投資家との意見交換会後の高橋委員長記者会見概要
(平成14年4月3日(水) 17時00分~17時40分)


 高橋委員長より意見交換会開催の趣旨及び意見交換会の概要について説明した後、記者からの質問に答えた。概要は以下のとおり。

(問)投資教育に関して、低年代からの教育が必要とのことであるが、この点についてもう少し詳しく教えていただきたい。

(答)例えば、小学生からそういう教育ができるだろうか、中学生から必要なのだろうか、高校生の時だろうか、あるいは大学に入ってからだろうか。確かに、個別的に、投資だとか株だとか、そういうものに特定して教育していくことはとても難しいであろうし、いわんや、投資技術などということは、教育の対象とはならないであろう。しかしながら、経済の仕組みや動きというものを平易な形で小学生のころから少しずつ話していくことが必要であろう。その中で、自己責任という気持ちが生まれてくるのではないかということであります。しかし、それは特定の株や証券などに特化した問題ではなくて、例えば税金の問題、我々がどういう仕組みで税金をとられているのか、その税金はどこに使われているのかというような経済問題の中の一つとして、証券取引であるとか、お金の運用の問題とかいうものについても、理解を求めていくことが必要ではないかということであります。

(問)アメリカなどでは、小学生くらいから株取引をゲームなど通じてしていると聞いているが、日本ではまだ難しいというお考えなのか。

(答)それは、程度の問題なのでしょうね。株というものがあって、こうして売られています、そして、株は会社が資金を融通するために発行していて、それを売り買いして、その中で利益を得て、それが経済を動かしていますよ、という程度のことならおそらくわかってもらえると思います。しかし、その中で、株取引とはこういう技術的なものですから株取引をするためにはここに注意しなくてはいけませんよ、ということを話してみてもなかなかわからない。やはり年代、学年というものに応じて、興味が湧くような形での教育をしなくてはならないだろうということです。今日は、教育関係の方がおられまして、教育は確かに必要であるが、日本の金融教育の問題については、資料についても、教育の実施についてもやや足りないところがあるのではないか、というご意見でした。
 確かに私も、アメリカでは小学校の時から株の問題の教育がなされていると聞いておりますけれど、実際にどういう教育がなされているのかはよく分かっておりません。そのためにお答えできませんけれども、おそらく、アメリカといえども、低学年からそう細かい技術的なことを話しているはずはないので、今日論議に出たような形での教育から順次進んでいっているのではないかと思います。もう一つ付け加えますと、アメリカでは、株取引や証券取引が発達しております。ですから、社会的な構造として日本と少し違うところがあるのかもしれません。しかし、その背景として、小学校時代からそういう教育がなされているということは、やはり参考にすべきことであろうと思います。

(問)自己責任の原則を確立して、それを皆さんに理解していただかなくてはならないということは大原則であると思うが、その一方で、仲介者に対する不満や不信感が根強い。監視委員会は体制強化をしているところではあるが、監視委員会への不満の一つとして、摘発件数が少ない、体制が弱い、諸外国、特にアメリカと比べてあまりにも機能していないのではないかという不満があるかと思うが、それについての意見はあったのか。また、なければ、それに関する委員長のお考えをお伺いしたい。

(答)一つ目の組織問題については、あまりいろいろなご意見は出ませんでした。ただお一人から、委員会の在り方としてアメリカのSECのような組織が必要だという論議がなされているがそれに対して委員長としてどう考えているか、という御質問が出ました。ご承知のとおりだとは思いますが、この委員会ができたのは平成4年でございます。委員会の設立の背景としまして、当時、監督問題について適切でない問題がいくつか現れてきて、監視委員会は独立しなければならないということで、急遽作られたものでございます。当時の発想では、大蔵省の権限の中の一部を移譲してこの委員会を作るということであったと思います。ですから、こうした形の委員会が作られたのは、歴史的な背景があるということも事実であります。確かにご指摘のとおり、この委員会は非常に人間も少ない。本庁の人数は今122名であります。地方組織としては、地方の財務局の中に監視官部門というものが置かれており、これが地方組織としての動きをしている。地方組織の人数は143名で、265名が全体の数であります。アメリカの3000人余からみると、10分の1にも満たない数であるということで、ご指摘のとおりだと思います。私は委員長に就任してから、まず、組織の在り方を考えなければいけないということで、さしあたっては、人員の増員ということを求めてまいりました。幸いご理解をいただけまして、14年度の予算におきましては、本庁と地方組織を合わせまして100名の増員が認められました。ただし、1名の減員というおまけがついておりますから、差し引き99名の増員であります。これはこれまでの1.5倍になるということでして、これで十分とは申しませんけれども、ある程度、人間を増やしてもらったということでございます。
 摘発件数が少ない、機能していないのではないかという問題については、確かに私もこれで十分だとは思っておりません。ただ、果たして摘発件数が少ないということを、どこで御判断になっているのかという疑問はございます。一つは、委員会の仕事というのは単に告発をするだけではございません。例えば、取引の監視を続けており、その中で違法行為に結びつきそうだという感じのものについては、それを調査ないし検査の対象にあげていくということで機能を果たしてきているわけです。昨事務年度の検査終了件数は97件であり、そのうちの60数件について問題点を指摘いたしております。告発は、昨事務年度は5件、これまでに39件ということですから、相対的な数としては低いと思います。ただ、問題は、それは我々の機能の問題だけではなくて、証券取引法の構成要件の難しさというところにも非常に問題があるわけです。証拠を集めていくことになりますと、客観的にある証拠というと、例えば、相場操縦をしたという問題については、そういう取引をしたことは証券取引所の場帳をみればわかるが、それ以外の証拠は全くないわけです。その中で、相場を操縦する目的をもって取引をしているのだということを立証していくことが必要なのです。客観的な事実で判断することもできないことはないわけですけれども、今の日本の、極めて精密な立証が求められる手法の中では、なかなか客観的事実だけでは、告発なり、起訴なりに持ち込むのは難しいという現象もあります。そういう中での職務の遂行だという点もあろうかと思います。もちろん、私は組織の未熟さ、つまり数が少ないということ、それから急遽発足した組織でありますから、あちこちから応援をいただきながら組織を作ってきたという中で練度の高さに問題がないとは言い切れないところにも原因はあろうかと思っております。ただ、現実には、委員会も必死でやっているということも確かでありますし、これから先に目を向けていただければありがたいと思っております。
 それから、組織がどうあるべきかということについてですが、いろいろな考え方があります。3条委員会というのはSECのようなものでして、これは完結的な権限を持っていますし、判断も早く、機能を果たすことができるという理想的なものであることも確かです。ただ、組織というものは必ず、メリットがあればデメリットもあるものでして、今、コングロマリットといわれておりますけれども、一つの会社が銀行もやり保険もやり証券もやるという状況が世界経済の流れであります。この中で証券の監視あるいは検査、処分を一つの組織が持っておくということには、やはり問題があるという見方もあるわけです。つまり、証券、銀行、保険全ての権限を一つの組織が持つことも必要だという論もあるわけでございまして、これも、一つの説得的な考え方であります。ただ、ここで考えなければならないのは、組織を変えていくときには、そこに大変な問題が起きてくるわけです。一つはそれに費やす精力、これはものすごく大きなエネルギーです。それから、もう一つは、組織ができたとして、新たに発足した場合の機能の低下という問題があるわけです。何度も組織を変えていきますと、決して正常な動きができません。当委員会は10年経って初めて今の動きになってきているわけです。そういう問題を考えますと、一つのメリットがあるから組織を変えろという論にはなかなか乗れないわけであります。そういう論議をしていただくことは大変ありがたいと思っておりますし、この委員会に期待していただいているのだと思っておりますが、そういう問題を乗り切れない。そこで、私が今出している結論は、現段階では、人間を増やす、人の質を上げていく、そしてこの組織を強化していって、それでもやはりこの委員会ではだめだということであれば、その時になって組織変更というものを考えようというものです。今、完結的な委員会でないということから出てくる隘路は、それぞれの権限を持っている、例えば金融庁の証券関係の部門とかあるいは財務局の有価証券報告書の受理部門とか、こういうところと十分な連携を保って、一つの機関であるのと同じ形の動きができるようにしながらやっていきたい。組織の変更については、その上で考えることだと思っております。御批判はあることだとは思いますが、実際的な観点から、今はこういう結論を出しているわけです。

(問)ネット取引の話について、ネット上で風説の流布があり、マーケットが荒れたりしている。こうしたことは、誰が何の目的でやっているのかというのは非常に難しい問題だとは思うのだが、これからもっと多くなる可能性がある。これに対する監視委員会の取り組み、対処についてお聞きしたい。

(答)ご指摘のとおり、ネットを通じた風説の流布というのは非常に大きな問題でありまして、我々にとっても大きな関心事です。そういう観点から、取引の審査をしているとともに、インターネット審査官を増やして、そういったことについて目を光らせているというのが現状であります。ただ、一つ御注意いただきたいのは、風説の流布というのは、おかしな情報が出れば、それが、即、風説の流布とはならないということです。158条をみていただければおわかりになるかと思いますが、証券取引のため風説を流布するとか、相場操縦的な目的のために風説を流布する場合だけが対象なわけです。単純に言ってしまって誤解されると困りますが、愉快犯という、いろいろな情報を流して喜んでいる者がいないことはないわけでして、取引のためという要素とか相場操縦的な目的のためではなく情報を流しているということになりますと、証券取引法上の風説の流布にはならないわけです。監視委員会は、証券取引法上の権限しか持ちませんので、これに対しては調査権限はないということになります。そういう場合には、刑法上の業務妨害という問題が生じてくることがあり、それは、検察、警察庁の問題でございまして、そちらで処理していただくより方法はないということになろうと思います。それからもう一つ問題がでてきますのは、風説の流布というものの中には、マスコミが掲載した正当な評論ないし報道も入っている場合があるわけです。それが事実と違っていたという場合には、報道の自由とか言論の自由などとどういう関係があるのか、そこを辿っていきますとかなりの問題が出てくるであろうという気がします。そうでなくても、いわば、評論の自由、意見表明の自由というのが確かにあるわけでして、例えば、株価の研究者が自分の判断に基づいて意見を発表した場合に、それが全て風説の流布になるかというと、やはり、先程言いました要件の有無を十分に検討しなければならない。それから、最後に、ご指摘がありましたけれども、果たしてこの情報を誰が出したのかということを辿っていくことに対しては、大変な問題があるわけです。というのは、これも憲法問題になりますが、通信の秘密に絡んでくるわけです。そうしますと、その供給源を探してくることについては、大変な制限がされているのです。ということで、なかなかこの風説の流布というものを事件としてあげていくことは難しいです。ただ、私たちは、これは今後の証券市場の健全性のためには捨てておけない問題だと考えていることから、それに対して懸命な努力はいたしております。しかし、これまで述べたような形での隘路があることから、なかなか事件の数としては上がってこないということもご理解いただけたらありがたいと思います。

(問)今後の意見交換会の御予定、今回大阪を選ばれた理由、どういう基準で投資家の方を選定されているのかを教えていただきたい。

(答)これまで、昨年12月に名古屋、今年1月に福岡で開催しまして、だいたい証券取引所があるところで開催してきましたから今回大阪に来たわけで、別にこの時期に特に大阪を選んだということではございません。引き続いて、札幌と仙台で5月ごろに行う予定にしております。
 人選につきましては、二つの考え方があるわけです。ゆっくりご意見をお聞きして、私たちの職務上の資料にしたいという場合、しかも、比較的証券取引に通じた方と懇談会方式でお尋ねしていくというやり方があります。そうでなくて、一般的な皆さんのご意見を聞こうではないかということも必要なことがあるかと思います。そういう場合には、例えば、大会場にお集まりいただいて、アットランダムな意見の発表や、それに対する私たちのお答えというやり方もあると思います。今回はそういう形を取らなかったものですから、証券取引所、あるいは証券業協会、近畿財務局等に人選をお願いしまして、御同意をいただける方に来ていただいたということになります。その場合に、できるだけ年齢層の離れている方、証券取引の経験の深い方浅い方等、なるべく幅広い層の方からお選びいただきたいということで選定をしていただきました。これがベストであったかどうかはわかりませんが、一つのやり方として、このやり方をいたしました。

(司会)それでは、これを持ちまして記者会見を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

(以上)

 

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