委員長記者会見

(12月26日(水)15時00分~15時30分 於 金融庁会見室)


 ご承知の通り、機構・定員、そして予算の政府案が決定されました。監視委員会では、61名の増員が認められております。現在122名でありますから、合計182名(定員削減1名)、現在の約1.5倍になります。財務局に監視委員会の地方組織がございまして、そちらで39名の増員が認められておりますので、合わせて100名の増員となっております。予算面でも、我々が要求しておりました、インターネットの巡回監視システム等をはじめとする予算の、ほぼ全額が認められました。大変厳しい定員状況、財政状況の中ですが、抜本的な改革が図られたと評価しております。このような機構・定員を最大限に活用いたしまして、監視体制や機能をさらに強化していくことを考えております。具体的には、次のようなことをやっていきたいと思っております。
 一つ目は、民間専門家の積極的登用でございます。これは、専門家がもっておられる高度な知識や経験、技術的なノウハウを活用していくということでございます。現在、民間からの登用は7名でございますが、今回四十数名の応募がございまして、その中から11名の方を内定いたしております。ディーリングやデリバティブ等の専門家が含まれているということを聞いております。今後も引き続いて、民間専門家の登用を続けていきたいと思っております。
 二つ目は、外国当局との連携の強化でございます。先般、私が英米の監視当局、自主規制機関等を訪問いたしまして、米SECのピット委員長、英FSAのデービス理事長らと率直な意見交換を行い、今後監視当局間で一層の連携を強化していくとの合意をみました。
 三つ目に考えておりますのは、現にもう始めておりますが、自主規制機関との連携を強化するということです。やはり現場に一番近く、取引の実態や、そこから生まれる法違反の実態に一番通じ、かつ、そういった情報をいち早く手に入れることができる立場にあるのは、自主規制機関です。我々はこれらの機関との協力をさらに強め、それによって市場監視、あるいは透明性の確保といったものに、より一層の効果をあげていきたいと考えております。現在は、東京証券取引所、大阪証券取引所、日本証券業協会との一回目の協議を、それぞれ終えております。
 また、少し性格は違いますが、投資家に対する正しい知識の啓蒙ということで、名古屋におきまして、投資家との意見交換会も行っております。
 このような体制や機能の強化という点を図りつつ、監視委員会の活動としては当面、以下のような点に力点を置いていきたいと思っております。
 まず、検査の面では、個人投資家を保護するという面から、引き続き証券会社の営業姿勢に厳しい目を向けていきたいと思っております。特に、いわゆる適合性の原則の精神を重く見ながら、その趣旨を踏まえて、徹底的に点検していきたいと考えております。
 それから、監視委員会のもつ日常の市場監視機能を、自主規制機関のもつその機能との連携を図りながら、より一層適切に発揮していきたいと考えております。そのためには、情報の効果的な収集・交換、分析が必要であると考えております。特に、市場の価格形成を歪める取引については、時機を失せずに監視していきたいと思っております。また、今まさに問題になっておりますが、インターネットを利用した風説の流布に関しても、厳しく取り締まっていきたいと考えております。これに関しましては、今月(12月)19日に財務局と共同で約20名の審査官を投入して、インターネット・サーフ・デイを実施いたしました。インターネット上の悪質な書き込みを、一斉かつ集中的に収集・審査しているところであります。
 それから、もっとも大きな関心事でございますが、犯則事件に関しまして、インサイダー取引や株価操縦に厳しい目を向けて、積極的な摘発をやっていこうと考えております。先日、大阪にあるフットワークエクスプレスの有価証券報告書の虚偽記載に関して告発いたしましたが、有価証券報告書は投資者の判断を適正にするためにとても大切なものでありますから、ディスクロージャーに対する的確な監視とその違反に対する摘発を行っていきたいと思っております。
 また、これも先般金融庁が発表いたしましたけれども、空売りへの総合的な取り組みを踏まえまして、監視委員会でも、証券会社に対する検査や報告聴取を通じて、空売りとこれに伴う法令違反に関して重点的に点検をしていきたいと考えております。
 私のほうからは、組織・体制、そしてこれからの重点的な目標について説明を申しあげました。以上です。

<質疑応答>

(問)新体制になってからのSESCの活動をどう評価しているのかということと、反省点、課題などをお聞かせいただけますか。

(答)7月に前委員長が引退されまして、幹部の相当数が変わりました。実は私は、内心では委員会の機能がいささか滞るのではないかと思い、その点に関して厳しい目で見ていましたが、杞憂でございました。きわめて円滑に進んでいっており、審査・検査・調査の各部門もそれぞれ全力を挙げて仕事をしております。今は新体制発足からまだ6ヶ月ですので、6ヶ月の間に挙げた成果はこれから明らかにしてまいります。私の見るところでは、きちんとした仕事ができております。これからは、組織力を動員して、責務を果たしていきたいと思います。

(問)空売りの規制強化の話が出ました。空売りがマーケットを攪乱しているといわれておりますが、委員長はどう考えておられますか。

(答)空売りというものは、机上の論議でいえば、確かにこれによってマーケットの価格を上下させることが可能ではあるだろうと思います。したがって空売りに関しては、そこに法令違反を伴うかどうかを厳しい目で見ていかなければならないと思います。現在のところ、特に、市場の価格に影響を及ぼしたかどうかということについて、確定的な認定はいたしておりませんけれども、そういう目で厳しく監視をしていきたいと考えております。

(問)1月から株式取得機構が設立して銀行の株の保有制限に向けた取り組みが始まりますが、これとSESCとの絡みで、委員長がお考えになっていることをお聞かせください。

(答)ご承知の通り、監視委員会の業務は事後の監視でございますし、そこから生じてくる違法行為、あるいは不法行為について摘発していくということですから、このスタンスは、制度あるいは法律がどう変わっていっても変わるものではございません。監視委員会は、まったく同じ形、つまり市場の透明性のために動いていくということにとどまると思います。

(問)委員長が代わられてから、我々から見てもなかなか大物の会社を検査されて結果を出されているという印象を受けるのですが、大きな証券会社を重点的に検査しておられるというようなことがあるのでしょうか。

(答)ご評価は大変ありがたいのですけれども、大変な過大評価だと私は思っております。我々の日常の検査だとか調査というものは、きわめて固定的なものでありまして、虚心に淡々と検査・調査を行っているものであり、その結果違反行為が見つかれば、行政処分の勧告を行うなり処罰をするなりしていくわけでありまして、特にこういう事件を狙うだとかこういう会社に目をつけようとかいうことはございません。ただ、現実に、市場の取引の中で、ある特定の会社の行為によって問題が起きているということであれば、その会社に対する目を厳しくしていくということはございますけれども、それ以外はきわめて淡々とやっているのが現状でございます。

(問)違法な取引の発見から告発までに時間がかかることがあったと思いますが、体制強化におけるスピードアップの面での取り組みについてはどうお考えでしょうか。

(答)あたりまえのことですけれども、証券市場における違法行為というのは、長い間放っておいて、後で処分をしてみても仕方がないわけですよね。やはり違法行為は、厳しく、早く処置をして、それによって乱された市場の秩序を確保していくというものなのですから、スピードというのは何より重要なことであります。確かに、これまで告発までにかなり時間がかかったものもございました。刑事事件として告発をするためには刑事訴訟法上の原則がかかってきます。Beyond reasonable doubt、つまり、合理的な疑いがまったくないまでに立証をしろというのが刑事訴訟の原則ですから、ぎりぎり、ぎりぎりと証拠を詰めていかなければならない。そういうことでどうしても時間がかかるところがあると思います。
 それともう一つは、取り調べとか調査というのは、きわめて技術的な面が多くなってきます。組織が新しくなると、その技術をまた養成していかなければならないという面もあるわけでございまして、若干の隘路はあると思います。しかし、これからは、人員が約1.5倍になるわけですから、時間的な面も解決していきたいと思います。現に、今回のフットワークの件などは、相当早いペースで進んできたと私は思っております。これからはそういう面も厳しく見ながらやっていきたいと思います。

(問)告発を受け取る検察当局の側が混雑しているというか、隘路になっているのということはないのでしょうか。

(答)隘路になっていることはないと私は思います。私は検察の出身なので、よく理解できるところなのですが、やはり我々監視委員会のように現場でやっている人間としては、これだけ証拠があればなんとかしてくださいよ、という気持ちがある。ところが、検察のほうから見ますと、先ほど申しあげました証拠法の原則に基づきまして、こことここがおかしいじゃないか、ここを補充してもらわなければうち(検察)としてはやれない、というのは当然でございます。特別な告発権限を与えられている当委員会としては、それに沿っていくのが当たり前だと私は思っております。そのために若干交渉や協議が行われますので、そこで時間が経つこともあるのでしょうが、それは将来のきちんとした刑事裁判のためにどうしても必要なものでありまして、私は隘路とは思っておりません。むしろ、その指摘をありがたく受けて、それをカバーしてやっていくのが当たり前のやり方だと思います。

(問)閣僚の株取引の解禁に関して塩川大臣から提案が出され、本気で検討したようですが、インサイダーを取り締まる委員長の立場から見てどういった感想をもっているのか、また、今後もこういった話が出てくるかもしれないことに対して、どのような意見をお持ちなのかをお聞かせください。

(答)それは、政策の問題ですから、我々の職務とは直接関係がないと思います。ご承知の通り、監視委員会の職員は株の取引は自粛しています。これはなぜかというと、実際にはそういうことはないのかもしれませんけれども、重要な情報に接する可能性があるからだということです。政治家が株取引をするということは、それ自体は決して間違ったことではないと思います。ですから、それを解禁しようという動きが出てくるのも当然だと思います。しかしながら、翻って考えてみますと、政治家の方々は、これは理屈の上ですけれども、重要な情報に接する可能性が皆無とはいえないだろう、と思われます。この理屈を前提として考えますと、望ましいあり方としては、閣僚による株取引はないほうがいいのではないかという感じをもつわけですね。株取引という当たり前のことと、国民の疑惑を招かないための最善の方策を天秤にかけた上でご判断になったのだと思います。私はそれがいいとか悪いとかは申しあげませんが、少しでも国民の中に疑惑が起こるとすれば、それはまずかろうという判断で選ばれたのだと思います。別段、私の口からは、いい、悪いと言える筋合いのものではないですが、これは良識に沿ったご判断であったなと感じております。

(問)例えば今後、また同じような案が浮上してきた場合、それは良識がなく、あまり望ましいものではないとお感じになりますか。

(答)今申し上げたことは、誰でもやれる株取引と国民の評価というのを天秤にかけての判断ですから、今の判断としては良識があるであろうということです。ですが、今後状況が変わって、もう一度天秤にかけたところ、疑惑を招く恐れがないというのであれば、判断は変わってくると思います。これは、実質的には、いいとか悪いとかいう問題ではないのだと思います。

(問)先般の財務省の国債市場懇談会の席で指摘された意見なのですが、日本国債の格下げをめぐりまして、その格下げの情報が、公表の前に一部のマーケット参加者に対して漏れているのではないかという疑惑があげられました。要は、格下げが発表される前に、マーケットが格下げを織り込むような動きをとったということのようです。故意に情報が流されたのではないか、適切に対処してほしい、というような意見があげられておりましたが、これに対する監視委員会のご意見はいかがでしょうか。

(答)国債の格付けが、証取法166条にいうところの重要事実にあたるのかということは、以前国会でも検討されたことがあったと思います。答弁は、きわめて条件的なものを設定すれば、当てはまることもあり得るというようなものでした。そのように、きわめて微妙なところがあります。もし情報が流れたのだとすると、法律的な解釈の面と、本当に情報が流れて一部の人が活用しているのかどうか、そしてそれが166条にいうところの重要事実に当たるのか、さらにその人が166条にいうところの第一次受領者に当たるのか、そういうものを全部調べてみてから、判断せざるを得ないということですね。ここで抽象的に、インサイダーになるとかならないとかいうことは非常に難しいことです。法律論も一つありましょう、それから事実認定論もおそらくありましょう。


(以上)

 

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