外国為替証拠金取引業者に対する検査結果の概要について

平成20年7月2日

証券取引等監視委員会


  • 1.趣旨等

    証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、昨年8月の米国のサブプライムローン問題に端を発した経済情勢の急変や外国為替証拠金(FX)取引を取り扱う金融商品取引業者の破綻を踏まえ、特に、昨年11月以降、FX取引を取り扱う金融商品取引業者に対し重点的に検査を実施してきたところである。

    • (1) 今般の検査においては、特に、FX取引業者の不健全な財務状況や区分管理(顧客から預託を受けた保証金等を自己の固有財産と区分して管理すること)の不徹底が、投資者の損害に繋がる可能性が高いことから、証券監視委は、FX取引業者の財務の健全性やリスク管理態勢について重点的に検証を行った。

    • (2) 検査の結果、証券監視委は、

      •  自己資本規制比率を嵩上げし登録を受ける等不正又は著しく不当な行為を行い、その情状が特に重いと認められたこと、
      •  財産の状況に照らし支払不能に陥るおそれが認められたこと、
      •  顧客から預託を受けた保証金等について自己の固有財産と区分して管理していない状況(区分管理違反)が認められたこと、
      •  自己資本規制比率が120パーセントを下回っている状況及び純財産額が最低純財産額である5,000万円に満たない状況が認められたこと、
      •  区分管理違反及び自己資本規制比率について当局に虚偽の届出を行ったこと、
      •  システムリスク管理態勢が極めて杜撰であることが認められたこと、
      •  受託契約等の締結の勧誘を受けた顧客が当該受託契約等を締結しない旨の意思を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続する行為が認められたこと、

      から、行政処分を求める勧告をそれぞれ行っている。

      なお、区分管理違反については、顧客が預託した保証金等が適切に区分管理されず、預託された保証金等が業者によって費消されているという状況も把握された。

    • (3) 以上の検査結果を踏まえ、業者の個々の問題を明らかにするだけでなく、業態に共通する問題を明らかにすることによって、広く投資者に注意喚起する必要があると考え、FX取引業者に対する検査結果の概要を取りまとめ、公表することとした(なお、一部の業者については、現在も検査を続行中であり、本報告はこれまでの重点検査において把握された問題点等を暫定的に取りまとめたものであることに留意する必要がある)。

  • 2.検査実施先

    73社(委員会5社、関東財務局49社、近畿財務局7社、東海財務局7社、福岡財務支局3社、北陸財務局1社、北海道財務局1社)に対して臨店検査を行った(平成20年6月末現在)。

    なお、検査先には、FX取引専業業者のみならず、旧金融先物取引業を兼業している証券会社も含まれている。

    このうち7社については前述の重大な問題が認められたこと等から行政処分を求める勧告を行ったが、その他に32社に対して自己資本規制比率の算出誤りやシステム管理態勢の問題が見られたこと等から問題点の指摘を行っている。これらの業者のうち、ほとんどの業者からは今回の検査結果を踏まえた改善報告が既に提出されており、多くの業者において改善策が既に実施されている。

    (参考)

    FX取引を取扱う金融商品取引業者 126社 (注1)
    検査着手件数 73社
    勧告件数 7社
    その他問題が認められた業者の件数 32社

    (注1)金融庁監督局証券課がアンケート調査対象とした業者数(なお、アンケート調査結果については、平成19年12月7日公表)。

    (注2)それ以外は平成20年6月末現在の数字。

  • 3.検査結果の概要

    • (1) 区分管理に係る内部管理態勢

      顧客から預託を受けた保証金等(委託証拠金等)について自己の固有財産と区分して管理する方法として、預貯金(当該保証金であることがその名義により明らかなものに限る。)、金銭信託(当該保証金であることがその名義により明らかなものに限る。)又はカバー取引(注)先への預託等が定められている。

      • (注)カバー取引とは、一般に、業者が、顧客との取引により発生し得る損失を減少させるために、他の業者等(カバー取引先)を相手方として行う取引である。

        FX取引においては、他の業者等(カバー取引先)に顧客から預託を受けた保証金を差し入れ、レバレッジの効いたカバー取引を行い、リスク移転することにより、顧客に高いレバレッジ取引を提供できるという要素もある。

      • マル1 カバー取引先への預託に係る問題点

        カバー取引先への預託によって顧客からの保証金等が管理される場合でありながら、実際には、同一の口座でFX取引業者自身の保証金等と渾然一体となっており、顧客からの保証金等の額を把握しておらず、自己の固有財産と顧客の財産を適切に区分管理していない事例が多く認められた。

        これらの中には、顧客から預託を受けた保証金等が、当該業者の社長の友人への貸付に流用されている事例、当該業者の社長への貸付金、従業員への給与等に流用されている事例、特定の顧客の損失を穴埋めするために他の顧客の保証金等を充当している事例といった極めて杜撰な管理の状況が認められた。

        また、カバー取引先に預託していた顧客の保証金等を基に、自己勘定取引(カバー取引を除く。以下同じ。)を開始したが、当該取引に失敗し、別のカバー取引先に預託していた顧客の保証金等を基に新たな自己勘定取引を開始したものの、昨年8月の外国為替相場の急変により損失を拡大させた結果、顧客から預託を受けた保証金等を費消するなどした事例が認められた。

        ある業者においては、こうした損失の発覚をおそれて、架空売買により、顧客の口座へ損失を付け替え、当社損失の隠蔽を図ったといった事例が認められた。

        他方、自己勘定取引を行っているものの、カバー取引と自己勘定取引の発注先を別にすることにより、自己と顧客の財産を適切に区分している業者もあった。

      • マル2 金銭信託に係る問題点

        既に改善されてはいるが、顧客から預託を受けた保証金等を全額金銭信託しているとしているものの、当該金銭信託契約には、業者がカバー取引先との間で行うスワップ及びデリバティブ取引に係る債務についての保証が含まれ、業者が自己勘定取引で損失を被った場合にも、顧客の保証金等が上記保証債務に充当され得ることとなっているなど、信託財産が完全に保全されているとは認められない契約となっていた事例が認められた。

        また、FX取引の勧誘に際し、ホームページ等において、顧客から預託を受けた保証金等のごく一部を信託しているだけにもかかわらず、すべて信託により保全されているかのような事実と異なる表示をしている業者が認められた。

    • (2) 財務状況の把握・検証態勢

      検査の結果、自己資本規制比率の算出が担当者任せとなっており、その検証態勢が構築されておらず、社内監査も機能していない業者が多く認められた。

      • マル1 自己資本規制比率に係る問題点

        ある業者においては、カバー取引先に預託していたカバー取引に係る保証金等の一部を、リスクウェイトの低い国内の預金口座に振り替えたように見せかける架空の資金移動操作を行い、取引先リスク相当額を過小に算出することにより、実際よりも過大となる虚偽の自己資本規制比率を算出し、当局へ届け出ているという悪質な事例が認められた。

        また、そもそも自己資本規制比率の算出に係る社内規程すら制定していないこと、担当者の法令、算出方法等に対する理解が不足していること、及び社内のチェック態勢が機能していないこと等から、誤った自己資本規制比率を算出している事例が多く認められた。

        さらに、自己資本規制比率の算出を業務委託先に任せていたが、当該業務委託先の担当者の法令に対する理解が不十分であった上に、自社の管理部においても当該業務委託先が算出した自己資本規制比率について十分な検証を行っていないことによる自己資本規制比率の算出誤りが認められた。

      • マル2 純財産額に係る問題点

        経理処理を適切に行える人材がおらず、また経理を委ねられていた担当役員が資産の過大計上や負債の過小計上といった不適正な経理処理を行っていたことから、純財産額が最低純財産額(5,000万円)に満たない状況となっている業者が認められた。

        その他、純財産額が資本金の額に満たない状況となっているにもかかわらず、その旨を当局に届け出ていない事例が認められた。

      • マル3 社内監査に係る問題点

        監査役が非常勤で十分な牽制機能が働いていない業者、そもそも業務監査を実施した実績のない業者、及び監査役が商品先物取引の営業を兼職しており、その上、社内監査規程すら定めていない業者が認められた。

    • (3) FX取引に係るリスク管理態勢

      • マル1 ロスカットルールの運用に係る問題点

        ロスカットルールとは、保証金に対して損失が一定割合以上となった際には、自動的に反対取引により決済するルールであるが、当該ルールが機能しない場合には、顧客に不測の損害を与えるばかりか、業者の財務体質を悪化させ、最悪の場合には業者が破綻して顧客全体にも著しい損害を与えかねないような問題を含むことから、ロスカットルールの適切な運用が極めて重要である。

        ある業者は、FX取引に係る約款上、顧客の未決済建玉の評価損が取引保証金の額の一定額を超えた場合において、当該顧客が所定の期日までに追加保証金を入金しないときは、当該業者が反対取引により決済できるというロスカットルールを定めているにもかかわらず、昨年8月の外国為替相場の急変時に、顧客に対するリスク管理について何ら検討することなく、顧客の要請に応じて追加保証金の入金を猶予している事例が認められた。

        さらに、ロスカットルールを設けていなかったため、一部の顧客の損失を拡大させた業者が認められた。

        他方、カバー取引において追加保証金が発生した場合に、顧客からの追加保証金が入ったものの、夜間でカバー取引先に対する振込みができない場合などには、カバー先がロスカットを実行するまでに、ある程度の時間的猶予が与えられている業者があったほか、急激な相場変動に伴ってカバー取引に係るポジションが強制決済されないよう、カバー取引先に対する保証金等について、5円程度の為替変動に耐えられる額を差し入れている業者があった。

        また、大幅な相場変動の際、顧客及びカバー取引先との決済が円滑に行われないような場合に備えて、銀行からの借入枠を確保し、流動性の確保に努めている業者があった。

      • マル2 自己勘定取引を行っている業者のリスク管理態勢に係る問題点

        自己勘定取引を行っている業者のうち、社内規程において発注リミットやポジションリミットを設けている業者がある一方で、発注に際し、口頭で事前に社長の了解を得るのみで、発注リミット等を設けていない業者が認められた。

      • マル3 その他の問題点

        リスク管理規程において、「取締役会は、リスク管理に関する基本方針や適切なリスク管理態勢を構築すること」と規定しているにもかかわらず、これらの措置を全く講じていない業者が認められた。

    • (4) システムリスク管理態勢

      FX取引業者の業務を円滑に遂行していく上で、適切な受発注取引システムの構築並びに維持管理は不可欠な課題である。

      しかしながら、システムリスク管理態勢について、以下のように極めて杜撰な業者が認められた。

      具体的には、

      •  システムリスク管理の基本方針及び具体的な基準を定めておらず、適切なリスク管理態勢が確立されていない、
      •  金融先物取引業登録以降、システム監査を一度も行っていない、
      •  システム障害発生時における顧客への対応手順を定めていない、
      •  プログラム不備に起因すると考えられるシステム障害に際し、その原因分析を行っておらず、抜本的な改善が図られていない、
      •  サーバーを過負荷となった状態のまま長期間放置しており、これに起因するシステム障害が複数回発生している、
      •  為替レート配信元による異常レートの配信が多数回発生しているにもかかわらず、配信元に対し具体的な改善策の提示を要請することなく放置し、根本的解決を図っていない、

      といった状況であった。

      対顧客との取引では、システムのプログラムミス等に起因して発生した、顧客へのレート配信の不具合、注文処理の遅延、約定すべき指値注文の未約定、ロスカットの誤作動、サーバーダウンによる障害、及び異常レートでの約定等のシステム障害が認められた。このうち、当局に対し適切に報告を行っていない事例も多く認められた。

      しかしながら、これらの業者のほとんどが、その後システムプログラムの改善、サーバー台数の増加による受注能力の向上等の一定の対応策を図っている。

      また、対顧客との取引において、誤ったロスカット処理や注文処理、及び異常レートにより注文が約定された結果、損失を被った顧客に対して損失を補てんしている業者があったが、これを当局に届け出ていない事例が多く認められた。

      さらに、異常レートによる約定により損失を被り、苦情を申し立ててきた一部の顧客に対しては損失の補てんに応じていたものの、その他の顧客は放置している業者が認められた。

      カバー取引先との取引においては、昨年8月の外国為替相場の急変時に、カバー取引先のシステムで一時的にシステムダウンが発生、気配提示がなされない、カバー取引先からのレートの配信が不安定になる事例等が認められている。

      他方、システム障害によりカバー取引ができなくなった場合には、取引(注文)を行わないことを顧客との約款で明記している業者があった。

    • (5) その他

      • マル1 顧客の課税免脱に加担する行為等

        ある業者においては、FX取引により大きな収益を上げている顧客がいたことから、当該顧客の税金対策、さらには顧客との取引拡大や当社の手数料収入の向上につなげる目的で、顧客が売買損を発生させたような取引を装い、当該顧客の口座から海外居住者口座等に委託証拠金等を資金移転のうえ、移転先口座でFX取引を行う取引一任勘定取引契約の締結を行った事例が認められた。

      • マル2 本人確認に係る顧客管理態勢

        口座開設に当たり、運転免許証の写し等の本人確認書類の送付は受け入れているものの、顧客等又は代表者等の住居にあてて、取引に係る文書を書留郵便等による転送不要郵便等として送付していない事例が多く認められた。また、本人確認記録を作成していない業者も認められた。

  • 4.今後の方針

    このように、証券監視委及び財務局は、市場をめぐる問題や関心事項について横断的なテーマを選定し検査を行う、いわゆる「テーマ別検査」の一環として、これまで約半年間にわたりFX取引業者に対し、重点的に検査を実施してきたところである。

    今般の検査を通じて、相当数のFX取引業者において、程度の差はあれ、法令違反等の事実が認められた。その中で明らかになってきたことは、顧客がその入金した保証金を上回る多額の取引(いわゆる高レバレッジ取引)を行うことができるというFX取引の特性等から、適切なリスク管理態勢の構築が極めて重要であるということである。その場合に留意すべき点としては、次のような事柄があげられる。

    • (1) 顧客がその入金した保証金を上回る多額の取引を行うことができるというFX取引の特性等から、相場急変時には顧客のロスカットルールが適切に機能するかどうかが極めて重要なポイントとなる。仮に、適切に機能しないとすれば、対象顧客はもちろん当該業者にも損害が及ぶおそれが高く、ひいては顧客全体にも損害が及ぶおそれがある。このような観点から所定のロスカットルールが適切に機能するか、そのためのシステムが円滑に作動するかどうかの検証が不可欠である。

    • (2) FX取引業者が顧客取引とは別に自己勘定取引を行っている事例が見られるが、これについても、相場急変時において、顧客から預託されている保証金等に損害を与えるリスクがある。顧客から預託されている保証金等は、法令上区分管理が義務付けられているため、区分管理を徹底し、実効性が確保されているか検証する必要がある。

    • (3) 検査において、相当数のFX取引業者において、法令等遵守意識に問題が認められた。これについての意識の徹底に努める必要があることから、検査を行う際には、証券監視委及び財務局として、今後も引き続き重点事項として検証していくこととする。

    投資者サイドにおいては、FX取引の高レバレッジという特性に鑑み、各業者のロスカットルールやFX取引の商品性等を含め、FX取引業者についての情報をできる限り収集し、信頼できるFX取引業者であるか否かを注意深く判断していただくことが重要と思われる。

    証券監視委としては、今後の検査において、引き続き、このような問題点を重点事項とする一方で、FX取引の制度並びに運営上の問題でもあり、引き続き、金融庁関係部局等との連携を通じて、市場に対する投資者の信頼の保持に努めてまいりたいと考えている。

    以 上

 

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