証券会社の検査結果に基づく建議について 平成15年4月22日 証券取引等監視委員会
証券取引等監視委員会は、証券取引法の規定に基づき、証券会社の検査を行った結果、証券会社の営業姿勢に関して問題点が認められたので、金融庁設置法第21条の規定に基づき、本日、金融庁長官に対して、下記のとおり建議を行った。 記 1.発行会社の既発債の市場における流通利回りが大幅に上昇している状況下における普通社債の個人投資家向けの募集の取扱い 最近実施した証券会社の検査において、証券会社が、社債の信用リスクに係る重要な情報の一つである発行会社の既発債の市場における流通利回りに大幅な上昇傾向が認められる状況において、当該流通利回りの動向を適切に反映しない投資者にとって不利な発行条件で発行される当該発行会社の新規社債について、当該流通利回りの変化の状況を顧客に説明する等の措置を講じることなく、個人投資家向けに募集の取扱いを行っている事例が認められた。 2.対象株式の株価が大幅に下落している状況下における他社株券償還特約付社債券の個人投資家向けの売出し 最近実施した証券会社の検査において、証券会社が、他社株券償還特約付社債券(以下「EB」という。)への投資に影響を与える対象株式の株価が大幅に下落している状況において、当該対象株式の株価水準を適切に反映しない投資者にとって不利な発行条件で発行される当該EBについて、対象株式の株価水準が当該EBに対する投資に与える影響を顧客に説明する等の措置を講じることなく、個人投資家向けに売出しを行っている事例が認められた。 なお、当委員会は、EBのクーポンが当該EBに内包されているプットオプションの理論価格のうちの本質的価値の部分を下回り、その後の株価水準にかかわらずEBの投資リターンがEBの対象株式を直接購入して得られる投資リターンより低い状況となるなど、EBの売出条件が投資者にとって著しく不利となっている状況において、顧客に適切な説明をすることなく行われたEBの売出しに関しては、証券会社に対して、誤解を生ぜしめるべき表示の法令違反にあたるとの指摘を行っている。 上記の証券会社の営業姿勢は、いずれも社債の発行ないし売出しの条件を決する重要な市場要因について短期的に大幅な変化が生じており、それにより社債の発行条件等が投資者に不利な状況へと変化している状況において、上記市場要因の変化の状況に関する顧客への説明等の措置を講じることなく、投資判断に係る情報の収集力に乏しい個人投資家向けに社債の募集の取扱い又は売出しを行っているものであり、顧客に対し誠実かつ公正に業務を遂行するという観点から極めて問題があると考えられる。 したがって、このような証券会社の営業姿勢を是正し、有価証券の投資に影響を与える市場要因が短期的に変化する場合、当該有価証券を募集、売出しによって取得する個人投資家が情報面等で不利な状況となることを防止するために、証券会社が個人投資家向けに有価証券の募集の取扱いや売出しを行う場合における説明等についてのルールを整備する必要がある。
今回の建議についての補足説明 1.建議の趣旨 短期的な市場要因の大幅な変化により、顧客に不利な条件で発行されることとなる社債の募集の取扱いや売出し等について、これを取得する個人投資家を保護するためのルールの整備を、金融庁長官に建議する。 2.証券会社の検査で認められた状況 個人投資家向けに社債の募集や売出しを行う場合、募集等の期間が機関投資家向けの場合に比べて長く設定される傾向にあるが、証券会社の検査において、短期的な市場要因の変化により社債の発行条件や売出条件が顧客に不利となる中で、発行条件等の見直しや起債の延期を十分検討することなく、また、そうした市場要因の変化についての情報を顧客に対し提供することなく、個人投資家に社債の勧誘が行われている状況が認められた。
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証券会社は、平成12年に個人向けにA債の募集の取扱いを行った。 |
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A債は3.25%のクーポンで募集販売が行われたが、募集期間中及びその直前に、A債の発行体の既発債の流通利回りが著しく上昇している状況が認められた(別紙1参照)。 |
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既発債の流通利回りの上昇は、発行体の信用リスクが高まっていることを示すものであるとともに、既発債の取得と比して新発債取得の投資効果が低いものであることを示すものである。 |
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証券会社に対しては、こうした募集の取扱いについて、営業姿勢上の問題を指摘している。 |
(2) B債(他社株券償還特約付社債券(EB))の売出しについて |
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証券会社は、平成11年に個人向けにB債の売出しを行った。B債の売出しの概要は以下のとおり。 |
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基礎価格(権利行使価格) 245万円 |
売出価格 |
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245万円 |
償還期限 |
4か月 |
クーポン |
年率13%(1券面あたり108,820円) |
償還条件 |
評価日における対象株式の株価が245万円以上であれば現金で償還、245万円未満であれば株券で償還。 |
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一般に、発行条件決定時以降、EBの対象株式の株価が下落すると、当該EBに内包された対象株式のプットオプションの理論価格が増大することとなるため、プットオプションを一定額(クーポン)で売る立場にいるEBの顧客は、発行条件決定時に比べて不利な状況となる。 |
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B債について、発行決定時以降売出し期間中において、対象株式の株価が著しく下落し、これに伴って対象株式のプットオプションの理論価格が著しく上昇している状況が認められた(別紙2参照)。 |
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証券会社に対しては、このような売出しのうち、株価が終日にわたって著しく下落している日における勧誘について、誤解を生ぜしめるべき表示の法令違反にあたるとの指摘をしている。 |
3.有価証券の募集の取扱いや売出しを行う場合のルールの整備 今後、上記2のような状況が発生することを防ぐために、個人投資家向けに募集、売出しを行う際に、市場要因の変化により有価証券の取得が顧客に不利な状況となっていることについて証券会社に説明させるなどのルール整備を図る必要がある。 資料等 (ファイル容量は98kbあります。) |