証券会社の検査結果に基づく建議について

平成15年12月16日
証券取引等監視委員会


 証券取引等監視委員会は、証券取引法の規定に基づき、証券会社の検査を行った結果、取引の公正確保のための施策の必要性が認められたので、金融庁設置法第21条の規定に基づき、本日、金融庁長官に対して、下記のとおり建議を行った。



 証券会社の検査の結果、

(1)

 証券会社が、当該証券会社に所属しない証券アナリストとの間で、投資者への勧誘等に際し使用するためのアナリスト・レポートの作成に係る契約を締結したが、当該アナリストは、当該契約に基づき作成する個別の発行体に関するアナリスト・レポートに、当該発行体に係る株式について新規に買い推奨を示すレーティングを付した場合に、同レポートの投資者への公表前に当該株式の買付けを行い、公表後に売付けを行うといった行為を繰り返しており、証券会社のアナリスト・レポート及び証券アナリストに係る管理が十分なものとは認められない状況

(2)

 証券会社が、情報提供会社に対し、銘柄を指定した上、対価を支払ってアナリスト・レポートの作成を依頼したが、同レポートがそのような事情の下で作成されたことを同レポートに表示することなく投資者に対し公表している状況

が認められた。

 一般に、アナリスト(証券会社が投資者への勧誘等に際し使用するアナリスト・レポートを作成する証券アナリストをいう。以下同じ。)は、発行体や証券会社から独立した、かつ偏りのない意見を投資者に提供する責務を負っているものと考えられるが、他方、発行体、証券会社及び投資者間の利益相反において、発行体や証券会社の利益を優先し得る立場にあり、また、自らの証券取引上の利害関係に基づく取引を行い得る立場にある。
 上記(1)におけるアナリストの行為及び証券会社の管理状況は、当該アナリストの証券取引上の利害関係の存在を明らかにしていないなど、アナリスト・レポートの信頼性を損ねることとなる不適切なものと認められること、また、(2)における証券会社の行為は、アナリスト・レポートに係る当該証券会社からの意見の独立性に関し、投資者に誤解を生ぜしめるべき表示をする行為と認められることから、それぞれ、証券市場に対する投資者の信頼を損なうものと認められる。
 このように、投資者への勧誘等に際し使用するためにアナリストにアナリスト・レポートの作成を依頼する証券会社は、アナリスト・レポートを利用して自らの営業を行っている以上、アナリスト・レポート及びアナリストに対する適切な管理や措置を講じるべき立場にあるものと考えられる。

 そこで、投資者保護及び市場の公正性、透明性を高める観点から、証券会社が投資者の勧誘等に際し使用するアナリスト・レポートに関する利益相反行為等を防止するため、証券会社に対し、アナリスト・レポートの対象銘柄についてアナリスト自身の保有状況を当該アナリスト・レポートに開示させ、その内容を検証させることや、(2)における証券会社の行為が法令違反となることを周知することなど、当該アナリスト・レポート及びこれを作成したアナリストに対する適切な管理体制を構築させるための措置を講じる必要がある。



今回の建議の補足説明


 証券会社の検査において認められたアナリスト・レポートに係る証券会社の管理状況等の詳細は、以下のとおり。



.(1)の状況について

 

)A証券会社は、株式業務の強化を目的に社外からアナリストを採用する方針の下でアナリストを探していたが、証券会社に所属しないアナリスト甲との間で、アナリスト・レポートの作成に係る業務委託契約を締結することとなった。



)その際、A社は、甲に対し、甲の証券取引を管理するため取引口座の当社への移管を求めたが、これを拒否されたことから、甲との間の契約書に甲が法令遵守を行う旨の条項を入れることとし、その後の契約更新にあたっても同様の内容で更新した。その結果、A社は、甲の作成したアナリスト・レポートに甲自身の証券取引上の利害関係の存在を明らかにするなどの措置をとらないまま、株式営業において当該アナリスト・レポートを使用していた。



)このような状況下で、当該契約期間中、甲は、当該契約に基づき作成する個別の発行体に関するアナリスト・レポートに、当該発行体に係る株式について新規に買い推奨を示すレーティングを付した場合には、A社による当該アナリスト・レポートの投資者への公表前に当該株式の買付けを行い、公表後に株価が上昇した時点で売付けを行うといった行為を繰り返していた。



.(2)の状況について

 



)B証券会社は、情報提供会社に対し、新規公開株式や、B社の顧客が保有する銘柄のうち特定の銘柄に関するアナリスト・レポートの作成を依頼し、B社のインターネットのウェブ上に当該アナリスト・レポートを掲載し、B社に口座を開設している顧客に対し、無料で閲覧させていた。



)当該掲載に際して、B社は、当該情報提供会社に対し、アナリスト・レポート作成を指示する際、B社自身が銘柄を指定し、その対価を契約に基づき支払うこととしていたが、当該アナリスト・レポートにはその旨の表示がなされておらず、当該情報提供会社自身が新規公開株式等の中から、独自に銘柄選定を行って作成したものであるかのように掲載されていた。



)上記のB社の行為は、証券取引法第42条第1項第9号に基づく証券会社の行為規制等に関する内閣府令第4条第1号に規定する「重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」に該当する。

 

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