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証券取引等監視委員会 中期活動方針(第9期)
~四半世紀の活動を踏まえた新たなステージへ~

平成29年1月20日

証券取引等監視委員会

証券監視委の使命

  • 1.市場の公正性・透明性の確保及び投資者保護

  • 2.資本市場の健全な発展への貢献

  • 3.国民経済の持続的な成長への貢献

証券監視委が目指す公正・透明な市場の姿

~全ての市場利用者がルールを守り、誰からも信頼される市場~

<主な構成要素>

  • 1.上場企業等による適正なディスクロージャー

  • 2.市場仲介者による投資家のための公正・中立な行動

  • 3.全ての市場利用者による自己規律

  • 4.プロフェッショナルな監視メカニズム

証券監視委における価値観

  • 1.公正性(公正・中立な視点)

  • 2.説明責任(全体像・根本原因の把握及びその対外的発信)

  • 3.将来を見据えたフォワード・ルッキングな視点(不正行為の予兆を早期に発見)

  • 4.実効性及び効率性(資源の効果的な活用)

  • 5.協働(自主規制機関、海外・国内当局等との緊密な連携)

  • 6.最高水準の追求(監視のプロとして最高水準を目指す)

証券監視委を取り巻く現在の環境

証券監視委は、取引の公正を図り、市場に対する投資者の信頼を保持することを目的として平成4年に設置され、今年(平成29年)で25年目を迎えます。この間、重大・悪質な事案に対する告発等で着実に成果を上げただけでなく、課徴金制度の導入を踏まえた検査・調査手法の開発、証券市場・取引の複雑化に対する人材及びITの高度化、内外関係機関等との連携による市場規律の強化などの施策を地道に積み重ね、市場の信頼性確保に努めてきました。

このような中、証券監視委を取り巻く環境は以下のとおり大きく変化してきています。

まず、世界的な市場を取り巻く環境について見ると、昨年の英国の欧州連合離脱(Brexit)の動きをはじめ、グローバル経済の先行きを巡る不確実性は増大しています。

また、日本企業の海外展開の積極化、国内機関投資家等による海外投資の増加、市場における海外投資家比率の高まりなどクロスボーダー取引の拡大や市場の更なるグローバル化の進展に伴い、我が国市場は海外のマクロ経済動向や特定のイベントに強く影響を受ける状況となっており、市場のボラティリティは増大しています。

さらに、IT技術の進展に伴い市場構造は大きく変化しており、アルゴリズムを用いた高速取引の急速な拡大や、近年は、FinTechに代表される金融・IT融合の世界規模での進展が、市場を更に大きく変革させる可能性が指摘されており、同時に、サイバー攻撃による金融システム全体に対する脅威も高まっています。

このような市場環境の中、我が国においては、金融庁を中心に「国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換」を推進するための取組みを行っており、証券監視委としても、投資家が安心して投資できる市場の構築等を通じ、国民の安定的な資産形成や投資の裾野拡大に貢献していく必要があります。

第9期を迎えた証券監視委は、このような内外環境の大きな変化の中で、その使命を果たしていくために、目指すべき目標を以下のとおり掲げ、これまで蓄積した市場監視のノウハウ・人材を効果的・効率的に活用しながら、市場からの信頼に応えるべく、尚一層の努力を行ってまいります。

3つの戦略目標

1.網羅的な市場監視(広く)

  • (1)新たな商品・取引等への対応

    新しい商品・取引等に係るリスクを的確に把握・分析

  • (2)あらゆる取引・市場を網羅的に監視

    取引所現物市場に限らず、PTS(私設取引システム)、ダークプール、デリバティブ、株式・社債の発行市場等あらゆる取引・市場を網羅的に監視

  • (3)全体像の把握(部分から全体へ)

    事案の全体像を把握した上での、実態解明及び根本原因の追究

2.機動的な市場監視(早く)

  • (1)問題の早期発見・着手

    市場における問題の端緒の速やかな把握及びタイムリーな検査・調査等の実施

  • (2)早期の対応による未然予防の実現

    市場における問題に対する早期の対応を通じた未然予防の実現及び問題の拡大の防止

  • (3)迅速な実態解明・処理による問題の早期是正

    検査・調査実施時における事案の迅速な実態解明及び処理

3.深度ある市場監視(深く)

  • (1)問題の根本原因の追究

    法令違反等の問題が認められた場合、事案の実質面に着眼してその根本的な原因を究明・指摘し、業者・企業等自身による改善及び再発防止に向けた取組みを促進

  • (2)横断的な視点による深度ある分析を通じた構造的な問題の把握

    個別の問題事象の分析にとどまらず、他の同様の事案まで含めた横断的な広がりのある視点と、それによる深度ある分析を行うことを通じた、市場の構造的な問題の把握及び制度整備等への貢献

目標達成のための5つの施策

1.内外環境を踏まえた情報力の強化

  • (1)市場環境のマクロ的な視点での分析等によるフォワード・ルッキングな市場監視

    • 市場構造が急速に変化する中で、市場における問題の未然防止・早期発見につなげるため、従来の事後チェック型の市場監視にとどまらず、市場環境のマクロ的な視点に基づく分析を行うなど、フォワード・ルッキングな市場監視を行っていきます。
    • 具体的には、マクロ経済環境の変化に伴う上場企業等の業績や株価への影響が不公正取引等のリスクとなり得ることから、国内外の経済情勢等の影響を受けやすい業種・企業に係る情報収集・分析を行い、その結果について証券監視委内で情報を共有し、検査・調査に活用していきます。
  • (2)海外当局との信頼関係醸成による情報収集の強化及び市場監視への活用

    • 海外当局との円滑な連携を継続的に実施していくため、当局間の信頼関係の醸成に努め、当該信頼関係に基づき、情報交換、検査・調査及び法執行面での連携を更に強化するとともに、そこから得られた海外法執行状況や法制度等の有益な情報について、市場監視に活用していきます。
  • (3)市場監視の空白を作らないための取組み

    • 市場で起こっていることを常に注意深く把握し、新しい商品・取引や、監視の目の行き届きにくい商品・取引へ的確に対応し、市場監視の空白を作らない取組みを行っていきます。

2.迅速かつ効率的な検査・調査の実施

  • (1)不公正取引等に対する課徴金制度の積極的活用

    • 国内外の不公正取引等の個別事案がより大型化・複雑化している中で、課徴金制度を積極的に活用し、不公正取引等に対する検査・調査を迅速かつ効率的に行っていきます。
  • (2)クロスボーダー事案への積極的な取組み

    • クロスボーダー取引による違反行為に対しては、当局間の情報交換枠組み等を活用しながら、実態解明を行い、適切な法執行を行っていきます。
  • (3)重大・悪質事案への告発等による厳正な対応

    • インサイダー取引、相場操縦、風説の流布・偽計や虚偽記載等の違反行為のうち重大で悪質なものについては、犯則調査の権限を行使し、厳正に対応していきます。その際、事案の内容に応じ、捜査・訴追当局や海外当局等の関係機関と連携し、実態の解明や責任追及を効果的に行っていきます。
  • (4)リスクアセスメントを通じた効果的なモニタリング手法の確立

    • 全ての金融商品取引業者等に対してオンサイト・オフサイトの一体的なモニタリングを行い、金融商品取引業者等の業態、規模その他の特性等を踏まえつつ、ビジネスモデルの分析、それを支えるガバナンスの有効性やリスク管理の適切性等に着目したリスクアセスメントを実施していきます。
    • オフサイト・モニタリングの結果を踏まえて、リスクベースでオンサイト・モニタリング先を選定し、オンサイト・モニタリングにおいては、金融商品取引業者等が取り扱う商品の内容や取引スキームについて深度ある分析を行った上で業務運営の適切性等について検証を進め、問題が認められた場合には、その問題の根本的な原因を究明していきます。

3.深度ある分析の実施と市場規律強化に向けた取組み

  • (1)根本原因の追究

    • 検査・調査において、法令違反等が認められた場合、行政処分勧告等を行うだけでなく、問題の全体像を把握した上で、根本的な原因を究明・指摘し、再発防止につなげていきます。
  • (2)検査・調査で得られた情報の多面的・複線的な活用

    • 個別事案の検査・調査では、行政処分や刑事告発等の一定の「出口」に限定されずに、そこで得られたインテリジェンス情報を適切に集約・分析し、市場監視業務全般に多面的・複線的に活用していきます。
  • (3)情報発信の充実

    • 個別勧告事案等の公表のほか、課徴金事例集や証券検査における主な指摘事項の公表等において、市場規律強化の観点から、事案の意義、内容及び問題点を明確にした、具体的で分かりやすい情報の発信を行っていきます。
  • (4)市場環境整備への積極的な貢献

    • 横断的な広がりのある視点に基づく検査・調査を通じて、市場の構造的な問題を把握し、より良い市場環境の整備に向け、積極的な貢献を行っていきます。
  • (5)国際連携上の課題の問題提起を通じたグローバルな市場監視への貢献

    • 監視活動を通じて認識された国際的な連携に関連する課題について、二国間及び証券監督者国際機構(IOSCO)等の多国間の枠組みでの問題提起及び共有を強化し、グローバルな市場監視に貢献していきます。

4.ITの活用及び人材の育成

  • (1)市場監視におけるIT技術の更なる活用(RegTech)

    • 証券市場におけるITやAI(人工知能)技術の進展を含めた市場の構造的変化に対応するため、国内外の金融技術の動向や国内外の規制当局・法執行機関におけるIT技術の導入状況等を踏まえ、取引監視システム等、現行の市場監視システムにおけるIT技術の更なる活用(RegTech)について検討していきます。
  • (2)FinTech等のIT技術の進展を踏まえた市場監視の変化への対応

    • FinTech等のIT技術の進展等に伴って生じる新たな取引形態・商品等に対して、網羅的に監視が行えるよう機動的に検討・対応していきます。
    • 近年のITの高度化及びデータの大容量化に対応するため、検査・調査におけるデジタルフォレンジック技術の一層の向上及びシステム環境の高度化を推進していきます。
  • (3)高度な専門性及び幅広い視点を持った人材の計画的な育成

    • IT技術の進展等を背景に、金融取引がますますグローバル化、複雑化、高度化する中で、証券監視委の使命を適切に果たしていくため、市場監視に係る高度な専門性及び幅広い視点を持った人材の育成に取り組んでいきます。

5.国内外の自主規制機関等との連携

  • (1)自主規制機関との更なる連携強化による効率的・効果的な市場監視

    • 市場を取り巻く内外環境の大きな変化の中で、その役割がますます重要となる自主規制機関が、その機動性及び柔軟性を活かしながら主体的な役割を果たすことに資するよう、これまで以上に証券監視委の持つ情報や問題意識をタイムリーに共有するなどして、監視態勢の更なる強化や市場規律の働いた市場環境の整備を行っていきます。
    • 海外からのアルゴリズムを用いた高速取引注文の増加等に対応するため、自主規制機関とも連携し、取引審査の充実・強化を図るとともに、市場のゲートキーパーである証券会社の売買審査態勢について実態把握を行った上で、売買審査態勢の一層の高度化に向けた検討を行っていきます。
    • 金融商品取引業者等に対するオン・オフ一体モニタリングへの移行に伴い、効果的・効率的な検査実施の観点から、自主規制機関による監査・検査との連携のあり方についても検討を行っていきます。
  • (2)多様な市場関係者(ステークホルダー)と連携した市場規律の強化

    • これまでの自主規制機関、海外当局、関係機関・団体等との間での連携を強化していくことに加え、市場の公正性・透明性確保に関連する関係機関・団体等の市場関係者(ステークホルダー)との連携の拡大を図っていくことを通じて、全体としての市場監視機能を強化していきます。

最後に

証券監視委は、本年で25年目の節目を迎え、本活動方針に掲げる「網羅的な市場監視(広く)」・「機動的な市場監視(早く)」・「深度ある市場監視(深く)」の実施を通じて、全ての市場利用者がルールを守り、誰からも信頼される市場の構築を目指していきます。

なお、本活動方針は、現下の経済金融情勢等を踏まえて作成したものですが、市場を取り巻く環境が急激に変化する状況のなか、証券監視委自身のPDCAサイクルによって、的確に自らの課題を洗い出し、適切な対応を行うことが重要です。そのために、外部の有識者の意見などを活用し、市場監視業務について、不断の見直しを行いながら、その使命を果たしていきます。

図1(証券取引等監視委員会中期活動方針(第9期))
図2(証券取引等監視委員会中期活動方針(第9期))

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