アクセスFSA 第214号

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第5回 霞が関ダイアログの開催について

 本年5月19日、地域課題解決支援チーム※1は、霞が関の公務員(中央省庁の担当者)が担当する施策を、地域の金融機関や自治体の問題意識を有する熱意ある職員向けに直接発信する「霞が関ダイアログ」をオンラインで開催し、約130名の金融機関・自治体の職員等の参加を得ました。

 霞が関ダイアログでは、中央省庁の担当者が、それぞれ担当する施策を一方的に紹介するだけでなく、地域の現場の金融機関・自治体の有志に、霞が関との対話を通じて施策への理解をより深めていただく場として、開催してきました。

霞が関ダイアログの様子
写真:霞が関ダイアログの様子

 5回目となる今回も、前回に続いて赤澤亮正内閣府副大臣(金融担当)が、公務終了後に参加し、地域におけるネットワークの価値を訴えたうえで、新型コロナに公務員と金融機関が一体となって取り組むよう、参加者に対してエールを送りました。

 事前のアンケートでどのような施策の情報を聞きたいかアンケートを行ったところ、地域活性化や事業者支援に資するものとの声が多かったことから、今回は、中小企業庁「事業再構築補助金」、観光庁「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進事業」、環境省「ESG地域金融促進事業」について担当者を招きました。各施策を紹介した後、地域からの参加者には、興味を持った施策についてのグループセッションに参加してもらい、さらに内容を深掘りしてもらいました。

霞が関ダイアログの様子
写真:参加者に対し挨拶をする赤澤副大臣

 これまで開催した霞が関ダイアログを契機として、それぞれの地域で新たな展開につながったケースも生まれています。ダイアログに参加したある金融機関が「中小企業デジタル化応援隊事業」を取引先の事業者に活用してもらおうと説明会を開催したほか、別の地域金融機関では、「低密度な農山漁村の持続可能性確保を実現する次世代型コミュニティビジネスの展開事業」を活かして地域の活性化に取り組もうとしています。

 地域課題解決支援チームでは、地域の関係者をつなげる等、地域の課題解決を目指すネットワーク構築を支援し、地域課題についての関係者間の議論の場への参加や国の施策等の地域への情報発信等を通じて、地域経済エコシステムの形成を後押ししていきます。

 霞が関ダイアログ以外にも、直近では、5月23日に開催された地域活性学会※2東日本大震災後10年特別大会において、大学機関と公務員、金融機関が交流する場「ちいきん会ダイアログin地域活性学会」を開催したほか、鳥取県内の自治体や金融機関等の関係者が産学官金連携促進を目的に立ち上げた「ちいきん会Tottori」※3(6月11日開催)に参加するなど、活動の場を広げています。


※1 金融庁職員も現場で一緒に考えます「地域課題解決支援チーム」:
   https://www.fsa.go.jp/policy/chiikikadaikaiketsushien-team/chiiki-kadai-top.html

※2 地域活性学会:https://www.chiiki-kassei.com新しいウィンドウで開きます

※3 「ちいきん会-Tottori-」の詳細は以下のリンクからご覧ください。
  https://www.chihousousei-hiroba.jp/bbs/detail.php?ymd=20210525&cd=2新しいウィンドウで開きます


「IFIARシンポジウム 高品質な監査の実現に向けて
-ニューノーマルを見据えた監査のあり方-」の開催について

 日本監査研究学会・日本公認会計士協会主催の「IFIARシンポジウム 高品質な監査の実現に向けて -ニューノーマルを見据えた監査のあり方-」が開催され、油布審議官、井上参事官、長岡参事官が講演を行いました。本シンポジウムは、本年5月より、IFIARネットワーク会員(注)向けにオンデマンドで配信が開始されました。本稿では、シンポジウムの概要と講演の模様についてご紹介致します。

(注)IFIARネットワーク:我が国で活動する会計監査に関連する多様なステークホルダーのネットワークの構築や、我が国に設置されたIFIAR事務局の活動の支援等を目的として2016年12月に設立。会計監査・税務や経済界、金融資本市場等の関係団体により構成。

1.IFIARシンポジウムの概要

 本シンポジウムでは、ニューノーマルを見据えた高品質な監査の実現について多様な関係者で議論を行いました。監査の品質向上及び高品質な財務報告の実現には、監査人だけでなく、企業、投資家、市場関係者、規制機関等の様々なステークホルダーが各々の役割を果たし、積極的に関与することが必要です。このため、新型コロナウィルス感染症の影響により環境が変化する中でも、監査品質、及びステークホルダーの取組の向上を目指すべく、学究、実務、行政等にわたる各分野の有識者で議論を行いました。

2.基調講演:IFIARにおける議論の動向

 基調講演として、IFIAR議長 Duane M.DesParte氏とIFIAR副議長 長岡参事官が対談を行い、IFIARの使命(グローバルな監査監督の強化により、投資家を含む公益に資すること)達成を目指して、メンバー当局の監督能力の向上に向けた支援、グローバルネットワーク等の関係者との継続的な対話、監査監督当局のコミュニティとしての影響力の強化等に注力していることや、そのためのIFIARの取組等について紹介しました。

Duane氏、長岡参事官とも、撮影後にIFIAR正副議長に就任
(注:Duane氏、長岡参事官とも、撮影後にIFIAR正副議長に就任)

3.パネルセッション①:高品質な監査に向けた取組

 本セッションでは、国際動向を踏まえながら、監査を巡る課題、将来的な監査の在り方等について、各分野の有識者からプレゼンが行われました。井上参事官からは、IFIARの活動に加え、新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応、コーポレートガバナンス改革等の国内での取組について説明しました。

井上参事官
 

4.パネルセッション②:高品質な監査と財務報告の信頼性向上に向けた取組

 本セッションでは、高品質な監査及び財務報告に資する「財務報告エコシステム」について各分野の有識者で議論を行いました。油布審議官からは、不適切会計と監査人の役割、新型コロナウィルス感染症対応を踏まえたニューノーマルへの見解について説明しました。

油布審議官

「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」の策定について

総合政策局総合政策課 課長補佐 小崎 亜依子

(※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。)

 金融庁・経済産業省・環境省は、「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」(座長:伊藤邦雄一橋大学CFO教育センター長)を開催し、2021年1月より、トランジション・ファイナンスを実施する際の手引きとして「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」の策定に向けた議論を行ってきました。この度、パブコメを経て、本年5月7日に「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を公表しました。本指針策定の背景および主な内容をご紹介します。

1.基本指針策定の背景

 気候変動問題の顕在化を背景に、昨今、気候変動問題への関心が世界的に急速に高まっています。我が国においても、産業界や金融界の課題解決に向けた取組みが進展しており、そうした中、昨年10月に菅総理は国内の温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)とする方針を表明しました。

 カーボンニュートラルへの道のりは平たんではなく、実現のためには、産業構造や経済社会の大胆な変革が必要です。新たな産業を育成すると同時に、既存の温室効果ガス多排出産業の脱炭素に向けた移行を促す必要があり、産業の取組みに加えて、それを後押しする金融の役割も重要になります。2019年に閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」でも、「グリーン・ファイナンスの推進」が大きな柱として掲げられており、気候変動問題解決における金融の役割の重要性が伺えます。

 多排出産業を含むあらゆる産業の着実な脱炭素化に向けた取組みを評価し、資金供給することを「トランジション・ファイナンス」と言います。特に多排出産業においては、一足飛びのカーボンニュートラルの実現は難しく、ネガティブな影響を抑えつつ、段階を経て移行していく必要があります。日本は製造業の比率が諸外国に比べて相対的に高く、うち鉄鋼や化学などの多排出産業も含む素材系は3割近くにのぼるため、トランジション・ファイナンスの果たす役割は重要です。本指針は、トランジション・ファイナンスを健全な形で促進し、脱炭素化に向けた移行の取組みに十分な資金が供給されることを目的としています。

2.基本指針の内容

 基本指針の特徴として、脱炭素化に向けた目標設定、戦略を重視していることが挙げられます。図1でいえば、頂上に登るという確固たる目標設定および、そこに至るまでの現実的な戦略を持つことを促すものの、登山の過程は各人の状況に応じて多種多様であるというようなイメージです。

<図1>

図1

 基本指針は、2020年12月9日に国際資本市場協会 ICMA(International Capital Market Association)が公表した「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」と整合しつつ、資金調達者、資金供給者、その他市場関係者が具体的な対応を検討する際に参考となる内容を含んでいます。

 具体的には、ICMAのハンドブックにおいて資金調達者が開示することが推奨されている4要素およびそれぞれに対する具体的な対応方法です。各要素における主なポイントを図2に示しています。これら4要素を満たし、「資金使途を特定したボンド/ローン」、または、「トランジション戦略に沿った目標設定を行い、その達成に応じて借り入れ条件等が変動する資金使途不特定のボンド/ローン」のいずれかの形式による資金調達を、本指針ではトランジション・ファイナンスと定義しています。

<図2>

図1

 基本指針の記載内容は、「トランジション」というラベルを付与する金融商品として備えることを期待する基本的な事項(「べきである」)、満たしていなくても問題はないが採用することを推奨する事項(「望ましい」)、満たしていなくても問題はないが例示、解釈等を示した事項(「考えられる」または「可能である」)、のいずれを意味するのかがわかるような記載にしています。検討会では幅広い議論が行われましたが、特に議論になったのは、温室効果ガス削減目標にScope3までを含めることを「べきである」とするかどうか、という点でした。Scope1とは事業者が直接排出、Scope2は購入電気使用などを通じて間接的に排出、 Scope3は原材料の調達、従業員の出張、投融資などScope2を除く、その他の排出量のことを言います。最近の欧州を中心とする議論では、目標設定や排出量の削減はScope3まで含めることが望ましいとされているものの、Scope3までを含めた目標設定を「べきである」とすることは、発行体に負荷が大きいのではという指摘も複数ありました。しかし、最終的には、世界的な標準に準拠することで信頼を得ることが重要であることから、「べきである」で合意しました。

3.信頼性の確保に向けて

 トランジション・ファイナンスが健全な形で発展していくために最も重要なことは、信頼性を確保することです。図1でいえば、信頼性が確保されている状態とは、皆が本気で登頂を目指し、その戦略は現実的であり、頂上に向けた歩みを着実に進めている状態のことを言います。信頼性を確保する上で重要なことは2点あります。

 1点目は、良質な事例を積み重ねることです。今後、本基本指針を参照した事例が積み重なることで、何がトランジション・ファイナンスなのかがより明確になっていくはずです。資金調達者はよりチャレンジングな挑戦に挑み、資金供給者はそれを良い形で支援するといった、お互いが妥協することなく高め合うような関係構築が必要となります。さらに、外部評価を担うESG評価機関や、建設的な批判を行うNGOの役割も重要となります。

 2点目は、分野別ロードマップです。指針の要素3「科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略(目標と経路を含む)」の箇所で、参照できるベンチマークとして分野別のロードマップを挙げましたが、この分野別ロードマップは、今後政府において策定される予定です。このロードマップは、今後多排出企業のトランジション・ファイナンスにおいて参照されていくと考えられるため、国際的にも賛同を得られるようなものにしていく必要があります。

 資金調達者、資金供給者、ESG評価機関、NGO、政府関係者、それぞれが緊張感をもって自らの役割を果たすことで、トランジション・ファイナンスが健全な形で発展し、皆が頂上に登ることが出来るのです。


 本年5月7日公表、「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」の確定について:https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210507_2.html


事業者支援ノウハウ共有サイト本格稼働に伴う
参加機関・職員の公募(一次追加登録)について

監督局銀行第二課地域金融企画室  地域生産性向上支援専門官 若尾 仁 
課長補佐 渡辺 茂紀
地域生産性向上支援調査官 川口 英輔

(※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。)  

 金融庁では、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が運営する『地方創生カレッジ』内に地域金融機関及び信用保証協会職員専用の事業者支援ノウハウ共有サイトを創設するため、本年1月22日よりトライアル運用を開始(45機関122名の参加)し、期間終了(3月31日)までに活発な投稿が寄せられました。

 トライアル運用に参加いただいた職員の方々からは、地域・業態・組織を超えたやり取りがなされたことが有用であったとの声が寄せられましたが、サイトの利便性向上、参加者が急増することで却って安心してやり取りしづらくなるとの課題の声も寄せられました。

 トライアル運用に参加いただいた方々の声も踏まえて、

●サイトの改良を行った上で4月中に本格稼働を開始すると共に、

●参加者を段階的に増やしていくため、一次追加募集として新たにサイトに参加する機関・職員を公募しました。

◆施策概要

 令和2事務年度 金融行政方針で、「金融機関の現場職員の間で、地域・組織を超えて事業者支援のノウハウを共有する等の取組みを支援していく」旨、明記しました。

 新型コロナウイルス感染症の影響を受けられた事業者の方々に対しては、これまで官民の金融機関において、様々に資金繰り支援を進めてこられました。今後は、こうした資金繰り支援だけではなく、ウィズコロナ・ポストコロナを見据えて、経営改善や事業再生、事業転換、事業承継といった支援も進めていくことが、金融機関の現場職員に期待されています。  

 しかし、このコロナ禍において、こうした事業者支援を進めるうえで金融機関の現場職員が必要とされる実践的なノウハウ・知見は、業界団体や各金融機関ごとの研修等を通じて、じっくり広めていくだけでは、必ずしも足らない・間に合わないといった声もあります。

 そこで、現場職員の間で、地域や組織を超えた、実践的な事業者支援のためのノウハウ・知見を共有する「共助」の動きが進むことを目指し、以下に取り組むこととしています。

① 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部と連携して、Web上に金融機関専用の事業者支援ノウハウ共有サイトを創設する

② 各地域内ですでに始まりつつある事業者支援等のノウハウ共有の取組みを後押しする

 このうち、①ノウハウ共有サイト創設に先立ち、活発なやり取りに繋がるようにサイトの使い勝手を点検するため、トライアル期間を設けました。

図1

 トライアル期間中には、地域・業態・組織を超えた意見交換が行われました。

 具体的には、コロナ禍における

●小規模事業者の売上回復に関する質問について、業種に応じた検討の目線について回答するものや、

●制度融資や条件変更への対応に関する質問について、検討項目の優先順位について回答するもの、

等、参加者の方々が向き合う具体的な事業者支援の課題について、意見交換が行われました。

 事業者支援に取り組んでおり解決したい具体的な課題を有する若手の職員と、知見・ノウハウを有する職員が、実名で意見を交換することで、事業者支援を実践していく人的つながり(ネットワーク)が構築されつつあります。

 こうしたネットワークを維持・発展させる観点から、参加者を段階的に増やして行くこととしました。

 具体的には、一次追加登録後の運用では、トライアル運用時の倍程度、参加者300名程度を上限としたいと考えており、また、まずはサイトの様子を見てから参加を決めたいとの声を踏まえ、新たに閲覧専用の枠組みも用意しました。


図1

 今後は、二次追加登録を夏頃にも予定しております。

 金融庁では、コロナ後の新たな日常を踏まえた経済の力強い回復に向け、金融機関の現場職員の方々と共に、この「共助」の仕組みを通じて、コロナ禍で打撃を受けた中小・小規模企業の経営改善・事業再生・事業転換支援といった金融仲介機能の一層の発揮・強化を後押ししてまいります。

 また、地域金融機関が取引先の事業者の支援を行っていく前提となる営業現場の業務において、新型コロナウイルス感染症の影響による新たな日常への適応と生産性向上等を進める観点から、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の一部改正を行いました。

 具体的には、

① 金融仲介機能の発揮に関して、組織・地域を超えて他の金融機関職員等との間で知見・ノウハウを共有することも、営業職員の能力向上等の一つの方策になりうること

② ITガバナンスに関して、ニューノーマルの下では、地域金融機関においても、金融機関内や顧客等との連絡手段として電子メール等の情報通信基盤の整備が不可欠になること

を、規定するものです。

 なお、②情報通信の手段については、顧客のニーズ、金融機関の規模・特性等に応じて整備されるべきであり、具体的な手段については各金融機関において判断されるべきものと考えます。今回の指針改正は、「職員一人ひとりにインターネット接続端末を貸与して電子メールアドレスを付与すること」を一律に求めるものではありません。

 各金融機関の取引先においても、新型コロナウイルス感染症も受けて、対面や電話、FAXだけでなく、電子的にアポイントの調整や書類をやり取りするニーズが高まっているのではないかと考えています。情報セキュリティ・サイバーセキュリティの重要性は言うまでもなく、職員が、管理部門の許可がない端末やネットワーク回線を利用する「シャドーIT」による情報漏えい等のおそれにも留意が必要です。

 地域金融機関の方々には、引き続き、顧客のニーズを踏まえたICT環境の整備に期待をしています。


 本年4月30日公表、「『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』の一部改正に関するパブリックコメントの結果等について」:https://www.fsa.go.jp/news/r2/ginkou/20210430-2/20210430-2.html


金融事業者における顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着に向けた取組みについて

総合政策局リスク分析総括課コンダクト企画室 課長補佐 山﨑 かおり
係長   城戸 寛也 

(※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。)

 金融庁は本年4月12日、「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下、「原則」)に基づく金融事業者の取組みの「見える化」を一層進める観点から、「金融事業者における顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着に向けた取組みについて」※1を公表しました。本稿では、その背景や狙いについて解説します。

1.背景

 「原則」は、平成29年3月の策定・公表から4年が経過しました(本年1月15日改訂)。この間、金融庁では、金融事業者による顧客本位の業務運営の取組みを「見える化」することにより、国民の安定的な資産形成を後押しする観点から、「原則」を採択した事業者に対し、取組方針や取組状況(自主的なKPIや共通KPI等)の策定・公表を求め、金融事業者による公表状況を、「「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択し、 取組方針・自主的なKPI・共通KPIを公表した金融事業者のリスト」(以下、「金融事業者リスト」)として金融庁ウェブサイト上で定期的に公表してきました。

 令和2年12月末時点で、「原則」を採択し取組方針を公表した金融事業者は2,098社にのぼり、うち1,238社が「自主的なKPI」を、534社が「共通KPI」を公表するに至っています。

 こうした中、「金融審議会市場ワーキング・グループ報告書-顧客本位の業務運営の進展に向けて-」※2では、金融事業者による顧客本位の業務運営の取組みの「見える化」について、「原則」を採択した金融事業者の取組方針や自主的なKPI・共通KPIの定期的な公表を通じて、金融事業者の取組みの「見える化」の促進が図られてきたとする一方、取組方針として「原則」の文言を若干変えた程度の内容を策定・公表している金融事業者が散見されるほか、各原則の中で実施しない項目があるにもかかわらず、その理由や代替策の説明はほとんどなされていない点が指摘されました。

 その上で、同報告書では、①「原則」を採択する金融事業者に対し、原則2~7(これらに付された(注)を含む。以下同じ)に示されている内容毎に、実施する場合にはその対応方針を、実施しない場合にはその理由や代替策を、自らの取組方針に分かりやすい表現で盛り込むこと、また、取組方針及びこれに係る取組状況を公表する際には、原則2~7に示された項目毎に実施の有無を検証し、その内容が分かるように明示すること、②金融庁に対し、「原則」採択事業者のリストを公表する際には、各金融事業者の「原則」の取組方針やこれに係る取組状況を項目毎に比較できるようにすること、さらに、金融事業者による好事例と不芳事例を比較分析し、ホームページなどを積極的に活用して、顧客にとって分かりやすい情報発信を行うこと、が提言されました。

2.公表の概要

 本年4月12日、金融庁は上述の提言等を踏まえ、「金融事業者における顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着に向けた取組みについて」を公表しました。

(1)金融庁への報告

 平成29年の「原則」の策定・公表以降、金融庁は、「原則」を採択し、「金融事業者リスト」への掲載を希望する金融事業者に対し、取組方針等の公表状況について報告を求めてきましたが、今般、その報告様式を拡充し、新たに取組方針等と原則2~7の対応関係等について、報告を求めることとしました。

(2)「金融事業者リスト」公表の考え方

 金融庁においては、金融事業者からの報告内容を確認し、原則2~7に示されている内容毎に、対応した形で取組方針等を明確に示していることが確認できた金融事業者のみ、「金融事業者リスト」に掲載していくこととしました(初回の報告期限は本年6月末)。

(3)「顧客本位の業務運営の取組方針等に係る金融庁における好事例分析に当たってのポイント」

 「ポイント」は、これまでに金融事業者が公表している取組方針等に基づく金融事業者との対話等を踏まえ、今後、金融庁において好事例の比較分析を行う際に、分析のポイントと考えられる事項をまとめたものであり、金融事業者における取組方針等の検討にも資すると考えられることから、公表しました。

(図表:「ポイント」の概要)
原則 ポイント
原則2
【顧客の最善の利益の追求】
・「顧客の最善の利益」の実現状況を確認するための指標が示されている。
・ 当該指標の前提となる「顧客の最善の利益」の考え方が具体的に示されている。
原則3
【利益相反の適切な管理】
・ 金融商品の顧客への販売・推奨等の局面を含め、当該利益相反を管理するための対応方針が具体的に示されている。
原則4
【手数料等の明確化】
・取扱いのある金融商品・サービスのうち、顧客に対し、手数料その他の費用の詳細を示しているものが、具体的に示されている。
原則5
【重要な情報の分かりやすい提供】
・「重要な情報」の顧客への提供に際し、用いる資料や説明方法が具体的に示されている。
原則6
【顧客にふさわしいサービスの提供】
・顧客にふさわしい金融商品・サービスを提供する観点から、商品ラインアップの整備の考え方が具体的に示されている。
・ 販売対象として想定する顧客属性を特定・公表するにあたり、その考え方を具体化した基準を用意し、一貫性をもって想定する顧客属性を特定・公表できる仕組みが示されている。
原則7
【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】
・営業店の業績評価体系や営業員の人事評価体系について、顧客本位の業務運営を実現する観点から、具体的な取組が示されている。

3.今般の取組みの狙い

 今般の取組みの狙いは、「原則」採択事業者が、「原則」の各項目に関して、今後追求していくビジネスモデルや営業現場の実際の状況も踏まえて、どのような取組みを行っていくか/行わないのかを改めて検討するとともに、その内容を取組方針等として顧客に具体的かつ分かりやすく情報発信するよう促すことにあります。これにより、当該金融事業者の顧客本位の業務運営に関する取組みの「見える化」を促進し、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムの実現の後押しをすると共に、本部-営業現場-顧客の間で当該事業者の具体的な取組みに対する共通理解を醸成することで、営業現場において顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着が進むことを期待しています。

 「金融事業者リスト」掲載希望事業者の当庁への報告期限(初回)は本年6月末に設定しているものの、上記の観点から、各金融事業者においては、期限に間に合わせることを目的化することなく、今一度、取組方針等の内容とその発信のあり方を確りと見直す機会としていただきたいと考えています(報告期限は年に数回設ける予定です)。

 利用者の皆様におかれましては、取引コストやアクセスの容易さ等のみならず、金融事業者の取組方針等において、金融事業者が利用者の皆様の資産形成のために、具体的にどのような形で金融商品・サービスを提供しようとしているのかといった点もご覧いただくことで、金融事業者を選択する際の参考にしていただきたいと考えています。今後、金融庁においては、本年6月末までの金融事業者からの報告内容に基づき、各金融事業者の取組方針等を項目毎に比較できる形の「金融事業者リスト」を作成し、8月以降に公表する予定ですので、こちらも併せてご参考ください。

 金融庁は国民の皆様の安定的な資産形成を後押しするため、引き続き金融事業者における顧客本位の業務運営の浸透・定着に向けた取組みを進めてまいります。


※1 本年4月12日公表、「金融事業者における顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着に向けた取組みについて」: https://www.fsa.go.jp/news/r2/kokyakuhoni/202104/fd_2021.html

※2 令和2年8月5日公表、「金融審議会市場ワーキング・グループ報告書-顧客本位の業務運営の進展に向けて-」:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20200805/houkoku.pdf


金融庁・JPX共催セミナー
「TCFD開示とトランジション・ファイナンス
-2050年カーボンニュートラルに向けて-」の開催について

 本年4月28日、金融庁は、日本取引所(JPX)グループとの共催で、オンラインセミナー「TCFD開示とトランジション・ファイナンス-2050年カーボンニュートラルに向けて-」を開催しました。

 TCFDとは、金融安定理事会(FSB)が2015年に設立した気候関連財務情報開示タスクフォースの略称で、気候変動が企業財務にもたらすリスクと機会を、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4項目から成るフレームワークに基づき開示することを推奨しています。

 金融庁では、TCFD開示に対する企業や投資家の理解を促すべく、JPXと協力し2019年より継続して関連イベント開催してまいりました。3回目となる今回は初のオンライン形式での実施となりましたが、当日は企業のサステナビリティ担当者を中心とした約800名の方々にご視聴いただきました。

 本稿では、当セミナーの模様を簡単に紹介いたします。

1.パネルディスカッション:3省庁鼎談 カーボンニュートラルに向けたTCFD開示とトランジション・ファイナンスの意義

最初のパネルディスカッションでは、BofA証券の林 礼子様にモデレーターを務めていただき、経済産業省・金融庁・環境省の実務担当者が、TCFD開示とトランジション・ファイナンスをテーマに議論しました。

 冒頭に各省庁の関連する取組みをご紹介いただいた後、3省庁が協働でトランジション・ファイナンス等の検討を進める※1意義や、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた今後の課題等について、忌憚のない意見を伺うことができました。

 どの担当者にも共通した思いとして挙げられたのは、各省庁が持つ異なる視点や専門性を尊重しつつ共通目標に向けて連携する重要性、また、不確実性の高い気候変動問題に対して唯一の正解を求めるのではなく、企業や業種の特性に応じて戦略的に対応していく必要性でした。そうして積み重ねたベストプラクティスを国内外に展開させていくことで、地域社会や個人も含めた裾野の拡大、ひいては、脱炭素に向けた各国の「大競争時代」において日本のリーダーシップを発揮していくことにつながるといった意見も聞かれました。

2.講演:JPX ESG Knowledge Hubの活動と今後の展開

 次は、JPXの鳥居 夏帆様より、昨年11月に開設された「JPX ESG Knowledge Hub」についてご紹介いただきました。当サイトでは、上場会社のESG情報開示をサポートするべく、「ESG情報開示実践セミナー」といった解説動画や、各社の開示事例を公開しております。本セミナーの動画やプレゼン資料も「関連セミナー※2」のコーナーにて配信しておりますので、ご関心のある方はぜひご覧ください。


JPX ESG Knowledge Hubイメージ

3.パネルディスカッション:トランジションを測る指標(KPIs)を巡るTCFDでの議論の進展

 最後は、当庁の池田 賢志リードのもと、4名の有識者に方々にご参加いただき、TCFD開示のうち「戦略」と「指標と目標」に焦点を当てたパネルディスカッションを行いました。

 初めに、CDPジャパンの高瀬 香絵様より、CDPの活動やSBT※3イニシアティブを巡る動向等について、引き続いて、TCFDメンバーでもある東京海上ホールディングスの長村 政明様と三菱商事の藤村 武宏様より、TCFD内の最新の議論についてご紹介いただき、合理性のある指標・目標や財務的インパクトと紐づいた戦略の開示が求められている現状について議論しました。

 次に、電力中央研究所の富田 基史様より、金融機関のスコープ3※4の把握に関する動向についてご解説いただきました。スコープ3の報告を求める国際的な流れが加速する一方、スコープ3は他社との比較よりも自社の実態把握を目的としているといった視点も共有されました。

 登壇者共通のメッセージとしては、こうした開示の取組みは、強いられてやるものではなく、自社の課題や強みを把握する機会として前向きに取り組んでほしいとの意見を発信いただきました。

モデレーターを務める池田チーフ・ サステナブルファイナンスオフィサー
画像:モデレーターを務める池田 チーフ・サステナブルファイナンスオフィサー

※1 経済産業省・金融庁・環境省は、本年1月より「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」を共催しており、5月7日には、検討会内での議論を取りまとめた「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を公表した。(https://www.fsa.go.jp/singi/transition_finance/index.html

※2 JPX ESG Knowledge Hub:関連セミナーhttps://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/esg-seminar/index.html新しいウィンドウで開きます

※3  Science Based Targetsの略で、パリ協定の目標水準の実現に向けた、最新の科学と整合した企業の温室効果ガスの排出削減目標のこと。

※4 企業の事業活動に関連して発生した温室効果ガス排出量のうち、自社が排出する直接排出量(スコープ1)及び他社から供給された電気等の使用に伴う間接排出量(スコープ2)以外の間接排出量を指し、金融機関にとっては、投融資先のスコープ1~3も対象となる。


女性職員活躍と職員のワークライフバランス推進のための
取組計画の策定・公表について

 令和3年1月29日に開催された政府の女性職員活躍・ワークライフバランス推進協議会において、「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」(以下「取組指針」)が5年振りに改正されました。

 取組指針では、将来にわたる公務のサステナビリティを確保し、政策や行政サービスの質の維持・向上を図るとともに、性別や年代、時間制約の有無等を問わず全ての職員が、いかなる環境下においても、責任と誇りを持って生き生きと働ける職場作りに取り組むこととされており、各府省等において取組指針に基づき、ワークライフバランス推進のための働き方改革と、女性の活躍推進のための改革を実行するための取組計画を策定することとされています。

 これを踏まえ、今般、金融庁として、令和3年度から令和7年度末までを対象期間とする「女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」(以下「取組計画」)を策定・公表しました。取組計画では、業務の見直しや効率化、デジタル化の推進、及びマネジメント改革を働き方改革の主軸に据えることにより、長時間労働の是正、働く場所や時間の柔軟化による効率的な業務遂行を可能にするとともに、あらゆる職員が最大限に能力を発揮し、充実感のある仕事と生活を両立できるよう、真のワークライフバランスを実現していくための取組や、誰もが性別を意識することなく活躍できるよう、働き方改革を不可欠なものとして、女性の採用・登用の拡大や計画的育成等の女性活躍を実現していくための取組を掲げています。

 例えば、金融庁においては、全職員が職員PCの持ち帰りによりテレワークが実施できる環境を整備しているほか、全職員が一斉にテレワークを実施することが可能な回線容量も整備していることに加え、庁外の利用者も参加可能なウェブ会議機能やBYOD(Bring Your Own Device)の導入や軽量パソコンへの置換など、テレワーク環境の改善を進めているところですが、今後も更なる改善を推進していくこととしています。また、配偶者の地方転勤への同行又は地方在住の親の介護のため、職員が一時的に遠隔地に転居することを希望する場合への対応として、転居先の自宅から金融庁の業務をテレワークで行う取組や、保育施設との関係等により、本人の希望によらず職場への復帰が困難な場合に、テレワークのみで対応できる業務に配属すること等により、早期復帰が可能となるよう配慮する等のテレワークを活用した新しい働き方の推進に取り組んでいくこととしています。

 金融庁では、取組計画に掲げた施策について、職員一人ひとりがワークライフバランス推進と女性活躍の重要性を理解し、着実に実行していきます。

取組計画(概要)

 令和3年4月23日公表、「金融庁 女性職員活躍と職員のワークライフバランス推進のための取組計画」について:https://www.fsa.go.jp/common/about/sonota/woman_wlb.html


先月の金融庁の主な取組み(2021年5月6日~5月31日)

クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針に対するパブリックコメントの結果等について(5月7日)
「金融所得課税の一体化に関する研究会」を設置(令和3年5月7日)
金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第9回)を開催(5月7日)
「重要情報シート」を作成・活用する際の手引きについて(5月12日)
緊急事態宣言の延長等を踏まえた資金繰り支援等について金融機関に要請(5月12日)
金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第9回)を開催(5月14日)
「金融サービス利用者相談室」における相談等の受付状況等(期間:令和3年1月1日~同年3月31日)(5月18日)
金融審議会「最良執行のあり方等に関するタスクフォース」(第4回)を開催(5月18日)
第2回LIBOR利用状況調査の結果概要(2020年12月末基準)(5月19日)
「第5回 インパクト投資に関する勉強会」を開催(5月20日)
「金融所得課税の一体化に関する研究会」(第2回)を開催(5月25日)
「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」支援決定案件(5月25日)
金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第10回)を開催(5月25日)
「保険会社向けの総合的な監督指針」及び「IAIGs等向けモニタリングレポート」を英訳(5月26日)
犯罪収益移転防止法におけるオンラインで完結可能な本人確認方法に関する金融機関向けQ&A(5月28日)
「サステナブルファイナンス有識者会議」(第7回)を開催(5月28日)
「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」支援決定案件について(5月28日)
金融機関における貸付条件の変更等の状況について更新(5月28日)
金融庁電子申請・届出システムの利用開始に向け金融機関へ周知(5月31日)
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る態勢整備を期限までに行うよう金融機関へ要請(5月31日)

 


編集後記

 梅雨の時期が近づいて参りましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。
 最近放送された名門大学の広報マンが主人公のドラマを広報目線で楽しんでおりましたが、本ドラマの主演・松坂桃李君で個人的に印象深いのは、彼が出演した2017年のドキュメンタリー番組『松坂桃李 遥かなるシルクロードの旅』です。西域の絶景と「史記」の英雄・張騫の足跡を松坂桃李君が辿る番組のなかで、紹介されていた蘭州拉麺は本当に美味しそうでした。最近は日本各地で蘭州拉麺を食べられるお店が徐々に増えているのは嬉しい限りです。
 また、麻辣ピーナツを購入できるお店が増えてきたのも非常に有難いと感じています。特に、UHA味覚糖さんの「麻ピー」は本場の味に近く、シビれる旨さがたまりません。近所のコンビニでつい購入してしまいます。
 湿度が高く過ごし辛い時期でありますが、美味しく辛い物を食べて乗り切って参りましょう。
 

金融庁広報室長 境   吉隆
編集・発行:金融庁広報室

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