高橋前証券取引等監視委員会委員長記者会見の概要

(平成19年7月20日(金) 15時00分~15時20分 場所:金融庁会見室)


【高橋前委員長より発言】

平成10年に他の組織からこの委員会に着任して、9年経ちました。その間に、皆様方、そして皆様方の先輩又は同僚の金融庁担当委員会担当として活躍された方々に大変お世話になりました。ありがとうございました。

ご挨拶とはちょっと離れてしまいますが、この間の証券市場の動きについて、概観してみたいと思います。ご承知のとおり、1990年代の金融ビッグバン、これを契機といたしまして証券市場で多くの新しい動きがありました。例えば、証券会社への参入あるいは退出が比較的自由になったということ、また、各種の規制が緩和されてきたということもあろうかと思います。更には、いわゆる金融工学の発展によりまして新たな商品が多数生まれてきたということもあります。加えて、ネット取引が急増しました。そして、クロスボーダー取引を背景として、外国発の証券取引法違反が発生してまいりました。こういうものが私が在任中の市場の動きの特徴であったと思います。

こうした中でこの委員会は、深度ある検査あるいは審査、調査を行ってまいりました。皆様方お感じになっていると思いますけれども、事件の内容についても数にしても、あるいはその処理についても、これまでよりもずっと深化してきました。これらを背景にして、この委員会の権限も大幅に拡大されました。課徴金制度ができたというのもその中の一つであります。それから開示検査の権限、つまり有価証券報告書等に対する検査の権限も付与されました。また、証券会社等に対する検査についても、委員会に一元化されました。このような権限の拡大に伴い、委員会の組織についても、従来の2課制から5課制になりました。この5課制によってそれぞれの組織の責任制が確立したと言っても良いと思います。それから、権限の拡大等に伴い人的なパワーも拡大されました。この委員会の発足当時80余名であった委員会本庁の職員数は、今は341名になりました。これに地方機関である財務局監視官部門の職員を含めますと、全部で609名になります。こういう権限面あるいはマンパワーの拡大を図る一方、組織力の向上を考えてきましたが、監視官部門との協働、あるいは委員会内部の各課の相互理解、更には自主規制機関との協力等によってこれも段々と実現に向っています。

国際化の問題ですが、先程も言いましたとおり、クロスボーダー取引が増加しました。これは一つにはインターネット取引が活発になったということに原因があります。今、世界には、いくつもの証券取引所がありますが、これが、機能的には大きな一つの証券市場として動いていると言っても過言ではないと思います。日本の場合、外国に居住するいわゆる非居住者が日本の市場で証券取引法違反の行為を行うという事例も生まれてまいりました。これは我々規制当局にとって見逃せない事象でした。具体的に言いますと、非居住者が海外において重要事実を知り、日本の市場においてインサイダー取引を行うという事例も発生しました。しかし、非居住者に対して直接調査を行うことは、極めて困難であり、法的には主権の行使という問題にも突き当ります。ですから監視委員会の力だけでこれらの問題をすべて解明しようということはたいへん困難なことであり、どうしても国際的な規制当局との協力が重要になってくるわけで、この傾向は今後ますます大きくなるであろうと考えております。具体的事案については、この委員会が前に発表しておりますが、これまで3件の外国発の日本市場におけるインサイダー取引の事実が確認されております。これらの事案については、それぞれの国の規制当局に通報いたしまして、その結果、それぞれの国の法律を適用して適正な処理がなされました。以上のようなことが私が在任中に感じた大きな変化です。

最後に、証券市場の関係者の方に是非お考えになっていただきたいことについて申し上げておきたいと思います。証券市場を取り巻く変化が非常に大きいと今申し上げましたけれども、これに対応して法制面では既に金融商品取引法等ができまして、まもなく全面施行になります。また、この委員会でも検査マニュアルをリニューアルして対応を行っているところでありますが、ただ、法律は、ご承知のとおり、社会的な事象を後ろから追いかけていかなければならないという宿命を持っております。証券市場の動きを先取りして日々法律を変えていくということは不可能です。ですから私は、こういうふうな状況の中で真に健全な証券市場を支えるものは何かというと、それは人間の誠意、誠実心、インテグリティの問題であると思います。ギリギリ法律違反にならないのだからいいじゃないかというような考え方がありますけれども、それでは証券市場が適正円滑に動き、信頼を得るものとはなりません。市場の規律、社会の規律、これを大局的な面から見て、行動していただくということが重要です。難しいことではありません。常識的な判断をしていただければいいということであります。そういうことが、いつかは個人投資家を含めた投資家の信頼を生み、証券市場の発展に繋がり、ひいては証券会社や証券取引所その他の関係方面を利するものになってくるものと私は確信しております。

新しい委員長は、私と同じく法律の分野から着任した者です。証券市場に対する適正な見識を持っておられます。新しい委員長につきましてもよろしくご支援をお願い致します。

私の話は以上で終りますが、何か御質問がありましたらお受けします。

問)3期9年お疲れ様でした。この間、体制を充実されてきて委員会の役割も重要になってきていますけれども、特に委員長の印象に残られている案件について教えていただければ。

答)これは、私がポストを変わる度に聞かれたことでした。しかし、私は、そう聞かれると、その期間に扱った全ての事件に全力を尽くしておりますとお答えしております。事件については必ず関係者がいます。公判中の事件もございますので、私が個々の事件を取り上げて、印象について申し上げることは適当ではないと思っております。私が在任中にこの委員会が取り扱った事件につきましては全部発表してありますから、それをご覧いただければと思います。

問)先程のお言葉の中にもありましたけれども、改めて今後の委員会への期待をもう少しお願いします。

答)今申し上げたとおり証券市場は激しく変化しています。この傾向は今後も続くだろうと思っております。委員会、委員長、両委員がこの証券市場の変化を鋭敏な目で探り、問題点を把握して対応して行くことが重要であると思います。

問)今後ですけれども、プライベートな部分になっちゃいますが、どうお過ごしになりますか。

答)どうしましょうかね。まあしばらくのんびりさせてもらいます。

問)せっかく各社揃っておりますので、マスコミに対してのお小言、注文でも。

答)この委員会は、行政機関ではありますが、政策を打ち出すことを主たる目的とするものではありません。政策については、その都度それを明らかにすることができるかも知れませんが、我々はあくまでも法違反行為、犯則行為に対して事実関係、証拠を確定して、適切な処理をするということでありますから、そこには自ずから記者の皆様に発表する場とか時間に対する大きな制限があります。もちろん我々はマスコミの方々の活動を大切にしております。それが非常に重要なものであることも認識しておりますけれども、我々の立場、問題意識についてもご理解いただきたいと思っております。特に、着手前の事案になりますと、どうしても証拠の隠滅や関係者の逃亡などを防止しなければ、事案の早期の摘発ができなくなってしまいます。それは、投資者はもとより、証券市場に大きな影響を及ぼすことになります。その辺のことを十分にご理解をいただければと思います。

問)委員長の在任中に監視委員会の組織の改革論議とかというのが時折一度ならず何度か出たと思うのですけれども、実際に現場の長として、こういったところに機構的な改善の余地があるとか、あるいは今まで起こっていた議論について、現場の実感としてはややありがた迷惑だとか、そういった感想があればお伺いしたいのですが。

答)組織をどうするかは、たいへん難しいことです。それでこれは極めて紋切り型の回答をするならば、組織問題は私の委員会の担当ではございませんということになるんでしょう。おそらく組織問題というのは金融庁でお考え頂くことだと思います。しかし私はこの委員会の責任者としてこの場にあったわけですから、そういう答えでは答えにならないだろうということも十分に知っております。証券市場の規制機関の組織には米国SECと英国FSAの形とがあります。そのどちらがいいかというと、どちらともいい面もあれば悪い面もあるわけであります。私は日本の制度をどうするかということを考えるについては、そういう外国の制度を真似ていくこと、この国ではうまくやっているからこの制度にしようと考えることには賛成できません。その国の特殊性とかあるいはこれまでの組織の形を一つ一つ検討してその中から日本にどれだけ合っているかという観点から組織を選択していかなければならないと思います。こういう観点で見ますと、監視委員会の権限の面については全く不服はございません。それから独立性の問題についても、検察の独立性が言われておりますけれども、それと同じ形の独立性が保たれております。私がここに着任して9年になる間に、金融庁サイドから何らかの指示が来たことがあるかというとこれは絶無です。正直な話です。それから大臣から何かご下問があり、かつ、また、こういう措置をしてくれという話があったかというと全くありません。政界からもございません。それほどここの独立性というのは保たれております。ただ、おそらく疑問が出てくるところは、人事と予算はどうなるんだというのがあると思います。確かに金融庁が人事と予算の権限を持っております。そういう意味ではそれも委員会で持ったほうがいいのではないかという論もあり得るだろうと思いますが、ただ、この組織で何か不便があるかというと全くございません。人員の問題、人事の問題あるいは予算の問題についても金融庁と十分に論議をして我々の希望を通していただいているということですので、新たな組織にするという必要性も考えておりません。ただ一つ言えるのは、地方組織というものが財務省の組織であります財務局の一部門でありますから、そこの点がこのままでいいのかなという感じはありますけれども、しかし現実の問題としてこの9年間でそのことから何か問題が出たかというとこれも全くありません。相互に協力しながら一つの目標に向かって動いていってるということでございますので、結論的に申し上げますと、私は、今の委員会の形で十分だとは言いませんが、格別の問題があるとは考えていません。

問)委員長の在任中に課徴金制度が導入されましたけれども、これについてどのような評価をお持ちでしょうか。

答)やってみなければわからないもので、最初の段階では私は若干の疑問を持っておりました。しかしながら、この課徴金制度が始まって以来、実に的確な処理が出来ていると思っております。インサイダーその他の事件につきましては、特調課も当然のことながら権限を持っています。これまでの事件の処理の中で、完全な棲み分けが出来ているわけではありませんが、うまく効率的に動いているなと感じています。

質問がなければこれで終わらせていただきます。よろしいですね。ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(以 上)

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