【集中連載】
 
金融検査に関する基本指針の概要について(第3回:「パプリック・コメント等を踏まえた主な修正」、「17事務年度より実施する検査上の運用改善について)

 金融検査に関する基本指針は、昨年12月24日に公表された金融改革プログラムおよびこれを受けた金融改革プログラム工程表(本年3月29日公表)を踏まえた「金融庁の行動規範(code of conduct)の確立」の一環として、検査等の実施にあたっての基本的な考え方及び検査の具体的な実施手続等を示すものです。検査等に関連して発出される通達等の解釈および運用にあたっては、今後、基本指針をもとに行うこととなります。
 去る17年4月28日から5月27日までの1ヶ月間のパブリック・コメント(以下「パブ・コメ」という。)を踏まえ、7月1日に公表しました。

 前回まで、本コーナーにおいて、第1回には「基本指針(案)の概要I 基本的考え方」を、第2回には「基本指針(案)の概要II 検査等の実施手続等」を紹介してきたところです。
 今回(第3回)は、まず、7月1日にパブ・コメ等を踏まえ「金融検査に関する基本指針」を公表したことを踏まえ、「金融検査に関する基本指針(案)(4月28日公表)」からの主な修正点を紹介し、その後、前回予告しました「17事務年度より実施する検査上の運用改善」について紹介します。
 
I.パブ・コメ等を踏まえた主な修正等

 金融検査に関する基本指針については、上記のようにパブ・コメに付した結果、15先から約110件のご意見が寄せられました。平成17年7月1日、これらのご意見等を踏まえ、以下のとおり基本指針の内容を修正及びパブ・コメに対する回答を行いました。その概要は、以下のとおりです。(なお、パブ・コメの概要及びそれに対する回答の詳細は、金融庁ホームページの報道発表資料PDF「『金融検査に関する基本指針について』(平成17年7月1日)の別紙2「パブリック・コメントの概要及びコメントに対する考え方」参照)


.寄せられた主なご意見
 
 本基本指針の検査官への周知徹底及びその運用徹底
 
(例 )基本指針の理念が十分に浸透するよう、検査官への教育・指導
 実施手続の更なる明確化等
 
(例 )意見申出審理会における外部の有識者の登用を明確化、立入終了予定時期の明示
 検査等の運用についての改善要望等
 
(例 )検査関係情報及び検査結果通知の第三者への開示についての弾力的な運用、意見申出の審理結果を申出金融機関に対し書面にて通知


.パブリック・コメントを踏まえた基本指針の主な修正内容
 
(1)  立入検査中、「主任検査官は、被検査金融機関の求めに応じ、立入終了を見込むことが可能な段階で、その立入終了見込みを示すことができること」を追加しました。
アクセスFSA第31号 第2回P8「(2)マル9関連)
(2)  意見申出審理会の構成に関し、「立入を行った検査官以外の検査局幹部及び外部の専門家で構成」と修正しました。
アクセスFSA第31号 第2回P8「(3)マル1関連)
(3)  「主任検査官等の事前の承諾なく検査関係情報等を第三者に開示してはならない旨説明し、この旨の承諾を得る」に関し、「『第三者』には、被検査金融機関の経営全般を管理する立場にある銀行持株会社及び保険持株会社並びに海外本店等(外資系金融機関の場合)のうち、所定の様式の承諾書を事前に検査局に提出している者は、原則として含まれない。」ことを追加しました。
アクセスFSA第31号 第2回P9「4.(2)」関連)


.その他パブリック・コメントへの主な回答等
 
(1)  意見申出の審理結果を、検査結果通知書に添付する形で書面にて回答します。
(2)  検査関係情報等の第三者への開示については、例えば、検査の結果を業務の改善等に反映させる目的で、同目的の達成に必要な範囲に限り閲覧させるなど情報流出のリスクに十分配慮した方法により、専門職業人など厳格な守秘義務が課せられている者に開示するような場合には、一般論として、開示を認める方向で考えます。
 
II.17事務年度(7月から翌年6月)より実施する検査上の運用改善

 なお、金融検査に関する基本指針とあわせて、検査に対する信頼性の更なる向上を図るとともに、検査のより一層の効率化を推進する等の観点から、次の3点について17事務年度より検査上の運用改善を実施することとしました。
(金融庁ホームページ報道発表資料「平成17事務年度より実施する検査上の運用改善について」(平成17年7月1日)参照)


.検査モニター制度
 検査モニター制度(注)について、その積極的な活用を促す観点から、次のように見直します。
 
(1)  現行の記述式のオフサイト検査モニターに加え、アンケート形式のオフサイト検査モニターを導入し、その質問項目をホームページ上で公表します。
(2)  オンサイト検査モニターの実施を被検査機関の希望により、立入検査中に代え、立入検査終了後にも実施できるようにします。
(注 )見直し後の検査モニター
 本基本指針の適切な運用を確保し、検査マニュアルの機械的・画一的な運用の防止など、適正な検査を確保する観点から、以下の2通りの方法により、「検査モニター」を実施。
オンサイト検査モニター

 

:金融庁・財務局のバックオフィスの幹部が被検査機関に出向き、立入検査中・後に経営陣から直接意見聴取を行うものです。
オフサイト検査モニター
:オンサイト検査モニターを補完するものとして、
 
 アンケート方式により意見を受け付けるものです。
 記述方式により意見を受け付けるものです。


.意見申出制度
 意見申出制度(注)について、その中立性・公平性のほか、検査に対する信頼性の更なる向上を図る観点から、次のように見直します。
 
(注 )意見申出制度
 立入検査において、検査官と金融機関が十分な議論を行った上でも認識が相違した項目がある場合に、被検査機関が当該相違項目について、検査局長に直接意見を申し出る制度。
 
(1)  意見申出の審理を行う意見申出審理会のメンバーに外部の専門家を招聘します。
(2)  意見申出の対象を金融庁検査局、財務局、福岡財務支局及び沖縄総合事務局が実施する全ての検査に拡大します。
(3)  今後の金融機関等のリスク管理等に役立つと考えられる審理結果について、金融機関名が特定されない形で、その概要を公表します。
(4)  意見申出の審理結果を書面で回答(検査結果通知書に別紙として添付)します。


.検査時提出資料

 検査時提出資料について、被検査機関の負担の軽減及び検査の一層の効率化・円滑化を図る観点から、次のように見直します。
 
(1)  立入検査開始前に事前に提出を依頼する資料について、その必要性や重複感の有無を再検討し、削減します。
(2)  金融検査評定制度の導入を踏まえ、当該事前資料を各評定項目別に整理・再編します。
 
III.最後に

 本基本指針には、検査の効率化、金融機関の負担軽減に資する様々な規定を盛り込んでいます。これらは、これまで検査の現場で金融機関からの要望に応じ、各検査の現場ごとに対応してきたものもありますが、今後は、本基本指針に基づき横断的な取組みを行っていくこととなります。
 ただし、第1回に述べましたように、金融改革プログラムを踏まえ、今後、「民」の活力を中心に、利用者の満足度が高く、国際的にも高い評価が得られるような金融システムを、目指していくところであります。
 この目標を達成するためには、一人検査部局のみならず、なにより、各金融機関の自主的・持続的な経営改善に向けた取組みが必要であり、重ねてこの点を強調します。
 検査はあくまで、預金者等一般の利用者、国民経済のために行うものであり、個々の金融機関の経営陣のために実施するものではありません。
 しかしながら、検査部局と金融機関の間で双方の理解が深まり、検査がより円滑かつ効果的に実施されること、各金融機関がその経営の健全性を維持するための検査を前向きにとらえ、対応していくことこそが、結果として、「民」の力による望ましい金融システム達成への一つのステップとなり、金融当局・金融機関が国民の負託に応えることになると自覚する必要があります。
 今後、基本指針の実施においては、各金融機関の役職員各々が、まず、基本指針の趣旨や内容を十分に理解し、検査部局と金融機関との間の信頼関係のうえで、十分な双方向の議論に積極的に取り組む必要があります。こうした意味も含め、各金融機関が真に効果的な検査の実施に協力し、それを確実に経営改善につなげるような、経営陣を先頭とする内部態勢の整備に努めることが重要な点となります。

(文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であります)


 平成17年4月28日に公表した「金融検査に関する基本指針(案)」の全文をご覧になりたい方は金融庁ホームページの「報道発表資料」から「「金融検査に関する基本指針(案)について」(平成17年4月28日)にアクセスしてください。

PDF金融検査の実施手続(基本的な流れ)


「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づく取組み実績と総括的な評価について(第1回:「金融機関の取組み実績」)

 去る6月29日、「『リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム』に基づく取組み実績と総括的な評価について」(以下「取組み実績と総括的な評価」という。)を取りまとめ、公表いたしました。
 そこで、アクセスFSAでは、「取組み実績と総括的な評価」の内容についてより多くの方に知っていただくため、今号より2回にわたってその内容を紹介いたします。
 第1回目は、「金融機関の取組み実績」について紹介します。
 
.はじめに

 平成15年3月28日、中小・地域金融機関(地域銀行、信用金庫、信用組合)については、地域密着型金融(リレーションシップバンキング)の機能を強化し、中小企業の再生と地域経済の活性化を図るための各種の取組みを推進することによって、不良債権問題も同時に解決していくことを目指し、平成15年度及び16年度の2年間(「集中改善期間」)を対象とした「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(以下「旧アクションプログラム」という。)を策定・公表しました。
 
 
PDF「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(基本的考え方)及び(概要)

 これを受け、各金融機関は「集中改善期間」における中小企業の再生と地域経済の活性化に向けた取組みについて「リレーションシップバンキングの機能強化計画」を策定し、各種取組みを推進してきました。また、金融庁においても各種会議の立上げ、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の策定等、旧アクションプログラムに掲げられた施策の着実な実施を図ってきました。
 旧アクションプログラムにおいては、16年度までの「集中改善期間」において、同アクションプログラムに盛り込まれた施策の進捗状況及び金融機関の取組み実績を半期毎に取りまとめ、公表することとしています。また、17年3月29日に旧アクションプログラムを承継する新たなアクションプログラムとして策定・公表された「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17〜18年度)」においては、「各金融機関による地域密着型金融の更なる推進に資するため、17年6月末を目途に、金融庁は、『集中改善期間』における各金融機関の取組みの具体的実績や成功事例等についての総括を行い、これを公表する」こととされました。
 これらを踏まえ、15〜16年度の「集中改善期間」における各金融機関の取組みの具体的実績や成功事例等についての総括的な評価を取りまとめ、公表を行いました。
 
.「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づく取組み実績と総括的な評価について
   
 
◇金融機関の取組み実績(主なもの)

 各金融機関から報告された15年度の「集中改善期間」における、中小企業金融の再生に向けた取組み等の実績をみると、次のような進捗が見られます。
 

(1)

 創業・新事業支援機能等の強化
 業種別担当者の配置・増強等の融資審査態勢の強化や産官学とのネットワークの構築・活用等が進んでいるなかで、創業・新事業支援のための融資実績が着実に拡大しています。

特色ある具体的取組み
(注)(  )内における地域名は管轄財務局である(以下同じ。)。

 
  県の基幹産業である農業を起点とする食品加工業等幅広い産業群への支援強化策として「アグリクラスター構想」を立上げ。政府系金融機関、県農業法人協会等との連携強化を図りつつ、焼酎製造業、畜産業へのアプローチを強化。(九州:銀行)

 
  産学連携コーディネーターの大学への常駐派遣により、技術評価のノウハウを蓄積し、企業の将来性や技術力を的確に評価する与信判断基準を構築。また、大学のコーディネーターと共同で企業訪問を行い技術相談を受け付けるなどの取組みにより、先端技術の事業化のための融資を実施。(近畿:信用金庫)

(2)

 取引先企業の経営相談・支援機能の強化
 地域金融機関の経営改善支援により、支援を行った債務者(正常先を除く)の約4分の1(24.5%、約18,000先)が業況改善。また、経営情報やビジネスマッチング情報を提供する取組みについても、着実に進捗しています。

特色ある具体的取組み

 
  近隣金融機関の連携によるM&Aネットワークを構築。同ネットワークを通じ、異業種間におけるM&Aを成約。(東海:銀行)

 
  各地区から任命された個人事業主や女性等の代表者が、それぞれの視点で各地区の経営情報やニーズを集約し、組合員に還元することによりビジネスマッチングを図る制度を創設。(東北:信用組合)

(3)

 早期事業再生に向けた取組み
 事業再生を行うためのノウハウの取得が必ずしも成果に結びついていないものの、中小企業再生支援協議会の活用等により取組みは着実に進捗。また、DES(債務の株式化)、DDS(債務の劣後ローン化)等の手法を活用した事業再生事例についても着実に増加しています。

特色ある具体的取組み

 
  本支店の法人営業担当者全員がそれぞれ1社以上の支援企業を選定し、経営改善計画の策定・実行を支援する「一人一社運動」を展開。(東海:銀行)

 
  中小企業再生支援協議会や監査法人、信金中央金庫と連携してDDSを実施し、債務者区分が改善。(関東:信用金庫)

(4)

 新しい中小企業金融の取組み強化
 スコアリングモデルや財務制限条項を活用した融資など不動産担保・保証に過度に依存しない融資、証券化等の取組み実績は大幅に増加しています。

特色ある具体的取組み

 
  動産評価専門会社と共同で、売掛債権・在庫等の資産を活用した融資スキームを構築するなど、無担保融資商品を拡大。(福岡:銀行)

 
  「沖縄金融特区証券化プロジェクト」に基づき、県内2行を幹事とした「全国版CLO構想」を発表。(沖縄:銀行)

 次回は、「金融機関の取組みに対する総括的な評価」について紹介いたします。




 平成17年6月29日に公表した「金融検査に関する基本指針(案)」の全文をご覧になりたい方は金融庁ホームページの「報道発表資料」から「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム』に基づく取組み実績と総括的な評価について」(平成17年6月29日)にアクセスしてください。

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