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.はじめに |
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金融庁は、貸金業者に対する検査・監督において把握された貸金業規制法に抵触する問題事例等を明確化し、貸金業者の適切な業務運営を促すため、「貸金業関係の事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」を改正しました。本コーナーにおいては、ガイドライン改正の経緯及び改正概要について説明させて頂きます。 |
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.ガイドライン改正の経緯 |
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過剰貸付けは、多重債務問題の一つの要因として問題視されており、貸金業規制法の第13 条第1項にも、これを禁止する規定があります。また、事務ガイドラインにおいても、無担保・無保証融資に係る貸付上限額の目処等を定め、貸金業者に対する指導を行ってきました。しかしながら、最近になって、事務ガイドラインに規定がない部分での過剰貸付けが問題となってきました。また、検査・監督において、過剰貸付け以外の問題事例を把握する事例も出てきました。 このため、貸金業制度の見直しの議論とは別に、問題となっている事例について、早急にガイドラインに明記し、貸金業者の業務の適正化を図る必要があると考え、今般のガイドライン改正を実施しました。
今回の改正は、3月7日から4月6日までのパブリックコメント手続を経て、5月31 日に公表され、6月14 日から施行されております。また、5月31 日にはパブリックコメントの結果も公表しており、お寄せ頂いたコメントへの回答では、様々な事項について詳細に説明しておりますので、併せて参照していただきたいと考えております。 |
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.改正の概要 |
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(1) |
必要とされる以上の金額の借入れの勧誘に該当する行為の明確化(ガイドライン3−2−1(2)関係) |
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貸金業規制法第13 条第1項は、「貸金業者は、資金需要者である顧客又は保証人となろうとする者の資力又は信用、借入れの状況、返済計画等について調査し、その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約を締結してはならない」と規定しています。ガイドライン3−2−1は、この規定の監督に当たって、適切に行われるよう促す事項を挙げています。 改正前のガイドラインの3−2−1(2)は、「顧客に対し、必要とする以上の金額の借入れを勧誘してはならないこと」と規定していましたが、 |
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(1) |
返済の拒否等により債務額を維持するよう要請すること、 |
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(2) |
顧客の要請がないにもかかわらず包括契約の貸付限度額を引き上げることも、必要とされる |
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以上の金額の借入れの勧誘に該当することを明記することとしました。 まず、返済の拒否等により残高を維持するよう要請することは、顧客の返済能力を超える借入れの継続を強いる可能性が非常に高い行為です。次に、包括契約の貸付限度額を一方的に引き上げることは、それ自体が直ちに違法とは言えないまでも、結果として顧客が不必要な借入れ行動に陥る危険がある不適切な行為です。このため、これらの行為は必要とされる以上の借入れの勧誘に該当することを明確にし、監督当局として、貸金業者がこうした行為を行わないよう促すこととしております。 なお、パブリックコメントへの回答にも示しておりますが、貸金業者が、過去の取引実績を踏まえ、顧客に対し貸付限度額の引上げが可能であることを通知し、それに対して顧客が引上げを要請した場合は「必要とされる以上の借入れの勧誘」には該当しないと考えられます。ただし、貸金業者が通知したが顧客の意思表示がない場合に、顧客からの引上げの要請があったものとして扱うことは適切ではなく、あくまで顧客の現実の要請を前提とすべきと考えております。 |
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(2) |
有担保融資に当たっての融資審査の留意点の明示(ガイドライン3−2−1(5)関係) |
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顧客の資金需要の態様は様々であり、担保として差し入れた物件が換価されることとなっても生活に支障を来さないことを十分に認識して借入れを申し込んでいる場合など、利用者保護上の問題がない場合にまで有担保融資を禁止することとすると、顧客の事情を一切勘案せずに借入れの機会を奪うこととなり、適切ではありません。しかしながら、顧客の収入の状況から返済が無理な金額を、顧客が担保の換価意思を有していないにもかかわらず、担保の価値だけに着目して貸し付けることは、まさに返済能力を超える貸付けに該当します。このため、今回の改正では物的担保を徴求して行う貸付けについてガイドラインに規定を設けることとしました。 ガイドライン3−2−1(5)は、まず、物的担保を徴求して貸付けを行おうとするときは、顧客の収入等に鑑みて、当該担保物件を換価しなくても返済し得るか否かを調査し、その結果を書面に記録することを求めています。これは、借入金が、顧客のキャッシュフローから返済できるかどうかを確認するためのものです。 次に、この調査の結果、担保物権を換価せずに返済し得ると認められない場合には、顧客が担保物件の換価の時期や換価後の生活方法について明確かつ具体的な認識を有していることを確認し、その内容も合わせて記録することを求めています。これは、キャッシュフローからの返済が可能と認められない場合には、担保物件の換価が必要となるため、顧客がそれを認識しているかどうかの確認が必要と認められるためです。換価意思や換価後の生活方法について確認を行わないまま、キャッシュフローからの返済が不可能な金額を貸し付けることは、顧客の返済能力を超えた貸付けを行うことに該当するのみならず、顧客の将来の生活基盤を奪う、極めて不適切な行為となりかねず、この調査及び記録は厳格に求める必要があると考えております。 なお、保証人や物上保証人など、債務者以外の者から物的担保を徴求する場合も、上記と同様の調査、記録が必要です。パブリックコメントに付した際の案では、この部分は「保証人」のみが対象となっておりましたが、物上保証人その他の担保物権設定者についても、提供される担保の価値のみに着目し、資金需要者に対して過剰な貸付けが行われるおそれがあることから、「保証人その他の資金需要者以外の者」を対象とするよう、修正を行っております。 |
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(3) |
保証人の保証債務履行能力の確認(ガイドライン3−2−1(6)関係) |
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保証人は、主たる債務者がその債務を履行しない場合には、その履行をする責任を負いますので、保証人についても、保証債務履行能力を確認する必要があります。このため、ガイドラインに保証人に関する規定を新たに設けることとしました。
ガイドライン3−2−1
(6)は、保証人となるとする者について、収入、保有資産、生活実態、他からの借入状況及び既往借入額の返済状況等を調査し、実際に保証債務を履行せざるを得なくなった場合の履行能力を書面に記録することと、履行能力を超える保証を求めないよう要請しています。
パブリックコメントでは、債務者からの返済が原則であり、保証人は補完的なものであることから、保証人の返済能力に関する調査は簡易なものも許されるとのご意見も寄せられました。しかしながら、上記のとおり、保証人は、主たる債務者が債務を履行しない場合にその履行をする責任を負うこと、貸金業規制法第13条第1項も、資金需要者である顧客のみならず、保証人となろうとする者についても資力又は信用、借入れの状況、返済計画等について調査するよう求めていることから、ガイドラインに従い、適切な調査を行うことが必要であると考えております。また、調査に関しては、自己申告のほか、必要に応じて裏付けとなる資料の提出を求めるなど、適切な方法で行っていただく必要があると考えております。 |
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(4) |
違法年金担保の脱法的行為の禁止の明確化(ガイドライン3−2−2(1)関係) |
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貸金業規制法第13条第2項は、「貸金業者は、貸付け又は貸付けの契約に係る債権の管理若しくは取立ての業務を行うに当たり、偽りその他不正又は著しく不当な手段を用いてはならない」と規定しています。ガイドライン3−2−2は、この規定に該当するおそれが大きい行為を列挙しています。
今回の改正では、白紙委任状等の徴求など
3−2−2(1)に掲げる行為は、契約の締結時のみならず変更時も行ってはならないこととしました。また、(1)に として、公的給付の払込口座であることを知りながら、当該口座からの自動振替を返済の方式として債務者に要請することを加えることとしました。
貸金業規制法第20条の2は、公的給付が預貯金の口座に払い込まれた場合に、その口座の資金から弁済を受けることを目的として、債務者等の預金通帳、キャッシュカード、預貯金の引き出しに必要な情報等の引渡しや提供を求めること、又はこれらを保管することを禁止しております。このため、自動振替に関する依頼書を貸金業者が顧客から直接徴求する場合、貸金業者は預貯金の引出しに必要な情報を徴求することとなり、同条項に該当する可能性があります。しかしながら、第20条の2では、顧客が金融機関に直接依頼して自動振替を設定する行為を禁止することができず、当該規定の脱法的な行為を許すこととなってしまう可能性があります。
このため、今回の改正では、第20条の2の脱法的な行為を実効的に抑止するために、顧客が直接自動振替を設定する行為についても、貸金業者が要請してこれを行わせることは第13条第2項違反となりうることを示すこととしたものです。
なお、パブリックコメントに付した際の案では、「債務者が自らの便宜のために求める場合を除き、公的給付が払い込まれる預金又は貯金の口座からの自動振替を返済の方式として債務者に要請すること」としていましたが、誤解や脱法的運用を招くとの御指摘を頂いたことから、「公的給付の払い込まれる預金又は貯金の口座であることを知りながら、当該口座からの自動振替を返済の方式として債務者に要請すること」と修正しております。 |
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(5) |
その他 |
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上記に加え、ガイドライン3−2−1が改正されたことに伴う都道府県への助言、勧告事項の改正(ガイドライン3−6)、財務局長権限の一部の財務事務所等への内部委任規定の新設(ガイドライン3−10、10−3)を行っております。 |
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.おわりに |
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以上、貸金業関係の事務ガイドラインの改正について説明させていただきました。貸金業者が改正ガイドラインに従い対応することは、貸金業者の適切な業務運営を促し、利用者保護に資すると考えられます。金融庁としては、今般のガイドライン改正をも踏まえ、引き続き、貸金業者の厳正かつ適切な監督に努めてまいりたいと考えています。 |
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