ディスカッションペーパー

22年度ディスカッションペーパー

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ファイル 題名 執筆者 年月
DP2010-6(PDF:1109K) 我が国における一般事業法人のCDSスプレッドの決定要因 岩井 浩一 2011年3月
DP2010-5(PDF:1304K) 日本のETF市場における非効率性とその発生原因 岩井 浩一 2011年3月
DP2010-4(PDF:1176K) 資本市場の統合と国際分散投資を巡る一考察 岩井 浩一 2011年3月
DP2010-3(PDF:380K) Pro-cyclicality of The Basel Capital Requirement Ratio and Its Impact on Banks 吉野 直行
平野 智裕
2011年3月
DP2010-2(PDF:539K) Financial Institution, Asset Bubbles and Economic Performance 平野 智裕
柳川 範之
2011年3月
DP2010-1(PDF:667K) Asset Bubbles, Endogenous Growth, and Financial Frictions 平野 智裕
柳川 範之
2011年3月

ディスカッションペーパー要旨

DP2010-6
「我が国における一般事業法人のCDSスプレッドの決定要因」

岩井 浩一 金融庁金融研究センター研究官

本稿は我が国事業法人を参照組織とするCDSスプレッドの決定要因を実証的に検証するものである。スプレッドの決定要因として、構造型モデルから導出される構造変数のほかに、市場全体及びマクロ経済の動向を捉える幾つかの変数も採用した。分析の結果、これまでに報告されていない現象も含めて、CDS市場における価格形成の特徴を見出すことができた。第一に、構造変数は符号条件を満たし概ね有意であったが、CDSスプレッドの変動を十分に説明することはできない。構造変数の他に、市場・マクロ変数を説明変数に加えても、モデルの説明力は総じて低く、我が国CDS市場においてもクレジットスプレッド・パズルが存在しているといえる。第二に、金融危機前よりも金融危機後の方が回帰モデルの説明力が改善するという諸外国には報告されていない現象が確認された。この背景として、金融危機以降になると、海外における市場変動が我が国CDS市場に対して大きな影響を与えるようになったこと等が考えられる。第三に、金融危機後になると、本稿のモデルでは捉えきれないシステミックな要因がCDSスプレッドの変動を引き起こしていた可能性も確認された。これらの分析結果は、我が国CDS市場の価格形成メカニズムの理解に役立つものである。

キーワード:CDSスプレッド、構造型モデル、Dynamic Heterogeneous Panel Model

DP2010-5
「日本のETF市場における非効率性とその発生原因」

岩井 浩一 金融庁金融研究センター研究官

本稿は我が国ETF市場の価格形成の効率性を実証的に検証したものである。非効率性の程度を計測し、非効率性の発生原因を考察することを目的としている。価格効率性を幾つかの指標から評価すると、本邦ETF市場の効率性は米国市場における海外株式連動型ETFと同程度と考えられる。これら海外株式連動型ETFの価格形成が非効率的であると判断されている点に鑑みると、我が国ETF市場の価格形成にも改善の余地があると考えられる。非効率的な価格形成がなぜ発生するのかに関しては、研究の進んでいる欧米ETF市場に関しても十分に解明されているわけではなく、我が国についてはほとんど研究されてこなかった。本稿では、我が国ETF市場の法制度や実務慣行を踏まえたうえで、本邦独特の取引制度が価格効率性に悪影響を与えている可能性に注目した。分析の結果、流動性の低さと制度面での不備等を原因として、価格効率性が悪化している可能性が確認された。ETF市場の価格効率性を改善させるためには、流動性を改善させ、裁定取引コストを引き下げるような取組みが求められる。

キーワード:ETF、価格効率性、裁定取引、マーケット・マイクロストラクチャー

DP2010-4
「資本市場の統合と国際分散投資を巡る一考察」

岩井 浩一 金融庁金融研究センター研究官

資本市場の統合は今なお重要な政策課題であり、同時に、国際金融論における中心的な研究テーマでもある。本稿では、資本市場の統合が投資家に与える影響に注目する。資本市場の統合は、主に、分散投資効果の変化を通じて投資家に影響を与える。分散投資効果が増大する場合には、投資家は便益を得ることができる。

1990年代中盤以降を対象にした共和分分析の結果から、我が国投資家が中長期的に国際分散投資効果を享受できる環境にあったことが確認された。また、短期的な分散投資効果をDynamic Conditional Correlation GARCHモデルから評価すると、海外株式投資の分散投資効果がこの数年低下しているのに対して、海外債券投資の分散投資効果は上昇している可能性が確認された。本邦投資家のホーム・バイアスが近年、緩やかに低下していることは、中長期的な分散投資効果が期待できるという分析結果と整合的である。従って、近年の国際分散投資の進展は合理的な投資行動の結果と考えることができる。

但し、本邦投資家の資産配分を国際的に評価すれば、未だに国内資産に過度に偏重している可能性がある。今後、国内投資家のホーム・バイアスが適度に解消され、金融統合の便益を最大限に享受できるようにするためには、関連諸制度の整備を進める等を通じて、低コストで国際分散投資ができるような投資商品が開発される必要があろう。

キーワード:金融統合、国際分散投資、ホーム・バイアス、Gregory & Hansen test、DCC-GARCH

DP2010-3
“Pro-cyclicality of The Basel Capital Requirement Ratio and Its Impact on Banks”

吉野 直行 金融庁金融研究センター長(慶應義塾大学経済学部教授)

平野 智裕 金融庁金融研究センター研究官

本論文は、銀行の貸出を安定化させるという目的関数のもとで、寡占的な貸出市場のもとでの銀行の利潤極大化行動を前提とし、リスクに対応して、銀行の自己資本を、どの程度の比率にすることが最適であるかを、一般均衡モデルを用いて、理論的に分析した。理論分析の結果からは、(i)望ましい自己資本比率は、地価・株価・GDP・金利に連動させながら動かすことが望ましいということが求められた。景気が過熱している時期には、自己資本比率を高めに設定し、逆に、景気が低迷している時期には、自己資本比率を低めに設定することが、銀行の貸出を安定化させ、引いては、経済全体の景気を安定化させるためには、望ましいことが導出された。(ii)クロスボーダー〔国境を越えて他国〕で貸出を実施する銀行の場合、各国毎に自己資本比率を変動させた場合には、本店のある自国の貸出は、自国の自己資本比率に従い、国境を越えた貸出しについては、自国の自己資本比率に従うのではなく、貸出を実施している、それぞれの相手国の自己資本比率に設定することが望ましいことが、第二番目の結論である。以上が理論分析から得られた結論である。

つぎに、実証分析の結果をまとめる。(iii)第三には、日本、アメリカ、カナダの銀行の不良債権比率のデータが、各国の地価・株価・GDP・利子率とどのように関係しているかを計量分析し、理論モデルで導出された最適自己資本比率を、3カ国について求めた。その結果からは、日本が景気低迷していた時期には、自己資本比率を2.20%程度、引き下げたとしたならば、貸出をより安定化させることが出来たであろうという結論が得られた。アメリカに関しては、サブプライムローン危機の直前のバブル時期には、自己資本比率を4.42%さらに高く設定すべきであったという数字が求められ、カナダに関しては、それほど最適自己資本比率からは乖離していなかったことが示された。ただし、本理論分析では、銀行が直面するさまざまなリスクに対応する最適自己資本比率は、制約条件として設定している。このため、マクロの貸出安定化から求められる自己資本の最適値が、銀行のリスクに対応する最低自己資本比率よりも小さくなった場合には、制約条件が効いた場合のコーナー解(Corner Solution)となる。

バーゼルIIIでは、リスクを細分化して、それぞれのリスクに対応した自己資本を積み上げて自己資本比率の強化が提案されている。しかし、本稿では、さまざまなリスクは、地価・株価・GDP・金利などのマクロ要因によって影響される要素が強いため、リスクを細分化して自己資本の対応を求めるよりは、マクロ変数を介在させることによって、リスクの背後にあるマクロ要因から、最適な自己資本比率を導出することを提案している。

キーワード:The Basel minimum capital requirement, procyclicality of capital adequacy ratio, optimal capital requirement

JEL Classification:G28, E44

DP2010-2
“Financial Institution, Asset Bubbles and Economic Performance”

平野 智裕 金融庁金融研究センター研究官

柳川 範之 東京大学大学院経済学研究科准教授

本稿は、バブルと金融仲介機能の関係、および、バブルとマクロ経済の関係について理論的な観点から分析を試みている。分析の結果、金融仲介機能が未発達な状況では、バブルには金融仲介機能を補完し、マクロの経済活動を改善する役割があることが明らかになった。しかしながら、バブルには崩壊するリスクがある。崩壊すると、マクロの経済活動は停滞する。そのため、バブルには金融仲介を補完する面があるものの完全代替とはならず、長期的なマクロ経済の安定にとっては、金融仲介機能(金融システム)を高めていくことが重要である。また、本稿では、バブル崩壊後の政策に関しても議論している。

キーワード:Asset Bubbles, Financial Institution and burst of bubbles

JEL Classification:E44

DP2010-1
“Asset Bubbles, Endogenous Growth, and Financial Frictions”

平野 智裕 金融庁金融研究センター研究官

柳川 範之 東京大学大学院経済学研究科准教授

バブルの発生は、金融システムの発展とどのような関係があるのだろうか?バブルは長期的な経済成長率にどのような影響を与えるのだろうか?また、バブル崩壊後、長期の停滞に陥ってしまう経済があるのに対して、比較的早く回復する経済があるのはなぜだろうか。それは、金融システムの状態とどのような関係があるのだろうか?本稿は、これらの疑問に対して、理論的な観点から分析を試みている。得られた結果は以下の通りである。バブルは、金融システムの発展の程度が、中程度の状況で生じやすい。このことは、金融システムの改善によって、かえってバブルが発生する可能性があることを示唆している。また、金融システムの発展が比較的遅れた経済では、バブルは長期的な経済成長率を促進する。他方、比較的発展した経済では、成長を鈍化させる。さらに、バブル崩壊後の経済成長パスは、金融システムの質に依存していることが明らかになった。

キーワード:Asset Bubbles, Endogenous Growth, and Financial Frictions

JEL Classification:E44,O43

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