に関して、資本の税制上の取扱いを、同一とすることが望ましいという結論が得られている。

  • (6) 「中小企業のデフォルトリスクとその期間構造:大規模財務データによる実証分析」(藤井眞理子・竹本遼太)

    CRD(Credit Risk Database,中小企業信用リスク情報データベース)を利用して、中小企業の(1年後、2年後、3年後)倒産確率を予測する変数について、2001年から2006年の、4業種(製造業・卸売業・小売業・サービス業)に属する、売上高5億円以上の企業を対象とした(小規模企業のデータは除く)決算書データ(142,823社)を用いて、計量的に分析している。5つの財務比率変数、(i)収益性(経常利益/総資産)、(ii)安全性(総負債/総資産)、(iii)流動性(現預金/総資産)、(iv)カバレッジ(売上総利益/支払利息)、(v)活動性(棚卸資産/売上高)を説明変数として用いている。ロジスティック関数を用いた推計からは、製造業では、すべての説明変数が有意であるが、予測期間が長くなるにつれて、流動性・カバレッジの有意性は低下するのに対して、安全性の有意性は、予測期間が長くなるほど、上昇している。

  • (7) 「海外における金融規制に関する政策評価の動向-英国・EUの政策評価の現状とわが国への課題-」(杉浦宣彦・近藤哲夫)

    近年、わが国では、政策評価を行うことが義務付けられている。しかし、金融規制については、インフラのような料金収入、道路の自動車の利用台数が正確に分かる訳ではなく、政策の評価は、難しい。本論文では、EUや英国の事例を参考に、金融規制に関する評価が、実際にどのように行われているのか、規制の影響評価の改善がどのようになされているかについて調査を行った。

    政策の評価では、(i)社会的な影響、(ii)経済的な影響、(iii)環境的な影響、と幅広い包括的な項目が評価対象となっている。また、政策決定者が、政策を策定する際に、トレードオフを検討し、異なるシナリオと比較することを可能としている。さらに、外部の利害関係者に対して、政策決定プロセスを、よりオープンで透明なものとすることで、外部とのコミュニケーションを活性化することにも役立っている。

    規制の政策評価は、さまざまな面があり、また、どの国民視点に立つか、すなわち、利用者の立場か、供給者(金融機関)の立場か、金融市場という仲介の視点か、によって、評価が分かれることも多い。

※ また、このほか、金融研究研修センターにおいて開催した2つの研究会及び国際コンファレンスの概要を掲載し、センターでの2009年度の主な活動内容をまとめております。詳しくは、金融研究研修センターウェブサイトのFSAリサーチ・レビュー第6号(平成22年(2010年)3月発行)にアクセスしてください。


平成22年度証券検査基本方針及び証券検査基本計画の策定・公表について

証券取引等監視委員会(以下、「証券監視委」)は、4月6日、「平成22年度証券検査基本方針及び証券検査基本計画」を策定・公表しました。

証券監視委及び財務局長等は、証券検査を計画的に管理・実施するため、毎年度、証券検査基本方針(以下、「基本方針」)及び証券検査基本計画(以下、「基本計画」)を定めています。本年度の基本方針の内容は、以下のとおりです。

  • 近年、証券検査は、累次の制度改正に伴う対象業者の拡大・増加、世界的金融危機の経験及びITシステムの金融商品取引への浸透といった大きな環境変化に直面しています。

  • こうした変化に対応するため、まず、効率的かつ効果的な検査実施に向け、リスク・ベースの検査計画、予告検査の導入、監督部局等との連携強化、検査マニュアルの策定・見直し等の諸策を推進します。また、市場において重要な地位を占める金融商品取引業者については、経営危機を予防する観点からのリスク管理態勢の適切性の検証にもウエイトを置く方針です。さらに、ITシステムの信頼性確保の観点から、金融商品取引業者のシステムリスク管理態勢の適切性の検証にも注力します。

  • こうした環境変化への対応とともに、最近の検査結果も踏まえ、引き続き投資者保護の観点から、投資勧誘や顧客対応等の状況、デリバティブ等の複雑な仕組みの商品に係るリスクの説明状況等を検証します。また、重大な法令違反が多数発覚しているファンド業者の検査に引き続き注力し、無登録業者の関与等が認められた場合には、捜査当局等と連携の上対応します。さらに、金融商品取引業者の顧客管理態勢や売買審査態勢、法人関係情報の管理態勢等、ゲートキーパーとしての機能発揮の状況についても引き続き検証します。

基本計画については、本年度から、新たに計画の策定に関する基本的な考え方と、財務局等監視官部門との一体的な検査への取り組みについて新たに示すこととしました。なお、本年度の基本計画は以下のとおりです。

第一種金融商品取引業者(登録金融機関を含む)
及び投資運用業者
150社
(うち財務局等が行うもの110社)
投資助言・代理業者、第二種金融商品取引業者、
金融商品仲介業者等
随時実施
自主規制機関 必要に応じて実施
(注)上記の検査計画数は、期中の計画の見直し、特別検査の実施等により変更があり得る。

証券監視委は、基本方針及び基本計画に則し、証券検査を実施することにより、引き続き市場の公正性・透明性の確保及び投資者保護に努めます。

※ 詳しくは、証券取引等監視委員会ウェブサイトから平成22年度証券検査基本方針及び証券検査基本計画について(平成22年4月6日)にアクセスしてください。


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